藤本健のDigital Audio Laboratory
第784回
脳波からAIが作曲、音が出るエアドラム。「楽器フェア」で見た最新音楽制作
2018年10月22日 11:56
10月19日~21日に、楽器の展示会である「2018楽器フェア」が東京ビッグサイトで開催された。3日間通ったところ、いろいろと面白いものが見つかった。そこで、前回の「Music China」レポートに続き、今回は日本の展示会をレポートしていく。なお、Music Chinaレポートの後編は次回にお送りする予定だ。
人の脳波を元にしてAIが自動作曲?
「楽器フェア」は、2年に1度というスケジュールで行なわれている日本最大の楽器のイベント。前回の2016年に続き、今回も東京ビッグサイトの西ホールで開催された。
1週間前に上海のMusic Chinaを見てきただけに、どうしても比較したくなってしまうが、規模の上では、やはり上海が圧倒的。10:1というと大げさだとは思うが、そのくらいの差はありそうだ。上海の場合、4日間あっても会場全体を見て回ることは、まったくもって不可能な広さだったが、楽器フェアなら1日でなんとか回れる広さ。とはいえ、熱気においては日本のほうが上だったかもしれない。特に、土曜・日曜は一般来場者が数多く詰めかけ、非常に盛り上がるイベントとなった。
筆者の場合、出展者側も来場者側も、数多くの知り合いに遭遇し、久しぶりに会う人もいっぱい。立ち話をしていると、すぐに時間が経ってしまい、3日通っても全部を見切れなかったのが正直なところ。やはり楽器フェアは楽器好きな人たちにとって楽しいお祭りであることは間違いない。
ただ、この楽器フェアに向けて各メーカーが新製品を発表するのかというと、そういう状況ではないようだ。以前は、大手メーカーがこぞって新製品をここで発表していたが、今回は皆無という状況。1月にアメリカで行なわれるNAMM SHOWに向けての発表は多いけれど、残念ながら日本の楽器フェアはそういった位置づけにはなっていない。まあ、NAMM SHOWが主に業者向けのトレードショーであるのに対し、楽器フェアは一般ユーザー向けのイベントという性格上、そこは仕方ないところなのかもしれない。
では、何の発見もないのかというと、そんなことはない。ベンチャー企業などを中心にユニークな製品がいろいろ登場していたので、一部ビデオも交えながら紹介していこう。
今回の楽器フェアで個人的に一番気になっていたのは、つい先日クリムゾンテクノロジーが発表した「ブレイン活性化AI楽曲生成技術=brAInMelody(ブレインメロディ)」というもの。
AIを用いて自動作曲を行なうということだが、これが一般に向けて初公開されたので見てきた。クリムゾンテクノロジー自体は、今回の楽器フェアで出展はしておらず、AMEI(音楽電子事業協会)のセミナーとしてビッグサイトの会議棟で行なわれていた。
そのプレゼンテーションによると、これは人の脳波を元にして自動作曲を行なうものなのだが、人のクリエイティブ能力を活性化させるというのではなく、人のメンタル状況に応じ、メンタルパフォーマンスを活性化させる音楽をAIが作り出してくれるとのこと。そのためにはまず脳波を測定する装置を頭に取り付ける必要があるとのことで、試させてもらった。
8つある端子から脳波を検出。それをBluetooth経由でタブレットに送って、可視化できる。実は、この際、さまざまな音楽を聴きながら脳波を測定するというのが大きなポイントとなっている。
音楽を聴く際、脳波を捉えることで快適度合、覚醒度合の2軸でメンタルを捉え、どんな音楽を聴くと、どんな気持ちになるのかを調べていくとのこと。音楽についてはテンポ、メロディー、コード、メジャーかマイナーかといったパラメータを元に分析しており、これらを合わせて、各ユーザーごとにマッチした音楽を割り出すのだとか。その結果を元に自分のメンタルに合った音楽を作り出すというのが、このシステムとなっている。
AIが作り出すので、著作権問題が生じることがなく、BGMで流したり、YouTuberなどが利用するのにも最適だという。これはクリムゾンテクノロジーが単独で行なっているのではなく、大阪大学産業科学研究所などとの共同研究。ただ、どうやって音楽を作り出すのかという方法論については、まだまだ研究中とのこと。そこが一番肝心なポイントだと思うが、今後どう発展していくのか楽しみなところではあった。
“音が出るエアドラム”に会場が注目
楽器フェア会場で、結構多くの人の注目を集めていたのはエアロドラムスというイギリスで開発されたシステム。エアギターならぬ、エアドラムであり、スティックを宙で振り回すのだが、これで実際にドラム演奏ができてしまうというもの。とにかく、これはビデオを見ていただくのが早いだろう。
実はこのスティックの先端に特殊な反射板がついており、これの動きを専用のモーションキャプチャカメラが捉えている。同様に左右の足にも反射板が取り付けることで、その動きもキャッチするわけだ。その結果、PCの画面上には、まるでドラムが置いてあるかのような画像が合成され、叩く動作をすると、それに合わせてリアルに演奏ができるのだ。
もちろん、打感はないけれど、しっかり音が出るので、なかなか楽しいところ。このエアロドラムスの存在をまったく知らなかったが、実は国内でも荒井貿易が扱う形で3年前から発売されており、スティック、カメラ、フットセンサー、ソフトウェアなどがセットで26,000円程度で販売されているとのことだ。
松武秀樹氏が代表取締役を務めるミュージックエアポートで展示していたのは「LOOM-649」と名付けられた無限音階発生装置。まずは以下のビデオをご覧いただきたい。
無限音階とは永遠に音が上がり続けるとか下がり続けると錯覚するような倍音構成で音を鳴らすもので、それをオールアナログの装置で実現したのがこれ。正確にはパルス波で1オクターブのスウィープ信号を出す部分だけデジタルで作られているが、それを10オクターブ分に分周した上で音を出している。3つあるノブでは音の上げ下げ、スピード、音量などを調整できるようになっており、途中で上げたり、下げたり、止めたりできるのがポイント。その昔、松武氏が手掛けたYMOのLOOMという曲と同じ音が作れる装置というわけだ。まだプロトタイプだが、今後販売も検討しているという。
長野の機械メーカー、スリックとJOYSOUNDを展開するエクシング(XING)が共同開発をし、来年の発売を予定しているのが、MIDIでオルゴールを鳴らせる装置「CANADEON 40」。オルゴールの音をサンプリングしているのではなく、本物のオルゴールの装置をMIDIで自由に演奏できるというもの。その音色をビデオでご覧いただきたい。
システムはシンプルで、MIDI IN端子のみを装備し、MIDI NOTE信号を受けるだけ。ただ、こうしたオルゴールを精密に作り、それなりの音量で音を鳴らすには、どうしてもコストがかかるようで、売値は20万円前後になるだろうとのことだ。
台湾メーカーが作った電子ウクレレの参考出品をしていたのは、浜松の3D機械設計・試作を行なっているハーモテックという会社。本業とは関係のない製品の展示ではあったが、ローランドおよびローランドDG出身で楽器が大好きという社長の趣味を事業化したもの。すでにアメリカのAmazonなどでも販売されている電子ウクレレを、日本からの要望で仕様変更を加えたうえで、来年3月ごろに販売する予定とのこと。社長にデモしてもらったのが、以下のビデオだ。
折り畳み可能なウクレレで、ドラムマシン機能も内蔵。弦代わりのラバーの突起物を指で押さえ、弾くというタイプであり、リズム変更や音色変更などはiPadやiPhoneから操作可能。また、コードモードを使うことで、指一本で演奏することも可能になる。さらに、出音を、Bluetoothで飛ばせるのも特徴で、ほぼレイテンシーのない演奏が可能だという。価格は25,000~26,000円程度を想定しているという。
なお、同じ台湾メーカーが設計した小型ミキサー4機種もまもなく発売とのこと。ステレオ5chの入力を持つ「JUST MIXER 5」は、USBポートを装備し、PCとの入出力が可能なほか、1chはアナログ入力のほか、Bluetoothでの入力も可能。価格は税抜きで8,580円とのことなので、手軽に導入できそうだ。
大阪のアナログシンセサイザメーカー、REONも出展しており、ここでコンパクトな機材、「~Loci~I」と「~Loci~II」の2機種を展示していた。すでに今年4月から発売されている~Loci~Iはアナログの16ステップのシーケンサ。ボタン操作でパターンを入力でき、最大3つまでのパターンをメモリーできるという仕様。CVおよびGATEの2系統出力のほか外部シンク入力も装備している。
一方、まもなく発売の~Loci~IIはFM音源のアナログシンセサイザ。キャリアとモジュレータが1つずつというシンプルな構造の音源で、パラメータとしてはキャリアの周波数を設定するFREQ、モジュレータ周波数を設定するMOD、それにディケイ/サステインを設定するENV、さらにLFOの4つのみ。外部からのCV/GATE信号を受け取って演奏が可能となっている。サブタイトルとしてMICRO SINGER Rとあり、このRはリズムを表すとのことで、FM音源シンセサイザではあるけれど、リズム用途がメインなのだとか。この2つを組み合わせることで、コンパクトな演奏装置が構築できる。なお、価格はいずれも26,000円程度となっている。
ローランド「ボイス・トランスフォーマー」や、パール電子ドラムも
大手メーカーからも、若干新製品が出ていたので、紹介しておこう。まずローランドが先日発表したのがボイスチェンジャーの「Voice Transformer(VT-4)」。これは同社のAIRAシリーズとして発売されたもので、価格は26,000円程度。
以前からあったVT-3の後継機で、よりコンパクトになるとともに、MIDI入力などを装備したというもの。実はこれ、ローランドの予想を超える大ヒットとなっているようで、発売と同時に完売。年内の入手はなかなか困難となっている。
というのも今年夏にVT-3生産完了したタイミングで、男性の声をまさにリアルタイムに女性っぽい声にできるということからYouTuberの間で大ヒット。ネットオークションなどで高値で取引されている状況だ。この状況はVT-4が引き継ぐものお、当面は品不足になりそうだという。ちなみに、VT-3と比較するとAUTO-PITCH機能での音程合わせがしやすくなったことや、MIDI IN装備でボコーダーとして自由に歌わせること、そしてバッテリー駆動できるようになったことなどがポイントだ。
Beheringerが参考出品していたのは、ローランドが1981年にリリースしたボコーダー、VC-330のクローンとしてアナログで復元した「VC340」。機能、性能などはVC-330そのものだが、当時の機材にはなかったMIDI入出力およびUSB端子も搭載し、PCとのMIDI入出力も可能になっている。価格、発売時期などはまったく未定とのことだ。
最後に紹介するのはドラムメーカーのパール(Pearl)。同社が初のエレクトリックドラムとして「e/MERGE」を発表し、楽器フェアで初お披露目した。
“POWERD BY KORG”と記載されているe/MERGEは、コルグのWAVEDRUMで培われたWAVEトリガー技術、エレクトリックドラム音源をパールのアコースティック技術と融合させて作り出した製品。PCMサウンドだけでなく、実際叩いた音を加工して出す音と混ぜ合わせて作り出す音が特徴とのこと。MIDI OUT端子およびUSB端子が用意されており、ここではMIDIの出力のみが可能とのことだ。発売は来年春を予定しており、価格は40~45万円程度を想定しているという。
さらにパールではフルサイズの3オクターブの電子マレットコントローラー「MalletSTATION model EM1」を発表、展示していた。
これはUSBバスパワーで動作するもので、木琴や鉄筋のような演奏ができる。音源は搭載されておらず、外部MIDI音源やソフトウェア音源で鳴らすことを想定している。
もともとアメリカのKeith McMillen Instrumentsが20年以上前に開発したマレットコントローラーをUSBデバイスへとチューンナップした機材。来月末の発売を予定しており、価格は15万円程度になるとのことだ。
以上、日本の楽器フェアで見つけた気になるデバイスを中心に紹介してみた。この楽器フェアでは、英ROLIとコラボしたハッカソンも開催され約20人が参加。2日間かけて、かなり高度な作品も作られるなど、幅広い層が集まるイベントとなっていた。ぜひ、この日本での熱気、勢いが持続、さらには発展してくれることを願っている。