藤本健のDigital Audio Laboratory

第739回

PreSonusの“最速”Thunderboltオーディオ「QUANTUM」がどれだけ速いのか検証

 米PreSonusから「PreSonus史上最速のオーディオ/MIDIインターフェイス」と銘打った製品「QUANTUM」が発売された。1Uラックマウントサイズのオーディオインターフェイスで、Thunderbolt 2接続のモデルだ。

PreSonus「QUANTUM」

 オーディオインターフェイスで“最速”ということを打ち出す製品も珍しいように思うが、実際にレイテンシーのチェックをしてみたところ「PreSonus史上」というより、現在あるオーディオインターフェイスすべての中で最速と思われる数値を叩き出した。実際どんな製品なのか見ていこう。

Thunderbolt 2接続、トータル26IN/32OUT対応

 このDigital Audio Laboratoryでは、これまで多くのオーディオインターフェイスをチェックしてきたが、ここ10年近く同じ手法で比較しながら見てきたのが、オーディオ性能である音質とレイテンシーの2つだ。もちろん、オーディオインターフェイス選びのポイントは、入出力数であったり、入出力の端子や信号、そしてDSPなどを含む機能であったり、使い勝手……といろいろあるが、やはり音質とレイテンシーが大きな指標にはなると思う。そして、それらを感覚的に捉えるのではなく、あくまでもドライに数値で見せるというのが本連載の大きな特徴としてきた。

 レイテンシーにおいては、CPU処理速度の向上、伝送速度の向上に伴い、徐々に小さくなってきている。ドライバのアップデートによっても性能向上することがあるので、現行製品を最新ドライバですべて比較しているわけではないが、各製品を記事執筆時に測定した結果を比較すると、ZOOMのUSB 3.0対応オーディオインターフェイス、UAC-2が最高速というか、最低レイテンシーを記録していた。しかし、その記録を大きく塗り替えてくれたのが、このPreSonusのQUANTUMだ。

 レイテンシーの実験にいく前に、まずは簡単にスペック的なところを見ていこう。このQUANTUMはThunderbolt 2接続のオーディオインターフェイスであるが、Mac専用ではなく、Windowsにも対応しているのが大きなポイント。だからこそ、いつもの測定ツールが使えるようになっているのだ。

 入出力を見てみると、フロントの左側にはコンボジャックが2つある。これらはマイクプリアンプ内蔵の入力で、ラインとも切り替え可能となっている。またInstボタンを押すことでハイインピーダンス対応、つまりギターの直結が可能になる。右側にはヘッドフォン端子が2つあるが、それぞれは完全に独立した端子となっており、かつドライバの設定によってどの信号を出すか自由に割り当てられるようになっている。

フロント左側のコンボジャック
右側のヘッドフォン端子
ドライバの設定で信号出力を割り当てられる

 リアにも数多くの端子が並んでいる。右側からざっと見ていくと3~8の番号が振られているコンボジャックはフロントと同様マイクとラインが入る端子だが、リアのものはハイインピーダンス入力には対応していない。

背面
右側のコンボジャックはハイインピーダンスには対応しない

 左側の1~8のTRS、つまりバランス対応のライン出力、さらにその左にあるのがメイン出力だ。ここまでがアナログの入出力となり、ヘッドフォン端子のステレオ×2を含めると8IN/14OUTとなる。

背面の左側にあるメイン出力など

 さらにその左が光デジタルの入出力、ワードクロックの入出力となり、その左の上がThunderbolt 2端子が2つ、その下がADATの入出力が2つずつとなっている。その左がMIDIの入出力、一番左がACアダプタからの電源供給だ。このうち光デジタルはステレオなので2IN/2OUT、ADATは1つで8ch分(44.1kHz/48kHz動作時)なので16IN/16OUTという計算になるため、アナログ含めて全部足し合わせれば26IN/32OUTというわけだ。

光デジタルやThunderbolt 2端子など

 ちなみにThunderbolt 2端子が2つあるが、Mac/Windowsとの接続はどちらを使ってもOK。もう一つはカスケードで別の機器と接続させることも可能となっている。いずれにせよThunderbolt 2なら20Gbps双方向通信が可能なので、26IN/32OUTならまったく問題なく余裕の帯域を持っているわけだ。

 今回、15インチのMacBook Pro(Skylake Core-i7、4コア 2.6GHz)および、Intel NUC 7i7BNH(Kaby Lake Core i7、2コア 3.5GHz)に接続して使ったが、いずれもUSB Type-C端子となっているので、AppleのUSB Type-C・Thunderbolt 2変換アダプタを利用して接続している。またいずれにもPreSonusのUniversal Controlソフトウェアというドライバ・ユーティリティをインストールしているが、MacもWindowsもまったく同じ画面、同じ機能での操作が可能になっていた。

Mac接続時
Windows接続時

 このUniversal Controlソフトウェア画面では、各チャンネルの入力ゲイン調整や、ファンタム電源のON/OFF、信号レベルの切り替えなどができるほか、入出力信号をリアルタイムにレベルメータ表示させることなどが可能になっている。また、RTAというボタンを押すと、指定したチャンネルの入力でも出力でもリアルタイムに周波数アナライズ結果を表示することもできる。なお、入出力レベルについては本体中央のLEDメーターでも表示できるのも便利なところだ。

Universal Controlソフトウェア画面
本体中央のLEDメーターでも入出力レベルを表示可能

 そして、このQUANTUMを接続しているPCと同じLANネットワーク内に接続されていれば、iPadまたはタブレット型Android用のUC Surfaceというアプリから、これをリモートでコントロールすることが可能となっている。これを使えば、自由に動き回りながら操作ができるわけだ。

UC Surfaceアプリの画面

 またちょっぴり面白いのはフロントパネルに、マイクが内蔵されて、Talkボタンを押すことで機能すること。これはレコーディングスタジオなどでの利用時にトークバックマイクとして使えるようにするためのもの。これは先ほどの26IN/32OUTの26入力あるうちのどこかに割り当てることが可能で、スタジオのセッティングに合わせて自在にルーティングできるのも便利なところだ。

フロントパネルにマイクを内蔵。Talkボタンを押して利用できる

レイテンシーのテストで最速を大幅に更新

 フロントの2つの入力と、リアのメイン出力を直結させてループ状態を作った上で、いつものようにRMAA Proを使ってオーディオ特性を調べてみた。サンプリングレートの切り替えはUniversal Controlの設定画面でできるようになっているが、44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで実験を行なった。

44.1kHz
48kHz
96kHz
192kHz

 上記の結果を見てみると、THD + Noiseの値だけ、やや劣る感じだが、それ以外はすべてExcellentというなかなかの好成績になっていた。

 そして、今回の最大のテーマであるレイテンシーの測定に入るわけだが、その前にひとつこのQUANTUMの設計思想というか、特徴について触れておくと、この製品はあくまでもCPU経由でのレイテンシーをとことん突き詰めたというもの。多くのオーディオインターフェイスには「ダイレクトモニタリング」という機能が用意されている。これは入ってきた音を、CPUを通さずにそのままヘッドフォンやモニタースピーカーへ出してしまうというもの。何の処理もしないから完全なゼロレイテンシーを実現させることができる。

 同じPreSonusではStudio 192という、やはり1Uラックマウントタイプのオーディオインターフェイスを出している。そちらは内部にDSPを搭載しており、モニター出力にDSPエフェクトをかけた音が出せるようになっているのだ。このCPUを経由しないモニターであれば、限りなくゼロレイテンシーに近い速度を実現できるのに対し、QUANTUMはCPUを通す方式にとことんこだわっているようで、ダイレクトモニタリング機能すら装備していないのだ。

 では実際にどうなるのか、RMAA Proでの測定時に行なった配線はそのままに、CentranceのASIO Latency Test Utilityを用いてレイテンシーを測定してみた。この際、いつもと同じように、各サンプリングレートごとバッファサイズは最小に設定。44.1kHzの場合のみ最小とバッファサイズ128サンプルの双方で測定してみたのだが、結果は以下のとおりだ。

44.1kHz(128 samples)
44.1kHz(16 samples)
48kHz(16 samples)
96kHz(16 samples)
192kHz(16 samples)

 この結果を、過去、最小値を記録していたUAC-2と比較してみると、1桁違っている。圧倒的な最小値、最速な結果を出しているのだ。結果の画面をよく見てみるとわかる通り、そもそも設定できるバッファサイズが異なる。192kHzにおいて、UAC-2なら32 samplesが最小なのに対して、QUANTUMは192kHzで32 samples、44.1kHzの場合UAC-2なら24 samplesで、QUANTUMは16 samplesと小さく設定できる。

 ただし、バッファサイズ=サンプル数を小さくすると、CPUに負荷が大きくかかるため、CPU性能によっては処理が追い付かなくなる。実際、192kHzにおいては、2コアのCPUではややプチプチとノイズが乗ってしまった。その意味では、この数値にはちょっと無理があるかもしれない。そこでバッファサイズを一段階引き上げて32 samplesにすると音切れやノイズの問題もなく鳴らすことができた。それでも192kHzで0.57msecと圧倒的な値が出たのだ。さらに余裕を見て64 samplesにしても0.91msecという値になっている。ちなみに、バッファサイズ関係なく、各機材での違いを調べるために44.1kHzで128Sampleでの実験を行なっているわけだが、これで比較するとUAC-2で8.39msecだったのに対し、QUANTUMは6.3msecとなっているので、やはりかなり速いわけだ。

192kHz(32 sapmles)で0.57msec
64 sample時は0.91msec

 このように、PreSonusのQUANTUMは過去一番レイテンシーの小さい結果を出したわけだが、その要因がThunderbolt 2なのか、ハードウェアなのか、ドライバなのか、はたまた複合的理由なのかはハッキリしない。とはいえ、この記録はやはりダントツであり、他社製品がすぐに記録更新するのは難しいように思う。もちろん性能アップはPC側の性能向上とともに進んでいくものと思われるが、この記録を塗り替える機材が現れるのか、今後の各社のチャレンジにも注目したい。

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QUANTUM

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto