エンタメGO
ナチス+陰謀論=恐竜!? なぜかジョブズ登場「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」
2019年7月30日 07:00
7月12日から公開中の映画「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」。第二次大戦後、ナチスが月面に落ち延びていたらどうなる? そんなトンデモ設定で話題を集めた「アイアン・スカイ」(2012年)の続編ですが、本作もそれに輪をかけてぶっ飛んだ物語。なんでナチス映画に恐竜やスティーブ・ジョブズ(?)が出てくるのか!? おそるおそる観に行ってみました。
前作は「ナチスの危険さ」満載の映画
最初に、前作「アイアン・スカイ」を振り返っておきましょう(以下「アイアン・スカイ1」と呼称)。Amazon Prime Videoの見放題の対象となっているので、鑑賞は比較的簡単。ブロンド・胸開き・ミニスカのナチス制服美女がデーンと登場するパッケージアートをご覧になった方もいるかもしれません。
物語は、再選を目指すアメリカ大統領が、その宣伝のために月面有人飛行を計画するところからスタート。宇宙飛行士たちは見事、月の裏側に選挙キャンペーンバナーをはためかす事に成功。しかし、その傍らには、外観からしてそれはもう明らかにナチスにしかみえない秘密基地が……。
この基地には、第二次大戦終結後数十年を経てなおナチスの残党が生き延びており、地球帰還を画策。宇宙飛行士の1人・ワシントンは基地に囚われてしまいますが、彼が黒人だったことから、アーリア人至上主義者だらけの基地はざわつくことに。ただ主人公の女性レナーテ・リヒターだけは、研究者として、違った眼差しでワシントンに接近し……。
時代遅れの技術を使い続けるナチスと、現代社会のカルチャーギャップが見どころの1つですが、さらに様々な人物の思惑も入り込んでいきます。月面基地の総統・コーツフライシュ、その後釜を狙う青年将校・アドラー、そしてアメリカ大統領とその選挙対策部隊などなど。宣伝のテイストからすると、思いっきりおバカ映画を想像するでしょうが、押さえるところは押さえ、風刺的メッセージもぶち込んできます。
筆者はナチスに詳しくないため、鑑賞中は「ここって笑っていいの? それとも不謹慎なの?」のせめぎ合い。国家が流れると、何かの作業中でも条件反射的に皆が例の敬礼をやるのには笑いましたが、“黒人を白人にする薬”を作ってしまうところなどはもう戸惑いしかありません。とはいえ、こういったところも製作者の狙いなのでしょう。その意味においては、アイアン・スカイ1を見ると、ナチスの怖さについてちゃんと勉強したくなりました。
出演者の多くは、日本ではあまり馴染みのない方々。一番有名なのは、総統役のウド・キアでしょうか。ウェズリー・スナイプス主演のアメコミ映画「ブレイド」(1作目)に古老ヴァンパイアたちのリーダー役で出演していました。アドラーを演じたのは「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」で、メディア王の部下役だったゲッツ・オットー。20年以上前の作品なので、流石に面影は変わってました。
ナチス味は薄め、あふれ出るアドベンチャー&オカルト陰謀論
さて、ここからが本題の「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」の話題。本作の鑑賞前には、アイアン・スカイ1を見ておくことをお勧めします。物語の時系列が繋がっていますし、なにより主人公・オビはレナーテ(と、前作の主要人物)の娘。レナーテ自身も老いた姿で登場するので、1を見る見ないでは、だいぶ思い入れが変わるでしょう。なお、アイアン・スカイ1は93分(通常版)と短めで、前述のようにAmazon Prime Videoの見放題に登録されているので、見やすいと思います。
なお、公開から約2週間が経過し、関東圏ではかなり上映規模が縮小。ただ、TOHOシネマズ日比谷では夜間帯に1日2回上映中(7月29日時点)ですし、地方では8月・9月になってから上映するところもあります。詳しくは公式サイトでご確認を。
物語の舞台は1の30年後。地球人類と月面ナチスの戦いは地球側が勝利したが、結局は核戦争で自滅。生き残った人々は、総統を失った月面基地へと身を寄せることに。
基地での生活は窮乏を極めていましたが、それでも上流階級・支配層が存在。そこへはびこっていたのが、なんと「ジョブズ教」という新興宗教。スティーブ・ジョブズを神と崇め、お祈りにはアプリを使用。しかしiPhoneを“ジェイルブレイク”した信者には慈悲なき罰が下されるなど、まさに悪夢的世界が広がっていました。
そこへ突然やってきたのがロシアからの避難民を乗せた宇宙船。前作で死んだはずの人物も再び現れ、さらには基地の窮状を回復させる、ある物質の存在を明かしたのです……。
と言うわけで、この物質を探す冒険の旅が「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」の軸。向かう先は、オカルト論でおなじみの“あの”世界。しかも、この世にいないはずのヒトラー、さらにはスティーブ・ジョブズ本人(?)の姿もあり、ジョブズ教の信者たちは沸き立ちます。
ここまで書いていても、もう何がなにやらですが(笑)、とにかく物語のテーマはいくつもあって、母と娘、難民問題、歴史上の偉人・天才・独裁者にまつわる陰謀論、恐竜との戦い、主人公・オビの恋模様まで、様々な切り口で描かれています。初見では、これらの要素を全部は飲み込みきれないかも知れません。
登場人物は滅茶苦茶で、ぶっちゃけ偏見にも溢れた内容ですが、作り手たちは大真面目にバカをやっている(?)せいか、笑いながらもところどころでは“全くあり得ない話ではないかも”と思わせる不思議な説得力があるのもポイントです。
相対的に、“ナチス描写”は前作からやや少なくなった印象。「イングロリアス・バスターズみたいに、ナチスがとっちめられるところが見たい! 」というより、むしろ「メン・イン・ブラック」シリーズだったり、シンプルなアクションアドベンチャーを求めている人に向いていそうです。
個人的結論として、「アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲」を楽しむコツは、まず「前作を見る」、そして「その前作とのあまりの違いぶりにツッコミを入れつつ鑑賞する」の2つ。アベンジャーズやスター・ウォーズなど超大作ももちろん面白いですが、その箸休めとして、ゆるりと楽しみましょう!