第511回:シンプル操作の24トラックMTR「DP-24」を試す
~PCレスでミックスダウン/マスタリング。SD/CD搭載 ~
TASCAM DP-24 |
最近、マルチトラックでのレコーディングといえば、PCのDAWで行なうのが主流だ。とはいえ、スタジオに持ち込んでマルチで録るとなると、やはり持ち運びやセッティングが面倒。コンパクトなMTRもいくつか存在しているが、多機能すぎて、なかなか使いこなせない……という人も少なくないはず。
そんな中、この春に発売されたTASCAMのDP-24は非常にシンプルで潔いMTRとなっている。結構大きいし、ドラムマシン機能なども装備していないけれど、マニュアルなど見なくてもすぐに使える分かりやすさを前面に打ち出した、いまどき珍しい製品ともいえる。今年のNAMM SHOWで発表されたときから、ちょっと気になっていたのだが、製品を借りることができたので、試してみた。
■ 24bit/48kHzで最大8トラック同時録音。SDカードに記録
TASCAMのDigital Portastudio DP-24は実売価格8万円弱のMTR。その名称からも想像できるとおり、24トラックのMTRで、多くのフェーダー、ノブ、スイッチと3.5インチのフルカラー液晶ディスプレイ、そしてその隣のJOGダイヤル、カーソルキーで操作を行なっていく。
USB端子は装備しているものの、基本的には単体で完結する機材となっている。リアを見ると分かるとおり、入力はすべてアナログでXLRおよびTRS接続が可能なコンボジャックが8つ用意されている。これによって最大同時8トラックのレコーディングが可能になっているのだ。
フェーダー、ノブ、スイッチ | 3.5型フルカラー液晶ディスプレイ |
JOGダイヤル、カーソルキー | XLRおよびTRS接続が可能な8つコンボジャックを備える |
記録メディアとして最大32GBのSD/SDHCカードが使用可能 |
フェーダーの数は各トラックの18本+マスターフェーダーが1つの計19本。24トラックなのになぜ? と思うかもしれないが、左側12本がモノラルのフェーダーで、右側6本がステレオトラックだから、これで24トラックという構成だ。
記録メディアはHDDではなくSD/SDHCカードで最大32GBのカードが扱える。詳細は後述するが、記録形式がWAVとなっているので、PCのDAWへデータを受け渡すのも簡単になっている。データフォーマット的には16bit/44.1kHz、16bit/48kHz、24bit/44.1kHz、24bit/48kHzのいずれかが選択できるようになっている。
一方、出力のほうは、メイン出力となるSTEREO OUTがRCAピンジャックのライン出力として用意されているほか、モニター出力用のMONITOR OUT、外部エフェクトを利用するためのEFFECT SENDSがモノラルで2系統用意されている。またフロントにはヘッドフォン端子があるが、これはMONITOR OUTと同じ信号がヘッドフォン用にも流れるようになっている。
ライン出力(STEREO OUT)のアナログRCA、モニター出力用のMONITOR OUT、2系統のEFFECT SENDS(モノラル)を用意 | フロントのヘッドフォン端子にはMONITOR OUTと同信号が流れている |
CD-Rドライブも搭載 |
PCを使わずDP-24で完結できるという理由は、ここにEQやダイナミクス、そして各種エフェクトが搭載されているとともに、CD-Rドライブも搭載されており、ミックスダウン、マスタリング後、CDを焼くこともできるからだ。このように多機能でありつつも、シンプルに扱えるのは、ボディーが大きいからボタンやノブの数が多く、メニューが階層構造化していないためだ。
■ 迷わず操作できるレコーディング機能。編集機能も
では、もう少し具体的に使い勝手などを紹介していこう。前述の通り、入力はアナログの8chあるのだが、このうち一番左のHチャンネルはギター接続可能なハイインピーダンス仕様とラインが切り替え可能になっている。また、すべてにファンタム電源の供給が可能だがA~DとE~Hの2グループに分かれており、必要な方だけをオンにすればいい構造になっている。
入力の一番左のHチャンネルはハイインピーダンス仕様/ラインの切り替えが可能 | ファンタム電源供給も可能。A~DとE~Hの2グループで分けられている |
そしてどの入力をどのトラックにレコーディングするかのアサインは自在。ASSIGNボタンを押すと、どう接続するかをセッティングする画面が現れるので、ここで設定すればいいのだ。この設定が済んだら、あとはもうレコーディングするだけ。録音したいトラックのRECボタンを押すと、ボタンが赤く点滅して、レコーディング・レディーとなる。
この状態で入力元から信号を送るとモニターできるので各フェーダーを使って音量を調整する。最大で8トラックまで同時録音できるので、必要なトラックをすべてレコーディング・レディーに設定する。これでRECORDボタンを押すとレコーディングがスタートするのだ。
ASSIGNボタンを押すと接続をセッティングする画面が現れる | 最大8トラックまで同時録音可能 | RECORDボタンを押すとレコーディングがスタート |
前述のとおり、ドラム機能はないが、メトロノームは搭載されているので、必要に応じてメトロノームをオンにし、テンポの設定などを行なうといいだろう。なお、デフォルトの設定では液晶ディスプレイ上部に表示されるのは絶対時間となっているが、このテンポにしたがって小節・拍での表示も可能となっている。
メトロノーム機能を搭載 | 液晶ディスプレイ上部にメトロノームによる小節・拍の表示も可能 |
このようにレコーディングした後、ストップボタンを押すと終了。SDカードへの書き込みのため、約2秒間の待ち時間が生じるが、そこは仕方がないところだろう。レコーディングを終えたら巻き戻して、PLAYボタンを押せば再生でき、各トラックの音量はフェーダーで操作できる。
これに重ねてレコーディングする場合は、新たなトラックをレコーディング・レディーの状態にして行なえばいいだけだ。ここまでの操作において、迷うことはほぼないだろう。24トラックすべてのフェーダーが表に出ているのでレイヤーの切り替えといった作業がないだけに、とにかく分かりやすい。
また、再生している状態で、RECORDボタンを押すとパンチインが可能であり、まったく違和感なくスムーズに切り替えが可能。終わったところでPLAYボタンを押せばパンチアウトとなる。オプションのフットスイッチがあれば、足元の操作でパンチイン/アウトができる。
さらに、オートパンチ・イン/アウトという機能もあり、あらかじめパンチ・イン/アウトの場所を指定しておくことも可能になっている。このオートパンチ・イン/アウトは繰り返し行なうことができ、こうするとバーチャルトラックにレコーディングされている形となる。バーチャルトラックは計8つあるので、あとでベストテイクを選んで利用するといったこともできるようになっている。
オートパンチ・イン/アウト機能 | オートパンチ・イン/アウトの繰り返しでバーチャルトラックへのレコーディングとなる |
コピー、ペースト、インサート、複製など編集機能も備える |
個人的には、編集作業はPC上のDAWで行なうのが効率がいいと思っているので、MTRの機能で操作したいとはあまり思わないが、DP-24にはもちろん編集機能も備わっている。コピー、ペースト、インサート、ムーブ、また無音の挿入や部分削除、トラックの複製……といったことが一通り可能。場所の指定などはJOGダイヤルで操作できるので、慣れればPCでの作業よりも効率がいいのかもしれない。
■ エフェクト、ミックスダウンからCD制作まで使いやすい
ここまでが基本的なMTRとしての機能だが、シンプルな機材とはいえ、これで終わりではない。各トラックにはEQやダイナミクス、エフェクトが使えるようになっており、これが非常に扱いやすいのだ。まずMIXERボタンを押すと現在選択しているトラックの詳細が確認できる。
画面上部にはHigh、Mid、Lowの3バンドのパラメトリックEQ(Highはハイシェルブ、Lowはローシェルブ)があるのが分かるだろう。多くのデジタル機器の場合、このEQの設定が面倒なところだが、DP-24では画面の右側に水色の7つのノブがあり、これで直接EQを設定できるため、とても扱いやすいのだ。
MIXERボタンを押すと現在選択しているトラックの詳細が確認可能 | 画面の右側に水色の7つのノブがあり、これで直接EQを設定できる |
DP-24のブロックダイヤグラム |
画面下にはパンやセンドがあるが、これらもノブでコントロールできる。これらのノブは完全に専用であり、ほかの機能が割り振られたりしないので、とにかく扱いやすい。ただ、最初にちょっと混乱したのが緑色のSENDと灰色のSENDの違い。緑色のほうにはEFF1、EFF2、灰色のほうにはMASTER1、MASTER2とあるので、計4系統のエフェクトセンドがあるのかな、と思ったがそうではなかった。
右のブロックダイヤグラムを見るほうが分かりやすいと思うが、緑色のほうではSENDバスへ送るレベルを決めるもの、灰色のほうはSENDバスからEFFECT SENDS端子へ出力するレベルを決めるものとなっている。そう、これは基本的に外部エフェクトへ送るためのセンドなのだ。ちなみにリターンの入力は用意されていないので、前述のA~Hの入力端子へ戻して利用する形になる。
もっともセンドエフェクトは外部エフェクトだけでなく、内部エフェクトも搭載しており、EFF1と兼用で内部エフェクトへ送ることが可能になっている。利用可能なセンドエフェクトはリバーブ、コーラス、ディレイの3種類で、そのうちのいずれかを選択する形だ。またリターンレベルは、このエフェクトの出力設定で行なう。
リバーブ | コーラス | ディレイ |
エフェクトはまだほかにもいろいろと用意されている。まずは8つあるA~Hの各入力に独立して利用できるダイナミクス。これはDYNAMICSボタンを押すと設定できるのだが、コンプレッサ、ノイズサプレッサ、ディエッサ、エキサイタの4種類の中から1つを各入力ごとに設定できるようになっている。
また、インサーションで利用できるギター用のマルチエフェクトも装備。これはアンプシミュレータ、コンプレッサ、エフェクト(フェイザ、フランジャ、コーラス、トレモロ、オートワウ、ディレイから選択)、ノイズサプレッサから構成されており、プリセットの音色もいくつか用意されている。
コンプレッサ | ノイズサプレッサ | ディエッサ |
エキサイタ | アンプシミュレータ(ギター用マルチエフェクト) | コンプレッサ(ギター用マルチエフェクト) |
エフェクト(ギター用マルチエフェクト) | ノイズサプレッサ(ギター用マルチエフェクト) |
この辺のエフェクトやそれなりに使えるが、どちらかというとオマケ機能かな、というのが正直な印象。最近のマルチエフェクトはかなり強力なので、音作りにこだわるのであれば別途外部に用意したほうがいいかもしれない。またこれらエフェクトについては掛け録りすることもできるし、素の状態でレコーディングし、再生時に掛けることもできる。
MixdownモードにしてRECORDボタンを押すとマスターファイルが生成される |
このようにしてレコーディングを終えたら、あとはミックスダウン。改めて各トラックのパンやEQ、センドエフェクトなどの設定を行なうとともにレベル調整を行なった上で実行する。MixdownモードにしてRECORDボタンを押すとマスターファイルが生成されるのだ。リアル時間を掛けてのミックスダウンとなり、この際、フェーダーなどを動かせばそれも記録されていく。またフェーダーのグルーピングなども可能だ。
MasteringモードではEQ、COMP、NSDと書かれた画面が現れる |
さらに、できあがったマスターファイルに対してはマスタリング処理も施すことができる。Masteringモードに切り替えるとEQ、COMP、NSDと書かれた画面が現れる。これら3つはマスタリング専用のEQ、コンプレッサ、そしてノイズシェルパーとなっており、最終仕上げに用いるのだ。またノーマライズ機能もこれらとは別に用意されている。
EQ | コンプレッサ |
ノイズシェルパー | ノーマライズ機能も用意 |
このようにしてマスタリングまで終えたら、最後に内蔵のCD-Rドライブを用いてCDに焼く。CDメニューを見ると、いろいろと用意されているが、「MASTER WRITE」で、先ほどのマスタリングデータを焼くことができ、最後に「FINALIZE」でファイナライズして完成となるわけだ。
■ 確実に使える、分かりやすい製品
とはいえ、最後の最後までDP-24で処理しなくてもいいと思う人も多いはずだ。とりあえず、録るところまで録って、後工程はPC上のDAWで、という人もいるだろう。DP-24のリアにはUSBのミニ端子があり、PCと接続可能。とはいえ、これは単にSDカードにアクセスするだけのものなので、SDカードを抜いて、PC上のSDカードスロットに挿しても同じことだ。
前述の通り、記録された各トラックのデータはすべてWAVファイルとなっているので、PCへ簡単にインポートすることが可能。普通にレコーディングしていれば、WAVファイルの頭はそろっているので、そのままDAW上のトラックに並べていけばいい。ただし、パンチ・イン/アウトした場合、そのトラックが丸ごと書き換えられるというわけではない。元のデータはそのままに、追加録音した部分だけが別のWAVファイルとして収録されるのだ。バーチャルトラックも別のファイルとなるので、そのまま並べるわけにはいかない。これについては予めDP-24側でバウンス処理を行なって、トラックを完成させておく必要はある。
DP-24側でいろいろと編集を行なうと、PCへ持っていった際に多少面倒になる部分はあるが、必要に応じて作業を切り分けることで、さらに効率のいいレコーディング、編集作業が行なえるはずだ。
DP-24はコンパクト、高機能というのとは逆の路線を行く製品ではあるが、とにかく分かりやすく、扱いやすいという点ではしっかりした製品。8chまでの同時マルチトラックレコーディングができ、いざというときに迷わず、確実に使えるという意味では、とてもいい製品だと思う。