シャープ、4色“クアトロン”や3D強化など新経営方針

-'12年までパネル逼迫。新興国や省エネ/創エネ強化


片山幹雄社長

5月17日開催


 シャープは17日、2010年度の経営戦略説明会を開催した。液晶事業について、UV2Aや4原色技術を活かした「クアトロン」を積極的に展開していくこととともに、中小型3D液晶や、太陽電池、LEDなどを強化。「エコポジティブカンパニー」を目指し、省エネ、創エネ機器を展開する方針を片山幹雄社長が発表した。

2010年度の業績見通し

 片山社長は、2009年度に実施した構造改革の成果を説明。総経費削減は2,138億円となり、2,000億円という目標を達成し、「経営体質のスリムダウン」ができたと言及。さらに、新しい“地産地消”ビジネスモデルについても、液晶は、中国においてパネル生産プロジェクトを受注したこと、太陽電池はイタリアでの被膜太陽電池の生産事業などで合弁契約を結んだことなどを紹介した。

 各事業部門の成果としては、液晶においては、堺工場の稼動開始やUV2A、4原色技術の開発などを説明。UV2Aについては、「10年間使っていたASVから次世代技術のUV2Aの開発に成功した。現在では堺工場、亀山工場とも、UV2Aに切り替えを進めている」と、全面的なUV2A化を説明した。

 太陽電池については堺工場の稼動、携帯電話は中国におけるラインナップ拡大、健康/環境機器についてはプラズマクラスター搭載製品による利益改善やLEDの拡充などを紹介した。

 この結果2009年度は売上高2兆7,559億円、営業利益519億円、純利益43億円と前年度の大幅な赤字から黒字転換。2010年度は売上高112.5%増の3兆1,000億円、営業利益1,200億円、純利益500億円を目指す。


構造改革の成果2009年度の取り組みの成果

 


■ 省エネ、創エネと、新興国対応を強化

エコ・ポジティブカンパニーを目指す

 今後の成長連略については、「低炭素社会への移行」や「新興国の伸張」にあわせ、「経済成長とCO2排出削減の両立を可能とする創エネ・省エネ技術」と「新興国を基準としたコスト力」の2つが求められるとして、目指す「エコ・ポジティブカンパニー」というビジョンを紹介。環境に配慮した工場と「創エネ」、「省エネ」のエレクトロニクス技術を活かしていくという。

 また、「エレクトロニクス業界は、韓国、台湾企業との競争が激化しているほか、通信などビジネスインフラの変化により、従来の延長線上では、今後の成長や収益確保は難しい」と現状を分析し、「現在の『先進国中心で、スタンドアロン』という事業領域を改める必要がある」と説明した。

 そのため、エンジニアリングビジネスなどを組み合わせたソリューション型のビジネスなどを強化。「売切り型から、トータルソリューション型を含めた新しいビジネスモデルが必要。例えばデジタルサイネージがその一つ。大型パネルとコンテンツ配信システムを組み合わせ、ソリューションとして事業を強化する」という。

 また、新興国への対応については、「ローカル人材の登用を図るほか、現地での商品企画や設計などで、現地に適した製品化や、コストバリューを高める。FTA(自由貿易協定)の活発化で、ASEAN、中国、インドが成長する見込み。販売、生産がこれまで以上に連携し、価格戦略モデルを投入し、規模拡大を図る」と言及。「そのためには、今までとは違った会社の仕組みにする必要がある」とし、4月1日付けの海外組織変更について説明した。

中期的に目指す事業の方向性4月1日付の海外事業再編について

 


■ クアトロンで高機能液晶を訴求。2012年までパネルは逼迫

液晶パネルは2012年まで供給不足が予測される

 今後の液晶事業においては。「2012年まではテレビ向けパネルの需給がタイトになる」と予測。新興国での需要拡大のほか、パネルメーカー各社で第6、7世代ラインがテレビ用からPC用に転換されていることなどがその要因という。

 また、各社の新工場の稼働やライン増設が、政府の許認可の遅れなどが生じていることもあり、「液晶パネルが逼迫するのは目に見えている。2011年から12年までのパネルの不足は続くとみている」とした。

 一方、LEDバックライト搭載テレビや、3Dなどの需要拡大にあわせて、高性能パネルを強化。UV2Aと4原色技術による高効率、高画質パネルとして「クアトロン」を展開する。4月には欧米でクアトロン搭載AQUOSを発売開始しているが、量販店の定番モデルとして、コーナーを確保するなど、好調な出足を見せているという。また、日本でも夏に発売、新興国でも順次発売するなど、グローバルに展開予定。なお、クアトロンは、イタリア語の数字の4と、エレクトロンを融合して命名したという。

 供給不足に対応すべく、堺工場の生産能力を7月を目処にフル生産となる72,000万枚まで引き上げる計画は4月に発表しているが、さらに前倒しし、5月の段階ですでに55,000万枚の生産を開始したという。

LEDと3Dが液晶テレビを牽引クアトロンにより省エネ化堺工場は5月から生産増強、7月にフル生産
片山幹雄社長

 クアトロンの高開口効率による低消費電力と画質をアピール。片山社長は、「堺工場と亀山第二で1年間生産したテレビを5年間使用した場合、火力発電所一基分(70億kWh/年)の電力を削減できる。新しい技術がいかに環境のためになるかわかっていただけるのではないか」と訴えた。

 2010年度の液晶テレビ販売計画は1,500万台で、クアトロンを中心に展開する。日本では、昨年比約1.4倍の780万台を見込む。中国では昨年比2倍以上の販売を計画している。中国においては、「高いブランドイメージがあり、トップクラスのブランドになっている。ラインナップの充実と取扱店の拡大を図り、沿岸部の主要都市だけでなく、内陸の主要都市まで拡大、1万店舗を目指す」とした。米国でも前年比1.4倍、欧州でも同1.2倍の販売を計画している。

クアトロンは環境にも貢献クアトロンAQUOSをグローバル展開
中小型液晶はスマートフォンなどで拡大、高付加価値化

 携帯電話やスマートフォン、中小型液晶についても説明。スマートフォン市場や電子書籍など新規市場やゲーム機の伸張にあわせ、高精細、タッチパネル、3D液晶などに取り組むという。スマートフォンについては2013年に携帯電話全体の約2割に拡大すると予測。そのために高性能パネルへの需要はさらに増加すると見込む。

 スマートフォン事業については、マイクロソフトと共同開発した「KIN」を欧米で発売。液晶だけでない、小型実装技術などの要素技術を活かして新しいスマートフォンをグローバル展開するという。また、携帯電話については特に中国を中心に強化する方針。日本でも「6年連続国内シェアNo1を目指す」とした。

 また、12日に発表したモバイル向けの3Dカメラモジュールも紹介。「視差バリアの液晶と組み合わせて、スマートフォンで3Dを見たり、テレビにHDMIで出力して3Dを楽しめる。そういう展開を狙っていきたい。これからの3Dは、リビングへの新しいエンターテインメント。新しい事業機会として世界的に取り組んでいきたい」とした。

マイクロソフトと共同開発したKIN3Dを全面展開
太陽電池事業の差別化要因

 健康・環境事業については、2009年度に営業利益160億円、営業利益率6%以上を達成。この好調を引き続き継続していく方針。特にプラズマクラスター搭載際品が、好調で、エアコン、掃除機などでの搭載にあわせて販売台数を拡大。今後もプラズマクラスターをコアコンピタンスとし、中国やASEAN諸国などに拡大していく方針。

 LEDも海外において、白熱電球置き換え需要を狙うとともに、国内のラインナップ拡大やコスト力強化を図る。また、法人ビジネスの拡大にも取り込むという。

 太陽電池事業は、被膜太陽電池を積極的に強化。メガソーラー発電所用途が拡大する中、世界総需要は2012年度に約3.7倍になると見込んでおり、被膜を中心に強化を図る。ただし、他社の参入も増えることが予測されるため「競争に勝つためには、長期信頼性と、コスト力、長年培った技術力が必要」と説明した。


(2010年 5月 17日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]