藤本健のDigital Audio Laboratory

第803回

iPad/iPhoneがオシロスコープやMIDIモニターに! 2つのアプリで音を簡単測定

様々なオーディオ機器やMIDI楽器、シンセサイザーを試す機会が多い筆者が、これらの機器を操作しているとき使いたくなるのが測定器。この連載でオーディオのテストにはRMAA ProやWaveSpectraといったWindows用のツールを使うことが多いが、ちょっと波形を確認する場合オシロスコープがあると便利だ。一方、MIDI信号がしっかり出ているかをチェックするにはMIDIモニターが欲しいが、MIDIモニター専用機なんて市販では存在しない。そんなオーディオ信号やMIDI信号をチェックする上で便利なのがiPadやiPhoneなどのiOSデバイス。普段よく使っている2つのアプリ「e-scope 3-in-1」と「Midi Tool Box」を紹介したい。

iOS用オシロスコープアプリ「e-scope 3-in-1」

使い勝手のいいオシロスコープアプリ「e-scope 3-in-1」

大学の学科が電子情報工学科だったこともあり、学生時代からオシロスコープはよく使っていたけれど、当時は面白く思えない実験ばかりだった。ブラウン管の重たいオシロスコープを引っ張りまわし、表示されたよく分からない波形をトレーシングペーパーに写してレポートを無理やり書かされていた覚えがあり、あまり好きな機材ではなかったが、最近になって、便利で楽しい機材だと思えるようになった。

トランジスタの特性を測定するとかではなく、シンセサイザーが出力する波形をオシロスコープに映し出すのであれば、接続もいたって簡単だし、画面にも分かりやすい波形が表示される。まさに音を目で見る感覚で楽しめるわけだ。しかも最近は高性能なデジタル・オシロスコープが数万円もあれば買える時代。「緑に光る、ブラウン管のオシロスコープがカッコイイ! 」なんて人もいるようだが、個人的には軽くて操作も簡単なデジタル・オシロスコープが断然いい。何年か前に購入した中国製のオシロスコープは、時々ひっぱりだして使っている。

とはいえ、回路設計や修理を仕事としているわけではないし、シンセサイザーにつなげるといっても、日々シンセサイザーを使っているわけでもないので、普段オシロスコープは箱にしまっておいてある。そのため、いざ取り出して使うとなると、ちょっぴり面倒にも感じるところ。そこで、その代わりとして使うことが多いのが、iPhone/iPad用のe-scope 3-in-1というアプリ。ほかにもオシロスコープアプリはいろいろあるが、これはかなり使い勝手がよく、性能的にも結構しっかりしているのだ。

手持ちの中国製デジタル・オシロスコープと最大の違いは、iPhone/iPadの内蔵マイクで、音を捉えて、それを波形表示できてしまうという点。このマイクで思った以上に正確に表示できるのは驚くほど。しかし、オーディオ信号をしっかり捉えたいという場合は、iPhoneやiPadのヘッドフォン端子にあるマイク入力に信号を突っ込めばいい。とはいえ、Lighting端子しかないiPhone/iPadだとそもそも接続しづらいし、ヘッドフォン端子がある機種であっても4極の端子のマイク入力に接続するにはやや特殊な変換コネクタが必要となってくる。それであれば、オーディオインターフェイスを利用するのが簡単だし、より正確にオーディオ信号を捉えることができる。

iPhone/iPadの内蔵マイクで捉えた音を波形表示

ここではSteinbergのUR22mkIIをUSB接続して使ってみたが、これによってオーディオ信号をうまくとらえることができた。ただし、このアプリでは1chの入力のみに対応しているので、Lチャンネルへの入力のみが表示されるようになっている。Rチャンネルへの入力は完全に無視される仕様だ。そうした仕様であるためリサジュー表示ができないのがちょっと残念なところ。まあ、そもそもこのアプリはオーディオインターフェイスの接続は想定していないようだが、今後バージョンアップすることがあれば、ぜひ2ch同時測定および、リサジューへの対応をお願いしたいところだ。

SteinbergのUR22mkIIを接続して使用した

ちなみに、このオシロスコープにおいては縦方向および横方向のピンチイン・ピンチアウトで拡大縮小ができるほか、Normalモード、Triggerモード、Singleモードの3つを切り替えることで、目的に合った表示が可能になる。

Triggerモード
Singleモード

Normalモードは、入力された波形がリアルタイムに表示される一方、Triggerモードでは、サイン波や矩形波、ノコギリ波のような繰り返し波形の場合、波形の形をしっかりと捉えることができる。またSingleモードでは、打撃音など、単発の波形を表示させるのに最適なモードとなっている。同じ信号を、手持ちのオシロスコープとe-scope 3-in-1の両方に入れて分かるのは、e-scope 3-in-1のほうが、より細かく波形を見ることができるという点。その意味でも優秀なアプリなのだ。

手持ちのオシロスコープよりもe-scope 3-in-1のほうが細かく波形を表示

ところでe-scope 3-in-1という名前からもわかる通り、このアプリは単なるオシロスコープとしてだけでなく、3つの機能を持っている。その一つがFFT分析。これもマイクからの音を捉えて、チェックすることもできるし、オーディオインターフェイスからの入力で、より正確に分析することも可能。さらに、信号発信機能も装備しており、1Hz~20kHzまでのサイン波、ホワイトノイズ、20Hz~20KHzまで周波数が変化するリニアスイープとLogスイープの4種類を出力可能となっている。

FFT分析

ちなみに、ちょっと電気工作をすれば、オーディオ信号だけでなく、一般的な電気信号を入れることも可能。詳細はこのアプリの開発元であるe-skettのサイトに記載されているが、電気工作を失敗するとiPhoneやiPadを壊す恐れもあるので、そこは自己責任となるので要注意だ。

これだけの機能・性能を持ったオシロスコープアプリが240円で入手できるのだから、ありがたい限りだ。

手軽なMIDIモニター「Midi Tool Box」

そしてもう一つ紹介するツールが、この連載でも何度か使ったことがあったMIDI信号をチェックするためのMidi Tool Boxという1,200円のアプリ。いわゆるMIDIモニターと言われるものだ。MIDIモニター自体はそう難しいものではなく、基本的にはMIDI信号として入ってきた情報をそのまま表示するもの。16進数で表示してくれさえすれば、信号が入ってきているかどうかが見れるし、16進数の内容を見れば、それがどんな情報かも見て取れる。

Midi Tool Box

実際、その昔には自分でもプログラムを組んでMIDIモニターを作ったことがあったし、さらに16進数をある程度、分類して表示するようにすれば、どんな信号が入ってきたかをより分かりやすくチェックすることもできる。たとえば、Windows/Mac用にモアソンジャパンという会社が開発したPocket MIDIというフリーウェアがあり、かなり便利に使える。でも、手軽に持ち運んで、いろいろな機材につないでチェックする、という意味では、iPhone/iPad用のツールが便利なのだ。

Pocket MIDI

いくつかのアプリがあるようだが、非常に優れているのが、日本のアールテクニカという会社が開発したMidi Tool Box。これは入ってくるMIDI信号、出ていくMIDI信号を16進数+MIDIコマンド表記でしっかり表示してくれるEvent Monitorがあるほか、実際どのチャンネルにMIDI信号が来ているのかをランプでリアルタイム表示するStatus Monitorも便利。

Event Monitor
Status Monitor

また、キーボード機能もあるので、これを弾けば外部にMIDIノート信号を送り出すことが可能。さらにSysEx Librarianという機能があり、MIDIシステムエクスクルーシブデータ、つまり楽器メーカー固有の情報を受信して管理したり、それを送信するといったことも可能になっている。つまりSysEx Librarianを使うことで、たとえばある音源の音色パラメーター一式を管理するといったことができるわけだ。

キーボード機能で外部にMIDIノート信号を送り出せる

一方で、そのMIDIシステムエクスクルーシブデータの中でもよく使われるGS音源、XG音源、GM音源をリセットしたり、全部の音を消すAll Notes Offなどをボタン一つで行なえるResetter機能が用意されているのも便利。そのほかにもSMF Player、File Managerといった機能があるほか、アプリ内課金によるProgram Changer、Control Changerといった機能もオプションで用意されている。これを使うことで、任意のプログラムチェンジやコントロールチェンジを出力してテストできるのは結構便利に使える。

Resetter
Program Changer

もっとも、MIDI信号の入出力をするにはMIDIインターフェイスが必須となるわけだが、このMidi Tool Boxが非常に優秀なのは、iOS内部のアプリをMIDIポートとして設定したり、Wi-FiのMIDI、さらにはBluetooth MIDIも使用することが可能という点。もちろん物理的なMIDIケーブルを接続する場合は、先ほどのオシロスコープで利用したUR22mkIIのようなMIDIインターフェイス機能付きのオーディオインターフェイスを利用するのも手だが、IK MultimediaのiRig MIDI 2のような軽くてコンパクトなMIDIインターフェイスを使うと、どこにでも持ち運べてとても便利だ。

iRig MIDI 2など小型MIDIインターフェイスとの組み合わせが便利

非常に重宝しているMidi Tool Boxだが、1つだけ要望したいのが、MIDIのプログラムチェンジの表記について。ここでは0~127を設定する形になっているが、楽器メーカーによっては音色番号を1~128で割り当てているところも多いので、可能であれば0~127という表記モードと、1~128という表記モードを用意してくれると嬉しいところ。MIDIチャンネルについては設定画面で0~15モードと1~16モードというのがあるので、そんなに難しくなく対応できるのではないかと期待している。

以上、iPhone/iPadで使える音の測定器、オシロスコープとMIDIモニターについて紹介してみた。安価に高性能な測定器に変身してくれるので、高い実用価値があると思う。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto