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テレビがスピーカーを背負う、シャープ「HT-SP100」。手軽に高音質化する秘密とは?

 シャープが12月3日に発売したサイドバー型のシアターシステム「HT-SP100」は、液晶テレビAQUOSの背面にある壁掛け部分を活用し、画面の両サイドに設置できる2.1chスピーカー。このユニークな製品が開発された背景や、製品発表時は明かされていなかった音質技術の詳細などに関する説明会が行なわれた。

HT-SP100とAQUOSの装着例

日本の住宅事情が生んだ“背負い型”。ハイレゾ相当への高音質化も

 HT-SP100は、テレビとHDMI接続するメインユニットと、サイドバースピーカー、ワイヤレスサブウーファで構成する2.1chシステム。Bluetoothにも対応し、スマートフォンやタブレットなどの音声をワイヤレスで出力できる。入力はHDMI、光デジタル音声、USBが各1系統。価格はオープンプライスで、実売価格は5万円前後。

サイドスピーカー、メインユニット、ワイヤレスサブウーファで構成

 テレビの壁掛け穴をスピーカー設置に使うという発想は、住宅の制限から大型のスピーカーを置くスペースがない場合が多く、米国などに比べてテレビを壁掛けすることも比較的少ない日本ならではとも言える。

 こうしたデザインの独自性だけでなく、「HT-SP100」は音質の面でも新たにアイレックスのイコライジング技術やデジタルフィルタなどを搭載しているのもポイント。テレビとHDMI接続して、テレビのスピーカーを組み合わせた3.1ch再生も可能にしている。'09年以降の40~70型AQUOSに装着可能。

サイドスピーカー
メインユニット
サブウーファ
装着して背面から見たところ
側面
サイドスピーカー部

 テレビ用スピーカーなどを含む国内ホームシアター市場は、海外に比べると規模は小さいものの、緩やかに需要が回復傾向にあると見ており、同社予測では'15年の出荷数が25万2,000台、'16年は27万3,000台としている。このうち、テレビの前に置く「サウンドバー」が約78%を占め、5.1chなど画面の横に置くスピーカーは20%程度だという。

国内シアター市場(シャープ調べ)

 シャープのコンシューマーエレクトロニクスカンパニー デジタル情報家電事業本部 国内事業部 オーディオ推進部長の阿部克郎氏は、同社調査において、テレビラックの幅が狭いことなどを理由に「テレビの左右にスピーカーの置き場所が無い」という人が95%にまで達したことを紹介。一方、サウンドバーについても、最近のテレビではスタンドが低くなったり、狭額縁になる傾向にあるといったデザインの制約から、置き場所が少ないというケースが増えているという。

 この点に着目し、「テレビに最初からくっついているようなスピーカーができないか?」という考えの元に製品を企画。「テレビの放送の音を、カジュアルに楽しんでいただくことを目的に提案した」という。

 同社も既にサウンドバーを製品化しているが、設置の制約により「音が下から聴こえ、音像が不安定で、音場形成が弱かった」と指摘。また、画面が左右にスイーベルするテレビでも、スピーカーが追従して向きを変えられることから、横に装着するスタイルが有効だったという。セリフやナレーション、ボーカルなどの音像をセンターに定位させることで、聴こえやすさを高めている。

シャープ社内や店頭での調査結果
シャープのコンシューマーエレクトロニクスカンパニー デジタル情報家電事業本部 国内事業部 オーディオ推進部長の阿部克郎氏

 スリムなスピーカーでもハード/ソフトともに高音質化を追求し、地デジなどのAAC音声をハイレゾ相当(96kHz/24bit)にアップコンバート。高域は40kHzまで補間して全体の音質向上を図っている。製品にはハイレゾロゴも付いている。

ハイレゾアップコンバート機能を搭載

 この高音質化を支えているのは、米国のアイレックス(Eilex)。音響測定やイコライジング技術の「PRISM(PRImary Sound Measurement)」や、それを実現するための「VIR(Variable-resolution Impulse Response)」フィルタを開発。

 PRISMは、音響補正において1点のマイクで捉えた音圧だけでなく、スピーカー前方の複数のレイヤーを用いた「音響パワー体積密度周波数特性」から補正特性を算出し、アンプ/スピーカー特性を補正。タイムアライメントや位相も合わせ、ボーカルの明瞭度や躍動感、臨場感をアップさせるという。

 VIRフィルタは、従来のFIRフィルタ、IIRフィルタよりも高精度な補正処理を低負荷で行なえるというのが大きな特徴。テレビ音声などを96kHz/24bitのハイレゾにリアルタイムアップコンバートする際も、4MIPS程度の負荷で済むという独自のアルゴリズムを使用している。

PRISM
VIRフィルタ
“ハイレゾ相当”に高音質化
アイレックスの朝日英治代表取締役

 アップコンバートは、MP3やAACなどの圧縮音源を補間する「Eilex Harmony」と、通常のオーディオソースに倍音成分を付加してハイレゾ相当にするという「Eilex HD Remaster」の2つを採用。単に高域を持ち上げるというのではなく、自然界にある音のような、高域に向かってなだらかに減衰する特性を実現したという。なお、HT-SP100のハイレゾアップコンバート機能はリモコンでON/OFFできる。

 今回採用された技術は'13年に発表されたもので、実際の製品に使われたのは初となる。アイレックスは、低負荷での高精度処理という特徴を活かし、AV機器だけでなく、スマートフォン、車載機器などへの採用も見込んでいる(アイレックス日本法人の朝日英治代表取締役)という。

 ハードウェアの高音質化技術として、電源ノイズの影響を受けにくく、ピュアな高音質を実現するというフィードバック型デジタルパワーアンプを搭載。マイクロプロセッサやDSPを含めハイレゾ信号処理に必要な機能を1チップに凝縮。オーディオ専用アルミ電解コンデンサや、ローパスフィルタ部への無酸素銅コイル、ポリプロピレンフィルムコンデンサの使用など、細部パーツまで音質にこだわっている。

 ウーファユニットのコーン紙には動物の毛の成分を配合し、繊細で明瞭な音を追求。ダンパーも柔らかな素材でキレの良さなどの向上を図っている。ツイータはドーム型で、シルク素材を使用。40kHzまでの高域も再現できるという。

スピーカーユニットなどハードウェア面の高音質化技術

HDMIでAQUOSと連携。自立スタンドで他社テレビの背後に置くことも

 付属の金具だけでテレビ背面に取り付けられ、テレビとHT-SP100のメインユニットをHDMIケーブル1本で接続。BDレコーダなどからHDMI入力して、テレビへHDMI出力することもできる。HDMI CECを用いた「AQUOSファミリンク」に対応し、音量などの操作はHT-SP100のリモコンから行なえる。

AQUOSファミリンクで連携
付属の設置用金具など
自立スタンドも同梱

 ユニークな機能として、テレビのAQUOSにあるスピーカーをセンタースピーカーとして活用する3.1chモードを用意。Blu-rayのドルビーデジタルやPCMの5.1ch、放送のAAC 5.1chなどの音源で、セリフなどの音声を聴きやすくでき、センターの音量をマスター音量とは別に調整することもできる。

 その他にも、テレビ番組のジャンルに応じた音声モードの自動選択(シネマ/ミュージック/ゲーム/スポーツ/ニュース/ドラマ)や、映像と音声のズレを自動調整するオートリップシンクに対応。HDMIはHDCP 2.2にも対応。4K映像のパススルーも行なえる。最大出力は20W×2ch+60W(サブウーファ)の総合100W。サブウーファとのワイヤレス接続にも、スマートフォン接続時と同様にBluetoothを用いている。

3.1chモードを搭載
付属リモコン

 基本的には前述したAQUOSとの組み合わせを想定した製品だが、付属の自立スタンドを使用すれば、それ以外のテレビの背後に自立させることが可能。ただし、その場合はAQUOSファミリンクや3.1chなどの連携機能は使用できない。

 USB端子は、USBメモリなどに収めたハイレゾ音源を再生するためのメディアプレーヤー機能に利用。再生対応ファイルは96kHz/24bitまでのFLACとWAV。

メインユニットのインジケータで入力などを表示
USBメモリ接続でハイレゾ音楽を再生

3.1ch再生と、ハイレゾアップコンバートを体験

 Blu-rayの映画や録画した音楽ライブを、HT-SP100とAQUOSのスピーカーを使って視聴した。映画では、走る車の中での会話時に、テレビスピーカーのみだと低域であるロードノイズが人の声(中域)にかぶってしまい、聴き取りづらくなる場面があったが、HT-SP100のスピーカーを組み合わせた3.1ch構成だと、音質を損なわずにセリフも聴き取りやすくなった。

AQUOSとの組み合わせで視聴

 音楽ライブの番組で、ハイレゾアップコンバートをON/OFFで聴き比べると、高域が伸びるというだけでなく、全体の音場感も自然なままでワイドレンジ化され、ステージの臨場感がアップしたように感じられた。スピーカーをテレビに背負わせるという発想だけにとどまらず、音質の面でも実力が高く、テレビの音を強化する新たな手段として有効なことが実感できた。

(中林暁)