YouTube、投稿動画の解析技術強化。権利者の動画のミラー反転やTV画面撮影も検出


Google YouTubeプロダクトマネージャーのデービッド ローゼンシュタイン氏がドイツからビデオチャットで説明した

 Googleは4日、YouTubeにおける、同社の著作権管理システムの強化状況について、マスコミ向けに説明会を開催。ユーザーが投稿した動画が、コンテンツホルダが権利を保有している映像と同じでないかマッチングする機能が大幅に向上している事や、ユーザー側がコンテンツホルダに意義申し立てができるプロセスを導入した事などが紹介された。




■YouTubeの著作権管理システム「コンテンツID」とは

コンテンツIDの概念図

 YouTubeでは2007年に、著作権管理システム「コンテンツID」の提供を開始した。これは、コンテンツホルダが、自身が権利を持つ映像などをYouTubeに登録。YouTube側がそれを解析し、その情報を記録したIDファイルを作成。それをデータベースに登録する。

 ユーザーから動画の投稿があった場合も、同様にIDファイルが作られ、データベースに存在するコンテンツホルダのIDファイルとのマッチングを行ない、マッチしたもの=コンテンツホルダが権利を持つ映像や音声が使われたユーザー動画だと判定されたものについて、コンテンツホルダ側が処遇を決められるというもの。


コンテンツホルダ側は3つの処遇が選べる

 コンテンツホルダ側は3つの処遇が選べる。1つ目は、その動画を視聴できないよう「ブロック」。2つ目は、再生できる状態のままにしながら、その動画がどのように視聴されているか「トラッキング」する。3つ目は「マネタイズ」で、動画に広告を表示するなどして、そこから収益を得られるようにする。

 「我々は、多くのコンテンツホルダが“ブロック”を選ぶだろうと思っていましたが、実際にスタートしてみると、アメリカに関して言えば、収益化に繋ぎたいというコンテンツホルダがダントツに多いという、とても興味深い状況になっています」(Google YouTubeプロダクトマネージャーのデービッド ローゼンシュタイン氏)とのこと。

 また、動画を視聴しているユーザーから、ブロックされているコンテンツはその旨に表示が出るので把握できるが、トラッキング、もしくはマネタイズされている動画は、常に広告が表示されるわけではないため、トラッキングかマネタイズかを判別できないという。「トラッキングとマネタイズのポリシーは、いつでも変わりうるものだからでもある」(ローゼンシュタイン氏)という。

 現在、このコンテンツIDシステムを使っているパートナーは世界で3,000以上にのぼり、米国だけでなく、アジア太平洋地域でも数百のパートナーが利用しているという。




■YouTubeの著作権管理システム「コンテンツID」とは

 この「コンテンツID」で最も重要になるのは、コンテンツホルダが登録した映像と、ユーザーがアップロードした映像のマッチングを判断する機能の精度だ。現在YouTubeには、1分あたり72時間強という大量の映像がアップロードされ、コンテンツIDを使った映像のスキャニングは、毎日100年分以上の映像に対して行なわれており、これを処理するためには、より高速、かつ正確なアルゴリズムが求められる。

 YouTubeではこれを随時更新しているとのことで、今年の初めにもマッチング機能を向上。テレビ画面をビデオカメラで撮影したような映像も検知できるほか、最新の改善点としては、鏡写しのように映像を反転させた映像や、色味が変わった映像などにも対応できるようになっているという。

テレビ画面をビデオカメラで撮影した映像もマッチング可能ミラー反転した映像や、色味を変えた映像もマッチングできる



■ユーザーからの異議申立てに対応

 一方、ユーザーがアップロードした動画に対し、コンテンツホルダから著作権に関する申し立てを受けた場合でも、ユーザーがその申し立てが無効だと確信している場合もある。(例えばYouTube以外の場所で、コンテンツホルダから、そのユーザーが、動画のオンライン公開の許可を得ているなど)。

 従来はこのようなケースの場合、ユーザーがその内容を主張するシステムは設けられていたが、コンテンツホルダが主張を拒否した場合、そのユーザーには、動画の収益化など特定の申し立てに関して、異議を唱える権利は無かった。

 こうしたケースに対応するため、4日から、新しい異議申立てプロセスが公開。ユーザーの主張が拒否された場合、ユーザーは異議申立てをできるようになった。この場合、コンテンツホルダ側は、申し立てを取りやめるか、正式な米国のDMCA(Digital Millennium Copyright Act/デジタルミレニアム著作権法)に基づいた通知を提出するかの、どちらかを選ぶ必要がある。



■無効な申し立てが起こらないような仕組みも

 一方、コンテンツホルダの中には、コンテンツIDシステムに大量の参照用オリジナルファイルをアップロードしなければならないところもある。このような状況では、権利を持っていない動画をアップしてしまい、権利が無いのにユーザー動画に対して申し立てを行なってしまうというミスが発生する可能性がある。

 これに対処するため、YouTubeでは無効な可能性がある申し立てを発見するアルゴリズムも改善。無効な申し立てがユーザー動画に影響を与えないように、自動プロセスを停止させ、コンテンツホルダに確認してもらうように、管理画面に表示するようになっている。さらに、万が一、意図して無効な申し立てをしているコンテンツホルダがいた場合は、コンテンツIDへのアクセスをできなくするといった対応も行なっているという。

 なお、ローゼンシュタイン氏は、今回の機能強化について、日本で10月からスタートした違法ダウンロード刑罰化とは「関係は無い」と説明。「我々は著作権者の立場を尊重し、違反があった場合はこれを禁止するサービスを提供している。今回のような改良を今後も続け、著作権者の権利をキチンと守る事で、動画や音楽投稿の世界を更に発展させていきたい。それがゆくゆくは著作権者の利益に繋がり、また、一般視聴者にはYouTubeが面白い場所だと思ってもらえる事に繋がると考えています」と語った。


(2012年 10月 4日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]