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「男はつらいよ」4Kデジタル修復版の劇場公開スタート、竹下景子「改めて幸せな気分」
2019年10月28日 10:35
「男はつらいよ」の第1作が1969年に公開されてから50年。メモリアルイヤーに全49作(特別篇を含む)の4Kデジタル修復が実現。その中でも人気の高い選りすぐりの15作品が、角川シネマ有楽町にて10月25日から11月7日まで特集上映されている。その上映を記念し、第32作となる「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」(1983年)のマドンナ、竹下景子さんによるスペシャルトークショーが開催。そのレポートが到着した。
237席の場内は満席。当時の寅さんの思い出から、山田監督の演出やロケ地の思い出など、竹下さんの「男はつらいよ」にまつわる貴重なエピソードの数々が語られた。
なお、11月2日、3日には柴又で「寅さんサミット」が開催。また 12月25日にはシリーズが初Blu-rayで発売予定。そして12月27日最新作「男はつらいよ お帰り 寅さん」が公開される。
第32作に出演した経緯について、竹下さんは「初めにお話をお伺いした時は嘘だと思いました(笑)。自分が、こんな名作シリーズに呼ばれるなんて。お話をいただいて、まだ台本が完成する前に神楽坂の和可菜という旅館に呼ばれまして。そこで山田監督の面接があって、初めてお目にかかりました。もう本当に、ものすごく緊張していましたね。そこで、私の役柄は『お寺の出戻りの娘』という設定です、と説明していただきまして。それで、どこか物悲しい風情を作らなくちゃいけないのかと思って、「子犬を抱いて撫でて......」みたいなことをするのはどうでしょう、と話した記憶があります。緊張していた割には余計なことを言ったものだと思いますけれど...。そうしたら監督が『映画というのは、本が1ページ使って情景描写するところを、一瞬で表現できるものなんですよ。だからそういう小賢しいことは考えなくていいんです』と言われまして(笑)。他にも、最初から丁寧にお話をしてくださったので、安心して現場に行けました」。
当時竹下さんは「お嫁さんにしたい女優ナンバーワン」。しかし、映画の役柄は「結婚に失敗した女」という設定。32作の後も、38作、41作と三度出演するが、毎回マドンナの役名は変わっても、役柄は似たような設定だった竹下さん。
「私の場合は、リリーさんのようにシリーズを通して同じキャラクターを演じるわけではなくて、その都度、役名もキャラクターも違ったので、毎回新鮮に寅さんに『はじめまして』というつもりで現場に入ることができたと思います。監督が、女優名が空欄のまま新たな話を作っていく中で、『あ、この役なら竹下がいるか』となったのかもしれません(笑)」。
撮影現場の様子については、「撮影場所が岡山県の備中高梁で、紅葉の季節で本当にとても素敵な所でした。私が現場に入る前にすでに倍賞さんが入ってらして、紅葉狩りに行っていらしたんですね。それで皆が泊まっている旅館に紅葉のお土産を持ってきていただいて、食事の時に紅葉が天ぷらで出されたんです。『紅葉って食べられるんだ!』って驚いたことを覚えています。本当に「なんて和やかな撮影現場なんだろうか」と思っていました」。
渥美さんとの撮影中のエピソードについては、「皆さんよく仰られるとおり、素顔の渥美さんは普段はとても物静かな方なんですね。カメラや照明のセッティング中は基本的に静かにされているんですけれども、俳優が集まって待ち時間が長くなった時には、周りの空気を察してなのか、若い頃の話をしてくれることがよくありました。アフリカ旅行にいらしたときの思い出とか。『キリンが向こうのほうにいるのが、マサイの人にはよーく見えるんですよ』と渥美さんが話し始めると、思わず周りの人も耳をそば立てて引き込まれてしまうんですよね。渥美さんは、マドンナ役を必ず『お嬢さん』と呼ぶんですけれども、私にも『お嬢さん、何か不思議な話を知りませんか』って仰るんです(笑)。そう言われても、私は本当に何もエピソードがなくて。そういう第六感もないし(笑)。そうすると、渥美さんがおもむろに『ある夜に、青い月がぎらりと光って...』と語り始めて。もうそれだけで怖いんです(笑)。後で聞くとなんでもないお話でも、渥美さんの語り口で話されると、すっと引き込まれてしまうものがありました」と振り返る。
第32作で思い出のシーンについては、「柴又駅の別れのシーンが切なかったですね。寅さんの袖を引っ張って。私が演じた朋子さんは決して寅さんを振っているわけじゃないんです。寅さんは、女性の側からプッシュすると思わず引いてしまうのかもしれないですね。あと渥美さんが冒頭で庭掃除しながら昔の歌を口ずさんでいるところがありますけれども、ああいう軽演劇の引き出しの多さというか、歌も本当にお上手ですよね。いいお声で。一つ一つの風景もとてもきれいで、今となっては無くなってしまったものもあるし、貴重ですよね。後ろに列車が通るシーンなんかを見ても『ああ、このシーン、本番まで随分待ったんだろうな』って(笑)」。
「監督も撮影中、よく笑っていらっしゃいました。カメラの高羽さんも笑ってしまって画角が揺れてNGになったり。本当に終始和やかな現場でしたね。今日、実は会場にちょっと早めに着いて、一番後ろの席でこっそり映画を見ていたんですね。考えてみればこの作品が封切られて以来、初めて映画館で見ました。お客さんの笑い声が聞こえてきて、なんともいいですね、映画館って。テレビで、お茶の間で『寅さん』を見るのも楽しいけれど、映画館で『笑いがさざめいている』って、なんて素晴らしいんだろうと、改めて幸せな気分になりました。山田監督は『渥美さんさえいれば、いつでも続編が撮れる』と仰っていました。でも、今でも山田監督の中でも、映画を見た方の中でも、心の中で寅さんは生き続けていると思います。年末には、新作が上映されるという事ですが、本当に楽しみにしています」。