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聴いて心のMP回復「まえせつ!」「魔女の旅々」など秋アニメ注目曲!

まえせつ!
(C)2020美水かがみ・KADOKAWA・Studio五組/ファームクラス

これを書いている12月25日現在、筆者が住む東京都は新型コロナウイルスの感染者数が大変なことになっている。東京はここ数日グッと気温も下がり、来月以降本格的な真冬が訪れるということで、底知れぬ不安感が拭えない。

そんな中、毎日のTVアニメには本当に助かっている。一話見る毎に心のMPが回復していくというか、間違いなく自分の栄養にさせていただいている。制作現場で身を削りながら奮闘されているであろう方々のご苦労は、容易に想像できるものではない。筆者の知合いのアニメ業界の方からも、非常に厳しい現状を伺っている。今、私たちがアニメを見られているのは、現場で踏ん張っている方々のおかげだと思う。深い感謝とできる限りの消費で、筆者はそれをわずかでも支えたい。

本企画は、音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介するもの。音楽もアニメファンにとってはなくてはならないものだ。アニソン聞いて、エナジー充填! 今期の注目ソングをみていこう。

まえせつ! OP主題歌「ピッピッピハッピー」(48kHz/24bit)

ピッピッピハッピー

バイトに明け暮れながら、お笑い芸人を目指す若き乙女たちのお笑い日常奮闘記。Studio五組とAXsiZの共同制作によるオリジナルTVアニメだ。キャラクター原案は美水かがみが手掛ける。お笑い芸人を目指す女性たちの泥臭くも、眩しい日常劇。いわゆる熱血! 号泣! ドラマティック! って感じの作風ではなく、日常コメディをベースとしつつ、リアルな下積み生活を見せてくる不思議なバランスに毎週目が離せない。

筆者は、音響エンジニアとしてお笑い芸人のWebラジオ番組に9年ほど関わらせていただいた。いわゆる、「笑いを作る裏側」はタブーなので語れないのだが、彼らは本当にとてつもなく真面目で誠実な人たちだ。笑いにどこまでも真剣でとことん突き詰めるプロたちだ。そんなお笑いの現場にいる方々を間近で見てきた自分としては、まえせつ! は見ていてハラハラというか、胃がキリキリみたいな別の感情も沸いてくる。

OP主題歌は、らき☆すたでお馴染み、あの神前暁氏が作・編曲を担当したお祭り&ハッピー感溢れるポップソング。歌唱はメインキャラ4人の声優陣が勤める。

ハイレゾ版を聞いた。もう音質レビューがどうでも良くなってしまうくらい曲とアレンジが素晴らしい。神前氏の唯一無二の神曲がまた誕生したと言って差し支えない。ご機嫌なブラスと、それに負けじとブイブイいわしてるバンドセクション。声優陣の軽快でハッピーな歌声、どれをとっても聴き所満載だ。

48kHz制作のセッションながら、ボーカルやコーラスの前後感や広がりはなかなかのもの。サビのユニゾンは音場に満遍なく広がり、コーラスになると左右に大きく開放的に広がる。スピーカーで聴いたとき、これはヘッドフォン向けかなと思って、ポータブルでも聞いてみたが相性バッチリ。ボーカルの分離もいい感じだ。

もちろん、スピーカー試聴ではオケのダイナミックな低音の躍動を楽しむことができる。ポップスでは、重低音をバッサリカットしてしまったり、プアーなスピーカー向けに中低音を過剰にブーストしている残念な音源も見られるが、「ピッピッピハッピー」のハイレゾ版はまったく心配なし。質感、量感、切れの良さともに高いクオリティで収録されているので、ぜひオーディオコンポでも楽しんで欲しい。

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魔王城でおやすみED主題歌「Gimmme!」(96kHz/24bit)

ORESAMA/Gimmme!

週刊少年サンデーで連載中の同名マンガが原作のTVアニメ。RPG風の世界観に魔物たちがいて、人間界の姫が魔王に人質としてさらわれてしまう。それを救うべく勇者が冒険する物語……ではなく、さらわれた姫が魔王城でひたすら安眠を求めて奮闘(暴走?)するというお話。

第一話で、安眠のためなら魔物たちを解体して寝具にし、城の魔物を懐柔して脱獄の手段を確立するなど、人並み外れたスヤリス姫の戦闘力と快眠への執念に度肝を抜かれた。とにかく、本作の魅力は、姫のぶっ飛んだキャラクター性はもちろん、魔王城の魔物たちが”いい人過ぎる“ということではないか。

終盤で実家に帰るというエピソードがあったが、スヤリス姫が魔物たちとの生活を通じて相互理解が生まれたような描写があった。安眠以外には興味がなさそうなスヤリスがひょっとしたら、魔族と人間の橋渡しになるのだろうかと期待してしまう。原作が17巻と長く続いているので、気になる方は続きを追いかけてみてはいかがだろうか。

魔王城でおやすみ
(C)熊之股鍵次・小学館/魔王城睡眠促進委員会

EDは、音楽ユニットORESAMAによるディスコチューン。本作の世界観にぴったりで、毎回とても明るい気分で終わりの余韻を味わえる。テレビ版の圧縮音声では気付かなかった音にいっぱい気付かされた。

ハイレゾ版は、所狭しと舞い踊るシンセトラックと、生のエレキギターの緻密な演奏が巧みに混ざり合って、楽曲のお洒落で愉快な世界観がさらに深く味わえる。ボーカルのぽんの歌声は、曲のジャンルの割にはナチュラルな仕上がりになっており、生声に近い有機的な質感も備える。

大サビのところでオルゴールとボーカルだけのシンプルな構成になるが、グッとリスナーの集中力を持っていく。ディスコ……は行ったことないが、こんな曲が流れたら間違いなく踊り出してしまうだろう。個人的には、低音パートの重心が少し高めなのは気になった。ヘッドフォンやイヤフォンでも聞いてみたが、傾向は変わらず。楽曲に合わせた意図的なサウンドメイクと思われる。

ハイレゾ版では、ボーカルの生っぽさとシンセ&ギターの細かなディテールが十二分に味わえるので、打ち込み系と敬遠しないで、一度聞いてみてはいかがだろう。

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魔女の旅々 OP主題歌「リテラチュア」(96kHz/24bit)

上田麗奈/リテラチュア

白石定規によるライトノベル「魔女の旅々」(GA文庫)をTVアニメ化。旅々は“たびたび”と読む。若くして魔法使いの最上位「魔女」になったイレイナが大好きな小説『ニケの冒険譚』の主人公のように各地を旅する物語。旅という題名らしく、毎回(毎話)場所を変えることにより、出逢いと別れを繰り返すイレイナの悲喜こもごもを描く。悲しい結末や、残酷な描写もあるが、魔女の師弟同士の交流も本作の魅力だ。

筆者は、イレイナの鼻っぱしを見事に折ってみせたフラン先生が好きだ。世代を超えた盗賊団との因縁が見事に決着するのは痛快だった。最終話のイレイナグールは、どんな可能性を辿ったイレイナだったのか、考えるだけ野暮かも知れない。

魔女の旅々
(C)白石定規・SBクリエイティブ/魔女の旅々製作委員会

主題歌は、本人も第8話でゲスト出演した声優の上田麗奈が歌唱。女性の髪の毛を奪いそれを人形に仕立てるちょっとアレな人格の「人形店の店主」として。まさかの配役と存在感であった。

作詞作曲はシンガーソングライターのRIRIKO。本作の独特な世界観を彼女が得意とするファンタジックな曲調で彩る。イレイナの成長を表現した歌詞を情感たっぷりに歌い上げる上田。難しいピッチの本楽曲を歌い切る力量もすさまじいが、まるでもう1人のイレイナがいるかのような錯覚に陥る表現力には圧倒される。フルバージョンのチェックはファンなら必須といえよう。

そんなボーカルの空気感や熱量を余すことなく伝えるのは、96kHzで録音されたハイレゾ版。ご自宅に上田麗奈が来てくれる、目の前で歌ってくれているような臨場感。本企画では何度も言ってきたが、ハイレゾの醍醐味はここにある。

一方、オケも負けていない。ピアノの太く実在感のある音は、音像に奥行きがあって伴奏の肝だ。バイオリンは、ソロっぽい目立つところも好きだが、低音がグッと盛り上がっている箇所でも結構頻繁に鳴っていて、ハイレゾなら耳を澄まさなくても聴き取れる。アコースティック楽器とシンセのリズムトラックが違和感なく共演し、作品のシビアながらもどこか優しい世界観を見事に表現した一曲。ぜひこの曲はスピーカーでも聴いてほしい。

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今年は、アニメのライブやイベントが相次いで中止になったり、オンライン配信へと切り替わった。筆者は、無料配信されるトークイベントの類いはいくつか視聴したが、東京在住でリアルイベントに参加してきた身からすると、現場の空気感が味わえないのはやはり切ないものだ。

年末に行なわれたとある老舗ゲームメーカーの有料配信ライブ。出演声優のトークコーナーとメーカー公式バンドのライブがセットになってチケットは4,000円也。値段設定が高いのか安いのか自分には分からなかったが、有料配信はカメラや照明、音のクオリティなど含め、驚きのハイクオリティであった。これがプロの仕事かと、ネットテレビで音響エンジニアをやっている筆者も身が引き締まる思いだった。

本来は生でやるようなイベントやライブが配信に置き換わるのは、今後もしばらくは続くとみられる。配信だからできること、配信だから見せられる(魅せられる)ことはきっともっとあって、新しい取り組みが増えていくのではないか、そんな嬉しい予感がした。

来年もアニメやアニソンから目が離せない。僕たちが信じて応援する限り、きっと”日常“は戻ってくるし、”新しい日常”から産まれた新感覚のエンタメが僕らを楽しませてくれるだろう。

【使用機材】

  • NAS「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB (アイ・オー・データ機器)
  • ユニバーサルプレーヤー(ネットワーク再生)「BDP-103DJP」(OPPO Digital Japan)
  • AVアンプ「AVR-X6300H」(デノン)
  • スピーカー「RUBICON2」(DALI)
  • ポータブルプレーヤー「PLENUE R2」(COWON)/ HPH-MT8(YAMAHA) / IE 400PRO(ゼ
    ンハイザー)

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト