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シャープ創業者・早川徳次もCGで降臨。電子ペーパーから発電パネル搭載リモコンまで
2023年11月10日 21:22
シャープは10日、現在開発中の技術やデバイス、それらを活用したソリューションなどを披露するイベント「SHARP Tech-Day」が東京ビッグサイトで開幕した。創業111年を迎える同社の記念イベントとして行なわれるもので、グループが持つ技術の可能性を、一足先に体感できる内容となっている。オープニングセレモニーでは、代表取締役CEOの呉柏勲(ロバート・ウー)氏ほか、創業者の早川徳次氏も登場(CG映像)し、来場者を驚かせた。
イベントの開催期間は、11月10日から12日までの3日間。場所は、東京ビッグサイトの東8ホール。製品化前の技術展示がメインとなるが、誰でも無料で見学が可能。最終日の12日には、声優・梶裕貴氏のトークショーやコロコロチキチキペッパーズなどのよしもと芸人が登場するコメディショーも開かれる。
本記事では、会場で展示されていた注目の技術やAV関連のソリューションを中心に取り上げる。
なお、シャープがディスプレイ関連の学会などで披露し、動向が注目されている「量子ドットディスプレイ」(量子ドット材料そのものを発光させる次世代の自発光ディスプレイ技術)は会場に展示されていなかった。
AQUOSの中にAIトレーナー。リビングでちょいトレのサービス
「TV AIヘルスケアトレーナー プラットフォーム」は、リビングに設置したテレビを使って、日々の健康チェックやエクササイズなどが楽しめるサービス。
会場には、テレビの上部に小型カメラを搭載したアクオス(試作品)が設置されており、測定したヘルスケアデータと、エクササイズ時の姿勢に対して、AIトレーナーからのアドバイスが表示されていた。
「カメラとセンサーによって、個々の状態に応じたアドバイスをAIが実行してくれるので、ゲーム機を使ったエクササイズや、コンビニ感覚で利用できるとして人気を集めるジムでのちょっとしたトレーニングなどが、家庭のリビングでも楽しめるようになる」とメリットを話す。
技術としては、内蔵カメラが顔の特徴、血管情報、心拍情報、そして赤外線センサーが顔の表面温度を非接触でセンシング(測定は5秒程度)。アクオス内部のAIエンジンを最適化することにより、リアルタイムに運動時の姿勢分析を行ない、アドバイスを表示させているという。
試作機で使われているAIエンジンは、「現行のアクオスに搭載されている仕様と大きくは変わらない」とのことで、早期のサービスインを期待させる展示となっていた。
なお、説明員によれば「血管情報とは、血管の負荷を数値化したもの。血液が流れる時の動脈の伸縮は顔色の時間的変化に表れる。目には見えない顔色の微小な時間的変化を独自に数値化したものであり、医療機器で得られる“血圧”や“体温”とは異なる」という。
省エネでも暗く感じないテレビ。見てないときは表示エリア小さく
ハイダイナミックレンジやミニLEDなど、近年増加傾向にある“高輝度・消費電力増”を抑制するための、テレビ向け節電ソリューションも展示されている。
1つが「エコピクチャーコントロール」と呼ぶ方法。消費電力を下げるには、液晶のバックライトの光量を下げればよいが、映像は暗くなってしまう。そこで、節電動作向けの映像モードを用意。“暗い”と感じさせることなく、明るく見やすい映像のまま節電することができるようにした。
説明員によれば「階調を犠牲にして、液晶の透過率を上げることで明るさ感をキープしている。単純に透過率を上げるだけでは、画が破綻してしまいがちだが、そのさじ加減を工夫している。また、太陽光パネルとのCOCORO ENERGY連携を使って、余剰電力量に応じた制御ができる事、ユーザーが特別な操作をすることなく節電できる事もポイント」とのことだった。
もう1つの節電ソリューションが、テレビ画面を見ていないときに表示エリアを小さくする「スマートエコビュー」。
テレビの上部にある小型カメラが視聴者の顔を常時モニタリング。急な来客で一時的に席を外したり、手元のスマホを操作している時など、しばらく視線をテレビから外すと、画面の表示エリアを制限することで消費する電力を抑制する。「有機ELテレビでの利用にも活かせる方法」という。
輝度1000nits。外でも使えるARグラス用マイクロLEDディスプレイ
ディスプレイ技術としては、屋外で使用するARグラス向けの「Silicon Display」が展示されていた。
1円玉の中に納まる程度のエリアに、21万超の微細な青色マイクロLEDを実装し、量子ドットとカラーフィルターでフルカラー表示を可能にしたもの。解像度は358×198ドットで、1,000ppiもの画素密度を実現。1,000nitsの高輝度性能も備えているため、屋外でも暗さを感じないという。
微細なLEDを一度に実装するモノリシック型を採用し、1画素あたりのサイズは縦横24マイクロメートルとのこと。コスト低減と更なる高画素・高密度化を目指し、屋外・屋内を問わず日常使いできるARグラスなどへの展開を進めたいという。
なお、青色マイクロLEDから赤色・緑色を採りだすために、量子ドットとカラーフィルターが使われているが、「カラーフィルターは、量子ドット層では分離できなかった青色成分を取り除いて赤・緑の純度を高めること、それから外光からの影響を抑制するために用いている。なお、今回の会場にはないが、我々が開発中の量子ドットディスプレイは量子ドットだけでRGBが作られており、カラーフィルターレスになっている」とのことだった。
消費電力0W。初披露のIGZO搭載電子ペーパーディスプレイ
会場内で注目を集めていたのが、今回のイベントで初披露となったA2サイズのカラー電子ペーパーディスプレイ「ePoster」。E Inkの最新電子ペーパープラットフォーム「Spectra 6」を搭載。白黒赤緑青黄の6色を組み合わせることで、従来以上に鮮やかに表示できるようになった。
紙のような高い視認性に加え、消費電力0Wで“表示保持”が可能。紙のポスターで一般的な国際規格のA2サイズ(420×594mm)であるうえ、薄型・軽量なので、紙のポスターからの置き換えがしやすく、これまで電源供給や耐荷重の課題から電子ディスプレイの設置が困難だった場所でも活用できるという。
IGZO技術により周辺回路が小型化でき、ディスプレイの狭ベゼル化を実現。さらにIGZOによって電圧を高くできるため、書き換え速度も高めることができるという。会場では、書き換えのデモを披露し、20秒もかからずに画面が切り替わっていた。
シン・発電パネル搭載のテレビリモコン。電池交換サヨウナラ
色素増感太陽電池と液晶ディスプレイの製造技術を融合させた発電デバイス「LC-LH」(Liquid and Crystal Light Harvesting)を使ったテレビリモコンも展示されていた。
室内の照明だけで発電できる光発電パネルを採用。部屋に置いておくだけで内部のバッテリーに蓄電できるため、電池交換の手間や、乾電池の消費もなく、環境に優しいと訴求する。
またLC-LHは、従来の屋内用太陽電池に比べて、約2倍の発電効率を持っていることに加え、液晶パネルと構造が似ており、液晶パネルの製造ラインを大幅に変更することなく活用できるのもメリットだとしていた。
6種類のワインのにおいをかぎ分ける「NIOI Vision」
ディスプレイの基板技術を活用した独自のにおいセンサーと、AI技術を組み合わせた新しいソリューションが「NIOI Vison」。会場には、ぶどうの品種や製法などが異なる6種類のワインをにおいセンサーにかけて、においだけでワインを特定させるデモンストレーションが行なわれていた。
シャープによれば、「におい」はまだ未開拓市場であり、サービス等を含めた潜在市場は10兆円に迫ると予測。今後も開拓・拡大したい分野という。
においの測定に用いたのはFA-IMSという手法。対象の物体から発するにおい分子をイオン化し、異なる電圧でフィルタリングすることで、人間の鼻では嗅ぎ分けることのできない微妙な差のレベルも視覚化。得られた“においの指紋”と、AIであらかじめ学習させておいたにおいの指紋を照合することで、どのにおいなのかを判定しているのだという。
まずはデスクトップサイズのハードとAIシステムを開発し、その後コンパクト化したハード、データソリューションサービスの開始、そして行く行くはモバイルサイズのハードも計画していきたい、と担当は意気込みを話していた。
レーザーで急所狙い撃ち。害虫駆除システム
半導体レーザーを使った駆除システムは、薬剤を使わずに害虫を撃退するもの。薬剤を使わないため、安心・安全な農作物が提供できるほか、異常気象による害虫の大量発生などの食糧危機を想定したソリューションという。
説明員によれば、レーザーをそのまま虫の本体に照射するわけではなく、光源モジュール内のミラーに反射させて、例えば飛行する虫の場合は、羽などの急所を狙い撃ちする事で飛行できないようにする、とのこと。不規則な飛行もAIによって予測でき、それに応じてミラーを適切な位置に動作可能とする。
独自のレーザーチップを開発済みで、様々な波長のレーザーラインナップを用意。出力を制御することで、レーザーを使った加工機や除草にも応用できる技術という。