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ソニーのハードは“稼ぎ頭”だ。吉田ソニーは「人に近づく」、コンテンツIP強化

 ソニーは22日、2018-2020年度の中期経営方針説明会を開催した。4月に就任した吉田憲一郎 社長 兼 CEOによる新体制の経営方針を示すもので、「感動」と「人に近づく」をキーワードに、エレクトロニクスとエンタテインメント、金融の3事業において持続的な社会価値と高収益の創出を目指す。

吉田憲一郎社長
11代目のソニー社長となる

 基本戦略は以下の3つ。

(1)ユーザーに近い「Direct to Consumer(DTC)」サービスとクリエイターに近いコンテンツIPを強化し、それぞれに共通の感動体験や関心を共有する人々のコミュニティ「Community of Interest」を創りだす

(2)映像と音を極める技術によって、ソニーブランドのエレクトロニクス「ブランデッドハードウェア」で安定的に高いレベルのキャッシュフローを創出する。すなわち持続的なキャッシュカウ事業とする

(3)CMOSイメージセンサーで世界No.1を維持して、センシング用途でも世界No.1となる

 吉田社長は、平井一夫前社長が掲げた「感動」というキーワードを踏襲しながら、「感動を作り出すのは人。より人に近づく」として、クリエイターとの距離を縮めてIPコンテンツへの投資加速や、コミュニティの創出に力を入れることを紹介した。

コンテンツIP投資を加速し「感動と人に近づく」

「感動」と「人に近づく」

 エンタテインメントにおいて、(感動を創りだす)「クリエイターに近づく」を掲げてコンテンツIP投資やサービスを強化する。

 ゲーム事業は、PS4を中心にゲームとネットワークサービスを強化。PSNを一層成長させサブスクリプションサービスの「PlayStation Plus(PS Plus)」の拡大や、PlayStation VR、クラウドゲームの「PS Now」、映像のPlayStaion Vue/Videoなどを強化。PSNへの訪問頻度や利用時間を高める。コンテンツIPは1st PartyにおけるIP創出・活用により、成長につなげていく。

クリエイターに近づく

 音楽分野もコンテンツIPを強化。アーティストに近づく。EMIの株式取得もそのための投資。EMIの株式取得により「世界最大の音楽出版社になる」という。原盤権に依存せずに、マネジメントやマーチャンダイジングを含めて、IP全体を管理していく。スヌーピーの「ピーナッツ」の株式取得もこうしたIP強化の一環という。

 また、Fate/Grand Orderなどで人気を集めたアニメーションのIPも引き続き強化する。映画もIPの強化、活用を推進。特にインドを中心としたメディアネットワーク展開を強化する。インドではテレビの普及率がまだ63%で、今後の伸長がみこまれるという。

アニメーションのIPも強化
インドのメディアネットワーク強化

稼ぎ頭になった「ブランデッドハードウェア」

 ブランデッドハードウェアは、ホームエンタテインメント&サウンド(HE&S)、イメージング・プロダクツ&ソリューション(IP&S)、モバイルコミュニケーション(MC)の3事業から構成。安定したキャッシュフローの創出を重視し、規模は追わずプレミアム路線を堅持する。

エレクトロニクスはクリエイターとユーザーを繋ぐ“感動”のためのハードウェアを展開

 また、同事業で培った技術を「医療」や「AI×ロボティクス」などに長期的に活用していく。

 かつてのテレビ事業は、10期連続の赤字を出すなど不採算部門だったが、新経営計画においてテレビやデジタルカメラなどのブランデッドハードウェアは、「キャッシュカウ(稼ぎ頭)」と位置づけられた。2017年度の最高益の原動力にもなり、「今後3年においてもっとも安定してキャッシュフローを生む事業」としている。

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 2018年度のブランデッドハードウェア売上は2兆4,500億円、営業利益1,460億円を見込む。

 ただし、スマートフォンのXperiaなどのMC分野は'18年度も150億円の赤字を見込んでおり、2018年度唯一の赤字事業となる見込み。「スマホはコンシューマエレクトロニクスで最大の市場。調達、製造、販売において、スマホを持っていることが、長期的には事業の安定性に繋がると判断している。事業売却は考えておらず、今の事業をどうやって強化していくかと考えている」と説明。十時裕樹 専務CFOは、「この中期経営計画内で改善する」とした。

経営の長期視点と営業CFを重視

 半導体についてはCMOSイメージセンサーに注力。イメージングNo.1の堅持とともに、センシングでもグローバルNo.1を目指すとし、スマートフォンだけでなく、車載も積極的に強化していく方針を示した。3年間の設備投資約1兆円のうち、半分はイメージセンサー向けとなる。

自動運転時代の安全へ貢献

 金融は継続的な高収益を実現し、顧客と直接つながりを有して、フィンテックで「さらにお客様に近づく」と説明した。

「Community of Interest」を創りだす

 吉田社長は、「金融事業は創業者の長期視点が生み出したもの。事業開始から累損解消に20年かかった」というが、創業者の盛田昭夫氏が金融事業の開始時に「(ソニー)大きな会社になってほしい。いつか立派な自社ビルを建てたい」と語ったことに言及。金融がソニーを支え、現ソニー本社もソニー生命が所有しているというエピソードを紹介し、長期視点の必要性を強調した。

若き日の吉田社長(左)と盛田昭夫氏(右)

 第3次中期経営計画においては、営業キャッシュフロー(CF)を最重視。3年間で金融部門を除くベースで2兆円以上の営業CF創出を目指す。連結株主資本率(ROI)は10%以上を目標としている。

第3次中期経営計画の数値目標
営業CFの推移

 今回の中期経営計画では、最終年となる2020年度の営業利益目標を出していない。吉田社長は、「私の判断で出すのを辞めた。経営の長期視点を重視したためで、3年で成果が出ることに囚われないように」とコメント。「営業CF重視は、不動産の売却益やM&Aなどに依存せず、ソニーの利益創出力を図るのに適した指標。この3年間は、利益成長よりもリカーリング比率の増加など、利益の質を高めることに軸足を置く」と語った。