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ソニー'15年度通期決算は大幅増益。エレキ5年ぶり黒字化

テレビは2年連続黒字。熊本テックは一部復旧へ

 ソニーは28日、2015年度(2015年4月1日~2016年3月31日)の連結業績を発表した。売上高は、前年同期比1.3%減の8兆1,057億円。営業利益は同329.2%増の2,942億円。税引前利益は同666.5%増の3,045億円。純損益は1,478億円(前年はマイナス1,260億円)で黒字化した。

 スマートフォンの販売台数が大幅に減少したモバイル・コミュニケーション(MC)分野の大幅な減少や為替の影響で減収となったが、営業利益は、前年度比2,256億円増加。MC分野、その他分野、ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野、イメージング・プロダクツ&ソリューション(IP&S)分野、音楽分野、ホームエンタテインメント&サウンド(HE&S)分野の大幅な改善によるものとしている。一方、デバイス分野は大幅に下振れし、286億円の赤字となった。

2015年度連結業績

 純利益の黒字化は2012年度以来3年振り。ただし、'12年度は2,800億円の一時利益の上での黒字化だったため、実質的に8年振りの黒字化となる。エレクトロニクス事業が黒字化したのは、5年振りとしている。

セグメント別業績

テレビは2期連続の黒字。HE&S増益

 テレビなどを含む、HE&S分野の売上高は、前年度比6.4%減少し、1兆1,590億円。液晶テレビの販売台数の減少や、市場縮小にともなう家庭用オーディオ・ビデオの販売台数の減少などにより、分野全体で減収となった。営業利益は、前年度比265億円増の506億円。主に、コスト削減や製品ミックスの改善により、大幅な増益となった。

HE&S分野

 テレビの売上高は前年度比4.5%減少し、7,978億円。収益構造の改善に向け売上規模を追わない戦略を徹底することで、液晶テレビの販売台数が減少。また為替の影響などにより、減収となった。一方、営業利益は、主にコスト削減や製品ミックスの改善により、前年度比175億円増加し、258億円となった。テレビ事業は2期連続の黒字となる。

 吉田憲一郎CFOは、「テレビ事業は、この数年で付加価値向上とオペレーションコストの削減で、収益構造を改善できた。その成果が現れている」と説明。液晶テレビの2015年度販売実績は、前年比240万台減の1,220万台。なお、熊本地震の影響については、BDレコーダの一部でサプライヤーからの部品供給に支障が出る可能性があるが、「テレビの製造、販売については影響は軽微」とした。

吉田憲一郎CFO

PS4やサービスが好調。新型については「ノーコメント」

 G&NS分野の売上高は、前年度比11.8%増加し、1兆5,519億円。ネットワークを通じた販売を含むPlayStation 4(PS4)のソフトウエアの増収とPS4のハードウエアの販売台数の増加などにより、分野全体で大幅な増収となった。営業利益も前年度比406億円増加の887億円で、PS4ソフトウェアの増収とハードウェアのコスト削減、さらに前年度にPS VitaやPS TV用の部品に対する評価減112億円の計上があったため、分野全体で大幅な増益となった。為替の悪影響は477億円。

G&NS分野

 また、ネットワークサービスについても前年度から5割を超える増収。米国で展開中のテレビサービスの「PlayStation Vue」は、エリア拡大などを図っているほか、PlayStation VRの10月発売も予告。

 PS4の15年度販売台数は1,770万台。熊本地震の影響で一部のサプライヤーからの部品供給に問題はあるが、「PS4は最速の普及ペースで来ており、当社の成長を牽引する領域。サービスの売上も伸びている」とし、'16年度はさらなる販売増を見込んでいるという。

 なお、一部で報道されている、PlayStation 4の新モデルの計画については、「コメントは控える」(吉田憲一郎CFO)とした。

PS4の成長を加速

デバイス分野が不調

 デジタルカメラなどIP&S分野は、売上高が前年比1.7%減の7,112億円、営業利益は72.7%増の721億円。高付加価値モデルシフトにより、台数減ながら売上を確保。また、製品ミックス改善や費用削減により、分野全体で大幅な増益となった。

IP&S分野

 モバイル・コミュニケーション(MC)分野の売上高は前年比20%減の1兆1,275億円。スマートフォンの高付加価値モデルへの集中と、売上規模を追わない戦略の徹底で販売数が大幅に減少し、減収となった。営業損失は1,561億円縮小し、614億円の赤字。構造改革の成果が上がっているという。

 '15年度のスマートフォン販売台数は前年比1,420万台減の2,490万台。2016年度は黒字化を目標。熊本テックのカメラモジュール工程などがMC事業の業績に悪影響を及ぼす可能性があるとしている。

 デバイス分野は、売上高が前年度比0.9%増の9,358億円、営業利益はマイナス286億円と赤字となった。596億円の長期性資産の減損を含むカメラモジュール事業の悪化や、306億円の減損を含む電池事業の悪化などが要因。カメラモジュール事業は「あるべき事業規模を再検討している(吉田CFO)」という。

デバイス分野

 イメージセンサーの市場環境については「(イメージセンサーの主な用途である)スマートフォンの成長率は鈍化している。低成長ステージに入った前提で事業をすすめる必要がある。'15年度はまだ拡大予測が強く、我々もその予測を読み違えた。今後はマーケットの状況を慎重に見て進めていく必要がある」とした。

 映画は売上高が前年比6.8%増の9,381億円、営業利益は34.2%減の385億円。音楽分野は、売上高が10.4%増の6,176億円、営業利益は44.1%増の873億円。ストリーミング配信売上増などが増収要因となる。金融分野は、売上高が前年比1.0%減の1兆731億円、営業利益は19%減の1,565億円。

熊本テックも一部再開へ。'16年度見通しは5月24日発表予定

 なお、熊本地震に伴い、特に熊本テクノロジーセンター(熊本テック)が被災。熊本地方のソニーグループの関係者3,500人は無事が確認されているが、一部の従業員や家族は避難所での生活を強いられているという。熊本テック以外の九州地方の拠点は、生産活動を再開している。

熊本テック

 熊本テックは、デジタルカメラや監視カメラ向けのイメージセンサー、プロジェクタ向けのキーデバイスの基幹工場と位置づけられている。この影響を精査するため、2016年度の連結業績予想は現時点では発表できず、5月24日に改めて案内予定としている。

 熊本テックの基本構造は、クリーンルームが2層構造となっており、低層クリーンルームにより高い精度が求められるウェハー工程を設置、高層クリーンルームは組立、測定などの後工程やカメラモジュールなどの工程を設けている。

熊本テックの基本構造。低層クリーンルームの被害は少なく、再開への準備に入ったが、高層は損傷が大きい

 このうち低層側については、大きな損傷は認められず、設備の立ち上げなど生産再開のための準備を27日から開始、5月末を目処に稼働開始予定としている。

 一方、高層階は、地震の影響で生産設備等に損傷が生じているという。14日の地震では大きな損害はなかったが、その後の本震や余震により損傷が拡大したとみられ、また余震が続いたため、確認作業が遅れたという。なお、イメージセンサーなどの完成品在庫の損傷は限定的だったが、仕掛品については現在確認中としている。

 この地震による連結業績への影響は現在も精査中だが、特にデバイス分野では、熊本テックの直接的な物的損害や、復旧費用、補強工事費用などが生じる見込み。また、生産停止が一定期間継続するため、デバイス分野に加え、デジタルカメラなどのIP&S分野においても多額の機会損失が生じる可能性がある。地震保険は200億円分かかっているが、今回の損害はその枠を超える見込みという。

(臼田勤哉)