麻倉怜士の大閻魔帳

第9回

ソニー本気の超弩級オーディオ、TechnicsがまさかのSACD参入!? IFA音編

“エレキ”における2大花形ジャンルと言えば、オーディオとビジュアル。ラジオショーに端を発し、この2ジャンルを中心に成長を遂げたIFAだが、オーディオ分野の新製品発表はミュンヘン「HIGH END」の影に隠れつつある。ではもうIFAにオーディオは不要か? いやいや、そんなことは決してありません。

ソニーの超弩級ヘッドフォンアンプ「DMP-Z1」を試聴する麻倉氏。バッテリー駆動ながら、担げるほど大きな筐体という点が特徴的。“持ち運びもできる据え置きアンプ”という認識が正しそうだ

麻倉怜士の大閻魔帳、2回に渡ってお届けしている2018年IFAリポートの後編は、新提案続々のオーディオ分野を特集。徹底的なこだわりを貫いたソニーの新製品をはじめ、過去の激闘を雪ぐテクニクスのSACDプレーヤー、そしてハーマンカードンとゼンハイザーから出てきた“最前線”にスポットライトを当てる。オーディオはまだまだ、面白くなりますぞ!

ソニー本気の超弩級オーディオ

――前回に引き続きIFAの総括、今回はオーディオ分野の話題です。

麻倉:オーディオも今回は色んな意味で面白かったです。というのも、一時のIFAはオーディオがそれほど面白くなくなっていたのですが、今回は音に対するこだわりがどのように出てくるか、というドキュメント・開発のこだわりという話が、非常に印象的に映りました。展示を見ても新しい切り口が次々と提案されており、従来では考えられなかったようなオーディオが出てきたように感じます。IFAのオーディオ、また面白くなってきました。

――「IFAらしいオーディオの提案」というものの追求、そんな感じを受けましたね。

麻倉:今回のオーディオでまず語るべきは、ソニーのこだわり、ハイエンドライン「Signatureシリーズ」でしょう。これまでウォークマン/ヘッドフォン/ヘッドフォンアンプと展開してきたシリーズです。これはソニーのオーディオ事業自体がステーブルとなり、しっかりと利益を獲得したことの表れ。極めて重要な事なのです。

ソニーのオーディオはこれまで軽薄短小の方向へ走っており、地に足がついておらずどうしてもきちっとしたイメージが取れていませんでした。それがここに来て本腰を入れてきた。その結果、投資対象として「より良いモノ」、つまりハイエンドのブランドに対してお金が回ってくるようになってきました。その象徴が今回のハイエンドイヤフォンと、超弩級ヘッドフォンアンプです。腰をしっかり落ち着け「ソニーならではの、ソニーにしか出来ないような、オーディオの新しいハイエンドの切り口を見つけ始めたのかな?」という感じがしました。

――文化を前進させるような挑戦には、相応の強固な地盤が必要。ソニーは“より豊かに”“より高みへ”を目指す環境が整ったということですね。とても喜ばしいことです。

今回のプレスカンファレンスではオーディオの超弩級2製品を大きくフィーチャー。ソニーのオーディオに対する本気度を感じる

麻倉:まずはイヤフォン「IER-Z1R」から見てみましょう。「10万Hz(100kHz)まで出そう」というチャレンジに選ばれたのは、ドライバーが低域に強いダイナミック型と、高域に強いバランスドアーマチュア(BA)型を組み合わせたハイブリッド方式でした。面白いのは、超高域にBA型ではなくダイナミックを使ったこと。BA型を突き詰めて考えてゆくと、特定音域を超えると高音でも難しくなるので、ダイナミック型の方が有利なんです。その見極めが今回はとても良かったですね。

――“10万Hz”とソニーと言えば、過去にも「MDR-1A」や「MDR-Z7」などが10万Hz再生を謳っており、QUALIAブランドの「Q010-MDR1」では12万Hzまでの再生に対応していました。そんな領域を、よもやイヤフォンで達成してしまおうとは。凄い時代になったものです。

麻倉:ダイナミックとBAとでは、ユニットの素材も発音原理も違います。そんな違いを重ね合わせた時、重複部分で位相関係や音色・音質の違いに対して、どう整合性をとるか。ハイブリッドならではのとても難しい問題なのです。IER-Z1Rはこの部分が凄く上手くいっている。わだかまりが無く、すっきりノビています。この見渡しの良さ、ノビの良さは、従来にはなかったイヤフォンの新しいクライテリアです。

――会場で音を聴きましたが、上から下まで位相がキッチリと合っていて、ハイブリッドの不自然さを感じさせないというのが非常に印象的でした。ハイブリッドでここまで自然なのは、僕の中ではAKG「K3003」以来です。

ドライバーにハイブリッド型を採用したフラッグシップイヤフォン「IER-Z1R」。スーパーツイーター領域をBAではなくダイナミックにしたことで、ノビの良さを手に入れた

麻倉:ヘッドフォンアンプ「DMP-Z1」も凄いですよ、日本では12月8日に95万円で発売するようです。非常にこだわっています。

バッテリー駆動の完全バランス型で、ボリュームパーツにもアルプス電気の最高級品を使用。これが面白いのはヘッドフォンアンプに徹したということです。一般的にこのくらい高級機種なら「ホームオーディオに入れるならばプリアンプとして使おうか」という発想が普通は出てくるでしょう。しかしそのためには、ヘッドフォンアンプとプリアンプとの間に切り替えスイッチが必要です。

実際にこの事は社内でかなり問題になったと聞いています。マーケティングを考えると「多様な活用ができる多機能製品の方が良いのでは?」と。ですが開発陣は、これを入れてしまうことで発生する音質劣化を嫌ったんです。そんな細かい部分にまでこだわって、初志貫徹を通したのがDMP-Z1です。

――これも会場で聴きました。一言で言い表すならば「危険な音」。ヘッドフォンで聴いているはずなのに全くそんな気がしない、いつまでも音楽に浸っていられる驚愕のナチュラルさでした。一度耳にしたら最後、たとえ販売価格を聞いたとて、オーディオ好き・音楽好きならば何とかして手に入れたくなる、アレはそういう類の体験です。

麻倉:立ち上がりが良く、時間軸が揃っており、驚くほど高解像な音がこの製品の特徴なのですが、この様な音ができた理由として挙げられるのがバッテリー駆動です。信号が立ち上がった時にすぐ瞬発し、ローインピーダンスですぐ電流を供給できます。

超弩級ヘッドフォンアンプ「DMP-Z1」。金色に輝くアルプス電気特注の特大ボリュームが目をひくが、開発段階では用途を隠して発注していた、らしい……

麻倉:この製品がバッテリー駆動の嚆矢だとすると、これからカテゴリを拡げてゆくことも出来るでしょう。今回はヘッドフォンアンプですが、プリアンプは? パワーアンプは? DACはどうか? 信号処理系、電気を使うところはDCということが出来そうです。

もっと考えると、スピーカーが次のポイントになるのではないでしょうか。ソニーのオーディオ事業における問題点として、前述の軽薄短小を体現するポータブル製品・ヘッドフォン偏重が挙げられます。部屋の空気中を伝播しない、耳の周りの機器は強いですが、スピーカーや大型アンプとなると途端に弱くなる。やっていない訳ではないですが、現状ではあまりやる気を感じられません。

そこにDC駆動を持ち込めば、新しいソニーならではの切り口で「従来型の製品ながら音は断然良いぞ」という製品ができるでしょう。ヘッドフォンアンプが先駆けとなり「DCってこんなに良いのか!」と。まずスピーカーとDC駆動をドッキングさせるのが良さそうですね。

今回の製品が良いのは、ネットワークプレーヤーが入っていること。もっと言うと、ウォークマンのシステムそのものが入っている。言い換えれば、アンプに音源そのものが入るわけです。その発想をそのままスピーカーへ入れる、というのはどうでしょうか。デジタル音源そのものがスピーカーへ入る、もしくはネットワークからデジタル信号で、ボイスコイルの直前まで来ると良さそうに感じます。

――つまり“バッテリー駆動のハイファイウォークマンスピーカー“ですか。確かにそれは面白そうですね。スピーカーの音が飛躍的に良くなりつつ、操作感が従来のウォークマンと変わらない、という点も好印象です。

麻倉:いっそのこと、ボイスコイルまでデジタルでできないでしょうか。これは完全にピュアデジタルなオーディオシステムで、考え方としてはリン「EXAKT」システムや、メリディアンのネットワークシステムなどと同種の、デジタル伝送でアクティブスピーカーを駆動させるというものです。これをバッテリーアンプ駆動にして、デジタル音源をダイレクトに入れるわけです。従来のデジタルオーディオで必須とされていた途中経路をスッパリなくしてしまう、“コンテンツ to スピーカー”というカタチの提案。これをソニーがやると、“空気を振動させるオーディオ”でも、ヘッドフォンやヘッドフォンアンプで成したような革新が得られるのではないでしょうか。という提案を私は強く推したいですね。

――それは要するに、デジタルの究極の夢ではないでしょうか。1982年にCDが発売された時に「デジタルオーディオは理想的なカタチ。アナログではどうしても発生してしまう損失部分が、デジタルならば一切発生しない」という類の宣伝文句を、真に理想的なレベルまで突き詰めたものになる様に感じます。

麻倉:CDを発明したソニーだからこそ、やる価値があるのです。ステータス的にもコンセプト的にも、これはとても意義のあることです。

CDをデジタルオーディオの始まりとすると、もう30年以上が経ちました。でも未だに、オーディオシステムにはアナログがどこかに介在しています。そのアナログの介在を極限まで減らす。デジタル信号で収録したものは、最終的なユーザーのボイスコイルまでデジタル。こうなるとコンテンツからスピーカーまで、つまりスタジオからスピーカーまでが直結するのです。

そういう意味では全く新しいデジタルオーディオの切り口であり、これこそデジタルオーディオの理想である、そうソニーへ提案したいです。

テクニクスはSACDプレーヤー開発中

麻倉:次はテクニクスの話題を。同ブランドでSACDプレーヤーの開発が進んでいることが、今回のIFAで明らかになりました。これは昔からのファンからすると、大変な驚きです。

2000年代のオーディオシーンでは、パナソニックがサポートするDVDオーディオとソニー率いるSACDが次世代パッケージオーディオの覇権を競っていました。結果としてはSACDの勝利となりましたが、ユーザーにとってこんな20年近くも前の古い話はどうでもいいことです。

――オーディオ業界的にはSACDの勝利かもしれませんが、世間一般的に見るとSACDはCDの後継規格と言えるほどの普及を果たしたとは言えませんよね。テクニクスはどうして今になってSACDプレーヤーの開発に踏み切ったのでしょう?

麻倉:実は今、世界的にSACDが求められているという面白い現象が発生しているんです。テクニクスブランドCTOの井谷さん(井谷哲也氏)によると、全世界で毎月30タイトルくらいの新譜が発売されているそうです。テクニクスがパートナーシップを組むベルリン・フィルの自社レーベルでも、最初はCDだけだったのが後からSACDも出しています。例えば2015年収録のラトル指揮「ベートーヴェン全集」の場合、最初はCDだけだったが、つい最近になってSACDが発売されました。

今なぜSACDが求められるのか。おそらくCDそのものが退潮傾向な中でマニアはより良い音を求める、しかも求められるのはデータ配信ではなくカタチのある物理メディア。そういう事ではないでしょうか。

その流れのひとつでしょうか、ユニバーサルミュージックはDSDに力を入れていて、そのままDSDで配信されるものやPCMに変換されるものなど様々ですが、同社の最新マスタリングはすべてDSDなんです。DSDの何が良いかと言うと、ギラギラした音の不要な尖りがなく、肉付き感はしなやかで芳醇、音場感が良く、空間の広がりや深みがPCMよりもはるかによく判ります。私は銀座のオーディオショップ「サウンドクリエイト」で、ユニバーサルミュージックの新譜を聴く会を3カ月に1回くらいのペースでやっています。そこでカラヤンの音源を使ったPCMとDSDの聴き比べをやってみると、何回やっても全員がSACDを選ぶのです。

そんな訳で、テクニクスのSACDプレーヤー発表に日本国内のオーディオファンが反応しています。テクニクスはリファレンス/グランド/プレミアムという3つのプロダクトライン(製品クラス)を持っていますが、これまでは中堅ラインの「Grand Class」にはプレーヤー(ネットワーク含む)に該当するジャンルの製品がありませんでした。今回のものはこの空白を埋める製品で、ディスクとネットワークの一体型です。

テクニクスのプロダクトライン表。中堅ラインにあたる「Grand Class」のプレーヤー部門を担うのが、今回の試作ネットワークディスクプレーヤーだ

麻倉:さらに注目すべきはMQAに対応しているということ。テクニクスは相当前からMQAのフォロワーで、他のラインではすでに対応製品を投入しています。ですがテクニクスは、これまでMQA対応をそれほど大きくフィーチャーしてはきませんでした。ところがMQA-CDの登場で市場の状況が一変、MQAはオーディオにおける最も旬なキーワードとなり、テクニクスも動いてきたというところでしょう。

この製品の重要な特徴として、MQAファイルの再生だけでなく、MQA-CDを“フルデコード”出来ることが挙げられます。これの何が重要かと言うと、現状でMQA-CDの再生環境を構築するには、プレーヤーのデジタル出力をMQA対応DACに通すことが必要なのです。

――これはプレーヤー(トランスポート)とD/A変換のセパレートという、オーディオにおける上級者向けの結構ハードルが高いシステム構成ですよね。しかも対応製品の多くは回路設計の都合で「ネットワークのみ対応」、「USB入力限定」といった制限があり、セパレートDACとして今使える製品はかなり限られています。

麻倉:実際問題として現状でMQAフルデコードができる光同軸入力対応DACというと、メリディアン「ULTRA DAC」か、マイテックデジタルの「Manhattan DAC II」「Brooklyn DAC+」「Liberty DAC」くらいしかありません。理想はやはりCDプレーヤーにMQAデコード機能が入り、MQA-CDを入れると問題なく再生されるという、極めてシンプルなカタチでしょう。

MQA-CD対応のディスクプレーヤーというものもあるにはありますが、メリディアンのハイエンドプレーヤー「808 v6」という高価なものや、惜しまれつつも販売終了してしまったOPPOのユニバーサルプレーヤー「UDP-205」など、入手性に難アリなものがほとんど(しかもこれはコアデコードのみ)。そこそこの価格で難なく購入できる製品となると、現状では韓国カクテルオーディオの各製品くらいでしょうか。

そういうわけなので、メジャーブランドで入手できるMQA-CD対応機器が今、オーディオ先進国の日本では強く求められており、MQA-CD自体もヨーロッパからも引き合いがあります。このようなニースのど真ん中に来るのがこの新製品。SACD/MQA-CD/ネットワーク再生などに対応しており、USB-DAC以外のほぼ全ての機能を持っています。これら市場的な事情もあって、新製品はMQA-CDという方面からも伸びそうな予感がします。音質はもちろん、存在自体が大きく期待されます。

SACDに加えてMQAにも対応するディスクプレーヤーの試作品(画像上部)。1台でMQA-CDの再生が完結するということで、オーディオファンから熱視線を浴びている

麻倉:新製品で言うと、一体型ネットワークスピーカー「SC-C50」も良かったです。これは昨年発売された「SC-C70」の弟分に当たる製品で、前回同様にベルリン・フィルでトーンマイスターを務めるクリストフ・フランケさんが音作りを監修指導しました。フランケさんは特に音場感や低音などを指摘したそうです。

会場でUAレコード合同会社の小川理子さんの新譜「Balluchon」を聴きました。彼女はたまたま(?)テクニクスの親分で、このアルバムはたまたま(??)私がディレクションをしたものですが。ディレクター視点で言うと、このアルバムはミックスダウン時に意識的に低音を入れました。その音が小さなフォルムのスピーカーにしては非常に雄大に鳴っており、同時に音程がハッキリと安定していることに大変驚きました。

それからドラムをセンターに小さくまとめるのではなく、活躍を意識して左右に大きく散りばめて配置していますが、これが一体型の本機でもちゃんと音場の広がりを伴って出ています。この音を通して、テクニクスがこだわりを持って新製品を開発したことが見えました。「なかなかやるな」という思いです。

白と黒の2色で展開するオールインワンプレーヤー「OTTAVA S SC-C50」。サイズから想像されるよりもウンと雄大でしっかりした低音に、麻倉氏も唸る
ある時は国際企業パナソニックの顔、またある時はオーディオブランド・テクニクスの指導者、さらにある時は日本オーディオ協会会長、そしてまたある時はジャズピアニスト。復活のテクニクスブランドを面白くしている原動力、小川理子氏の活躍にこれからも注目したい(一番下の写真はBalluchon収録時の風景)

ハイファイレベルの超高音質Googleスピーカー

麻倉:そのほか今回のオーディオで面白かったものをふたつご紹介しましょう。ひとつはハーマンカードン「Citation(サイテーション)」シリーズのスマートスピーカー「Tower」。これは「Hey, Google」と呼びかけると応えてくれるGoogleスピーカーで、いわばオーディオの最前線。それがハイファイスピーカーでもあるという製品です。

これまでGoogleアシスタントにしろAmazon Alexaにしろ、いわゆるスマートスピーカーは“生活スピーカー”であり、音質に関しては「声がハッキリと出れば良い」というくらいのものでした。対してCitation Towerは元々の音質が凄く良い。そのポイントとして挙げられるのが、5年ほど前にシャープを中心としたアソシエイションが策定した高音質の非圧縮ワイヤレスオーディオ規格「WiSA」を採用したことです。

――WiSAは96kHz/24bitまでの信号を、Wi-Fiを通して8ch分まで伝送できる規格ですね。ティアックやB&Oのほか、クリプシュやデノン・マランツと同じグループのPolk Audioなどがフォローしています。余談ですがベルリンでのGoogleアシスタントへの呼びかけは「OK, Google」ではなく「Hey, Google」が主流なのが気になりました。個人的にはこの方が自然な呼びかけに感じます。

麻倉:呼びかけ方はともかく、WiSAはこれまでシステム製品に入っており、単体スピーカーとしてはあまり本格的な普及が見られませんでした。利便性を考えると無線接続は極めて有意義ですが、現在主流のBluetoothだとハイファイレベルに組み込むのは厳しいでしょう。音質がそこそこならばBluetoothでも構わないですが、高音質ならばやはりWi-Fiを通じたWiSAにしたい。加えてWiSAはWi-FiにつながっているのでそのままGoogleアシスタントが使え、楽曲選択や生活情報の引き出しができます(しかもハイファイの音で!)。

従来のハイファイシステムは、プレーヤー/アンプ/スピーカーの三点セットが基本でした。一方で従来のスマートスピーカーは、情報は来ても音質は上がらなかった。これが一体となり、なおかつ物凄く音が良いとなると、生活にハイファイサウンドが入り込むようになります。新たな切り口で“High Quality of Life”が向上する、これもスピーカーの新しい方向でしょう。会場で体験して「無線の時代がついに来たか」と感じました。

ポール状のスッキリしたデザインが特徴的なスマートスピーカー「Citation Tower」。ハイファイレベルの音質とGoogleアシスタントの利便性を兼ね備えた、ハーマンカードンの新提案。TIDALにも対応しており、電源ケーブル1本で高音質な音楽の洪水に浸ることができる
上部には小型ディスプレイを備えており、楽曲情報などが表示される]

もうひとつもオーディオの最前線のひとつ、ゼンハイザー「AMBEO」サウンドバーです。ビーム方式の5.1.4ch立体サラウンドに対応しており、これもビックリするくらい音が良かったです。

――ゼンハイザーと言うと日本ではヘッドフォンとマイクのイメージが強いですが、まさかスピーカーを、それもイマーシブサラウンド対応のサウンドバーを出してくるとは思いもしませんでした。

麻倉:AMBEOはイマーシブ時代を見据えたシリーズです。今回のサウンドバーはアウトプットを担うもので、この他にもバイノーラル録音ができるマイクなどを提案しています。新製品は音場密度が凄く高いアイテムで、それが従来型の5.1chに留まらず、Dolby AtmosとDTS:Xのイマーシブサラウンドにも対応します。この音は注目に値するものですよ。

――イマーシブという新ジャンルを開拓する際にAMBEOというラインを新設し、しかも初期製品としてマイクとサウンドバーをほぼ同時に出してきた、というのが非常に良いですね。これはシャープの8K戦略にも見られる、イマーシブサラウンドを入り口から出口までサポートするという意思表明です。プロフェッショナル領域で信頼が篤く、同時に民生用ヘッドフォンでも高音質のイメージを持つブランドならではと言えるでしょう。

本格的な音質のイマーシブ環境が手軽に構築できる「AMBEOサラウンドバー」。会場で試聴した印象は「サウンドバー1作目とは思えないレベルのハイクオリティサウンド」だった。日本上陸が待ち遠しい

麻倉:ハイエンドオーディオの発表がミュンヘン(HIGH END)に集約される中で、ハイファイとは違う切り口の面白い、新しい価値観が、IFAでは見られました。新しい価値観を求めつつ、昔からのこだわりが同居する。そんなことが感じられたIFAのオーディオでした。

オマケ:今回の収録は水の都・ヴェネツィア。マリア・カラスが愛したフェニーチェ座でイタリアンオペラを満喫し、ゴンドラにも揺られてご満悦な麻倉氏でした

麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表

天野透