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放送延期に負けるな! アルテ、ARGONAVIS、春アニメの注目曲はコレ

2020年の春は、アニメファンにとって決して忘れられないクールになった。筆者は、レコーダーの予約録画が、次から次へと動作しなくなっていく様にとても心を痛めた。公式Twitterの放送延期アナウンスに涙を呑んだ方も多いだろう。言うまでもなく、関係者の方々の命を守るため、制作の延期はやむを得ない判断だ。多くのアニメファンがキャストや制作者に向けて暖かい言葉を投げかけ、放送の再開を心より待つと声援を送っていた。未だ事態は予断を許さない状況ではあるが、再開の折には熱い応援と最大級の感謝を示したいものだ。

本企画は、音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介するもの。時勢を鑑み、3曲の内1曲は再放送に差し替えられた作品から紹介している。早速、今期の注目ソングをみていこう。

アルテ OP主題歌「クローバー」(48kHz/24bit)

坂本真綾/クローバー

16世紀初頭のイタリア・フィレンツェを舞台に一人の少女が画家を目指して奮闘する物語。原作は、月刊コミックゼノンにて連載中だ。性別や生まれで人生が決められてしまう時代。どんな逆境にもめげず、自分のやりたい夢を貫き通すアルテのガッツに励まされる。性別を理由にした差別は現代にも根強く残るものの、何百年にわたって不屈の精神でたたかってきた先人たちの努力に心からの敬意を覚える。個人的には、アルテがいなくなってすっかり沈んでしまったレオさんに萌える。本作のメインヒロインはきっとレオ親方だろう。

(C)大久保圭/コアミックス,アルテ製作委員会
(C)大久保圭/コアミックス,アルテ製作委員会

OPは坂本真綾が担当。本人が作詞を担当している。作曲は、声優への楽曲提供や映像音楽でも広く活躍する水口浩次。編曲は坂本作品への参加も多い河野伸が手掛ける。自分を信じて前向きにがんばるアルテを思わせるまっすぐな歌詞を、疾走感のあるアレンジで歌い上げるポップナンバー。

ハイレゾ版を聴く。本楽曲は、とにかくドラムがカッコいい。2番以降は手数も多くなり、ライブの演奏を聴いているような興奮を覚えた。ミックスもドラミングの映えを意識してか、中域を意図的に厚めにグッと前に出る音像に仕上げている。特にタムの音が太いので、テレビの圧縮音声と比べるとずいぶん存在感が増していた。ただし、ボーカルはドラムの帯域とケンカしないよう丁寧に調整されている。ストリングスは、生演奏の音の広がり感や滑らかな質感が聴き所。坂本真綾の楽曲は、48kHzが多く実にもったいないと思う。演奏や歌のクオリティが高いほど、次こそは96kHzで聴きたいと願わずにはいられない。

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・坂本真綾/ クローバー

ARGONAVIS from BanG Dream! OP主題歌「星がはじまる」(96kHz/24bit)

ARGONAVIS from BanG Dream!/星がはじまる

もはや説明不要。超人気メディアミックスプロジェクト、BanG Dream!のボーイズ版が満を持してテレビアニメ化。北海道函館を舞台にバンド活動をすることになった5人の大学生。プロを目指し活動するが、ライバルバンドや同事務所マネージャーを交えた展開は、きれい事では片付かない大人の事情もあって、それがドラマに奥行きを与えている。

筆者がお気に入りの白石万里くん(ドラム担当)は、最初お金目当てで醒めた感じなのだが、途中から本気でARGONAVISに向き合うようになる。バイク事故で脳に障害が残ってしまいドラミングに支障が出る寸前までいくが、仲間の暖かさに励まされ続けることを決意した。この事件が今後どうなるかは不明だが、例えばマニュピレーションやフィンガードラム等を取り入れつつ、障害を正面から受け入れながらバンド活動を模索する展開があったら個人的には熱い。筆者は指定難病当事者なので、ハンディを背負いながら夢を追う大変さは、痛いほど分かるからだ。

(C)ARGONAVIS project. (C)DeNA Co., Ltd. All rights reserved. (C)bushiroad All Rights Reserved.

OPは、作詞作曲をアニソン界でも多数活躍するUNISON SQUARE GARDENの田淵智也。編曲は、渡辺拓也が手掛ける。ボーカルは、主人公七星蓮役を務める伊藤昌弘。

ハイレゾを聴いた。ポップロックのバンドものながら、音量を上げてもあまりうるさくない。中低域は無駄に盛っていないので、聴き疲れにし難いミックスだ。よって躍動感も必要十分。ボーカルはリバーブ少なめでライブ感を重視。ナチュラル過ぎて、スピーカー試聴では少しオケに埋もれ気味になることもあったが、それも含めて味があると感じた。コーラスの実在感は、テレビ放送とはまるで別物。しっかり複数のキャストが歌っていることが分かるし、ライブで一緒に歌いたくなる“あの一体感”に近いものを感じさせてくれる。アニソンは、イヤフォンやヘッドフォンで聴くリスナーも多いとは思うが、ぜひスピーカーでも聴いてみてほしい。これはきっと幸せになれる。

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・Argonavis/ 星がはじまる

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続 OP主題歌「春擬き」(96kHz/24bit)

やなぎなぎ/春擬き

本来は4月クールから、最終章である「完」がスタートするはずであった。放送前に延期が決まり、第2期である「続」が再放送されることとなった。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 完
(C)渡 航、小学館/やはりこの製作委員会はまちがっている。 完

原作は、ガガガ文庫で刊行され昨年末全17巻で完結しているライトノベル。原作未読で一期を見逃していた筆者は、放送延期を録画された「続」で知った。ひとまず見始めてみると、深みのある青春群像劇に引き込まれた。

ひねくれた高校生の主人公八幡が、奉仕部で“本物”を求めて苦悩する様は、心をえぐるような展開も多いのだが、共感も強く呼び起こす。ぼっちでネガティブ思考の彼は、たやすく自らを犠牲にして、奉仕部に持ち込まれた問題を解決しようとしてしまう。ラノベ主人公らしく、その手腕は見事なのだが、逆にヒロインたちと軋轢が生まれてしまうのだ。本当の信頼とは何か。うわべではない真の関係性とは何か。時代が変わっても、普遍的なテーマを問い掛けているように思う。

OPは、一期から三期まで一貫してやなぎなぎが担当。作編曲はROUND TABLEの北川勝利。やなぎなぎのアニメタイアップは、アルバムになってからハイレゾ配信が行われる変則的なもの。ハイレゾのアルバムが売れれば、シングルでも配信がスタートするかもしれない。

バンドセクションと打ち込みが絶妙に混在しているデジタルポップチューン。シンセは、楽曲に独特の雰囲気を持たせるために多用されており、音の粒子はテレビ放送とは別次元の解像度だ。96kHzならではの広いレンジを使い、バンドとシンセが混濁することなく同居している。しっかりと分離した各トラックが疾走感を掻き立てて、没入度を高めてくれる。やなぎなぎのボーカルは、透明感のある高域とウィスパーボイスが聴き所だが、その空気感を余すことなく伝えてくれるのはハイレゾの醍醐味だろう。

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・やなぎなぎ/ Follow My Tracks

放課後ていぼう日誌
(C)(C)小坂泰之(秋田書店)/海野高校ていぼう部

今回の春クールで紹介を予定していた、放課後ていぼう日誌。第3話をもって放送延期となったが、7月7日から1話の再放送、7月28日から第4話の放送再開が発表された。主題歌のCD版も7月22日に発売延期になっているものの、ハイレゾ配信は既に行なわれている。声優陣が4人集まって「いっせーの」で同時収録しているという音源とのこと。これは珍しい。機会があれば、紹介できたらと考えている。

続々と放送再開が発表される中、制作に携わる皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。いかに日頃のアニメ視聴が心の栄養になっていたかを痛感する。本稿の読者の皆さまには釈迦に説法であるが、Blu-rayや音源等の購入により気持ちを形にして支援を送ることを呼びかけたい。

今日もお気に入りのアニソンを聴きながら……『気をつけていってらっしゃい!』

【使用機材】

  • NAS「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB (アイ・オー・データ機器)
  • ユニバーサルプレーヤー(ネットワーク再生)「BDP-103DJP」(OPPO Digital Japan)
  • AVアンプ「AVR-X6300H」(デノン)
  • スピーカー「RUBICON2」(DALI)
  • ポータブルプレーヤー「PLENUE R2」(COWON)

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト