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SHV/4Kとスマートテレビをオールジャパンで一体推進

IPTV活用などロードマップを具体化。ICT成長戦略へ

 総務省は31日、「放送サービスの高度化に関する検討会」の第3回会合を開催。4K/8K(スーパーハイビジョン)放送と「次世代スマートテレビ」を一体となって、推進していく方針を確認した。

 同検討会は、「4K・8K(スーパーハイビジョン/SHV)」、「スマートテレビ」、「ケーブル・プラットフォーム」の3分野について、各ワーキンググループ(WG)を設け、ロードマップの策定やルールの具体化などを検討するもの。検討会は今回が最終回となり、SHVや、ハイブリッドキャストなどの次世代スマートテレビを、「オールジャパン」で推進することを決定したほか、詳細なロードマップを策定。6月に開催される総務省のICT成長戦略会議に報告し、政府のICT成長戦略にも取り込まれる予定。

'14年度4K放送と'20年度SHVに向けロードマップを具体化

 4K/8K(SHV)放送については、2月の報告を踏襲しながらも、ロードマップをより具体化し、導入推進の主体などについて取りまとめた。

 放送開始時期については、2014年のブラジル リオのサッカーワールドカップを目処に4K放送の環境を整備し、2016年のリオ・オリンピックでは8Kを体験できる環境を整備、さらに2020年のオリンピックに「4K/8K双方の視聴が可能なテレビの普及を図る」という方針はそのまま。ただし、伝送路として東経124/128度CSだけでなく、CATVやIPTVの活用なども織り込まれた。

 さらに、現行サービスとの両立が容易な東経110度BS右旋、2016年度の打ち上げを検討している110度CS左旋なども、伝送路の候補として明記した。

時期イベント解像度対応
2014年リオ W杯4K衛星:124/128度CSを活用。STBを通じて自宅や量販店で視聴可能に
CATV:今後の技術策定や衛星試験放送の動向を見ながら同時期の開始へ準備
IPTV:VODサービスを2014年早々に試行、IP放送サービスは衛星と同時期の開始へ準備
2016年リオ 五輪4K/8K衛星:124/128度CSに加え、110度CS左旋活用を想定
8K:STBなどを通じ、自宅や量販店で視聴可能に
4K:より多くの視聴者がSTBなどを通じ、多彩な番組を自宅で視聴可能に
2020年五輪
(開催地未定)
4K/8K衛星:124/128度CS、110度CS左旋に加え、110度CS右旋の活用を想定
4K/8K:双方の視聴が可能なテレビを用意。多くの視聴者が4K/8Kの多彩な放送を楽しめるよう環境整備

 実現のための技術的な要件については、2014年3月までに具体化した上で、6月までに技術基準の整備を図る。その際に衛星、CATV、IPTVなど、可能な範囲で共通化を図っていく。

 4K、8Kの放送を世界に先駆けて立ち上げるため、初期段階においては、官民の関係者が協力して推進体制を整備。人的、資金的なリソースを集約する。そのための運営主体として、5月2日に放送事業者や受信機メーカーなどが参加した「一般社団法人 次世代放送推進フォーラム」を設立。当面は同組織の下に、チャンネル運営に必要な技術や設備、コンテンツ、運用ノウハウ、コンテンツ制作ノウハウなどを集約していく。

 一定の技術やノウハウを蓄積した段階で、個々の放送事業者が展開できるようにする。具体的には、4Kコンテンツは2016年までに、8Kコンテンツは2020年までに個々の放送事業者による提供開始を目論む。

 こうしたロードマップを関係者全体で共有するとともに、関連技術の進歩や経営環境変化を踏まえて「不断に検証を実施する」としている。

 一方で、地上デジタル放送に移行したばかりの消費者にも配慮。「新たに高精細、高機能な放送サービスを求めない者に対しては、そうした機器の買い替えなどの負担を強いることは避ける必要がある」との文言が追加された。

 また、あわせて検討されている「次世代のスマートテレビ」と4K/8Kを一体となって普及することも確認。「可能な限り一体として、実現されていくことが望ましい」としている。

次世代スマートテレビはリモートアクセスも提案

 次世代スマートテレビについては、単なるVOD対応テレビではなく、「放送リソースを使って新たなテレビ視聴を可能とするアプリケーション」、「テレビ上やテレビに紐付けられたモバイル端末上で動作させるテレビ」であることを“次世代”と紹介。視聴者の安心、安全確保とオープンな開発環境整備を掲げて、推進に取り組む。

 具体的なアプリケーションとして、放送連動のタブレット/スマートフォンでの情報表示や、スマートフォンなどからのクイズ回答、操作。放送のCM連動したタブレット/スマホの広告表示、自宅のスマートテレビの受信映像の外出先からの視聴などを提案。

 推進の主体はIPTVフォーラムとなり、7月中に新規業務として取り組む。2013年中に推進体制の整備とともに、アプリケーション開発/実装のための諸条件の具体化に関わる体制を構築。年内に「ハイブリッドキャスト対応サービス(仮称)」、「リモートアクセス視聴(仮称)」を実現するための技術的手法や運用条件等について、技術面、ビジネス面の双方から検討し、実装に向けて取り組む。

 2014年以降は、放送連動型アプリの実現に向け、技術/ビジネス面の検討を行なうとともに、スーパーハイビジョン時代に対応した次世代スマートテレビへの実装を目指すとしている。

 CATVについては、今後の事業展開に必要なIP映像伝送プラットフォームや、既存IDの事業者間連携プラットフォーム、地域コンテンツの共有化などを推進。また、業界共通のCAS(限定受信システム)にも取り組み、B-CASやC-CASを置換するReCASについても、導入検討事業者の動向や機器コストの低廉化などの可能性を探り、検討していくという。

 特に整備を急ぐものは、IP-VODやIPリニア放送サービスのプラットフォーム。IP-VODについては、2013年度中にCATV関係者が協力し、プラットフォーム機能を担う事業者を立ちあげ、サービス提供を開始。'13年度中に30社程度のCATV事業者の参加を目指す。IPリニア放送については、2013年秋ごろを目処に、今後の取組方針を確定する。

 '14年度以降は、IPリニア放送サービスの試験放送を2014年4月からスタート。IP-VODは、将来的に250社の参加を目標としている。4K/8Kやスマートテレビについても積極的に取り組む方針。

柴山総務副大臣「制度や予算で支援」

 ワーキンググループの検討結果報告は、そのまま取りまとめられ、親会となるICT成長戦略会議に報告される。

 今回の取りまとめについて、メーカーからは、「4K、8K放送の目標が設定され、その具体化、波及効果に期待している。同時にコンテンツ、アプリケーションサービスが重要。コンシューマ映像だけでなく、医療やBtoBなどの産業展開も期待している」(ソニー)や、「進むべき方向が明確になった。2020年のSHVは大きなマイルストーンで、ちょうどアナログハイビジョンから30年で、BSが次世代に入るという大きな目標設定。コンテンツ、機器など足並みを揃えてやって行きたい」(パナソニック)と、目標が定まったことを歓迎する声が出た。

 NTTからは、「4K、8Kの実現には多様な伝送路が必要で、衛星だけでなく、IPTVの記述が入ったのは嬉しい。また、SHV放送には(次世代映像コーデックの)HEVCエンコーダや端末、コンテンツが必要。国家プロジェクトとして支援を頂きたい。特にHEVCのエンコーダの研究開発を進めているが、オールジャパン体制ができ始めている。競争力あるLSIを仕上げるためにも国の支援を望みたい。放送のために作っているが、医療やテレビ会議などに使うことで、規模の経済で低コスト化が図れる」と予算的な支援への要望も出た。KDDIは、「各ワーキンググループからスケジュールが示されたことはプラス。4K/SHVについてはIPTV、CATVが加えられたことは望ましい」とした。

 衛星放送関連では、「やるべきこと、時期が明確化された。消費者や視聴者からは、“絵がキレイ”、“スマートな機能”のそれぞれがばらばらでは、受け入れられない。かねがね主張してきたが、4K/8Kとスマートテレビは一体。それが明確化されたことが嬉しい」(WOWOW)、「スピード感ある検討とロードマップが出来た。実際に4Kでサッカーの中継を行なったが、高画質大画面のニーズは普遍的だと確信している。早期に4K放送は実現可能で、その用意をしている。設備や運用面でしっかり役割を果たしていきたい」(スカパーJSAT)などの意見がでた。

 一方、地上放送では、「最初の会合で(2020年のSHV導入は)『奇跡のような話』と口走ったが、技術的には輪郭が見えてきた。しかし、事業面では無料放送である民放では、どのようなマネタイズがあるかは不透明。自助努力でニーズを掘り起こすのはもちろんだが、政府のICT戦略でも、民放にとって広告料が右肩上がりになるような成長戦略を期待したいし、映像全体でパイが広がるような視点が欲しい」(日本テレビ)や、「受信機の大幅なコストダウンをお願いしたい。受信機が増えないとハードルが高い。また、放送機材のコストダウンも望みたい。放送機材では、まだ4Kの参入決定もできていない。メーカーから見れば、2~3週遅れの状態だが、放送機材もコストダウンしてほしい」(テレビ東京)との意見が上がった。

 フジテレビは、「重要なのは、スマートテレビとスーパーハイビジョンが一体となって高度化の両輪となること。SHVは臨場感、スマートテレビは面白さや便利さを伝えるもの。この両輪が一体となって次世代のテレビ放送を支える。『一体』という言葉が重要」と言及。NHKは、「目標と道筋が明示され、共有されたことが成果。NHKでもロードマップを詳細に作って取り組む。コンテンツ開発のロードマップも作っている。ただ、できたのはまだ報告書で、やることは残っている。今後の進め方、ロードマップの点検はある。責任持って取り組む」とした。

 柴山総務副大臣は、「4K/8K、スマートTV、CATVプラットフォームのそれぞれを、短期間で専門的かつ詳細にまとめて頂いた。今回の提言では、(SHV/スマートテレビの)一体的な導入と、だれがどのように実施するか明確に示されており、それが官民関係者で共有されたことが意義あると考えている。このまとめは、世界のマーケットを先導、牽引する意欲と受け止めている。総務省ICT成長戦略や、政府ICT戦略に反映させていく。ただし、技術とサービスは変化していくもので、不断の検証と進捗管理が必要。技術、セキュリティ、ビジネス面の検証も進めてほしい。また、SHVなどの高精細は医療などBtoBなどでも可能性があり、幅広な検討が必要になる。ロードマップを総務省でもフォローアップして、制度面、予算面の支援をしたい」と語った。

(臼田勤哉)