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パイオニア、ポータブルアンプ参入。バランス&ESS DAC

外装・音質カスタマイズ可能。実売約57,000円

 パイオニアは、USB DAC機能を備え、バランス出力も備えたポータブルヘッドフォンアンプ「XPA-700」を11月下旬に発売する。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は57,000円前後。愛称は「TACTICAL ARMORED」。

ポータブルヘッドフォンアンプ「XPA-700」
XPA-700

 デジタル入力として、USB A×1、光デジタル(アナログライン兼用)×1、microUSB B×1を装備。microUSB B端子でPCと接続し、USB DACとして動作する。対応データはPCMが384kHz/32bit、DSD 2.8/5.6MHzまでサポートする。光デジタル入力は96kHz/24bitまで対応。USB A端子はiOS機器向けで、48kHz/16bitまでの対応となる。

光デジタル/アナログライン入力やステレオミニ/光デジタル出力を装備

 DSDはDoP/ASIOに対応。OSはWindows 7/8/8.1、Mac OS 10.7/10.8/10.9に対応。Windows用ドライバはWebからダウンロードする。側面にはインジケータを備え、入力したサンプリング周波数などに合わせて、緑や赤のランプが光り、目でもハイレゾ信号が確認できるようになっている。

 DACチップは、ESSの最上位グレードである「ES9018K2M」を採用。ジッタを抑えているほか、DACアナログ出力段への干渉を抑えるために、チップを裏側へ配置。筐体内には高精度なクロックも備え、アシンクロナス伝送にも対応している。クロックは44.1k系と48k系で個別に搭載している。

 出力端子は、ステレオミニのアンバランスに加え、4ピンのバランス出力(RC-5204)も装備。対応するケーブルを用いて、イヤフォン/ヘッドフォンをバランス駆動できる。最大出力は100mW×2ch(32Ω)で、対応ヘッドフォンインピーダンスは8~600Ω。

 L/R各チャンネルの信号を、D/A変換からバランスヘッドフォン出力まで、左右独立した信号(L+、L-、R+、R-)で伝送するフルバランス回路を採用。それを損なわないための4連アナログボリュームも導入している。さらに、デジタル部、アナログ部、電源部の相互干渉を避けるセパレーション設計も採用している。

内部はフルバランス回路設計を採用している

 グランドにもこだわっており、DACの性能を引き出すために、銅製極太ジャンパーによるグランドを採用。アナログ再生時、利用しないデジタル回路はOFFになり、影響を低減する。

 ステレオミニのアンバランス出力は、光デジタル出力も兼用し、USB DDCとして使うこともできる。また、ラインアウトも独立した専用端子として備えており、単体DACとしても利用できる。

4ピンのバランス出力も装備

堅牢でカスタマイズ可能な筐体

 筐体の特徴として、米国防省の耐衝撃性能 MIL-STD-810G Method 516.61レベルをクリアした堅牢性を実現。筐体素材はアルミ削り出しで、ソリッドデザインを採用。スライドスイッチやトグルスイッチにより高精度な操作感も実現したという。

工場出荷時の状態
各端子の説明

 さらに、ユーザーがそれぞれに使いやすいよう、カスタマイズが可能。出力端子やボリュームノブなどを保護するフロント・リアバンパーを備えているが、これをユーザーが取り外す事ができる。フロントバンパーは3種類、リアバンパーは1種類、側面に取り付けるケーブルガイドパーツは2種類用意し、これらを付け替えて、カスタマイズできる。

バンパーなどで外装を使いやすいようにカスタマイズできる
バンパーやケーブルガイドで使いやすいようにカスタマイズができる

ユーザーが音質もカスタマイズ可能

側面のスイッチでモード切替

 DACの細かな設定機能もユーザーに開放し、音質もカスタマイズ可能。デジタルフィルタはESSが用意している「SHARP/SLOW」に加え、パイオニアが用意したパラメータを使った「SHORT」も利用可能。DACが同期する際のロックレンジ精度をユーザーが調整できる「Lock Range Adjust」機能も搭載する。

 ロックレンジを広く設定するとロックしやすくなるが、ジッタノイズを多く受ける事になる。逆に狭くするとジッタノイズは減るが、ロックしにくくなる。ロックが外れる(同期が外れる)と、ブツブツと音が切れてしまう。ユーザーは音を聴きながら、音切れが起こらないところまでロックレンジを狭くする事で、より高音質な再生が楽しめるというもの。

入力信号に対して、どのようなサウンドアレンジ機能が利用できるかを説明した図
Lock Range Adjust機能の説明

 外形寸法は同梱パーツを取り付けた最大時で76×154×26mm(幅×奥行き×高さ/出荷時は74×144×24mm)。重量は380g(出荷時は340g)。バッテリは3,200mAhのリチウムイオンバッテリで、駆動時間はiOS端末のデジタル接続時で4.5時間、アナログライン入力で6時間。充電所要時間は4.5~7.5時間。

 他にも、デジタル信号入力時に利用できるオートパワーオフ機能(20分無信号・無操作で自動でOFF)を搭載。バッテリチャージON/OFFスイッチや、ゲイン切り替えスイッチも備えている。

マニアが作った、マニア向けのポタアン

事業企画部 商品企画部 システム企画課の林佑二主事

 XPA-700は、カスタマイズ性の高さなど、非常にマニアックな仕様になっている。それは、企画を担当した事業企画部 商品企画部 システム企画課の林佑二主事自身が、ポータブルオーディオの“筋金入りのマニア”であるためのようだ。

 発表会で製品説明を行なった林氏は、各社のハイレゾ対応プレーヤーやポータブルアンプを多数持っており、それらを接続する“私物”のケーブルも披露。常日頃、プレーヤーとポータブルアンプを重ねて持ち歩く中で、ケーブルに負担をかけず、プレーヤーやアンプの筐体を傷つけず、使いやすく持ち運ぶにはどうしたらいいのかを考え、XPA-700が採用した“ユーザーが組み合わせる機器ごとにカスタマイズできる”という仕様に辿り着いたという。

林氏、“私物”のケーブル

 「パーツをくっつけて、いろいろやるというのはコストがかかるので、メーカーとしては本来やりたくないところです。しかし、ある特定の端子や機器と組み合わせる時に、例えばポータブルアンプの筐体が、あと2mm厚い方が都合が良いという場合、その利用ケースに合わせて2mm厚くしても、他のユーザーさんにとっては意味がない。そこで、バンパーなどで対応する事にした」という。

側面に取り付けたケーブルガイドで、リア側から伸びるバランスケーブルも、フロント側に無理なく回してこれる

 また、そのアイデアのキッカケとして、4ピンのバランス出力がリア側に搭載されている事を挙げる。「様々な機器と組み合わせやすいように、社内にある3Dプリンタを使い、(持っていない)機器の模型を原寸で作り、それらと組み合わせて使いやすいように端子の配置などを検証しました。また、カバンに縦方向に仕舞うユーザーが多いため、底部にケーブルを接続するとダメージを受けます。できるかぎり入出力が同じ方向になるよう端子の配置はケアしましたが、4ピンのバランス出力はリアになりました。それを保護するためにバンパーを付けるアイデアを出した」とのこと。

 なお、バランス端子を4ピン角型にした理由については、「カバンに入れた時の負荷がかかりにくく、耐久性に優れ、4ピンで信号のセパレーションも良かったため」だという。市場では2.5mm 4極のバランス接続対応機器も増えているが、「今すぐどうこうという話ではないが、そうした流れを気にはしている」と語った。

 米国防省の耐衝撃性能 MIL-STD-810G Method 516.61をクリアした事については、「1,22mの高さから、26回落としても大丈夫という試験をクリアしています。これは、アンプを腰のあたりの高さで使っている時に、落としてしまった事を想定したもの」だという。

キーワードは「NO RULE 俺だけの世界へ。」

 音のカスタマイズが可能な「Lock Range Adjust」機能は、据置型のヘッドフォンアンプ「U-05」で、既に採用されている。林氏は、「U-05を初めて聴いた時に衝撃を受け、開発者に(良い意味で)変態ですねと言いました(笑)。U-05は7段階で追い込めますが、XPA-700は4段階になっています。4連のスイッチを探すのは大変でした(笑)。でも効果は確かにあります」という。

 DACをESSの最上位グレードである「ES9018K2M」にした理由は、「パイオニアではAVアンプ、2chオーディオ、U-05など、これまでESS DACを使った製品はいろいろ開発し、使いこなしのノウハウが蓄積されています。ノイズの抑え方など、一日の長があるのかなと考えており、そこにモバイル機器用の新しいDACチップが出てきたので、“一番いいやつで行っちゃえ”と、かなり早い段階で決断しました」。

 デザインについては、「“鉄の塊”感を重視し、ローレット加工を施し、文字類もレーザー刻印としました。操作系もスライドやトグルスイッチを選び、あえて“操作している感じ”を楽しんで欲しいと思っています。ポータブルオーディオ好きな方達に、使い込んで欲しいと思って開発しました。自慢の機器とどう重ねるか、自慢のケーブルでどうスタイリングするか、最後の一手を“どの音質設定で行く”か、戦略を練り、自分流に使い込んで欲しい」と、製品に込めた想いを語った。

 こうした想いを反映させ、キーワードは「NO RULE 俺だけの世界へ。」とし、製品の愛称も「TACTICAL ARMORED」に決定。従来のオーディオ機器とは一線を画した、“ギア感”を打ち出したモデルとなる。

ランティスからXPA-700用にカスタマイズしたアニソンが登場!?

左から佐藤プロデューサー、林氏、野村ケンジ氏

 発表会には、ゲストとしてオーディオ・ビジュアル・ライターの野村ケンジ氏も参加。前述の、林氏のマニアならではのこだわりをトークの中で聞き出すと共に、ユーザーがどのようにカスタマイズしたかをアピールできるコンテストを開催してはどうか? などのアイデアも披露した。

 さらに、アニメソングを多く手掛けるランティス、その制作会社アイウィルの制作部・佐藤純之介プロデューサーもゲストとして参加。林氏はアニメ好きでもあり、佐藤プロデューサーと初めて会った時も、「自分がいかにアニメやアニメソングが好きか」というプレゼンを行ない、佐藤プロデューサーを驚かせたという。

 そんな林氏の熱意を受け、佐藤プロデューサーは、「XPA-700の発売にあたり、ランティスとしても何かできないかと考え、XPA-700用にカスタマイズしたサウンドのアニソンを1曲作りたい」と発表。

 「普段はiPodから高級オーディオまで、広いユーザーを見て音作をしなければならないが、その機種限定、その人限定の音楽というのを一度作ってみたいと考えていた。音の“カスタマイズ”という面で、XPA-700とつながる部分があるのでは」と語り、「既存の楽曲をリマスタイリングし直して、XPA-700に合うように調整し、林さんや開発の方も含めてサウンドチェックを行ない、全員がOKと言うものを“パイオニアエディション”のような形で作りたい」と構想を語った。具体的には、購入者に先着特典などの形で配布する事をイメージしているという。

 なお、音展のパイオニアブースでは18日にも、この3人によるトークイベントが開催予定となっている。

(山崎健太郎)