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YouTubeの経済効果は3,500億円以上。ホロライブやテレ東の活用法とは
2022年8月30日 17:37
YouTubeは、日本において、YouTubeが2021年にもたらした経済的、文化的、社会的影響についての調査結果「YouTube Impact Report」を発表。3,500億円以上の経済効果をもたらし、10万人を超えるフルタイム相当の雇用を創出したとしている。
調査は英Oxford Economicsによるもので、調査期間は2021年1月から12月。3,500人を超えるYouTubeユーザー、2,000人以上のクリエイター、500以上の事業者を対象に、アンケートと投入産出(産業連関)分析による調査を実施。そこから得たデータと公式統計を用いて、YouTubeのクリエイターエコシステムの経済的な影響を、雇用やGDPへの貢献度の観点から分析している。
YouTubeの経済効果の中心となっているのは、コンテンツを提供するクリエイターや企業に収益を再分配する仕組み。
YouTubeでは、ショート動画の再生回数などに応じて報酬を支払うYouTubeショートファンドや、視聴者がチャンネルごとに月額を支払うチャンネルメンバーシップ、視聴者が購入するSuper Chat、Super Sticker、Super Thanksの大部分がクリエイターに還元されるほか、広告や定額制のYouTube Premiumの収益の大部分もクリエイターの還元に使っているという。また、資格のあるチャンネルはグッズの紹介機能が利用でき、オリジナルのグッズの販売に繋げることができるとしている。
これらによるコンテンツの所有者に還元される収益は日本におけるYouTubeエコシステムの「直接的な経済効果」になる。また、クリエイターがコンテンツを制作するにあたって、必要な商品やサービスを購入することで「間接的な経済効果」も発生する。クリエイター自身や制作に関わるスタッフ、関連するサプライチェーン(音響・映像機器、映像編集・制作を提供するサービスなど)の従業員は得た収入を消費することで誘発的な経済効果も生み出すとしている。
3,500億円の経済効果と、10万人を超えるフルタイム相当の雇用創出については、この「直接的な経済効果」と「間接的な経済効果」に加え、関連するサプライチェーンの従業員の消費による経済効果、コンテンツ制作に関わったクリエイターや企業の従業員の数を踏まえて分析した結果に加え、クリエイターがYouTubeでの活躍をもとに動画以外の領域で得ている収入についても推計。
オリジナルグッズ売上、ブランドとの提携、ライブやコンサートなども含まれており、「直接、間接、誘発、そして触媒的な経済効果の総計」としている。
今回の調査では、YouTubeのクリエイターエコシステムが引き続き成長を遂げていることもわかり、10万人以上の登録者数を持つチャンネルが6,500以上となり、前年比で35%を超える増加率を記録。日本国内で年間で100万円以上の収益をあげているチャンネルの数は前年比で40%増加したという。
また、中小企業のビジネス拡大にチャンスを与えている機会が多く、チャンネルを持つ中小企業の65%が「新しいオーディエンスにリーチして顧客ベースを増やすうえでYouTubeが貢献した」と回答。また、YouTube広告が売上向上に寄与している場合もあるとする。
また、日本の音楽産業の成長にも貢献しているほか、YouTubeが学習に使われる機械が増え、正規の教育カリキュラムにYouTubeが組み込まれることも増えているという。そのほか、日本のクリエイターがコンテンツを輸出して世界中の視聴者と共有できる場としても機能しており、日本では遅れているグローバル化についても大きく貢献しているとした。
「スパチャはクラウドファンディングのような役割」3社のYouTube活用例
記者向けの説明会では、クリエイターや企業のYouTubeの活用方法について、3社の事例が紹介された。
クリエイターの活動について、VTuber事務所のホロライブプロダクションを運営するカバー代表取締役社長の谷郷元昭氏が解説。まず、AR/VRのコンテンツを手掛けていたカバーでは、当時その分野の注目度が低かったことから、動画分野でのビジネスを検討し、AR/VR技術でCGキャラクターを操作してYouTubeで発信し始めたことが現在のホロライブに繋がっているという。
ホロライブの所属タレントは、フェイストラッキングによるキャラクターの操作が可能なARアプリを使った自宅からの配信を日常的に行なっているほか、カバーが全身のモーションキャプチャーが行なえるスタジオを保有しており、テレビの音楽番組のような高い品質の音楽配信番組も定期的に行なっている。
こういった活動の中で得られるSuperChatや、メンバーシップなどの収益については、「クラウドファンディングのような役割になっている」と説明。アニメ制作スタジオに依頼し、本格的なアニメーションMVを公開した宝鐘マリンの例を挙げ、「個人の活動ではできないような取り組みを、SuperChatを通して自分の夢を実現するという形で大きな展開ができるようになってきている」とした。
カバーでは、日本のカルチャーを世界に発信していくこともミッションとして掲げており、英語圏向けのホロライブEnglish、インドネシアのホロライブInddnesiaも展開。バーチャルクリエイターの活動は、日本のアニメ文化に立脚したコンテンツとして世界でも受け入れられ、北米や東南アジアなど日本のアニメに関心のある地域では、とくに活躍が拡がっているとした。
また、バーチャルクリエイターの活動はYouTubeに留まらず、「タレントであると同時にキャラクターでもある」という特性を活かしたフィギュア化などのグッズ展開や、AR技術を使ったライブイベントが手軽に行なえるようになってきたことから、YouTubeで得た人気を活用して大型のライブイベントを開催するなど、IPビジネスの拡大も行なっている。
VTuberについて、「一部の人しか見ていないようなニッチなものと思われる人もいるかもしれないが、世界ではゲーム実況者として視聴されるような形になってきている」という。ホロライブ所属の兎田ぺこらについては、2021年に世界で最も視聴された女性配信者のランキングで3位にランクインしたことを説明。
「YouTubeのおかげもあって、VTuberの市民権が確実にできてきている」「日本発のVTuber文化はテレビアニメに続くような新しいコンテンツとして根ざしていっていると感じている。今後も日本のカルチャーを世界に発信していきたい」と述べた。
マーケティングツールとしてのYouTube
続いて、テレビ東京 報道局 クロスメディア部 テレ東BIZ副編集長の立花剛氏が、マーケティングツールとしてのYouTubeの活用方法について解説。現在稼働しているYouTubeチャンネル「テレ東BIZ」はチャンネル登録者数156万人を記録し、ニュース動画や記者会見映像のほか、解説動画などを展開している。
テレビ局がYouTubeを活用しはじめた経緯について、「時間の制約」と「多様な表現」の2点を挙げた。時間の制約については、テレビ放送では限られた尺の中でいろいろなことを伝えなければいけないことから、取材した内容を盛り込みきれないという課題のほか、使用されなかった素材を活かす場を作りたいという点がYouTubeを活用し始めた大きな理由だという。
多様な表現については、テレビ番組には決まった“型”があるため、その“型”に当てはめた製作が基準となってしまうことから、記者やディレクターがそれぞれの個性を活かした作家性を育てる場としてもYouTubeを活用しているという。動画のネタ選出についても、記者の視点で「これは面白い、伝えなければいけない」と思ったことを重視して選択しているという。
8月22日現在で今年最も多く視聴された動画は、2月に公開された「『ロシアの論理』で読み解くウクライナ危機【豊島晋作のテレ東ワールドポリティックス】」で750万回再生を記録。ロシアの侵攻について(公開当時は進行前)解説した38分の動画となっており、通常のテレビ東京の夜のニュース番組の尺が1時間であることから、テレビでは1つのテーマにここまで時間を使うことができない、YouTubeならではのコンテンツになっていると説明した。
そのほか、理系大学出身で海外の科学誌を原文で読んでいるような記者がEVを解説するといった記者の特技を活かしたコンテンツや、テレビ放送のノーカット動画も多く再生されているという。
今後の目標について立花氏は、解説動画の強化によりテレビ放送にも繋がる制作能力の底上げと、独自の有料サービス「テレ東BIZ」「モーサテプレミアム」への誘導にも活用していきたいとコメントした。
最後に音楽面でのYouTube活用について、ユニバーサル ミュージックデジタル統括本部 コマーシャル・オペレーションズ本部 本部長の種茂正彦氏が説明した。
レコードレーベルの課題は「アーティストの新たなファン獲得と既存ファンのエンゲージメントを高めること」とし、YouTubeを活用してどのように実現するか試行錯誤しているという。
YouTube自体について、「広告付き無料サービスとしてMVを楽しむプラットフォーム」という旧来のイメージから、「サブスクで様々なエンタメコンテンツを楽しむ場」に変化したとし、「売上についてもビデオからオーディオにシフトして、純粋に音楽配信サービスとして楽曲を聴くというニーズが増えていると捉えている」と述べた。
ユニバーサル ミュージックでは、幅広いアーティストを取り上げる「UNIVERSAL MUSIC JAPAN(UMJチャンネル)」と、主要アーティストの個別チャンネルとして「OAC(Official Artist Channel)」の2種類のチャンネルを用意して情報を発信。UMJチャンネルで紹介された楽曲からOACに遷移してファンベースを増やしていくといった、YouTube上で展開できるマルチフォーマットを活用しているとした。
活用例では、YouTube発のアーティストとして、現在もコンテンツだけでなく、ファンとのコミュニケーションの場としてチャンネルを活用し続けている藤井風を紹介。新曲リリースのタイミングで、MV撮影の裏側を記録したショート動画を公開したり、TV露出などで注目されたタイミングで配信を行なうなど、ファンが注目しているモーメントを逃さず、最高のタイミングでコンテンツを展開しているという。
7月にアルバムをリリースした[Alexsandros]は、1カ月前から、新曲リリースと同時にMVや、ティザーなどのコンテンツ、無料ユーザーも全楽曲を視聴可能にするなど、複合的にコンテンツを展開し、関心を惹きつけた状態でアルバムリリース。その後も視聴者がコメントできる状態でオーディオビデオを公開し続けるなど、新規ファンを増やすきっかけとして活用できたとした。
種茂氏は、今後の課題について「ファンベースの拡大」とし、リリースごとの仕掛けによってファンの拡大を目指し、YouTubeならではの様々なフォーマットで継続的にコンテンツを公開することでファンとの接点と増やし、アーティストや楽曲の魅力を発信していくと述べた。