第163回:上品な画作りになったLGハイエンドTV「55LM9600」

~デザインだけでない「LG Smart TV」の実力~



55LM9600

 「テレビの基本性能が平均化した昨今では、ユーザーは、性能以外の部分で突出した個性的な製品を求め出すはず」…そう想定した各メーカーはSmartTVであったり、3Dテレビだったり、4K2Kだったり…と、特徴的な製品を投入し始めてきている。

 そんな潮流の中で、昨今のLGはネット連携機能の強化とデザインコンシャスな製品の投入に注力するようになった。

 今回取り上げるLGの今季モデルのトップエンド「55LM9600」は、まさに、今のLGのテレビ製品の戦略を最も分かりやすく具現化したモデルだと言える。



■ 設置性チェック~映像が宙に浮いて見える狭額縁デザイン

 LGの最新テレビ「55LM9600」は薄型スリムデザインの究極形を目指した製品だ。画面サイズは55型で、47型の「47LM9600」もラインナップする。

 電源を入れる前から、一目見ただけで、大きなインパクトとして伝わってくるのが額縁の狭さだ。実測してみたが、上、左右が約5mm。下が約20mmといったところ。電源を入れて映像を出すと、ほとんど額縁の存在が分からない。スピーカーがレイアウトされる下部の額縁は、本機において相対的に見れば幅が広いことになるが、約20mmといえば、これまでの“狭額縁”の基準がこのくらいの値。55LM9600の額縁の狭さは競合機種を圧倒している。

圧倒的な狭額縁デザイン。遠目には映像が浮いているように見えるほど額縁は光沢部だけならば4mmほどしかない

 では、テレビの額縁が狭いとなにがいいのか?

 1つは、額縁への情景の映り込みが少なくて済むと言うこと。55LM9600に関して言えば、上、左右の額縁は約5mmしかないので、実質的には映り込み自体がほとんど起こらない。

ディスプレイ部だけならば厚さは3.9cm。この薄さで直下型バックライトを採用する

 もう1つは、物理的にディスプレイ部のサイズを小さく出来るため、省スペースが可能になる点だ。55LM9600の外形寸法はスタンド込み122.3×37.2×78.3cm(幅×奥行き×高さ)、スタンド含まずで122.3×3.9×70.8cm(同)。同画面サイズ他機種と比較して左右方向に5~6cm、上下方向に7~8cmは小さい。同画面サイズの製品と比較した場合、55LM9600の方が投影面積が小さいと言うことだ。小さくなればわずかな量だがコーナー置きならば、部屋のさらに奥に置けることになるし、テレビボードやテレビ台への収まりも良い。また、ボディの小ささは軽量化にも繋がっており、重量も軽く、ディスプレイ部だけであれば20kg。一般的な他社製品の46インチクラスと同じくらいだ。成人男性ならば1人で持てる重さだが、持つ場所がないので、今回の筆者宅での評価では階上に上げるのには大人2名で行なった。

 組み立ては難しくはないが、スタンド部とディスプレイ部の結合が意外に難しい。日本メーカーの製品だと、ネジ止めをしない状態でも、合体状態で安定するので1人でも組み立てができるのだが、55LM9600の場合は、スタンド部と合体してもフックの食い込みが浅く自立しない。安全のためには二人で設置作業を行なうべきだと感じる。

 なお、あまり無いとは思うが、スタンドから取り外す時には特に注意して頂きたい。というのも、スタンド側のフックが浅いため、結合部のネジ留めを緩めた途端にディスプレイ部が倒れてくるのだ。一度、合体させてネジ留めしてしまえば安定するが、注意したいポイントだ。


スタンドはスイーベル機構搭載ディスプレイ部とスタンド部は4つのネジで接合されている。ネジ留めがない状態では安定しないので組み立てには気を遣う

 表示面はコントラスト重視の光沢タイプ。映像を表示していないときには、表示面に部屋の情景が映り込む傾向にあるが、ひとたび電源をオンにして映像を出してしまえば気にならない。スタンドはチルト機構はないが、左右±10度のスイーベル機構は備わっている。

 サウンド出力はメインユニットが2ウェイで、これにサブウーファが加わった5スピーカー構成の2.1chシステム(10W+10W+10W)でなかなか贅沢だ。華奢に見える本体デザインとは裏腹に、それなりに輪郭のしっかりした音を出してくる。音量を上げて大音量にしてもビビリもない。スピーカーは前述したように下向きレイアウトだが、音像操作がなされているためか、画面中央で定位して聞こえていた。バーチャルサラウンド機能は、残響効果を加えるような安直なものではなく、定位をワイドに広げるような音像操作がなされる高度なもので、常用していても違和感は少ない。

ステレオメインスピーカーの開口部サブウーファは背面に開口部がある

 定格消費電力は210W、年間消費電力量は167kwh/年で、最近の55型薄型テレビとしてはやや高めの値となっている。これは、55LM9600が直下型LEDバックライトを採用しているためだ。


■ 接続性チェック ~HDMI 4系統装備。D-Sub15ピン端子のPC入力にも対応

 接続端子パネルは、正面向かって左側背面にレイアウト。HDMIを4系統配備。HDMI1はARC(オーディオリターンチャンネル)とx.v.Colorにも対応、HDMI4はMHLに対応する。MHLは、一部のスマートフォンやテレビ製品に徐々に採用が始まっているモバイル機器向け規格だ。

側面接続端子パネル背面接続端子パネル

 アナログビデオ入力端子は、D5入力端子と、変換ケーブルを用いてのコンポジットビデオ入力端子を備えるが、この2端子は排他仕様となっている。D5入力端子は実体端子として実装されているが、D5入力と合わせてアナログ音声を入力させようとすると、前述の変換ケーブルの利用が必要になる。利便性を考えれば、1系統くらいは変換ケーブルなしにして欲しかった。

 最近の機種としては珍しく、PC接続用のD-Sub15ピン(アナログRGB)端子を1系統備えており、専用のアナログ音声入力端子(ミニステレオジャック)までも用意している。ノートPCなどを接続する際には便利に使えそうだ。

 もちろん、PC接続にはHDMI端子も利用できる。デフォルトではオーバースキャン表示となって、タスクバーなどがクリップアウトされてしまうが、これは「画面サイズ」(アスペクトモード)設定を「ジャストスキャン」と設定することで正しく表示出来るようになる。

「黒レベル」がHDMI階調レベルの設定に相当。自動認識はされない

 HDMI階調レベルの設定は、「映像」-「オプション」メニューの「黒レベル」にて設定が可能だ。「高」が0-255に対応し、「低」が16-235に対応している。PCやPS3と最初に接続したときには、テストパターンを表示して、この設定を正しく合わせたい。自動認識の仕組みはないようで、PS3やPCで、HDMI階調レベルを変更しても追従はしてくれなかった。つまり、ユーザー側で明示設定する必要がある。この点には留意したい。

 音声出力端子は、光デジタル1系統とヘッドフォン。気になったのはヘッドフォン端子で、背面側に実装されており、壁に寄せて設置していると、とても接続しづらい。ディスプレイ部の下部などに取り付けるか、あるいはワイヤレスなBluetoothヘッドフォンなどに対応してくれても良かった気がする。

 USB端子は3系統あり、USB 1は録画HDD接続用、USB 2はUSBハブ接続用で、USB 3はLGのSmartTV向けアプリ転送用メディア(HDDやUSBメモリ)接続用として割り当てられている。

 チューナは地デジ2系統、BS/110CSデジタルが2系統のダブルチューナ構成となっているので、視聴番組とは別の番組を録画することができる。USBキーボードを接続したところ、Webブラウザなどの検索サイトでの文字入力に利用できた。ただし、日本語入力には未対応で、英語キーレイアウトでの認識となっていた。ネットワーク端子はEthernetのほか、無線LANにも対応する。

入力切換画面LG製のSmartTV向けの専用アプリサイトも提供している

■ 操作性チェック~直観的なポインティング機能のマジックリモコンを搭載

 55LM9600は、2種類のリモコンが付属する。1つは、一般的なテレビのリモコン然としたもので、入力切換や放送種別切換、チャンネル切換用12ボタン、メニュー操作用の十字ボタンなど、“普通”のリモコンだ。「シンプルリモコン」と命名されている、見慣れたテレビ・リモコンの方は、トリッキーな部分はどこにもなく、説明書を読まずとも最初から普通に使えることだろう。

リモコンは一般的なテレビリモコン(左)と、新デザインで新感覚操作を提供する「マジックリモコン」(右)が付属シンプルリモコン
「クイックメニュー」。使用頻度の高い操作項目はこのメニューに揃っている

 電源オンから地デジ放送が表示されるまでの所要時間は約5.0秒。なかなかの早さだ。

 入力切換は[入力切換]ボタンを押しての順送り式。入力切換所要時間は、HDMI1→HDMI2で約1.5秒、HDMI→D5で約1.5秒と共に高速だ。一方、地デジ放送のチャンネル切換所要時間は約2.5秒。こちらは、昨今モデルの平均的な速度といったところ。

 アスペクトモードや、画調モードの切り替えボタンはシンプルリモコンにはなし。しかし、切換頻度の高い操作項目はシンプルリモコン上の[クイックメニュー]ボタンを押すことで比較的、楽に呼び出すことが出来る。このクイックメニューは、左右で項目を選んで縦で設定したい設定値を選択するようなソニーのXMB(クロスメディアバー)の操作感に近いものになる。

 アスペクトモードは、以下のようなものを取り揃えている。アスペクトモードの切り替え所要時間はほぼゼロ秒で、切り換えた瞬間に表示が切り替わる。


モード名概要
16:9オーバースキャンして16:9表示とする
ジャストスキャンアンダースキャン表示とする。フルHD入力映像はこのモードを選択することでドットバイドット表示となった
プログラム自動判別モード
4:34:3映像をアスペクト比を維持して表示するモード
ズームレターボックス記録されたワイドアスペクト映像を切り出して表示するためのモード。
縦方向の拡大率と縦方向の表示位置を任意に変更できる
シネマズーム映像フレームの中央を基準に、任意の領域を拡大表示することができるモード。
なお、中央の基準は上下に移動が可能

 画調モードの切り替えの所要時間は、どのモードからどのモードへ切り換えるかによって変わり、変更した瞬間から切り替わるものもあれば実測約1.5秒ほど待たされる切換パターンもある。待たされる場合は、カーソル操作を一瞬受け付けなくなるのでやや驚かされる。

「映像」メニュー「映像」-「詳細設定」メニューの構成は選択している画調モードによって変化する「音声」メニュー
マジックリモコン。技術的にはWiiリモコンよりも先進的で、画面に向けなくてもカーソルを自在に操作できるようになっている

 もう一つのリモコンは「マジックリモコン」と名付けられたもので、例えるならばレーザーポインタ、あるいはWiiリモコンのようなポインティング操作を可能にするものだ。

 Wiiリモコンのようにセンサーバーは必要なく、ポイント座標は、このマジックリモコンに内蔵されたモーションセンサー(ジャイロと加速度センサー)だけで算出される。しかも、マジックリモコンとテレビ本体とのコネクションはワイヤレス接続になっており、ポイント座標の認識には赤外線を用いていない。つまり、Wiiリモコンのようにテレビに向かって操作せずとも画面内の任意の場所にカーソルを持って行くことができる。

 マジックリモコンを下に向けたままでも、画面正面に対して横向きでも、遮蔽物があったとしても、安定したカーソル移動が可能なのだ。画面に相対する位置関係に縛られない操作感はWiiリモコンよりも扱いやすいと思えるほど。


マジックリモコンで操作することになるホームメニュー

 ただし、マジックリモコンを用いた操作であっても、テレビの電源を切る操作だけは赤外線を利用する。電源OFF時はテレビの正面にマジックリモコンを向ける必要がある。

 実際に使ってみて、特に感動的なのが、Webブラウザを使っているときだ。これまでのテレビ内蔵のWebブラウザでは、まず、ページ内の目的の位置にカーソルを持って行くためにひたすら十字キーを押しっぱなしにしなければならなかったが、マジックリモコンならばレーザーポインタを動かす感覚でササっと一瞬で希望する位置にカーソルを持って行ける。上下方向のページ送りも、マジックリモコンのスクロールホイールを回すことで行えるため、PCを操作している感覚に近い。

 文字入力はソフトウェアキーボードで行なう事になるが、十字キー操作ではなく、マジックリモコンのポイント操作で行えるのでかなり楽だ。それこそ、スマフォの文字入力の感覚に近い。テレビ内蔵のWebブラウザを初めて「使っても良いかな」と思ったほどだ。


内蔵WebブラウザでAV Watchを開いたところ。マジックリモコンの操作はまさにマウスの操作系をレーザーポインタで実現してしまったような感覚。希望のリンク先も軽々ポイントできる

 メディアプレイヤーの操作などにおいても、再生中のコンテンツに対し、希望の再生位置に、再生マーカーをマジックリモコンでドラッグ移動操作できたりもする。そう、マウスの操作感覚が違和感なく持ち込めるのだ。

 逆に、やや肩すかしだったのは、55LM9600のメニュー操作において、メニュー項目の選択こそマジックリモコンのカーソルポインティングで行なえるもの、複数ページまたがるメニューアイテムのスクロールはできないことだ。それと、マジックリモコンを使えば使い込むほど、シンプルリモコンと一体化していないことを残念に思えてしまう。というのも、普段のテレビ操作はシンプルリモコンで、ネット関連機能の操作はマジックリモコンで行なうことになるので、2つのリモコンを持ち替えるシーンが結構生じるのだ。このリモコン持ち替えがストレスなので、是非とも次期モデルでは、この2つのリモコンを1つに融合させて欲しいと思う。


LG製SmartTV用のアプリサイトアプリサイトからダウンロードできるこうしたカジュアルゲームも、マジックリモコンでプレイすることが可能

■ 画質チェック ~直下型の白色LEDバックライトによるエリア駆動に対応。発色も良好

RGBの各サブピクセルは逆"く"の字状になっている

 LG製のテレビなので、当然、液晶パネルはIPS方式。解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)。RGBの各サブピクセルは逆"く"の字型だが、開口率は高く、中間色の面表現でも粒状感は特に感じられず。表示面に極端に近づいて見たときには、角度の浅い斜め線で、若干カクツキ感があるようにも見えるが、日常的な視聴距離では気にならない。

 バックライトは「FULL NANO LED」と呼ばれる、極薄のLEDアレイ基板によって実現される直下型白色LEDバックライトシステムを採用。白色LEDの個数は非公開。映像の明暗に適応させて直下の光量を調整するエリア駆動に対応するが、そのエリア数も非公開となっている。ただし、エリア駆動を駆使した上での動的コントラスト値は1,000万:1と公表されている。


FULL NANO LEDの概念図

 エリア駆動付きの直下型バックライトシステムでしばしば問題になるHALOエフェクトは感じられない。HALOエフェクトとは、直下にあるLED光源の実体から直接照らされる領域と、拡散板などで拡散された光によって照らされる領域との明暗差が映像表示に露呈してしまう現象で、光輪(HALO)のように見える事からこの名前が付けられている。

 LG関係者によれば、従来機よりもエリア駆動のダイナミックレンジを控えめにすることで、視覚上は認識できないほどにHALOエフェクトを抑え込んでいるとのことであった。

 となれば、同一フレーム内で明暗差が激しい映像を表示させた場合に、明部の伸びと暗部の沈み込みの振り幅が狭くなってエリア駆動の画作りの面白みがスポイルされないかと心配もしたのだが、実際に、映像を見てみるとそれは杞憂だということを知る。


LED部分制御=オフ。右側の暗部で黒浮きが確認できるLED部分制御=弱。黒浮きが一気に低減される
LED部分制御=中。明部の明るさが増すLED部分制御=強。コントラストが最大になる

 このエリア駆動の振る舞いは「LED部分制御」という調整項目で「オフ-弱-中-強」のチューニングが可能だが、「弱」設定でも、暗部の沈み込みは必要十分であった。中、強と上げていくとコントラスト感は増すが、階調のブーストではなく、輝度のダイナミックレンジの違いで描き出されるコントラスト感なので立体感が増して見える。

 黒の背景に棒状の白いオブジェクトを回転させたり、移動させるテスト映像を見てみたが、白いオブジェクトの周辺の背景側の黒の沈み込み具合には大きな変化はなく良好だ。エッジバックライトシステムで簡易的なエリア駆動を行なう機種では、こうはいかない。55LM9600のエリア駆動はかなり優秀だと言える。

 中間階調の単色映像を表示させてみても、輝度ムラはほとんど感じられない。これは、反射板、光拡散板、そして実体光源に近い箇所ほど多く遮光するような遮光パターンの最適化によって実現されていると推察される。

中明の緑を画面全域に表示してみた。外周が若干暗いのが分かる。ここは改善すべき課題

 ただ、1つ、気になる点も見つかった。それは、狭額縁にこだわりすぎたせいか、映像の最外周が若干暗いことだ。これは、次期モデルでは手を入れる必要性があると感じる。

 発色は、良い意味で主張のないリファレンスモニター的な色使い。sRGBのHDテレビ向け色域を忠実に再現したような感じだ。赤はやや朱色に寄った感じがするが、それ以外では気になるところはなく、雑味の少ない発色となっている。赤の色あいをどうしても深い方向に求めたい人は「色域」設定を「ワイド」ないしは「SMPTE」に設定するといい。


「色域」は「スタンダード」「EBU」「SMPTE」「BT709」「ワイド」から選択可能色域=スタンダード色域=EBU
色域=SMPTE色域=BT.709色域=ワイド

 肌色の発色は特に美しい。黄味乗りが殆ど無く、太陽光を浴びて白いハイライトが出ている付近でも、白飛びせずに透明感のある肌色の質感が伝わってくる。かといって冷たい白にシフトしているわけではなく、濃いめの陰影が出ている肌にはちゃんと血の気も出てくれている。肌色の発色はかなり気を遣ってチューニングしている印象がある。

 他の色においても色ダイナミックレンジが高く、かなり暗部でも色味が維持されている。また、発色とエリア駆動とのバランスも良く、明部においては煌めくように発色し、暗部では沈み込んだ発色をする。なので、暗部と明部が混在する映像においても情報量が多く見える。

 もちろん、エリア駆動は、階調表現とのバランスも文句なし。超解像機能は、効きが非常にマイルドで、映像によってはオンとオフの差が分かりにくい。HD映像はまだしも、SD映像に対してはもう少し強い効き目のモードがあっても面白いと思うのだが……。

 韓国LGのテレビと言うことで、日本向けの画作りの好みからずれているのではないか…と最初は心配もしたのだが、実際に、じっくりと見てみても粗は見当たらない。

 動画の残像低減機構として4倍速240Hz補間フレームに対して、バックライトの明滅を組み合わせた8倍速、480Hz相当の「TruMotion480」機能を搭載している。

 本連載の評価ではよく使っている「ダークナイト」の冒頭とチャプター9のビル群のフライバイシーンは、「TruMotion」の設定を「強」にしても、ピクセル振動は起きず、極めてスムーズな動きを見せてくれた。動きベクトルの検出をかなり広範囲に実践していると思われる。

 続いて、動きの少ない背景に対して、動体が移動するシーン(例えば「ダークナイト」ならば、冒頭の、二人組の盗人がビルからビルへロープで滑り渡るシーンなど)を見てみたが、こうしたケースでは動体の輪郭に歪みノイズが出ることが確認された。この現象を再現するには、PCなどで、Web画面や画像を表示し、その上でマウスカーソルやあるいはウィンドウなどを動かしてみるといい。背景との境界面に歪みノイズが出ることが分かるはずだ。

 その他、様々なシーンをチェックしてみたが、傾向として上下左右のような画面全体が動くカメラパン、奥行き方向に進む3Dスクロールのようなシーンには極めて優秀な補間フレームを生成するのだが、映像内をオブジェクトが動くシーンにおいては、その優秀性が発揮できないと感じられた。ここは次期モデルで解決すべき課題として指摘しておこう。

付属のパッシブ型の3D眼鏡

 3D立体視にも対応しており、2組の3Dメガネが付属している。LGは「CINEMA 3D」というブランド名称でパッシブグラス式、いわゆる偏光方式の3D立体視を推進しているメーカーだ。

 偏光方式の3D立体視では、偏光方向の異なるパターン化位相差フィルム(FPR:Film Patterned Retarder)を映像表示面の偶数ラインと奇数ラインに貼り合わせ、二組の1,920×540ドット映像を表示する。見る側は、特定の偏向方向の光のみを通すレンズを左右にあしらった偏光眼鏡を掛けて見ることで、同一表示面に表示された左右の目用の映像を、左右の目で振り分けてみることで立体視を得る。より詳細な考察については立体視に対する考察をまとめた本連載第147回を参考にして欲しいが、LGでは、倍速時(55LM9600ではTruMotion480有効時)、1,920×1080ドットの映像を間引くのではなく、偶数ラインの1,920×540ドット分と、奇数ラインの1,920×540ドット分を時間方向に重ねて表示することで解像度情報の欠落がないことをアピールする。


【LGによる偏光3D立体視の解説映像】

 実際に、Blu-ray 3Dの「怪盗グルーの月泥棒」の3D映像を見てみたが、まず、クロストーク現象に関しては、ほぼ皆無と言っていいレベルで見ることができた。これは、偏光方式の構造的な強みだ。

 また、アクティブグラスと違い、シャッターが閉じることがないので、得られる3D映像が極めて明るく、蛍光灯照明下でも違和感なく3D立体視が行えていた。この部分も、また、偏光方式の構造的な強みである。

 なお、LGの偏光方式は、円偏光方式なので、首を傾けても偏向方向がぶれずクロストークが出にくい。ただし、映像を見下ろしたり、見上げたりするような視線方向では偏光フィルムと表示画素の関係がずれてしまうため、クロストークが出てしまう。まぁ、床下から寝そべって見ない限りはこうした状況は起こりえないので、実害はない。

 1,920×540ドットの左右映像になることについては、やはり、角度の浅いドット単位の表現で、弱いエイリアシングを感じる。

 また、前述した、TruMotion480有効時に実践される時間方向に偶数ラインの1,920×540ドットと奇数ラインの1,920×540ドットを重ねる表示モードに関しては、概ね良好に見えるのだが、「怪盗グルーの月泥棒」ではグルーがアップになったときに彼が着ているスーツの布模様に対して点滅が確認された。TruMotion480をオフにすると点滅が消える。これは、ドット単位の高周波のディテール表現が、1ドット分とはいえ空間位置がずれて時間方向に重ね合わされるので点滅のアーティファクトが出てしまうのだと推察する。

 こうした点滅アーティファクトを回避して安定した、3D映像を見るならばTruMotion480は切っておいた方が良いかも知れない。

 さて、3D映像を見ていると、前後関係の立体感だけでなく、3D映像内のオブジェクト達の立体的な動きが見えやすいのに感動を覚えることがある。これは、アクティブグラス方式の3D立体視のように「シャッターで断続的に切られて表示される左右の映像を片目ずつで見る」のではなく、パッシブグラス式の3D立体視の「連続的に表示され続ける左右の映像を両目で見る」ことが起因しているに違いない。この点も「偏光方式の強み」だといえる。

商品セットには「デュアルプレイ」対応の3D眼鏡も付属する

 さて、55LM9600には、この3D立体視の実現技術を応用した、「デュアルプレイ」と呼ばれるユニークな機能が搭載されている。

 これは、上下、あるいは左右に画面分割されて表示される2プレイヤー分の映像を、偶数ラインの1,920×540ドットと奇数ラインの1,920×540ドットに振り分け、全画面として表示する機能になる。

 そのままだと、プレイヤー1とプレイヤー2の映像がただ重ね合わさって映っているだけに見えるが、55LM9600に付属する2組の「デュアルプレイ」専用メガネを掛けると、掛けたメガネに応じて、プレイヤー1ないしはプレイヤー2の映像だけが全画面表示で見ることができる。そう、3Dメガネの左目用レンズを両目にあしらったメガネと、3Dメガネの右目用レンズを両目にあしらったメガネが、デュアルプレイ用メガネなのだ。

プレイするゲームが左右分割なのか縦分割なのかをあらかじめ設定するメニューが、「機器設定」メニュー階層下の「デュアルプレイ」項目だ

 このモードは55LM9600メニュー内の「マイアプリ」の「デュアルプレイ」アプリを利用することで発動する。

 通常のテレビでは、画面分割された状態で2プレイヤー分の映像が表示されてしまうため、相手プレイヤーの動向をカンニングすることができてしまうが、このLGのデュアルプレイではそれを防ぐことが出来る。そして、なにより、分割された半分の面積の画面ではなく、映像表示面全域で自分のプレイ画面を確認できる見やすさがうれしい。そして、このデュアルプレイ用メガネを外しても、自分のプレイ画面と相手のプレイ画面が重なって見えてしまうため、相手の動向を探るカンニング行為をある程度は防ぐことができる。

 実際にどんなゲームが対応しているのか気になると思うが、別に、LGテレビに専用対応している必要はなく、画面を上下2つ、あるいは左右2つに、2等分に分割していればどんなゲームでも基本的にはこの機能が利用できる。

 実際に「ピクミン2」(ゲームキューブ)と「Forza Motorsport 3」で試してみたが、ちゃんと2プレイヤー分の映像が全画面表示できていた。

 1つ、割り切る必要があるのは表示映像のアスペクト比だ。もともと画面を2分割した表示状態で正しいアスペクトで表示されているゲーム映像を引き伸ばしてテレビ画面の全域に表示するわけなので、アスペクト比が狂ってしまうのだ。例えば上下に2分割したゲーム画面をデュアルプレイ機能を用いて全画面表示させると、妙に縦長な映像になってしまう。

 これを回避するには、ゲーム側で、あらかじめ、デュアルプレイによって引き伸ばし表示となってしまうことを折り込んで映像のレンダリングを行なう必要がある。現状でそういったゲームソフトはないのでこの機能は「おまけ機能」的に捉えるべきかもしれない。


「Forza Motorsport 3」より。通常では、このようにテレビを上下に画面に分けての対戦プレイとなるデュアルプレイ機能を有効化するとこのような表示になる
カメラにデュアルプレイ用メガネを装着して撮影。黄色い車のプレイヤーの映像カメラにデュアルプレイ用メガネを装着して撮影。赤い車のプレイヤーの映像。アスペクト比がおかしくなってしまうのが残念……

 なお、ソニーのプレイステーションブランドの3Dディスプレイの「CECH-ZED1J」のSimulView機能は、アクティブシャッターグラスを用いて55LM9600のデュアルプレイと同様の機能を実現する。なので、「PS3のSimulView対応ゲームならばそうした全画面表示時のアスペクト比の歪みを回避するレンダリングを行なってくれるのではないか?」と予想し、SimulView対応ゲームの「グランツーリスモ5」で試してみたが、うまくいかず。PS3に接続したディスプレイがCECH-ZED1Jでないと、SimulViewは利用出来ないようだ。

 LGもこのデュアルプレイ機能を「おまけ」ではなく、ちゃんとした「使える機能」として訴求していくならば、ゲーム側の対応を求めていく必要があると思う。


■プリセット画調モードのインプレッション

【あざやか】

 色温度が高く、全体に青みを帯びる。明部の輝度が最大限に引き上げられるが、意外にも階調の破綻は少ない。発色も白色LEDを輝度優先で光らせた時に起こる黄や青が強くなる傾向もなく実用性は高い。アニメやCGアニメなどとの相性は良い。


【標準】

 リファレンスモニター的な画調で万能性が高い。発色も素直で、あらゆるコンテンツと適合する。色温度も白が純白に近いチューニング。階調は暗部をしっかりと描き出しつつも、明部の伸びもそれなりに確保されている。常用するならばこれだ。


【シネマ】

 色温度が低めに設定された、やや赤みを帯びたような色あいの「いかにもシネマ」的な画調モードだ。輝度は控えめで、暗部階調はもかなり漆黒から立ち上がる。基本的には消灯、暗室状態での視聴を想定したチューニングだ。人肌の表現にも暖かみがある。


【ゲーム】

色温度や発色の傾向は「標準」とよく似ているが、最大輝度や階調特性は「シネマ」に近い。捉え方としてはやや暗めな「標準」といった感じだ。モード名とは裏腹に、一般コンテンツ視聴時に使用しても違和感がない画調モードで実用性は高いと感じる。


■遅延のチェック

 ゲーム用途をアピールしている機種なので、表示遅延の測定を行なった。比較対象は、テレビとしては業界最速の表示遅延約0.2フレーム(約3ms)を誇る業界最速の東芝REGZA 「26ZP2」だ(写真では左の画面が小さい方が26ZP2)。

 測定結果は画調モードによって差があり、「ゲーム」モードで60Hz時、約3.4フレーム(約57ms)、「標準」モードで60Hz時、約5.0フレーム(約84ms)。「ゲーム」モードに関しては3D立体視(サイドバイサイド)モードでも計測してみたが、この時は60Hz時、約4.0フレーム(約67ms)だった。

 ゲームモードに関しては、できれば約1フレーム前後にまで短縮できるとよいと思う。

 ただ、表示遅延について昨年、開発関係者に意見を述べたことがあるが、「LGとしては低遅延性能はテレビではなくPCモニターで追求していく」という返答であった。

「ゲーム」モード時の表示遅延は約3.4フレーム(26ZP2に対しての相対結果。以下同)「標準」モード時の表示遅延は約5.0フレーム3D立体視かつ「ゲーム」モード時の表示遅延は約4.0フレーム

■ 上品な画作りになったLG Smart TV

 強力なネット連携によるSmartTVとしてのスペックと、薄型の狭額縁デザインが強く訴求されたモデルだったので、画質に関しては大きな期待をしていなかったのだが、意外や意外。よい意味で、予想を裏切られる結果となった。

 あえて派手さを避けた上品で原信号主義な画作りは日本のユーザーをも納得させられるクオリティになっていると思う。実際、昨今の日本導入モデルは、日本ユーザーが好む画質を研究して画質チューニングを行なっているそうで、そうした取り組みの賜と言ったところか。

 そうした“きまじめ”な取り組みが評価できる一方で、韓国メーカー特有のスペック重視志向で課題を残す部分もあった。本稿で指摘した外周の輝度の落ち込みは、狭額縁スペックにこだわりすぎた弊害だろう。こうした部分を改善できていければ、さらに日本メーカー製に対する競争力を増していけるはずだ。

 価格に関しては、55LM9600の実勢価格も約30万円となかなかの“強気”。一方で、NANO FULL LED非採用で、2倍速駆動ベースのTruMotion240を採用した1クラス下位モデルの同画面サイズモデル「55LM7600」は、お買い得感の高い約17万円前後となっている。

 既にPCユーザーには高い認知度であるLGブランドのPCモニターに対し、日本ユーザーが抱いているイメージは「コストパフォーマンスの高さ」だ。テレビにおいても、コストパフォーマンス的に優秀な55LM7600は、すんなりと手を伸ばしそうに思える。一方、日本メーカー製のハイエンド機とほとんど価格差が無いハイエンド機「55LM9600」は、日本でどのように受け止められるだろうか?

(2012年 7月 17日)

[Reported by トライゼット西川善司]

西川善司
大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちらこちら。近著には映像機器の仕組みや原理を解説した「図解 次世代ディスプレイがわかる」(技術評論社:ISBN:978-4774136769)がある。