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最初で最後の来日?「2001年宇宙の旅」70mmニュープリント版を観た

国立映画アーカイブで6日、映画「2001年宇宙の旅」の70mmフィルム版が特別上映された。製作50周年を記念して作られた2018年のニュープリント版は国内初上陸で、6日を皮切りに14日まで6日間・計12回の上映が行なわれる。映画史に名を刻む傑作のリバイバル上映を、いち早く体験した。

前売券

1968年に公開された「2001年宇宙の旅」は、約3年の制作期間を経て完成した巨匠スタンリー・キューブリックのSF映画だ。スティーブン・スピルバーグやリドリー・スコット、クリストファー・ノーランら数多くの映画監督をはじめ、その後の映画や文化に絶大な影響を与えたとされ、"SF映画の金字塔"とも言われている。

脚本や演出はもちろんのこと、CG技術の無かった時代に編み出された特撮シーンの数々('68年アカデミー賞視覚効果賞を受賞)は、50年経った現在でも当時と変わらぬ輝きを放つ。

映画「2001年宇宙の旅」(c)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved
映画「2001年宇宙の旅」(c)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved

そのような"金字塔"の生誕50年を記念してスタートしたプロジェクトが、70mmフィルムを使ったニュープリント版の作成だ。「公開時の映像と音の再現」を追求すべく、マスターはオリジナル・カメラネガまで遡り、キズ消しやノイズ処理といったデジタル処理を介さずにフォトケミカル工程だけで作られたという。

プロジェクトには、フィルム撮影にこだわり、また「2001年宇宙の旅」を敬愛してやまないクリストファー・ノーラン監督が全面協力。ノーランの尋常で無い"2001年愛"は「インターステラー」を鑑賞すればお分かりいただけることだろう。

完成したニュープリント版は、今年5月に開催された第71回カンヌ国際映画祭でプレミア上映された後、欧米各地を巡回上映。そして10月、日本初上映が実現した。

2台の映写機を交互に使い上映。本編と字幕スクリーンは別

ワーナー・ブラザース映画と共に特別上映を主催する国立映画アーカイブ(旧東京国立近代美術館フィルムセンター)は、国内唯一の映画専門の保存・研究・上映機関であり、京橋本館「長瀬記念ホール OZU」が特別上映の会場となる。

東京・京橋にある国立映画アーカイブ

客席数は310。横9.7m×縦4.6mのスクリーンを2.20:1サイズ(「2001年宇宙の旅」のアスペクト比)にマスク。今回は本編を写すスクリーンとは別に、字幕だけを投映する小型のスクリーンも別途用意された。

長瀬記念ホール OZUの映写室には35/70mmフィルム兼用映写機(Kinoton FP75ES)が2台常設されており、70mmニュープリント版の映写もこの映写機2台を交互に使用している。

本編149分(15分休憩除く)フィルムは計10巻。2名がそれぞれの映写機に張り付き、1巻が終わる12~17分おきにフィルムを交換・設置する。上映が済んだ巻は、別の1名がフィルムの巻き返し作業を行なう。

1巻の重さはリール付きで約15kg。映写機でのフィルム交換・設置時は、薄明かりの下で、床から2m以上も離れた高所にある差込金具にリールの取り外し/引っかけを行なう。1日2回という上映回数は、確実な映写の担保とフィルムや上映機材のチェックや安全性を考慮しての結果だという。

上映に使われた2台の35/70mmフィルム兼用映写機「Kinoton FP75ES」。1台1巻の映写よりも、2台の映写機を交互に使うことは、フィルムへのダメージも少ない
地面から2m以上も高い場所にリールをはめ込む。1巻約15kgものフィルムは慎重かつ丁寧に扱わなければならない
はめ込まれた「2001年宇宙の旅」の70mmフィルム。よく見るとパーフォレーション横にタイムコードが見える

パーフォレーションそばの余白にはDTS音声のタイムコードが記録されていて、データが入ったディスクと同期させることで、劇場に音声が流れるようになっている。音声に関しても、公開当時と同じ6チャンネル(5ch+モノラル)が再現されている。

手前に見えるのが字幕投影用のデジタルプロジェクター。写真上に白く写っているのが本編投影用のスクリーン。その下の横長のスクリーンが字幕投影用

50年前のフィルムに記録された情報量に圧倒される

運よく劇場の中央列、やや右側に座ることができた。

いざ上映が始まると、70mmフィルムが持つ情報量の多さに圧倒される。色は濃厚で豊潤。質感も豊かで、階調も広く暗部の描写も柔らかい。主人公デヴィッド船長のアップや宇宙船を写したカットは、ハッとするほどに鮮明だ。正直70mmフィルムを劇場で観るのは初めてだが、俗にノイズと言われるフィルムグレインも細かく全く気にならない。

前述したように、70mmニュープリント版はデジタル処理が介在していないため、オリジナル・カメラネガにあるキズや汚れもそのままプリント、投映される。また投射による画面の揺れや明部のチラつきもあり、ノイズレスで隅々まで鮮鋭な現代のデジタル映像とデジタルプロジェクターが生み出す映像とは一線を画す。

ただ、ノーランらが目指したのは「公開当時の映像と音の再現」。実際に70mmニュープリント版を視聴し、ノイズを含めた映像の生々しさに触れると、誰もが観やすくキレイに整頓されたデジタル画がやや生気が失われたようにも思えてくるから不思議だ。

映画「2001年宇宙の旅」(c)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved

音声もとにかく凄い。"爆音"と言う表現に近く、巨大な音の塊が真正面、そして左右からぶつかってくる。「ツァラトゥストラはかく語りき」を始めとした荘厳なクラシックも、ピットで実演しているかのよう。またモノリスが発する信号音や生命維持装置の警告音は、耳をつんざくほどに強烈だ。暴力的なまでに荒々しい音の塊を全身で感じられるのも、本特別上映の醍醐味と思う。

当初は美しい映像と背景に流れるクラシック音楽に酔い、自身もまるで宇宙遊泳しているような牧歌的気分だったが、物語が進むにつれて緊張感は次第に高まり、結末まで一気に意識を持って行かれる。何度観ても、これが50年も前に制作された映画とは思えない。

映画「2001年宇宙の旅」(c)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved

なお今回の特別上映は、その上映スタイルにもこだわった。前奏曲に始まり、15分間のインターミッション、そして終映時の音楽まで、1968年公開当時の上映を可能な限り再現。現在発売されているパッケージでは前奏曲+黒画面だったシーンが、劇場でどのように再現され、あのオープニングを迎えるのか? その粋な演出は、是非実際に体験してみてほしい。

既報の通り、映画「2001年宇宙の旅」は10月19日から2週間限定でIMAX上映が、そして11月21日には4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)版が発売されることになっている。IMAX上映版はサウンドデザインが異なり、フィルムでは無くデジタルでの投射。UHD BD版の詳細はまだ明かされていないが、デジタル処理が全く介在しない、ということは無いはず。つまり特別上映で拝める70mmフィルム上映の画と音は、ここでしか体感できないわけだ。

「2001年宇宙の旅」のIMAXポスター (c)2018 Warner Bros. Entertainment Inc.
【初回限定生産】2001年宇宙の旅 日本語吹替音声追加収録版 <4K ULTRA HD & HDデジタル・リマスター>(3枚組/ブックレット&アートカード付) (c)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

6日間の特別上映を終えた70mmフィルムは、また次の巡回上映の地へ旅立つ。数百万の費用がかかる本フィルムの来日は、国立映画アーカイブのような"フィルム愛にあふれる猛者"が再び現れない限り、最初で最後になるだろう。

ここまで書いておいて酷な知らせとなるが、残念ながら本特別上映の前売券はすでに完売。鑑賞するには、各回100席という当日券を入手するほか無い。しかも、会場310席のうちの200席は前売券が占めるため、望むようなベストポジションでの鑑賞はかなり厳しいと思われる。

それでも、今回の特別上映は観る価値が十分にある。70mmニュープリントの制作に携わった関係者はもちろん、日本での特別上映を企画し、高品位な環境で上映できたのも、映画を愛する多くの人間が知恵と力を結集し実現させたアナログの極みだ。

50年前にキューブリックが仕掛け、ノーランらが復活させた「映画史に残る事件」を体験できるまたとないチャンスといえよう。

映画「2001年宇宙の旅」 上映・BD情報

・製作50周年記念「2001年宇宙の旅」70mm版特別上映
2018年10月6日(土)~10月7日(日)、10月11日(木)~10月14日(日)
会場:国立映画アーカイブ[2階] 長瀬記念ホール OZU
主催:国立映画アーカイブ、ワーナー ブラザース ジャパン合同会社

・IMAX上映
2018年10月19日(金)より2週間限定上映
配給:ワーナー・ブラザース映画

・4K Ultra HD Blu-ray
2018年11月21日(水)発売
【初回限定生産】2001年宇宙の旅 日本語吹替音声追加収録版
<4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター ブルーレイ>(3枚組/ブックレット&アートカード付)
6,990円 品番:1000734982

・BD
2018年11月21日(水)発売
【初回限定生産】2001年宇宙の旅 HDデジタル・リマスター&日本語吹替音声追加収録版
ブルーレイ(2枚組/ブックレット&アートカード付)
4,990円 品番:1000734983
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント