藤本健のDigital Audio Laboratory

第663回:GoProで臨場感あるバイノーラル録音を簡単に。ローランド「WEARPRO Mic」を試す

第663回:GoProで臨場感あるバイノーラル録音を簡単に。ローランド「WEARPRO Mic」を試す

 最近、筆者の周りでもユーザーが増えているアクションカムの「GoPro」。このコンパクトさで、高画質なビデオが手軽に撮影できるのだからヒットするのも当然だろう。最近は似たコンセプトのカメラが複数社から出てきているが、GoProは小型ビデオカメラの代名詞的なものになっている。そのGoPro内蔵のマイクでも、そこそこの音で録ることができるが、より高音質に録音するためのGoPro専用マイクがいろいろな会社から発売されている。そんな中、日本メーカーもここに参入した。リニアPCMレコーダーの老舗メーカーでもあるローランドの「WEARPRO Mic(WPM-10)」というバイノーラルマイクだ。実際にGoProと組み合わせて使ってみたので、どんな音なのかをチェックしてみよう。

GoPro HERO4と、バイノーラルマイクのWEARPRO Mic(WPM-10)を接続

ビデオ撮影しながら簡単にバイノーラル録音ができるマイク

 一般的なバイノーラル録音は、人の頭部を模したダミーヘッドの耳に搭載したマイクを使う。それをヘッドフォンで聴いたときに、生々しい音の広がりや定位、移動感が体感できるというのがメリットだ。今回のバイノーラル録音マイクWPM-10は、ダミーヘッドではなく撮影者がイヤフォンのように耳に着けて録音。マイクを手に持たずに、撮影者が自由に動いたりしながらでもGoProの動画撮影と組み合わせてバイノーラル録音が行なえる。

 個人的にGoProは使ったことがなかったが、知人でこれを使う人が多いので、気になる存在ではあった。今回ローランドがGoPro専用のマイクを出したことで、やはり使ってみなくてはということで、GoPro HERO4を入手して試した。なお、WPM-10の対応機種としてローランドが案内しているのは、外部マイク接続(miniUSB端子)対応のHERO3、HERO3+、HERO4の3機種だ。それ以外の、HERO、HERO+、HERO+ LCD、HERO2、HERO4 Sessionには非対応('05年11月4日時点)。

GoPro HERO4

 店頭などで見て知ってはいたが、やはり実際に使ってみるとGoProは本当に小さい。こんなサイズで、よくキレイな画質が撮れるものだと感心してしまう。ヘッドマウントすることで、ハンズフリーでより臨場感のある映像が撮れるというので、ちょっと借りて頭に取り付けてみたところ、なるほど、これなら便利そうだ。ただ、街中などで撮影するのはさすがに人の目が気になるので、今回はGoProを手持ちで撮影している。

オプションのヘッドマウントを使って頭に装着したところ
装着して横から見たところ
後ろから
本体に3つある穴の内側にマイクがあるようだ

 GoProは、キレイな画質とともに、しっかりと音も録れるようになっているが、やはりこのサイズのカメラ内蔵マイクとなると、音質的に限界はありそう。実際にこのまま撮影してみたのが以下の動画だ。キレイな音ではあるがモノラルであるため、映像作品によっては、その迫力は半減してしまいそうだ。

 そこで登場してくるのが、サードパーティー製のステレオマイク。今回はバイノーラルマイクであるWMP-10を使ってみた。

GoPro HERO4の内蔵マイクでの撮影
今回使用したバイノーラルマイクのWMP-10

ヘッドフォン端子のないGoProにUSBでデジタル接続

 さて、早速使ってみようとしたが接続が普通ではない。GoProにはマイク入力端子が存在しないので、一般的なマイクは接続できない。どうするのかというと、miniUSBの端子にデジタル接続するのだ。今回使用したローランドのバイノーラルマイク、WPM-10も端子はステレオミニなどではなく、miniUSBになっている。

 おそらくUSBクラスコンプライアント対応のデバイスなのではないかと思うが、miniUSBで接続するためPCと接続して使えるか、といった検証ができない。通常はGoProのほうがクライアントとなり、ここに接続する機器がホスト側になるが、さすがにWPM-10がホストになることはありえないので、GoPro側がホストとなっているはず。ということはOTGケーブル的なもので端子を変換した上でPCと接続すればよさそうだが、あいにく手元にそうした変換ケーブルがなかったので、確認はできなかった。

GoPro本体側面のminiUSB端子に接続する

 さて、ローランドのバイノーラルマイクというと、以前にこの連載でも取り上げたことのあるCS-10EMというものがあるので、今回のWPM-10はそれを改良したものなのかな……なんて思っていたが、根本的にまったく違う機材だった。

以前レビューしたCS-10EM
WPM-10

 まず、WPM-10をGoProに接続して撮影を開始してみたのだが、マイクから入ってきていると思われる音がまったくモニターできないのだ。あれ? と思ってマニュアルを確認してみたところ、WPM-10にはヘッドフォン機能は装備しておらず、単純に耳に装着するタイプのマイクだったのだ。またローランドに聞いてみたところ、マイクとしてもCS-10EMとは異なる特性のものになっているという。CS-10EMはヘッドフォン兼マイクだったので、各レコーダーに接続すれば、その音をリアルタイムにチェックできたが、これはあくまでも録りっぱなしなのだ。

スマホで映像をモニタリング

 これはWPM-10の問題というよりも、GoProの仕様がそのようになっているのだ。GoProは、これだけコンパクトであることもあって、今回使用したHERO4ブラックでは、ビデオも本体だけではモニターすることができず、iPhoneやAndroidなどとワイヤレス接続して映像がチェックできるとともに、各種セッティングもできるようになっている(HERO4シルバーはタッチパネル液晶搭載でモニタリング可能)。ただし、モニターできるのはそもそも映像だけのようで、iPhoneにヘッドフォンを接続しても、モニターすることはできなかった。つまり、GoPro本体では音をモニターすることができないため、WPM-10もヘッドフォン機能は割愛していたようなのだ。音が鳴らないのに、インナーイヤーのヘッドフォンのようなものを装着して外を歩くというのは、かなり妙な気分ではあるが、これでマイクを手に持つ必要なくバイノーラル録音が行なえる。

 モニターはないにせよ、音に関する設定はないかと思ってまず本体のメニューで探してみたけれど見当たらない。そこで本体より、分かりやすく、細かく設定可能なiPhoneアプリでチェックしてみても、やはり何もなかった。画質に関しては、解像度を4Kにするか2.7K、1080、720……と細かく設定できるし、フレームレートも24~80の範囲で設定できるなど、細かく項目があるが、音についてはない。またフォーマットはMP4の映像の中に収められる格好だ。ここでは1080の30fpsで撮影しているが、それをWindowsのプロパティで確認してみたところ128kbpsのステレオ/48kHzとなっているようだった。ちなみに、本体内蔵のマイクで録ってもフォーマット的には128kbpsのステレオ/48kHzで変わりないようだ。

音に関する設定は見つからなかった
アプリでも特に設定は無さそうだ

 設定が何もないのなら仕方がない。とりあえず、そのままWPM-10を装着し、同じ踏切で撮影してみたのが、下の動画だ。音量はすべてオートゲインとなっているようだが、ヘッドフォンで再生してみると、内蔵マイクと比較して、かなり迫力あり、リアルになっているのが分かるだろう。ステレオになっているのはもちろんだが、やはりこれがバイノーラルマイクの威力というわけだ。

踏切で、GoProとWMP-10を使ってバイノーラル録音

 ただし、いくら、オートゲインといえども、電車が目の前を通り過ぎるときの風圧には耐えられないようで、風切り音が乗ってしまう。一応、WPM-10には風切り音を避けるためのウィンドウスクリーンが付属しているが、この風に耐えらえないのは仕方ないところだろう。ちなみに、WMP-10のウィンドスクリーンはイヤフォンパッドのようなもので、耳の外側に掛ける形になっている。ただ、装着の仕方が下手だったのか、両耳とも1時間ほどの間になくなってしまった。手元にあった別のイヤフォン用のパッドで代用できてしまったが、ウィンドスクリーンに過度な期待はしないようがよさそうだ。

 もう一つ撮影してみたのが、公園での野鳥の鳴き声。いつもリニアPCMレコーダのレビューにおいて録りに行く場所の一つだが、やはりカメラ映像とともに音を聴いてみると、やはり音の移動などが圧倒的に分かりやすい。ここでも内蔵マイクでの音とWPM-10の音を比較してみると、かなり臨場感に違いがでるのが分かるはずだ。

野鳥の鳴き声(内蔵マイク)
野鳥の鳴き声(WMP-10利用でバイノーラル録音)

様々な場所でバイノーラル録音してみる

 電車の中で、窓のふちにGoProを置いての撮影というのも試してみた。本来であれば、WPM-10を頭などに装着した上で、窓の外を向くように座って撮影するのがいいのかもしれないが、それはできなかったので、やや無理やりではあるがWPM-10の左右をひっくり返して装着して録ってみた。走行音だけでなく、周りの物音までしっかり拾っていて、かなりリアルな感じに捉えているのが実感できるだろう。

電車の中で外の風景と合わせて撮影/録音

 では、このGoProとWPM-10の組み合わせ、各社のリニアPCMレコーダーなどと比較した音質はどんなものなのだろうか? いつものように、CDを再生させた音をGoPro+WPM-10で録ってみた。ただし、このままでは映像もセットとなったMP4データだから、分析することができない。そこでSoundForgeを使って、記録されているオーディオだけを切り出したのが下の結果だ。

SoundForgeでオーディオだけを切り出して分析
録音サンプル(CDプレーヤーからの再生音)
48kHz/24bitgopro_1648.wav(8MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。
 再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 もともとは128kbpsの圧縮オーディオであるが、これ以上の劣化がないようにWAVで保存してみた。こうやって音楽を聴いてみると、やはりちょっとアラも目立ってしまう。まずは、かなりヒスノイズが入っているのに気づく。さらに、これをWaveSpectraで分析してみると15kHz以上の音がまったく出ていないことも分かってくる。まあ、リニアPCMレコーダと比較すべきものではないのだろうが、あくまでもマイク性能という点でチェックしてみると、こんな感じである。

WaveSpectraの解析結果

 必ずしも最高級音質というわけではないかもしれないが、臨場感はアップする。GoProとセットで使うハンズフリーのマイクとしてみれば、かなり利用価値の高い製品といえるのではないだろうか?

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藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto