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ソニー'21年度経営方針。モバイル・ソーシャル拡大でユーザー10億人目指す

ソニー会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏

ソニーは26日、2021年度の経営方針説明会を開催した。エンタテインメントを動機としてソニーグループと直接つながるユーザーを現在の約1.6億人から10億人に広げる取り組みや投資を、モバイルとソーシャルの領域で加速させる事を発表。さらに'23年度までの3年間で2兆円の戦略投資枠を設け、IP/DTC、テクノロジー、自己株式取得の順位で成長投資を継続する旨を明らかにした。

中期経営計画(2012年度~2020年度)の振り返り

経営方針説明会では、会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏が、CEO就任以来過去3年で定着させてきた「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というソニーのPurpose(存在意義)を軸に、クリエイティブエンタテインメントカンパニーとしての長期視点での経営方針について、「クリエイティビティ」「テクノロジー」「世界(コミュニティ)」をキーワードに説明を行なった。

最初に、2012年から2020年までの中期経営計画を総括。「経営の軸は『感動』、そして感動の主体である『人』は、第一次中期経営計画を掲げた2012年から一貫している」としながら、これまでに行なった主な施策を振り返った。

テレビやカメラなどのエレクトロニクスプロダクツ&ソリューションを担うブランデッドハードウェア事業に関しては、赤字体質からの脱却を目的に、構造改革を実施。規模を追わず、プレミアム路線に集中することで収益力強化。その結果、安定的なキャッシュ・フローを創出する事業となり、モバイル事業の黒字化を達成できた、とした。

またバッテリーや有機ELなど、一部のデバイス領域で事業継続を断念しつつ、経営リソースをCMOSイメージセンサーに集中。「イメージングだけでなく、センシングでも世界No.1となる」という長期目標の下、CMOSイメージセンサーの事業競争力の強化施策を実行し、第三次中期で5,746億円の投資をしながらも事業のフリーキャッシュフローはプラスになっていると成果を強調。現在の主要市場はモバイル向けのイメージングだが、今後は車載やIoT向けのセンシングが成長領域になるとの見通しを示した。

事業継続を断念した一部のデバイス領域
CMOSイメージセンサーの投資推移

コンテンツIP、DTCへの投資については、EMI Music Publishingの買収を契機に過去3年で投資が加速したと説明。またDTC領域における最大の成果として、PlayStationによるネットワークサービスの拡大を挙げ、ネットワーク売上が2013年度から2020年度で約10倍に成長。PS Plusのサブスクライバー数も順調に伸びている、と話した。

コンテンツIP、DTCへの投資例
PS Plusのサブスクライバー数も堅調に推移

ソニーグループの現状

ソニーグループの現状としては、財務面で投資力の向上、そしてグループ連携強化に向けたグループアーキテクチャの整備を実現。具体的には、グループ全体のキャッシュ・フロー創出力が大幅に向上。金融を除く連結キャッシュフローは推移は、第三次中期で2兆6,385億円を達成し、財務基盤も強化。

第三次中期で2兆6,385億円を達成
9年間の時価総額推移

9年間の時価総額も堅調に推移しており、今後も長期的な企業価値向上に向け、戦略投資を実行。第四次中期も3.1兆円の金融分野を除く連結営業キャッシュフローをベースに、2兆円以上の戦略投資を進める。

グループ連携強化のための体制整備も順調に進んでいる事をアピール。「各事業のトップは全て2017年以降に就任しており、この自立した経営チームと全ての事業がフラットにつながる新しいアーキテクチャにより、グループとして連携強化の体制が整のった」という。

グループの連携強化を促進

Purposeを軸とした価値創出

今後の経営計画としては、“Purposeを軸とした価値創出”を表明。

「感動」という経営の軸、および「人に近づく」という経営の方向性は不変としながら、さらなる進化のために「サービス」「モバイル」「ソーシャル」における環境変化を機会として捉え、投資力と多様な事業間のグループ連携体制を活かして、Purposeを基軸に据えた進化・成長を目指すという。

  • サービス:サブスクリプションモデルがエンタテインメント市場の成長を牽引
  • モバイル:スマートフォンがエンタテインメントやソーシャルにとって不可欠なインフラに発展
  • ソーシャル:エンタテインメントと融合しコンテンツの新しいつくり方・広がり方を創出
配信サービスパートナーとの協力関係をさらに強化する予定

さらに、テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニーの長期視点での経営方針として、「クリエイティビティ」「テクノロジー」「世界(コミュニティ)」をキーワードに価値を創造。実現に向け、2021年度から2023年度の3年間で2兆円の戦略投資枠を設定し、引き続きIP/DTC、テクノロジー、自己株式取得、の優先順位で積極的に成長投資を継続していくことを明らかにした。

「クリエイティビティ」においては、クリエイティビティを発揮する場の提供と、作品価値の最大化を目指す。

具体的事例としては「鬼滅の刃」を挙げ、原作コミックをアニメ、映画、音楽、そして今後予定しているゲームに展開するなど、ソニーグループの多様な事業を活かし、クリエイターが創り出した作品の価値最大化に取り組んだという。

作品の価値最大化の事例「鬼滅の刃」
ゲーム展開も予定する

ほかにも、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)とSIEとが協業し、PlayStationゲームタイトル「Uncharted」の映画化など、ゲームIPの映画化・テレビ番組化のプロジェクトを複数進行させていること。そして音楽事業では、当社レーベルに所属するアーティストやThe Orchardを通じた独立系レーベル所属アーティストに加え、今月買収を完了したAWALを通じ、どのレーベルにも所属せずに活動する個々のアーティストへもサービスを広げていく方針を掲げた。

「テクノロジー」においては、クリエイター向けの「クリエーションテクノロジー」とユーザー向けの「体験テクノロジー」の両方を提供することで人々に感動を提供。

具体的には、スマートフォンのキーデバイスとして、世界中のユーザーがクリエイターになることに貢献するCMOSイメージセンサーや、イメージング・センシング・ロボティクスなどの技術を集約したクリエイター向けドローン「Airpeak」、ミラーレスカメラα、高精細LEDディスプレイを活用した映画撮影向けのバーチャルプロダクション、PlayStation5と次世代VRシステムに搭載予定の最新センシングテクノロジー、ゲーム体験をより豊かにするAIテクノロジーなどを展開する。

クリエイター向けドローン「Airpeak」
PS5用の次世代VRシステム

「世界(コミュニティ)」としては、「PlayStation Network」、FunimationなどのDTCサービスや、アニメとゲームの連携などを通じ、様々なエンタテインメントを軸にクリエイターとユーザーがつながるコミュニティ・オブ・インタレスト(感動体験や関心を共有する人のコミュニティ)の形成・活性化を目指す。

コミュニティをさらに広げるために、ゲーム・映画・音楽といったエンタテインメント事業間の連携や外部パートナーとの協業に加えて、「サービス」「モバイル」「ソーシャル」での取り組みを通じて、世界でエンタテインメントを動機としてソニーグループと直接つながる人を現在の約1.6億人から10億人に拡大する方針も発表。

ソニーグループ最大のDTCサービス、かつ最大のコミュニティである「PlayStation Network」におけるユーザーエンゲージメントの向上と拡大を目指し、クラウドストリーミングゲームサービス「PlayStation Now」の進化や、ソフトウェアの強化に向けた自社スタジオへの投資、外部スタジオへの出資や協業などにも取り組む。

ソニーグループと直接つながる人を10億人に拡大させる

「Fate/Grand Order」に代表されるアニメ関連IPのグローバル展開や、PlayStationのIPのモバイル展開を行なっていくほか、PlayStationでは、IPへの投資、ソニーグループ内のコラボレーション、ソーシャルやモバイルへの出資を通じて、コミュニティを継続的に拡大することを目指すとしている。

会の最後には、社会の安全性・生産性向上と地球環境に貢献する「モビリティ」と「IoT センシング」を説明。

モビリティの進化に貢献することを目指し、探索領域としてVISION-S Prototypeの開発を推進。車載センシング技術により、モビリティの安全に貢献するとともに、移動空間を新たなエンタテインメントの場へと進化させることを目指すとした。

引き続き、VISION-S Prototypeの開発を推進
車載センシング技術

さらにセンシング技術は社会の生産性向上につながるIoTの進化にも貢献するテクノロジーとし、CMOSイメージセンサーを用いたエッジソリューションの提供による、リテール等での実証実験を進めている事や、AIを用いた分散データ処理により、情報量と消費電力を大幅に削減することで環境負荷低減に寄与するとともに、セキュリティ・プライバシーにも配慮することを発表した。

CMOSイメージセンサーを用いたエッジソリューション