【レビュー】AKGとKlipsch、海外メーカーのNCヘッドフォン3機種を聴く
-デザイン/音質/NCを両立。K495NC/K490NC/Mode M40
左から時計回りに「Mode M40」、「K490NC」、「K495NC」 |
海外メーカーから、ノイズキャンセリング(NC)ヘッドフォンの新モデルが相次いで投入されている。今回は5月から発売されるAKGの「K495NC」、「K490NC」と、Klipsch初のNCヘッドフォンとして2月から発売されている「Mode M40」を紹介する。
■各モデルの特徴
AKGのNCヘッドフォン2機種はどちらもオープンプライス。店頭予想価格は、上位モデル「K495NC」が52,000円前後、下位モデル「K490NC」が35,000円前後と、なかなか高価だ。
左から「K490NC」、「K495NC」 | 下位モデル「K490NC」 | 上位モデル「K495NC」 |
どちらもオンイヤータイプの密閉型だが、「K495NC」は耳全体を覆う程度のハウジング&イヤーパッドサイズ、「K490NC」は小ぶりのハウジングになっている。NC機能のON/OFFは、「K495NC」がハウジング外周のリングを回転させる方式。「K490NC」はスライドスイッチを採用している。
「K495NC」のハウジング・イヤーパッドは耳全体を覆う大きさ | ハウジング外周の銀色のリングを回す事で、NC機能がON/OFFできる |
「K490NC」のハウジング・イヤーパッドは上位モデルと比べると小ぶり | 電源ON/OFFはスライドスイッチになっている |
NCの方式にも違いがあり、「K495NC」はドライバユニットの内側に配置した小型マイクで、騒音を集音し、それを元にキャンセル信号を生成する「フィードバック方式」を採用。より耳に近い位置で集音する事で、精度の高いキャンセリング効果が得られる方式だ。「K490NC」は、ユニットの外側に集音マイクを設置した「フィードフォワード方式」で、キャンセリング能力は低くなるが、小型化が容易だったり、音質への影響も抑えられるといった特徴がある。
「K495NC」。ハウジングを平らにできる | 低反発の柔らかいイヤーパッドを採用している |
「K490NC」もハウジングを平らにできる | ハウジングは小ぶりだ | オンイヤータイプだが、イヤーパッドは中央が空いているタイプ |
電源は内蔵のリチウムイオン充電池で、40時間以上の使用が可能。充電は付属のUSBケーブルで行なう。ケーブルは着脱式。なお、「K495NC」はUSB対応ACアダプタ(マルチボルテージ式)も付属しており、コンセントからの充電も可能だ。
「K495NC」のプラグ接続部分。本体との接続側は4極ミニになっている | 通常のケーブルを外し、写真のような付属USBケーブルを使って充電する | 「K495NC」はUSB対応ACアダプタ(マルチボルテージ式)も付属しており、コンセントからの充電も可能 |
どちらもハウジングを平らにスイーベルでき、内側に折りたたむ事も可能。かなりコンパクトに収納できるのが嬉しい。
ハウジングを平らにしつつ、内側に折りたたむ事でさらにコンパクトに持ち運べる | 「K490NC」を、付属のキャリングケースに収納したところ |
Klipschの「Mode M40」は、同社初のNCヘッドフォン。価格はオープンプライスで、実売は34,800円前後だ。ユニークなのは40mm径ウーファと15mm径ツイータを搭載した“デュアルドライバ構成”になっている事だ。
さらに、ブラウンと銅色を基調としたハウジングのカラーと、流線型のフォルムというデザイン面も特徴的。これまでのヘッドフォンにはあまり見ないカラーリングである。
Klipschの「Mode M40」 | デザインとカラーが特徴的だ |
電源は単4電池1本で、最長45時間のNC機能が利用可能。NC機能OFF時でもスルーで音が出る。イヤーパッドには低反発素材を使っている。ケーブルは着脱可能。通常のケーブルと、iPhoneなどに対応したマイク付きリモコンを備えたケーブルの2種類を同梱。ケーブルの長さは約160cm。ハウジングを内側に折りたたむ事が可能だが、平らにスイーベルする事はできない。
ユニット部分の角度が変わる機構を採用。装着時のフィット性を高めている | |
電源は単4電池1本で、最長45時間のNC機能が利用可能 | ハウジングを内側に折りたたむ事が可能だが、平らにスイーベルする事はできない |
なお、全てのモデルがNC機能OFF時でも、スルーで音を出す事ができる。スルー出力は当たり前の機能となったと言えそうだ。
モデル名 | K495NC | K490NC | Mode M40 |
価格 | オープンプライス (実売52,000円前後) | オープンプライス (実売52,000円前後) | オープンプライス (実売34,800円前後) |
ユニット | 非公開 | 非公開 | 15mm径ツイータ 40mm径ウーファ |
再生周波数帯域 | 20Hz~20kHz | ||
感度 | 105dB/mW | 102dB/mW | 97.5dB/mW |
インピーダンス | 26Ω | 32Ω | 32Ω |
ケーブル | 着脱式 1.2m/2m | 着脱式 1.4m | 着脱式 約1.6m |
バッテリ | 内蔵リチウムイオン充電池 40時間以上使用可能 | 単4電池1本 最長45時間 | |
重量 | 235g | 150g | 365g |
■AKG K495NC
まずはAKGから聴いてみよう。試聴にはiPhone 4Sや「K495NC」第6世代iPod nano + ポータブルアンプのiBasso Audio「D12 Hj」D12 Hj」、米ALO Audioのクライオ処理されたDockケーブルも使用している。
●装着感とNC機能
AKG K495NC |
上位モデル「K495NC」は、前述のとおり、オンイヤー型だがハウジングが大きめで、耳全体がイヤーパッドに埋もれるような形になる。側圧は弱めで、締め付けられるという感覚は無く、肉まんの底部を耳に押し当てられているような感覚。頭頂部と側面の負担は、どちらかというと側面の方が強く、長時間着けていて頭頂部が痛くなるという感覚は無い。ただオンイヤータイプなので、夏になると密着するイヤーパッドが鬱陶しく感じるかもしれない。
側圧がそれほど強くないにも関わらず、ホールド力はシッカリしており、首を左右に振ったり、上下に軽くヘッドバンギングしてもズレる気配は無い。電車の乗り降りなど、通常の使用のみならず、ちょっと小走りする程度でズレる事はないだろう。
NC機能のテストとして、田園都市線の中でON/OFFしてみたところ、「ヴオオオー」という低い走行音、主な要素としては車体の反響音やモーター音だが、それらの低い騒音が綺麗に消える。残るのはモーターが回転する「フィー」という高い音だけで、不快感も少ない。機能的には十分と言えるだろう。
特筆すべきは、ONにした時の圧迫感の少なさ。NC能力が高いモデルの場合、強すぎてNC機能をONにすると、鼓膜が「ポムッ」と圧迫され、エレベーターが急に上昇した時に近い違和感を感じるモデルがあるが、「K495NC」の場合はそれがほとんど無い。
ただ、NC機能が不要なほど静かな、夜の自室などでNC機能をONにしてみると、「サーッ」というホワイトノイズが聞こえる。ヘッドフォンを装着するだけでも騒音低減は図れるので、静かな場所ではNC機能をOFFにして使っても、勉強や仕事に集中したい時などに役立つだろう。
●音質
まずはNC機能をOFFにして、「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生。一聴してわかるのは、薄型ハウジングのオンイヤー型ながら、しっかりと奥行きのある音場が描けている事だ。アコースティックベースやヴォーカルの余韻が、背後の空間に広がる様子がわかり、ハウジングに反射して戻ってきている感覚は無い。NCヘッドフォンにありがちな、空間や音場の狭さを感じさせないのは良いポイントだ。
また、オンイヤー型でありがちな、明瞭度の低さや、付帯音による音のこもりなども感じさせず、ヴォーカルの声や、ギターの響きも自然で聴きやすい。
試聴前はAKGのヘッドフォンという事で、繊細な、中高域重視のサウンドを想像していたが、全体のバランスとしては意外にも低域がドッシリしたタイプ。1分過ぎから入るアコースティックベースが肉厚で、ズズーンと頭蓋骨の中に響くような量感がある。
ただ、量感はたっぷりありながら、ヴォーカルなどの中高域は明瞭であるため、低音だけが主張するような安っぽさは無い。「骨太で貫禄のあるサウンド」と表現したい。これはこれで良い音だが、「AKGの音」として多くの人が連想するであろう、開放型のような爽やかで、中高域に気品のあるモニターサウンドを連想すると、印象が異なる。
NC機能をONにするとどうだろうか? 驚いたのは、ON/OFFで音の変化が小さい事だ。よく、ONにすると低域重視のドンシャリサウンド、OFFにすると芯が抜けたスカスカサウンドになってしまうヘッドフォンがあるが、「K495NC」の場合は印象がほとど変わらない。
厳密に聴き比べると、中高域の鮮度が若干落ち、豊かな低域に埋もれがちになり、やや明瞭度が低下。抜けが悪くなる。同時に低域の迫力が、OFFの時よりもさらにアップ。わずかにモコモコしたサウンドになる。オーディオマニア的な好みからするとOFFの方がハイファイだと感じるが、ロックなどの迫力ある楽曲では、ONの方が好ましい事もあるだろう。
音質以外で気になったのは、電源のON/OFF切り替え部分。前述のとおり、ハウジングを縁取るようにリング型のスイッチが採用されており、この部分を指でつかんで回転させるのだが、この切り替えが硬い。左ハウジングにあるので左手で操作するが、力を入れ過ぎるとヘッドフォン自体が動いてしまうので、右手で本体を抑えながら回すカタチになり、両手がふさがってちょっと面倒だ。何度もカチカチやっていれば回しやすくなるとは思うが、もう少し使い勝手の良いスイッチにして欲しい。
■AKG K490NC
●装着感とNC機能
AKG K490NC |
重量は、前述の「K495NC」が235g、小型の「K490NC」は150gと大幅に軽い。実際に「K490NC」を装着してみると、この軽さが武器になっており、着けていないようなストレスの少ない装着感を実現している。側圧もソフトで、オンイヤー型ながら耳が痛くなりにくい。
NC能力は、上位モデル「K495NC」と比べるとわずかに落ちるように感じるが、十分低域の騒音はカットしてくれる。NCの電気的な性能の差というよりも、「K495NC」はハウジングが大きく、耳を覆う面積が広いため、装着しただけのノイズ低減能力(パッシブノイズキャンセル)の時点で優れているという印象だ。
NC機能をON時にした時の鼓膜への圧迫感も少なく、静かな部屋で使ってみると「サーッ」というホワイトノイズは聞こえるものの、ノイズ量としては「K495NC」よりも少ない。
●音質
2モデルのハウジングサイズ比較 |
オンイヤーのNCヘッドフォンながら、音場が広く、開放感がある。「K495NC」も同様の傾向だが、下位モデルの「K490NC」の方が、それを上回る広がりを見せる。女性ヴォーカルの余韻が、エコーを帯びながら広がる様子や、ギターの細かい弦の響きまで聴き分けられるほど、精密で、丁寧な描写だ。
音のバランスも個人的に好ましい。上位モデルは低域寄りだったが、下位モデルは極めてニュートラル。低域の盛り上がりが少ないため、中高域の描写がよく見え、ヴォーカルの口の開閉、パーカッションのキレの良さなどがよくわかる。「キマグレン/LIFE」では、音の1つ1つが聴き分けやすい。同時に、低域の量感は適度に残されており、AKGらしい音作りの上手さを感じさせるサウンドだ。
NC機能をONにした時の音質差も、上位モデルより少なく、ほとんど感じられないレベル。中高域の鮮度低下も最小限で、明瞭度の低下もわずかだ。静かな部屋で、じっくりと聴き比べてれば違いはわかるが、例えば電車の走行中に切り替えても、音質差はほとんど感じないだろう。圧迫感も少なく、騒音のある場所ならば、迷わずNC機能をONにしたい。
前述のようにバランスの良さ、音場の広さ、中高域の抜けの良さなど、NC機能を抜きに考えても、普通のポータブルヘッドフォンとしての音質はかなりのもの。NC機能に興味が無いという人でも、音の良い、小型のポータブルヘッドフォンを探している場合は、試聴して欲しい一台だ。
■Klipsch Mode M40
●装着感とNC機能
重量は356gで、今回の3機種では最も重い。素材はプラスチックがメインだが、ブラウンと銅色のカラーリングと、この重さにより、独特の存在感・高級感がある。付属のキャリングケースも、クラシックカメラでも入っていそうな渋いデザインだ。
製品が入っているキャリングケース。高級感がある |
Klipsch Mode M40 |
側圧は強めで、左右から頭をガッシリホールドされる。最近のヘッドフォンではあまり無いタイプだ。重いため、長時間装着していると負担はそれなりにあるが、イヤーカップが耳全体を多い隠すタイプであるため、抑えつけられて耳が痛くなる事はない。
これだけシッカリとホールドされるヘッドフォンも少ないため、“装着できている”という安心感が強く、不思議な気持ちよさがある。
また、耳の周囲をカッチリ密閉してくれるため、NC機能以前に、このヘッドフォンを装着しただけで、かなり周囲の騒音レベルが低下。静かな環境が得られる。
そのためもあってか、NC機能はそれほど強くない印象で、ONにしても鼓膜への圧迫はほとんど感じず、しばらくするとONにしたのか、OFFだったのかわからなくなるほど。ヘッドフォンを装着してもなお聞こえる「サー」というような僅かな騒音を綺麗にキャンセルしてくれるというイメージだ。
●音質
NC機能OFFで聴いてみると、ワイドレンジでニュートラルなサウンドが楽しめる。デザインは個性的だが、音は極めて優等生だ。ヘッドフォン自体の付帯音・反響音も少なく、共振対策がシッカリ施されている事を感じさせる。ただ、音場はそれほど広くはなく、音像もやや平面的だ。
NC機能をONにすると、中低域がグッと盛り上がり、前へ前へとせり出す、Klipschらしいサウンドに変化。低域の迫力もアップし、元気と鳴りっぷりが良い、派手目のサウンドになる。正確性という意味ではアッサリとしたNC OFF時の方に軍配が挙がりそうだが、音楽の楽しさ、気持ちよさはONにした時の方が上だ。前述の通り、ONにしても鼓膜への圧迫は少ないため、個人的にはONにして聴いている時間が長かった。
ON/OFFで音の変化が少ない事は利点の1つだが、「Mode M40」のように音の傾向が変わりつつ、そのどちらも一体の音質を実現していれば、ON/OFFで2つの音が楽しめる事にもなると言えるだろう。
■まとめ
3機種を並べたところ。左から「K490NC」、「K495NC」、「Mode M40」 |
2万円~3万円が、NCヘッドフォンの一つの激戦区だが、今回の3モデルは、それらよりも若干高価な価格帯に登場する事になる。他社のモデルとしては、ボーズの「QuietComfort 3」(47,250円)、「QuietComfort 15」(39,900円)、ソニーの「MDR-NC200D」(24,675円)、「MDR-NC600D」(49,350円)、オーディオテクニカの「ATH-ANC9」(実売25,000円前後)などがライバルになるだろう。
AKGの上位モデル「K495NC」は52,000円前後で、これらと比べても高価だ。質感・高級感の高いモデルで、購入後の満足度も高いとは思うが、もう少し買いやすい値段になって欲しい。個人的には、下位モデル「K490NC」(実売35,000円前後)の方が、音質やNC機能、価格の面でバランスがとれていると感じる。小型・軽量で質感は上位モデルに劣るが、何より持ち運びやすいのが利点と言えるだろう。
Klipschの「Mode M40」は実売34,800円前後で、「K490NC」と同程度。カラーリングやデザインが魅力であり、このモデルを選ぶ最大の理由になりそうだが、音質の面でも十分オススメできる性能だ。
ヘッドフォンやスピーカーなどで定評のある老舗オーディオメーカーの参入&新機種投入により、選択肢の幅が増える事を歓迎したい。
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Klipsch Mode M40 |
(2012年 5月 8日)
[ Reported by 山崎健太郎 ]