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「翔んで埼玉」を埼玉人が観てみた。めくるめくディスの果てにあったもの

どうもこんにちは、埼玉県生まれ、埼玉県育ちのライター・森田秀一です。自宅から最寄りのスターバックス(ドライブスルー付き)まで車で約20分かかります。

「翔んで埼玉」を「MOVIXさいたま」で鑑賞して参りました

埼玉県民なのでさいたま市で「翔んで埼玉」を観た

いやー、映画「翔んで埼玉」が大ヒットだそうですね。公開となった2月22日の週末興行ランキングで1位に。 興行収入も20億円を突破したそうです。

(c)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

埼玉に住んで約40年・生粋の埼玉人からすると、まさかまさかの事態。というか、この映画の話を聞いて、最初は「埼玉県でしかやらないのかな? 」と思ってました。北海道や九州の人は、果たしてどんな気分で見てくれたのだろうか……。

と言う訳で、私も遅ればせながら鑑賞してきました。場所はもちろん、さいたま市のシネコン「MOVIXさいたま」。近所にはさいたまスーパーアリーナはもちろん、映画冒頭にほんのちょっとだけ映った車載オーディオのメーカー・クラリオンの本社もそばにあります。

足を運んだのは公開4週目の水曜だったのですが、聖地(&レディースデー)効果なのか、502名収容のシアター12で客席は6~7割の入り。平日の夜、しかも21時スタートの回でここまでとは。ちなみに、筆者が見に行った日は、1日あたり7回も上映していました。

(c)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

復刻で話題のコミックがまさかの実写化。衣装にも注目

物語のあらすじはこんな感じ。

その昔、埼玉県民が東京都民からひどい迫害を受けている世界が舞台。まるで映画かおとぎ話の中でしか見ないような煌びやかさを誇る白鵬堂学院に、転校生・麻実麗(GACKT)がやってくる。都知事の息子で学園の生徒会長・壇ノ浦百美(二階堂ふみ)は、彼の不遜な態度を苦々しく思っていたが……。2人の出会いは、いつしか東京と埼玉、そして千葉をも巻き込んだ一大スペクタクルへと発展していく。

原作は魔夜峰央が1986年に発表したコミック(未完)。2015年に宝島社から復刊され、大いに話題となりました。「埼玉県民にはそこら辺の草でも食わせておけ!」という刺激的なフレーズをご記憶の方もいるでしょう。このセリフもきっちりと映画本編で再現されております。

MOVIXさいたまでは、登場キャラクターの装飾がこんなにたくさん

肝心の映画の感想ですが、正直もう「お見事! 」 この一語に尽きます。冒頭、謎のダンスを踊る一団を見た瞬間だけは「おいおいどういう始まりなんだよ」と心の中で突っ込みを入れましたが、それ以降はもうとにかくテンポよく進んでいく話を堪能できました。物語の第一幕・第二幕・第三幕でそれぞれビジュアルの雰囲気が大きく異なるのも、飽きさせない要因でしょう。

俳優陣のほうは、演技はもちろんですが、衣装がこれまたステキな感じ。主人公の百美は、予告編や公式サイトではあまり映ってないのですが、ヒールが高めの靴(ブーツだったかな? )だったり、全身像がなかなかカッコいい。そして、 都知事の執事・阿久津翔を演じる伊勢谷友介には役者魂を感じました。

(c)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

“埼玉ディス”の果てに、なにがあった?

未見の人だと、興味の対象は「どれくらい埼玉ディスがひどいのか」でしょうが、県民からしてみると、だいたいどれも一度は聞いたか、心当たりがある内容で、取り立ててまぁ怒るほどではないな、という感じ。本編が二重構成になっていて、麗や百美が活躍する物語パート、それをラジオドラマ風に聞くという立て付けの現代パートに分かれているのが、功を奏しているのでしょう。直接的なディスは基本的に現代パートで処理し、物語パートで描かれるディスは徹底的に寓話化しているので、もう笑うかあきれるしかないという……。

自腹でパンフレット買うくらい、楽しんで見てしまいました。グッズの埼玉通行手形とかも、ちょっと欲しかった

序盤のクライマックス、ある埼玉名物を“踏み絵”させられるシーン、これをもし現代パートでやったら相当重いはずです。マントやら縦ロールやら、鹿鳴館ばりに華美な登場人物たちばかりが登場する物語パートに割り当てているので、うまく中和されています。

もう1つ象徴的なネタは「度を超した海憧れ」。確かに埼玉県は海なし県ですよ。海水浴なら九十九里浜、潮干狩りなら木更津、サザエが食いたきゃそりゃあ江ノ島行くしかないですよ事実として。40歳を超えた今ではもう「海なくてもいいや。車とか建物とか錆びるし」と割り切れますが、子供の頃は海憧れが強かったっけなぁ。

小ネタももちろん豊富です。他県でも有名な(はずの)ファッションセンターしまむら、山田うどん、十万石まんじゅうあたりはしっかりと出てきます。そういえば、東京近郊でいまモリモリ増えている中華食堂チェーン「日高屋」は埼玉発祥なんですけど、言及はなかったようで、ちょっと寂しい。ていうか、日高屋って関東にしか出店していないことに初めて気づきました。

(c)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

そして笑いだけでなく、至極まっとうなメッセージを発しているのもこの映画のいいところ。政治的分断だとか格差だとかヘイトだとか世の中いろいろあるけれど、それを乗り越えていこう。“埼玉ディス映画”だったはずなのに、思わずグっときてしまいました。

「単なる悪口映画じゃないの? 」という先入観を持っていた方は、どうぞご安心を。約2時間の映画を見終わると、それはそれは行き届いた脚本に驚かれると思います。単に話のオチに「ダ埼玉」をもってくるのではなく、その先を、出身県に関わらず考えさせてくれるはず。それでいて埼玉知識も身につきます! “アカデミー賞受賞”というタイプではないかもしれませんが、娯楽映画として大満足でした。

さて、これだけのヒットとなると、やっぱり続編も気になります。「翔んで埼玉2」なのか、それとも別の県が題材になるのか。もし、お住まいの県が選ばれても、怒らないであげてくださいね。

(c)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会

森田秀一

1976年埼玉県生まれ。学生時代から趣味でパソコンに親しむ。大学卒業後の1999年に文具メーカーへ就職。営業職を経験した後、インプレスのWebニュースサイトで記者職に従事した。2003年ごろからフリーランスライターとしての活動を本格化。主に「INTERNET Watch」「AV Watch」「ケータイ Watch」で、ネット、動画配信、携帯電話などの取材レポートを執筆する。近著は「動画配信ビジネス調査報告書 2017」「ウェアラブルビジネス調査報告書 2016」(インプレス総合研究所)。