レビュー

ダイナミック型対向配置が進化! オーテク新シリーズ「CKR100/90/70」を聴く

 オーディオテクニカから、音質や価格だけでなく、搭載している技術のユニークさからも注目のイヤフォン3機種が6月17日に発売される。2基のダイナミック型ドライバを対向配置した「ATH-CKR100」(実売4万円前後)、「ATH-CKR90」(同2万円前後)、ダイナミック型ドライバ1基の「ATH-CKR70」(同1万円前後)で、全モデルハイレゾ対応となっている。

 型番からは、2014年に発売された「ATH-CKR10」(4万円)、「ATH-CKR9」(3万円)、「ATH-CKR7」(15,000円)の後継モデルのように見えるが、今回の3機種から“CKRシリーズ”ではなく、“原音再生”、“高解像度”、“高レスポンス”をコンセプトとした「Sound Reality series」と位置付けられている。新シリーズの第1弾モデルだけあり、3機種とも気合が入っている。

 結論から言うと、いずれも音質のクオリティは非常に高く、同時にそれぞれが個性を備えた、選ぶのも楽しいラインナップだ。また、3機種が並ぶとどうしても“安いモデル”として二の次に感じてしまう「CKR70」も、実売約1万円とリーズナブルながらポテンシャルが高く、コストパフォーマンスの面でも注目のモデルだ。

ATH-CKR100
ATH-CKR90
ATH-CKR70

3モデルともユニットにユニークな工夫

 共通する特徴は、いずれもダイナミック型ドライバを搭載しているが、そのドライバに使われている技術がユニークな点だ。まずは技術面からチェックしよう。

ATH-CKR100

 CKR100、CKR90には、2014年にCKR10/9に採用された「DUAL PHASE PUSH-PULL DRIVERS」技術を進化させ「DUAL PHASE PUSH-PULL <Hi-Res Audio>DRIVERS」として採用している。

 最大の特徴は、ダイナミック型ユニットを向かい合わせに配置している事。そのまま音を出すと、音がぶつかってしまうんじゃないかと心配になるが、対面したユニットは互い違いに動作する。つまり、ユニットA、ユニットBとした場合、Aが前に動くと、Bが後ろに引っ込む、Bが前に出たら、Aが引っ込むわけだ。

 ドライバユニットは前後に振幅する際、前に動く時よりも、後方へ引く動作の方が鈍い事がある。その際、正面にあるユニットからの音圧が、後ろに引くユニットを後押しする役割をして、理想的なリニアドライブ(前後直進運動)ができる……というのが技術の基本となる。

ATH-CKR100の内部構造

 上位のCKR100は、効率良く磁気を伝達する純鉄ヨークを採用した13mm径のドライバを2基、対向配置。前後直進運動を向上させるアルミニウムスタビライザも搭載。ハウジングはチタンで、アルミのスタビライザとは異種金属を組み合わせた形になり、余分な振動を低減している。

ATH-CKR90

 注目は下位モデルのCKR90だ。なんと、対向配置したユニットのサイズが違うのだ。片方が13mm径、反対側は10.4mm径。「音圧でユニットの動きを補完しあう」のだから、「片方が小さいとダメなんじゃないの?」と心配になる。だが、オーディオテクニカによると、振動板自体のサイズは異なるが、それを駆動している磁気回路のサイズは同じであり、駆動力が同じであるため、問題はないのだという。

ATH-CKR900の内部構造。ノズル側のユニットが小さいのがわかる

 とはいえ、なぜユニットの大きさを変える必要があるのか? その理由はハウジングのサイズにある。ダイナミック型ユニットを2基も入れると、当然搭載スペースも大きくなり、ハウジングも大型化する。

 だが、女性ユーザーなど、耳穴が小さい人でも使いやすくするためには、耳側のハウジングはあまり大きくない方が良い。そこで、DUAL PHASE PUSH-PULL機構を採用しつつ、コンパクトさも追求した結果が、ユニットサイズの違いなのだという。当然、耳穴に近い側のユニットが小さく、そうした事により、確かにCKR100とCKR90を並べてみると、CKR90の方がノズルの根本にあるハウジングの膨らみが、CKR100より若干小さくなっている。

左がCKR90、右がCKR100
左がCKR100、右がCKR90。写真だとわかりにくいが、ノズルの根本付近のハウジングがCKR90の方がやや小さい

 なお、CKR90にもアルミのスタビライザが搭載されており、筐体にも切削アルミニウムが使われている。

 出力音圧レベルはCKR100が110dB/mW、CKR90が109dB/mW。再生周波数帯域はCKR100が5Hz~45kHz、CKR90が5Hz~42kHz。最大入力は200mW、インピーダンスは12Ωで共通。重さはCKR100が約14g、CKR90が約11gだ。

CKR70はドライバ1基だが、ユニットに工夫

 CKR70も、女性を含めた幅広いユーザー層に向けた製品で、カラーバリエーションもBK(グラファイトブラック)、BL(エメラルドブルー)、CG(シャンパンゴールド)、PK(ピンクゴールド)、RD(ブリリアントレッド)と豊富に備えている。

CKR70のグラファイトブラック
エメラルドブルー
シャンパンゴールド

 当然、ハウジングが大きくなり過ぎないように配慮。従来のCKR7では14mmの大型ユニットを採用していたが、CKR70では11.8mmと小さくなった。だが、ユニットが小さくなるとパフォーマンスは落ちてしまう。

 そこでCKR70のユニットには、“ミクロンオーダー”による新設計が取り入れられている。詳細は明らかにされていないが、要するに、極めて高精度にユニットを作る事で、スムーズな前後運動を可能にして、ハイレゾ音源の再生まで対応できる高解像度サウンドを実現する……というものだ。

ピンクゴールド
ブリリアントレッド

 ハウジングはアルミ。出力音圧レベルは108dB/mW、再生周波数帯域は5Hz~40kHHz。最大入力は200mW。インピーダンスは19Ω。ケーブルを省いた重量は約8gと軽量だ。

ケーブルの着脱は可能だが……

 上位2機種のCKR100/90は、ケーブルの着脱が可能。オーディオテクニカ独自のA2DC(Audio Designed Detachable Coaxial)を採用している。MMCXにちょっと似ている端子だが、互換性は無い。

CKR100、CKR90どちらもケーブル着脱が可能。端子はA2DCだ

 ケーブル着脱が可能な点は、断線時の交換が容易にできるという面では歓迎できる。ただ、リケーブルで音の違いを楽しんだり、バランス駆動用ケーブルに交換したりといった楽しみが、独自の端子では製品数が少ないため、やりにくいのが難点だ。

 A2DC端子を採用したバランス駆動用ケーブルなどを、オプションとしてメーカーから発売するとか、サードパーティーに働きかけて対応ケーブルのラインナップを拡充させるなどの取り組みにも期待したい。

 なお、CKR100/90のどちらも長さは1.2m。CKR100のケーブルは、L/Rチャンネル独立のスターカッド撚り線で、ノイズを抑えた伝送を可能にしている。

音を聴いてみる:CKR100/90

 各モデル、従来モデルと比較して、進化の具合を確認しながら試聴していこう。CKR10とCKR100、CKR9とCKR90、CKR7とCKR70の比較だ。

 プレーヤーはAK380。アンバランス接続で、「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」を再生してみる。

CKR100

 CKR10とCKR100を比べて真っ先にわかるのが、低域の進化だ。CKR100の方が、アコースティックベースの量感がアップ。沈み込みも深くなっており、全体として低重心な、安定度の高いサウンドになっている。

 面白いのが、ゆったり、ディープな低音がズシンと出るようになっているのと同時に、中高域の明瞭さもCKR10より向上している点だ。低音に覆い隠されずに、非常にクリアに中高域が再生できている。

左がCKR10

 また、CKR10ではわずかに硬い印象のあった女性ボーカルなどの高域が、CKR100ではナチュラルに、質感がよくわかる丁寧な描写になっている。低域のパフォーマンス向上とマッチした変化であり、熟成した、落ち着いたサウンドに変化しながらも、質感描写が優れ、パワフルさが増し、聴こうと注意を集中すればその部分が明瞭に聴き取れる分解能も備えているのがわかるだろう。

 価格を比べると、CKR10は4万円、CKR100も実売4万円前後で大きな違いはないが、音質面では大幅なグレードアップを果たしている。

 CKR9とCKR90を比較しても、大きな違いがある。CKR9の音は、一言でいうと“ハイスピード”。トランジェントが良く、分解能が高く、爽やかでスカッとしたサウンドだ。悪く言うと音が“軽い”。あまり低域の重厚さや、中高域のしなやかな質感を味わうタイプではない。

右がCKR9

 だが、CKR90に交換すると、その印象がガラッと変化。中低域のパワフルさ、音圧が増し、ベースがズシンと沈む様子がちゃんとわかるようになる。同時に、CKR9の軽やかな、ハイスピードな中高域は特徴として踏襲しており、両要素が同居したようなサウンドだ。優等生的なCKR100と比べると、CKR90はパワフルな低音、スカッとした高音が組み合わされており、気持ちよさ重視、ポップスやロックなどと相性の良いイヤフォンだと感じる。

 CKR9は3万円だったが、CKR90は約2万円前後とリーズナブルに。にも関わらず、低域を中心に確実な高音質化を果たしている。

音を聴いてみる:CKR70

 CKR7からCKR70の進化具合も、上位2機種に引けをとらない。CKR7はどちらかというと低域が強めで、「イーグルス/ホテルカリフォルニア」や「Best OF My Love」など、ベースが目立つ楽曲でボリュームを上げていくと、低域がブオンブオンと膨らみ、全体の明瞭さが低下する傾向にあった。

左がCKR7

 CKR70ではこれがガラリと変化。中低域の余分な膨らみがバサッと消え、見通しの良い、クリアなサウンドに進化。同時に、最低域の沈み込みの深さはキッチリ出ており、決して腰高なサウンドになったわけではない。安定感のあるサウンドだ。

 高域の抜けも良くなり、金属質な付帯音も抑えられており、人の声も自然だ。明瞭度がアップした事で、ハイレゾ楽曲の情報量の多さを味わいやすいサウンドになっていると言えるだろう。

 CKR7は15,000円、CKR70は約1万円前後で、低価格になった。約1万円でこのサウンドは、かなりリーズナブルなイヤフォンと言える。カラーバリエーションが豊富なので「カラフルなだけの安いモデルでは?」と思われる可能性もあるが、一聴の価値がある。

完成度の高い3モデル

 バランスの良い再生が可能で、低域に余裕があり、質感も豊かに再生するCKR100。上位モデルだけあり、やはり音質面のクオリティはナンバーワンだ。

 一方で、CKR90はその下位モデルではあるのだが、同じ土俵では勝負しておらず、パワフルさとスカッと爽やかハイスピードな高域で、別の魅力を獲得している。上位や下位ではなく、音の好みで選べるのが良いポイントだ。

 CKR70は低価格ながら、バランスが良く、優等生的なハイレゾイヤフォンに仕上がっている。アルミハウジングの質感も高く、満足度は高い。欲を言えばケーブルの着脱もできて欲しかったが、そうなると値段が上ってしまうので、あまりワガママは言えないだろう。

 市場を見てみると、ハイレゾイヤフォンは高価だったり、男っぽい、真っ黒なモデルが大半だ。ハイレゾ対応のイヤフォンで、おしゃれなモデルを、リーズナブルに購入したいという人にとっては、要注目だ。

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山崎健太郎