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聴く読書「Audible」国内サービス10周年。CEOに聞く“これまでとこれから”

Audibleのボブ・キャリガンCEO(左)とAudible ジャパン カントリーマネージャーの逢阪志麻氏(右)

Amazonは6月26日、音楽配信サービス「Amazon Music Unlimited」会員向けに、オーディオブック「Audible」のラインナップから毎月1冊を追加費用無しで提供すると発表した。またAudible自体は2025年で日本でのサービス開始10周年の節目を迎えている。

26日より、Amazon Music Unlimited会員は毎月1冊好きなAudibleのオーディオブックを選んで聴けるようになった

この10年でオーディオブックがどれだけ日本に浸透したのか、またAmazon Musicとの連携により、どれだけユーザーが広がるのか。Audibleのボブ・キャリガンCEOと、Audible ジャパン カントリーマネージャーの逢阪志麻(おうさかしま)氏に話を聞いた。

Audible会員数は毎年2桁の成長。リスニング時間は7倍に

Audibleは、小説やライトノベル、ビジネス書の朗読音声などを耳で楽しめるサービスとして2015年に日本に上陸。当初は毎月付与されるコインを使ってオーディオブックと交換するか、個別に購入する仕組みだったが、2022年にコイン制から定額聴き放題制に移行。月額1,500円で配信コンテンツが聴き放題になっている。

引き続き、個別に購入することも可能で、現在は90万作品以上のコンテンツを提供している。

独占コンテンツなども多数展開する

コンテンツ面では、日本を代表する作家である村上春樹のオーディオブックを独占配信する権利を得たほか、人気ミステリー作家・東野圭吾とのコラボレーションし、書籍より先にオーディオブックを展開する“オーディオブックファースト”作品も制作。

2025年3月には、女優・黒柳徹子の名作「窓ぎわのトットちゃん」の続編である「続 窓ぎわのトットちゃん」を、著者の依頼と監修のもと、黒柳自身の音声と、音声合成技術で再現した黒柳のデジタルナレーションを組み合わせたナレーションで配信している。

Audible ジャパン カントリーマネージャーの逢阪志麻氏

こうしたコンテンツの拡充や聴き放題制の導入により、会員数も着実に増加。事前に行なわれたプレス発表会で、逢阪氏は「2022年1月に聴き放題サービスを導入して以来、会員数は毎年2桁の伸びを記録しています。'22年1月末と先月末('25年5月)を比較すると、会員数は166%増と目覚ましい結果」と説明した。

聴取時間も「3年連続で前年比40%以上増加している」(逢阪氏)とのことで、これも'22年1月末から先月末までの間に、リスニング時間は7倍以上になっているという。

配信コンテンツについても「2025年にリリースするタイトルの数は、前年に比べて40%増を見込んでいる」(逢阪氏)とした。

Audibleのボブ・キャリガンCEO

キャリガンCEOは、日本でのサービス開始から10年を振り返り、「日本での成長については、とても誇りに思っています。実質(オーディオブックの)カテゴリーをゼロから立ち上げて、ここまで成長させてきましたが、多くのユーザーだけでなく、パブリッシャーや作家を含むクリエイターからも、大変好評をいただいています」と語った。

「特にここ数年は、大きな成長を遂げていて、やはり2022年に聴き放題のサブスクリプションモデルを導入したことで、ユーザーが文字通りあらゆるコンテンツ、すべてのカテゴリーのコンテンツを1日中、いくらでも聴けるようになったので、日本のマーケットでは本当に目覚ましい成長を遂げられました」

Amazon Music Unlimited会員向けの施策で「オーディオブックをより幅広い層の方々に紹介していきたい」という

Audibleのサービスは着実に成長しているものの、日本でのオーディオブック自体の存在感は、世界に比べると大きな差があるように感じられる。ただ、ラジオやradiko、ポッドキャストなど、音楽以外の音声コンテンツには人気・ニーズがあり、また十分な伸びしろが残されているとも言える。

キャリガンCEOも「(市場が)成長する可能性、ポテンシャルは非常に高いと思っている」と市場成長に期待をみせる。

「だからこそ、より多くの人にオーディオブックを試してもらいたい。今回のAmazon Music Unlimitedとの連携を通じて、この点に取り組んでいき、オーディオブックをより幅広い層の方々に紹介していきたいと考えています」

「もちろん引き続き、優れたコンテンツを提供するため、オリジナル作品や日本語の作品などコンテンツを拡充するための投資も続けていきます。また、先程触れたサブスクリプションモデルもそうですが、こうしたモデルを導入することでユーザーに選択肢、柔軟性を提供することができると思っています」

「こういった取り組みのすべてが組み合わさることで、より多くの人にオーディオブックを体験していただけると思っていますし、それがひいては日本のマーケットの成長にもつながると思っています」

「本は個人の興味・関心が多様。どれだけ多くの選択肢が提供できるか」が鍵

今回のAmazon Music Unlimitedとの連携で興味深いのが、Amazon Music Unlimited会員が毎月好きなオーディオブック1冊を自分で選べるということ。

Audible側でオーディオブックを選出して“今月のおすすめ”として紹介したり、数冊をまとめてピックアップして提供し、数カ月ごとにラインナップを入れ替えるといった手法も考えられたはずだが、この点については「Audibleの全カタログの中から選んでいただくのが、ユーザーにとっては最善の方法だと考えた」とキャリガンCEO。

「特に本というのは、ユーザー個人の興味・関心が非常に多様であるということが分かっているので、どれだけ多くの選択肢を提供できるかが重要だと考えていました」

「ですので、Audibleで配信している全作品を提供し、その中から選んでいただくことで、もともと興味・関心があったものを選んでいただくこともあるでしょうし、もしかしたら以前は手に取らなかったような新しいものを発見していただくことにつながるかもしれません。そういった期待も込めて、こういった方法を採っています」

最後にキャリガンCEOは、これからの10年に向けて「日本には非常に大きな成長の可能性を感じています。今後、さらに日本語作品のカタログを拡充していきますし、サービスを楽しんでいただけるユーザーの数も今後、劇的に増えていくだろうと想定しています」と展望を語った。

「私たちは非常に明確なビジョンを持っていて、今後多くの日本のリスナーの方々にAudibleのオーディオブックを楽しんでいただけるという風に考えて、それを目指した取り組みを進めています。そのために引き続き革新的で、特徴的、かつユニークなカタログを提供し、良質なストーリー・コンテンツ、優れた朗読者による朗読を提供していきます」

「こうした取り組みを通じて、サービスを楽しんでいただけるユーザーを増やして、次の10年だけでなく、さらにその先も、長年に渡って楽しんでいただけるサービスにしていきたいと思っています」

Audibleジャパン カントリーマネージャーに聞くおすすめの1冊

今回の施策を機会に、初めてオーディオブックを体験してみようというAmazon Music Unlimitedのユーザーも多いはず。ただ90万作品以上という膨大なラインナップから、最初の1冊を探すのは難しいことでもある。そこで最後に、初めてのオーディオブックにおすすめの1冊を、逢阪氏に紹介してもらった。

東野圭吾初がAudibleのために書き上げたミステリー小説「誰かが私を殺した」

「もちろんみなさんの趣味趣向によって変わると思いますが、比較的聴きやすいのは東野圭吾さんがAudibleのために書き下ろした『誰かが私を殺した』という作品だと思います」

「ミステリーなので、展開も早く、ドキドキしながら聴いていただけると思います。また東野さんが“聴くための小説”としてストーリーラインを作ってくださったので、その点も魅力だと思います」

「また湊かなえさんの作品や村上春樹さんの作品など、『本当は読みたかったけど、時間がなくて読めていない』という作品も見つかると思いますよ」

インタビュー後に担当者にも話を聞いたところ、オーディオブックは1冊聴き終えるのに10時間以上かかるような作品も多いところ、「誰かが私を殺した」は2時間47分と比較的短時間で聴けること、ナレーターもひとりではなく、寺島しのぶや松坂桃李といった複数の実力派俳優が担当しているため、ラジオドラマのような感覚で楽しめることも魅力とのことだった。