第478回:操作系がユニークな“ヤマハ×Steinberg”USBオーディオ
~DSPでエフェクト設定、“0レイテンシー”の「UR28M」~
UR28M |
独Steinbergとヤマハの共同開発によるUSBオーディオインターフェイス、UR28Mが10月1日、発売された。24bit/96kHz対応で6IN/8OUTというスペックだが、ASIOやVSTを規格化したSteiberg製品だけに、ほかのオーディオインターフェイスとはちょっと違う、なかなか面白いコンセプトの製品となっている。どんな機材なのかを紹介してみよう。
■ コンパクトな本体に、独自の入出力設計
UR824 |
ヤマハとの共同開発によるSteinbergブランドのオーディオインターフェイスとしてはFireWire接続のMR816csxとその下位のMR816、またUSB 1.1接続のCI1、CI2、CI2+といったものがあったが、今回新たにUSB 2.0接続のURシリーズとしてUR28MとUR824の2種類が発表され、先行してデスクトップ型のUR28Mが発売された。24in/24outの1Uラックマウント型のUR824は11月15日発売の予定だ。価格はいずれもオープンプライスだが、実売価格はUR28Mが34,800円前後、UR824が79,800円前後となっている。
UR824は、FireWire接続のMR816csxのUSB 2.0対応版(詳細スペックにいろいろ違いはある)ともいえるが、そのUR824からadatインターフェイスなどを省き、よりコンパクトで扱いやすいものにしたのが今回取り上げるUR28Mだ。USB 2.0接続であることや、価格レンジ的にみるとRolandのQUAD-CAPTUREが近い位置づけに見えそうだが、UR28Mはそれとはかなり性格の異なる機材であり、ほかにあまり見かけない、非常にユニークなもの。まずは外見的なところから確認していこう。
UR28MはCI2+などと同様にデスクトップに置いて使うオーディオインターフェイスで、その大きさはPCのキーボードと並べてみるとニュアンスがつかめるだろう。入出力端子はすべてリアに集中しており、アナログの入力が4ch、アナログ出力が6ch、そしてコアキシャルS/PDIFの入出力が1系統で計6IN/8OUTというスペックだ。アナログ入力の1/2chはXLR/TRS対応のコンボジャック、3/4chはTRSのライン入力となっている。一方、アナログ出力はステレオペアの3つともTRSとなっている。
またヘッドフォン出力も2系統装備しているほか、2TR INというステレオミニ端子も装備されている。この2TR INはiPodなどと接続することを想定した端子なのだが、オーディオインターフェイスとしてPCに取り込むものではなく、そのままUR28M内部のアンプを経由して外部出力へ流れるというもの。あまりほかのオーディオインターフェイスで見たことがない設計だが、この辺りがまさにUR28Mの設計コンセプトを表しているといってもいいものだ。
なお、マルチチャンネルの入出力を備えているだけに、USBのバス電源供給というわけにはいかずACアダプタでの利用が必須となっている。
UR28MをPCのキーボード(手前)と並べて比較 | 入出力部 | 2系統のヘッドフォン出力や、iPodなどと接続できるステレオミニ入力も |
では、もう少し詳細に見ていこう。まずメインの入力ともいえる1/2chのコンボジャックはいずれもマイク、ライン、ギターなどと接続できるオールマイティーな入力。両チャンネルともにディスクリート方式のClass-Aマイクプリアンプ「D-Pre」を搭載しており、フロントのつまみでそれぞれを独立して調整できるようになっている。
また、Hi-Zボタンをオンにすると、ギター入力用に、PADをオンにすると-26dBとなり出力レベルの高い電子楽器などが使える。オーディオインターフェイスでHi-Z対応しているものは多いが大半は1chのみ対応となっているので、ギターとベースの両方を接続したいというような場合には大きな武器になりそうだ。もちろん、コンデンサマイク用には+48Vのボタンをオンにすることでファンタム電源を使うことが可能となっている。
1/2chのコンボジャックはいずれもマイク、ライン、ギターなどと接続可能 | 「D-Pre」を搭載し、フロントのつまみで独立して調整できる | コンデンサマイク用にファンタム電源が使える |
これら2つの入力レベル設定ノブの下にあるのはヘッドフォン1、ヘッドフォン2の出力レベル設定ノブ。PHONE1は後述するMIX1の信号が出力されるのに対し、MIX1~MIX3のいずれかを選択できるようになっているのも面白いところだ。その右にあるのが、2TR INの調整。ONボタンを点灯させると有効になり、レベルをノブで上げていくと、それが各出力に流れていくのだ。
フロントパネル右側は出力関係。PC側でミックスされたMIX1~MIX3のそれぞれをどのチャンネルから出力するかを設定できるようになっており、それぞれの音量をOUTPUT LEVELで独立して調整できるようになっている。またDIM、MONO MIX、MUTEというボタンも利用できるほか、SOURCE SELECTで選択した信号がレベルメーターに表示されるという形になっている。ちょっと複雑な感じはあるが、ブロックダイヤグラムを見るとだいたい分かるだろう。
フロントの出力部 | ブロックダイヤグラム |
ブロックダイアグラムを見ても分かるとおり、2TR IN以外の各入力端子に入ってきた信号はそのままPC側へと流れていくのだが、最初にちょっと戸惑うのが出力側だ。ここでUR28Mをコントロールするためのアプリケーション、「dspMixFx UR28M」を起動してみよう。ご覧のとおり、いかにもミキサーという画面になっているが、実際、UR28Mはミキサーともいえる機材であり、そのミックスによって、各出力の内容がいろいろと変わってくるのだ。
ここで注目したいのが画面一番右にあるMIX 1、MIX 2、MIX 3というタブ。このタブをクリックすることで、ミックス内容が切り替わるようになっており、3種類独立したミックスが作れるようになっているのだ。どの端子にどの出力が行くかは設定によって変えられるようになっている。デフォルトではMIX1がOUTPUT A(1/2ch)、MIX2がOUTPUT B(3/4ch)、MIX3がOUTPUT C(5/6ch)となっているものの、必要に応じて入れ替えが可能となっている。またヘッドフォン1はMIX1に固定されているが、前述のとおり、ヘッドフォン2はMIX1~MIX3のいずれかを選べるのだ。
このことからも分かるとおり、UR28Mの各出力は、一般のオーディオインターフェイスのように、単にパラで出力するというためのものではないのだ。もちろん、そういう使い方も可能だが、ひとつのレコーディングを行なっている際に、ボーカル用のミックスはOUTPUT Aに、ギターを大きめに出力するギタリスト用のミックスはOUTPUT Bに、プロデューサー用の全体を見渡せるミックスはOUTPUT Cに、というように3種類のモニターを切り替えて使えるというのが大きな特徴となっているのだ。
dspMixFx UR28Mの画面 | MIX 1/2/3のタブでミックス内容が切り替わり、3種類独立したミックスが作れる |
■ DSP搭載で、レイテンシーを抑えた高性能なエフェクトが可能
さらに面白いのはここから、このUR824にはDSPが搭載されており、ハードウェア的にエフェクトを設定できるのだ。まず各入力ごとに、ハイパスフィルタと位相反転が用意されている。そして「Sweet Spot Morphing Channel Strip」(SSMCS)という強力なチャンネルストリップと「REV-X」というリバーブの2種類がDSPで実現できるようになっている。
SSMCSはMR816csxに搭載されていたものと同じもので、ヤマハの開発グループ、K's LABが作り出したもの。チャンネルストリップなので、コンプレッサとイコライザの組み合わせなのだが、非常に効果的な複数の設定をダイヤルを回すだけでモーフィングしていく感じでゆるやかに切り替わっていくというユニークなものとなっている。これを最大で4ch分同時に利用することができるのだ。
入力ごとに、ハイパスフィルタと位相反転を用意 | チャンネルストリップ「Sweet Spot Morphing Channel Strip」(SSMCS/左)とリバーブ「REV-X」(右)をDSPで実現 |
一方のREV-Xは、ヤマハのプロ用ミキシングコンソールのオプションの拡張ボードとしてリリースされている高品位なデジタルリバーブそのもの。HALL、ROOM、PLATEの3種類があり、リバーブ効果を3つの周波数バンドで立体的に表示、エディットできるようになっている。ある意味、このREV-XのためだけにUR28Mを買っても十分お釣りがきそうな感じだ。これを先ほどのミキサーのセンドエフェクトとして組み込んで使うことができるのだ。
ここで気になるのはやはり、SSMCSとREV-Xがレコーディングとどのような関係にあるかという点だろう。まずSSMCSはモード切り替えによって、掛け録りすることと、録音するのは生音でモニターだけに掛けるということの2通りが選択できるようになっている。これはdspMixFx UR28Mで、INS.FXとしたら掛け録り、MON.FXとしたらモニターのみになるのだ。
一方のREV-Xは完全なモニター用であり、掛け録りは不能。また、REV-Xが利用できるのは、あくまでもマイクやギターなどの入力に対してだけであり、PCからの出力に対してリバーブを掛けることはできない。では、何のために使うのかというと、まさにレコーディング時のモニター用。とくにボーカルをレコーディングする場合、リバーブを適度に返すことで、気持ちよく歌えるわけだが、そのための専用リバーブというわけだ。
REV-Xは、リバーブ効果を3つの周波数帯で表示できる | SSMCSは「掛け録り」と、「録音するのは生音でモニターだけに掛ける」という2つから選べる |
dspMixFx UR28Mで、ルーティング関連の設定が行なえる |
DAWでレコーディングする場合、通常はプラグインエフェクトを使ってモニタリングするが、どうしてもレイテンシーが発生してしまう。しかしPCを介さず、すべてハードウェア上のDSPで処理していれば、ほぼゼロレイテンシーでいけるというわけだし、PC側のCPU負荷もかからない。しかも超高性能なリバーブが使えるという点でも満足感は高そうだ。
このdspMixFx UR28M、機能設定画面に切り替えるとルーティング関連の設定ができるようになっている。具体的にはS/PDIFに何を出力するか、OUTPUT A~CのモードをAlternateとIndependentのどちらに設定するか、ハイパスフィルターの周波数をいくつにするかなどの項目が用意されている。
このようにUR28Mには強力なミキサー機能があるわけだが、実はPCと接続していない状況でも利用できる。細かな設定をdspMixFx UR28Mを使って設定しておけば、PCと切り離しても、その状態を記憶しておいてくれるのだ。固定の設定での運用が可能なケースであれば、なかなか便利に使えそうだ。
■ VSTプラグイン版のREV-X、SSMCSも用意
ところで、このようなミキサーがあるのはいいが、DAW自身にもミキサーがあるので、それぞれがどんな関係で、どうつながっているのか、混乱してしまいそうでもある。同じSteinbergのDAWであるCubaseでは、そこをシームレスにしている。そう、dspMixFx UR28Mの機能をCubase内に統合しており、混乱なく使えるようになっているのだ。UR28MにはCubase AI6がバンドルされているので、これを使ってみた。
Cubase AI6を起動させると、dspMixFx UR28Mは無効になり、オーディオチャンネル設定画面内に入力ハードウェアのルーティングが表示される。ここではチャンネルストリップを経由させた音をレコーディングするのか、入力した音そのものだけにするのかなどが設定できるし、エフェクトのパラメータの設定も可能。
UR28MにバンドルされているCubase AI6 | Cubase AI6を起動させると、オーディオチャンネル設定画面内に入力ハードウェアのルーティングが表示 |
チャンネルストリップを経由させた音をレコーディングするか、入力音そのものだけにするかといった設定が可能。エフェクトのパラメータの設定も行なえる |
ただし、通常のCubaseの設定だとREV-Xを使った音がモニタリングできない。なんでだろう? と思ったら、まあ当たり前だった。これはダイレクトモニタリングに対して掛かるエフェクトだからであり、デバイス設定で「ダイレクトモニタリング」にチェックを入れる必要があったのだ。これによってモニタリングができたわけだが、ダイレクトモニタリングしているので、バッファサイズがいくつであってもゼロレイテンシーモニタリングができるというわけだ。
とはいえ、このREV-Xがかなり高品位なリバーブだけに、単なるモニタリング用だけでなく、実際のミックスにおいても利用したいと思う人も多いだろう。同様にSSMCSもミキシング時に使ってみたいところだ。そのために実は、VSTプラグイン版のREV-X、SSMCSも用意されている。こちらは完全にPCパワーだけで動作するVSTなので、UR28Mが接続されていなくても動作可能だが、音作りは完全に同じになっているため、レコーディング時に使ったパラメータを同じように設定すれば、再現することができるのだ。
REV-Xを使った音をモニタリングするには、デバイス設定で「ダイレクトモニタリング」にチェックを入れる | VSTプラグイン版のREV-X(左)、SSMCS(右) |
ただ、やはり本来はかなり高価なエフェクトだけに、コピーフリーで使うというわけにはいかず、ネット経由でアクティベートしないと使うことができない。それはいいのだが、このアクティベートが1回しかできないため、PCを変更したり、フォーマットすると使えなくなってしまうのだ。実際、筆者も一度アクティベートした後、環境を変えたため、使えなくなってしまった。こうした場合に対処するため、あらかじめ「MySteinberg」に登録をしておけば、再発行の手続きすることで、回数制限はあるもののアクティベーションコードを再発行することが可能となっている。
さて、最後にRMAA PROを使っての音質のテストと、CEntranceのASIO Latency Test Utilityを使ってのレイテンシー測定を行なってみた。音質テストのほうは、THD + Noiseが若干低い結果となってしまった以外は非常に良好であった。レイテンシーも低めであり、多少バッファサイズを大きくとっても内部DSP機能でエフェクトをかけながらレイテンシーゼロでモニタリングできるなど融通が利く。UR28Mはさまざまな用途で大きな威力を発揮してくれそうなオーディオインターフェイスといえそうだ。
RMAAテスト結果。24bit/44kHz | 24bit/48kHz | 24bit/96kHz |