藤本健のDigital Audio Laboratory
第592回:iOS/Android両対応のオンキヨー初ポータブルアンプ登場。開発の裏側を聞く
第592回:iOS/Android両対応のオンキヨー初ポータブルアンプ登場。開発の裏側を聞く
(2014/5/19 11:51)
3月末に発売されて気になっていたのがティアックのポータブルヘッドフォンアンプ、HA-P50。PCとの接続はもちろん、iOS、Androidとの接続が可能で、iOSデバイスとは普段充電やPCとの同期に使うLightningケーブルがそのまま利用できるというユニークな機材。
ティアックにちょうど問い合わせようとしていたところ、なぜかe-onkyo musicの担当者から「春のヘッドフォン祭 2014で、HA-P50に関連してティアックとオンキヨーが共同発表会をするので、その後に行なうトークイベントに出てもらえないか? 」という連絡をもらったのだ。最初、状況がまったく把握できなかったのだが、事前打ち合わせに行ったところ、HA-P50と瓜二つの別機種をオンキヨーが5月11日に参考出品する、とのこと。ハード、ソフトそれぞれの開発担当者も出席するので、公開取材してくれてOKとのことだったので、喜んで参加させてもらったのだ。
実際ヘッドフォン祭でのトークイベントに出てみたところ、多くの人が見に来てくれたのと同時に、開発者からはかなり興味深い話も多く聞くことができたので、その内容について紹介していこう。
オンキヨーがヘッドフォンアンプを披露。ティアック「HA-P50」の違いとは?
東京・中野サンプラザで行なわれた春のヘッドフォン祭2014の2日目、5月11日。ティアック、オンキヨー共同の発表会場でDAC-HA200(仮称)というポータブルヘッドフォンアンプが参考出品という形で発表された。これをティアックのHA-P50と並べてみると分かる通り、色こそ違うものの、大きさ、形状ともに、まったく同じなのだ。実際の発売は6月末を予定しており、正式なプレス発表も改めて行なうとのことだったが、競合するオーディオメーカー2社が同じデザインの製品を発表するとは、どういうことなのだろうか?
ご存じの方も多いと思うが、2013年1月、ティアックとオンキヨーは資本・業務提携を行なっているほか、両社とも米Gibson傘下に入っているため、事実上の兄弟会社なのだ。もともと競合とはいえ、扱う製品分野が比較的異なるため、うまく棲み分けができている、という。そうした中、今回の新製品はどう捉えればいいのだろうか?
「ユーザー目線で、どんなことでも聞いてほしい」という話だったので、トークセッションという名の公開取材を通じて、率直にいろいろと質問してみた。今回、そのトークセッションで対応してくれたのは、左からオンキヨー 商品企画本部 商品企画課の東志行氏、デジタル・アコースティックのファームウェア設計課 課長 村田龍哉氏、そしてオンキヨーの開発技術部 第4開発技術課 主幹技師 日月伸也氏の3名。今回の新製品DAC-HA200の商品企画を担当したのが山口氏、ハードウェアの設計を行なったのが村田氏、ソフトウェアの設計を行なったのが日月氏という関係だ。ちなみに、デジタル・アコースティックは2013年5月にオンキヨーの100%子会社として設立された開発会社。ティアックとオンキヨーの協業におけるキーにもなる会社とのことで、村田氏もティアック出身なのだ。
まず最初に聞いてみたのは「HA-P50とDAC-HA200は実質的に同じものなのか? 単純にティアックからオンキヨーへのOEMと捉えればいいのか? 」という点だ。これについて東氏は「色の違いはありますが、デザインは同じだし、機能もまったく同じ製品です。ただ聴き比べていただくと分かりますが、音は違います。オンキヨーとティアックは共通する面も多くある一方、音のフィロソフィーには違いがあるのです。そこに明確な違いを出そうということで、違う音の製品を作りました」と話す。
ハードウェアの基本的設計はポータブルに強いティアックが主導。では機能が同じで音が違うというのは、どうなっているのか? この点について村田氏は「この2機種では、より高音質なものにするためアナログ部にはディスクリート回路を採用しています。オペアンプだけで終了というのではなく、ディスククリート回路を使うことで、細かな調整ができるからです。とはいえ、2社の音の違いの表現については、オペアンプを変えるという形で実現させています」と語る。
すでに発売されているティアックのHA-P50ではオペアンプにTIのOPA1652を採用しているのに対し、オンキヨーのDAC-HA200では新日本無線のMUSES8920を採用しているのだ。
次に、この機種は96kHz/24bitまでの対応だが、ここで浮かんでくる疑問が、なぜ192kHz対応ではなく96kHz対応の製品を出してきたのか、という点だ。これについては、会場に来ていた別のティアック担当者が答えている「192kHz対応させることは可能ですが、そうするとどうしても高速な処理ができるチップが必要となり、価格が高くなってしまいます。3万円以下で購入できる手ごろな製品とするため、あえて96kHzというスペックにしました」とのことだ。
今回のイベントでの総合司会をしていたe-onkyo musicの企画担当者であるオンキヨーエンターテイメントテクノロジーの黒澤拓氏も「現在e-onkyoで売れているコンテンツのかなりの比率が96kHzとなっているので、96kHz対応であれば十分楽しめるはずです」と話す。
「もちろん192kHzのコンテンツであってもアプリ側で自動的に96kHzにダウンサンプリングして再生することができるので、困ることはないはずです。オンキヨーのiOSアプリHF PlayerおよびティアックのHR Playerを使って再生する場合、自動的に接続しているDACの再生可能サンプリングレートを識別した上でベストなサンプリングレートに変換して再生できるようにしているからです」と説明するのは日月氏。
ちなみにオンキヨーのHF Playerはなかなか便利なアプリなので筆者も使っているが、これは無償のアプリではあるが、ハイレゾ音源を再生するためにはアプリ内課金の形で1,000円支払う必要がある。それに対し、先日リリースされたティアックのHR Playerはデザインが少し異なるが機能的にはHF Playerと同じもの。こちらはHA-P50と接続すれば1,000円課金されることなく、そのまま全機能が利用できてしまうのは大きなポイントだ。
Camera Connection Kit不要でiPhoneと接続可能な理由
さて、ここから少しシステム的な話について突っ込んでいった。疑問に感じていたのは、iOSデバイスと接続する際のケーブルに、なぜ普通のLightningケーブルが利用できるのか、という点。一般的にUSB DACをiOSデバイスと接続する場合、Lightning-USBカメラアダプタやiPad Camera Connection Kitが必要となる(一部機種を除く)が、HA-P50やDAC-HA200では、充電などに利用する付属ケーブルで接続できてしまうのだ。
「iOSデバイスでハイレゾを再生するためには、iOS側がUSBのホストになる必要があるのです。そのため、通常はCamera Connection Kitなどが必要となるのです。付属ケーブルで接続すると、普通はクライアント=デバイスモードになってしまい、ハイレゾの再生はできないのです」と説明してくれたのは村田氏だ。
確かにiPhoneやiPadはUSBのホストモードにもデバイスモードにもなるが、それぞれの場合で使うケーブルが異なる。では、HA-P50やDAC-HA200は、なぜiOSデバイスがクライアントになる付属ケーブルを使いながら、ハイレゾ再生をサポートしているのだろうか?
「実際、付属ケーブルを使うので、接続直後はiPhoneやiPadはデバイスモードとなります。しかし、接続が確立した後に、iOS7に搭載されているロールスイッチという内部的スイッチで切り替えることにより、デバイスモードからホストモードに切り替えることができるのです」と村田氏は語る。
なるほど、そんなスイッチがあったので、付属ケーブルが利用できるわけだ。Lightningでの通信を規定するiAP2規格への対応によって実現できた非常に便利なシステムというわけだ。東氏によれば、こうした仕組みでハイレゾ再生を実現したのは現在のところHA-P50、DAC-HA200のみであり、世界初のシステムである、と説明してくれた。
もっともロールスイッチはユーザーがいじれるものではなく、HF-PlayerやHR-Playerがソフトウェア的に制御しているもののようだ。ただし、サポートしているのはiOS 7のみ。iOS 6以前のものでは利用できないそうだ。この点について村田氏は「このロールスイッチはiOS 6でサポートされたのですが、iOS 7になった際にコマンドが変更になったのです。そのため、iOS 7のみに対応する形になっています」と話す。
ちなみに、iOS 6以前のもので使いたい場合は、Lightning-USBカメラアダプタやCamera Connection Kitを用いて接続するとともに、USBマイクロB端子に接続し、PCと接続するのと同じようにすれば動作するようだ。
「Camera Connection Kitを利用する場合、一つ大きなデメリットがあります。それはiPhoneやiPadの消費電力が大きくなることです。実際、FLACを再生する場合、Camera Connection Kitを利用すると3、4時間の再生ができるのに対し、付属ケーブルで接続する場合は9時間と、3倍程度の差がでるのです。その意味でも付属ケーブルを使うのには大きな意味があるのです」と日月氏は話す。Camera Connection Kit自体が電力を使うというよりも、ホストとなった場合、ホスト側の電力でUSB DACを動かそうとするためのようだ。
AOA 2.0正式対応でAndroid端末ともUSB接続。ハイレゾ/DSD対応は?
続いて質問してみたのは、Androidでの利用について。Androidデバイス対応を謳うUSB DACはあまりなかったように思うが、その点について確認してみたところ、「Androidはデバイスの数が非常に多いため、一つ一つ検証することはできませんが、AOA 2.0(Android Open Accessory Protocol 2.0 )に対応しているものであれば、利用することができます」と語るのは村田氏。このAOA 2.0に正式対応させたことで、Androidでも付属のUSBケーブルで利用できるようになっているという。一般にAndroidにUSB DACを接続する場合、On-the-Goケーブルと呼ばれるものを用いて、Androidデバイス側をホストとして使う必要があるが、これはOn-the-Goケーブルは不要のようなのだ。
「AOA 2.0公式対応のオーディオデバイスとしても、HA-P50、DAC-HA200が初の製品だと思います。ただし、AOA 2.0で規定されているのが44.1kHz/16bitおよび48kHz/16bitであるため、現時点ではハイレゾはシステム的にサポートされていません。将来的にハイレゾ対応する可能性に期待したいところですが、これはAndroidの規格がどうなるか次第なので、現状においては対応できない状況です」と東氏。
最後にもう一つ質問したのがDSD再生について。HF-PlayerやHR-PlayerではDSDファイルの再生ができるが、これはどんな仕組みになっているのが日月氏に聞いてみた。「これはDSDをリアルタイムにPCM変換することで、再生を可能にしています。アップサンプリングをオンにしておくと、接続しているUSB DACの上限に合わせて最適なサンプリングレートに変換します。HA-P50やDAC-HA200を接続している場合は、自動的に96kHzに変換されるわけです」とのこと。
ただし、インストールするデバイスによっては音質が変わるとのこと。DSD-PCM変換にはフィルタを利用するが、フィルタでの演算にはCPUパワーがかなり必要となる。そのため、CPUがシングルコアのものとデュアルコアのもので処理を変えているのだそうだ。具体的にいうとiPhone 4S以降がデュアルコア、iPhone 4がシングルコアであるため、ここで音質の違いがでるというわけなのだ。
以上が、トークセッションにおいて公開取材した内容だ。カタログスペックやマニュアルだけを見ていても分からない貴重な情報をいっぱい引き出すことができたのは大きな成果だった。今回出したのはエントリーユーザー向けのシステムであったが、今後192kHz/24bitなどに対応したハイエンド機種も検討しているとのことなので、期待したいところだ。
なお、この公開取材の後には、実際の音を聴いてみようということで、e-onkyo musicのコンテンツを用いて、さまざまな楽曲をエソテリックの高級スピーカーシステムで再生した。さらにトークセッションの第2弾ということで、筆者とe-onkyo musicの黒澤拓氏とで、24bitオーディオがもたらす効果などについて話すなど、個人的にもなかなか楽しいイベントだった。
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ティアック HA-P50 |