「エルピーダとは違う」。ジャパンディスプレイ事業開始
-中小型液晶をリード。上半期に有機ELサンプルも
ジャパンディスプレイの経営陣。左から田窪米治 チーフテクノロジーオフィサー 田窪米治氏、佐藤幸宏チーフビジネスオフィサー、大塚周一CEO、有賀修二チーフビジネスオフィサー、西康宏 CFO |
ソニー、東芝、日立製作所の中小型液晶ディスプレイ事業を統合した「ジャパンディスプレイ」が、当初計画の通り2012年4月1日に事業活動を開始した。
ジャパンディスプレイは、スマートフォンやタブレットを中心とする中小型ディスプレイ分野において、最先端技術製品を提供するグローバルリーディングカンパニーを目指して、産業革新機構(INCJ)、ソニー、東芝、日立の出資のもと、ソニー、東芝、日立の中小型ディスプレイ事業を統合して発足。
'11年11月の正式契約締結後、統合準備会社を設立して準備を進めていたが、今後は、「グローバルかつスピーディーな事業展開をはかるとともに、統合シナジーを早期に創出すべく運営していく。3社のLTPS技術、低消費電力技術、表示技術を統合発展させ、ニーズを先取りした新たな製品を提案し、市場の高精細化要求にもスピーディーに対応していく」という。
また、先行投資による生産能力拡充を進めていく計画で、モバイル用、車載/産業用、コンシューマー用中小型ディスプレイ分野に注力。販売には、アメリカ、欧州、韓国、中国、台湾に販売会社を設立するほか、将来に向け、有機ELディスプレイ等の次世代パネルの研究開発も積極的に行なう予定。
資本金は2,300億円。株主構成はINCJ 70%、ソニー10%、東芝10%、日立10%となる。従業員数は6,200名。
■ ボトムアップ型の統合でロケットスタート
ジャパンディスプレイの大塚周一CEOは、グローバルリーディングカンパニーを目指す同社の事業目標について説明した。
同社は、INCJから2,000億円の出資を得ており、INCJが7割の安定株主となったうえで、国内家電3社の中小型液晶事業を統合した。この経緯について大塚CEOは、「ボトムアップの統合だ」と語る。
INCJからの出資のきっかけは、「一社のエンジニアがINCJに相談に行ったこと。強い技術を持っており、スマートフォンやタブレットなどのビジネスチャンスが広がっているが、親(会社)からの成長資金が期待できない。このままでは中小型の技術、日本のいい技術が、ビジネスで負けていく」という切実な相談が寄せられたという。そこで、「約2年間におよびINCJは、投資の妥当性や統合の結果として勝ち残れるかなどを調査。各社チームの議論や交渉を経て、昨年11月の正式契約に至ったという。大塚CEOは、「従業員の切実なる思いから、この統合につながった。従来の親会社が“切り離したい”という、親の意向を受けた統合ではないというのが特徴だ」という。
一方で、現在の国内ディスプレイ産業については、「有機ELは日本国内のメーカーが次々と撤退している。しかし、日本には材料メーカー、設備メーカーなど、優秀な尖った技術をもった産業、メーカーが存在する。そういう意味でジャパンディスプレイがこの中小型において成功すると同時に、日本国内の重要な産業が、川上、川下の産業として再起してもらいたいという強い希望がある」と語った。
また、ジャパンディスプレイの目標については、「日本発のグローバルリーディングカンパニーになること。そのために、フラットな組織、スピーディな意思決定でやっていかなければならない」とし、CEO以下に副社長や専務などをおかず、9名の執行役員による組織を構築。「過去に例のないスピードとシナジーを伴った3社統合を実現し、正式契約から4カ月半で新しい会社としてスタートする。実際には独占禁止法のクリアランスまでの期間は、顧客情報やサプライヤの条件を共有できないなどの制限はあるものの、海外に独自の販社を作り、ITシステムを構築し、スリムな組織を構築して、今日に至っている。しかし、真の“ロケットスタート”はこれから3社融合した結果として、シナジー効果を出していくことが課題で、結果としてグローバルリーディングカンパニーになっていくこと。改めてこの場で誓いたい」と意気込みを語った。
■ 「エルピーダとは違う」。上半期に有機ELサンプル
大塚周一CEO |
質疑応答では、液晶業界の苦境やエルピーダメモリの破綻、サムスンなどの競合環境について質問が及んだ。
「サムスンも液晶関連組織を再編し、シャープとホンハイの事例のように3社統合発表後も液晶事業の環境は変化している。改めて、ジャパンディスプレイの強みは何か? 」との質問に対して大塚CEOは以下のように回答した。
「3社は業界を凌駕する技術をもっている。東芝はLTPS、日立はIPS、ソニーが低消費電力。スマートフォンの差別化という点では、CPUやOSが何か? というところから、いまはディスプレイにどういうものを使うかが差別化要素になってきている。また、車の中のディスプレイも進化しており、この点でも差別化を意識している。ジャパンディスプレイは韓国と違って垂直統合メーカーでは無い、液晶の専門メーカーなので、中立な立場で、お客様の製品差別化のための開発ができる。顧客の懐に飛び込める。そして中小型はほとんどカスタムで、このカスタムに強いのも特徴。DRAMのような汎用性の高いものとは違う。また、中小型は固定費が小さいく、むしろ材料費が大きい。だから、新会社は中国に3つの工場、台湾に1つの工場で後工程を受け持つ。コストの大部分を占めるところは中国で生産するので、コスト面でも大きく遅れをとることはない」
「私はDRAMの経験の中で、徹底的にコストを低減することをやってきた(大塚CEOは前エルピーダメモリCOO)。私が見る限りまだこの点は甘い。ここを徹底的にやっていくことが勝利の道だ」
有機ELの今後についての問には、「すでに3社の技術をテーブルに載せて検討し、基本方針は全て決まった。上半期には、ジャパンディスプレイとしてのデモンストレーションサンプルを皆さんの前に示す。その上で2013年をめどにどういう風に量産するかをこれから決める。ただ、御存知の通り、有機ELはサムスン一社独占になっている。また、ELそのものが、LTPSが狙っているものと少し差が出てきている。サムスンの今の有機ELに追従する、二番煎じでは勝てないかもしれない。だから、我々が出ていくときには、明確に勝てる戦略を持って出ていきたい」と回答。
さらに、有機ELについて「出遅れ感がある」との指摘については、「サムスン寡占の中で最近はトーンダウンしている気がする。いろいろなスマートフォンメーカーがあるなかで、サムスンは垂直統合をやっている。サムスンに勝ちたいというメーカーはたくさんある。したがって、今出遅れているからといって、将来的にも出遅れ、ということにはならない。ただ、有機ELは高精細化や寿命、消費電力が課題で、ブレイクスルーしなければならないことはまだまだ沢山ある」とした。「茂原の第6世代工場は有機EL用か? 」との問いには、「有機ELは現状サイズの大型化ができていない。他社をみても、TFTにLTPSを使っているところは5.5世代で生産して、それを3.5世代にもっていってRGB工程をやると聞いている。進んでいるものでも、TFTは第6世代で、それを分割して4.5世代でやるという動き。すなわち、第6世代で高精細のものをやれるような技術はどこもできていない」とした。
「日本のディスプレイメーカーは“強い技術を持っている”、というが、なぜ負けたのか? 」との問には、「今日までの3社のLTPSの生産能力は満杯だ。スマートフォンは一社だけで大きく爆発して売れることもあるし、売れないこともあるが、メーカーから見れば、液晶を注文してから供給されるまでに一年半かかる。LTPSで、一年や一年半前に生産能力を明確にコミットできなければ、メーカーは安心して仕事できない。生産能力をフレキシブルに提供していけないと、顧客がついてこれない」と回答。統合の効果については、「1+1+1をいかに3以上にしていくか。先端技術で勝つため、研究開発の人員をカットする予定は一切ない。間接部門のコストは1+1+1=1にしたい」という。
また、大塚CEOの前職で、先日会社更生法適用申請を行なった「エルピーダメモリ」との違いについても質問が及んだ。
大塚CEOは、「DRAMは毎年進化し、莫大な投資が必要となる。しかし、中小型液晶は4.5世代で生産できる。大型は第10世代や第8世代だが、LTPSではそんなに簡単には大型化できない。それから、ほとんどがカスタム製品になるため、ボリュームの大きなものから小さなものまで作ることになる。小さな物を大きなガラスでやることのコストメリットは高くない。したがって、テクノロジの制限と、ビジネスの最適サイズという意味合いが(エルピーダと)違う。また、今生産している設備の減価償却は済んでおり、中小型は世代進化が遅くて、固定費が薄い産業だ」と説明した。リストラについては、「人員削減や工場の統廃合は、今具体的に話すことはない。むしろ茂原の第6世代ラインをできる限り、今の人員をやりくりしながらやっていきたい」という。
今後の展開については、1年間かけて3社の人員を統合し、人員や設計などの効率化や最適な配分を行ない、「2015年までに株式上場するということで明確にやっていきたい」とした。売上高の目標は15年度に7,500億円以上。「生産能力については、今年は能美工場を立ち上げ、来年度にかけて、茂原のG6ラインに投資し、生産能力を拡充する。そのステップにおいて、7,500億を達成する」と語った。
(2012年 4月 2日)
[AV Watch編集部 臼田勤哉]