【新製品レビュー】

持ち運べるテレビ新提案「フリースタイルAQUOS」

壁掛けも可能。シャープ「LC-20FE1」


フリースタイルAQUOS(LC-20FE1)

 地上アナログ停波に向けて、エコポイント終了後もテレビの販売台数は堅調に推移しているという。しかし、32型以上~40型超のサイズで大きなボリュームゾーンを形成していた昨年とは異なり、20型台から32型の小型~中型クラスの販売が伸びている。

 デジタル移行に向けた買替え需要もあるが、もう一つの要素は、寝室用など“2台目”の買替えが増えていることだ。そのため各社ともセカンドテレビ用の20~32型台のテレビを、価格を抑えながらネットワーク対応などの機能強化、あるいはカラーバリエーション展開などで、幅広い層に訴求している。

 そんな中、ユニークな提案を行なっているのが、シャープの「フリースタイルAQUOS」(LC-20FE1)だ。20型のディスプレイ部と、小型の地デジチューナ部から構成され、両者の間を5GHz帯のワイヤレス伝送を行なうことで、その名の通り“フリースタイル”なテレビ視聴を可能にするというもの。

 ディスプレイ部にはバッテリを内蔵しながら、重量も3.3kgと軽量のため、無線が届く家庭内であれば自由に持ち運び可能。また軽さを生かして、従来のテレビより簡単に“壁掛け”できるというのも特徴だろう。

 家庭内で持ち運べるテレビといえば、ソニーのエアーボード、ロケーションフリーなどが提案されていたが、最近のテレビ製品では少なくなってきた。一方、レコーダ内のDLNAサーバーの録画番組をタブレット端末などで見るといった提案が増えてきている。端末側がタブレットやPCではなく、あくまでテレビというのがフリースタイルAQUOSの特徴といえる。カラーはブラック(-B)/ホワイト(-W)/ピンク(-P)の3色で、ピンクは受注生産となる。

 また最近のAQUOSらしく、チューナ部は別売USB HDDと接続し、録画にも対応するほか、YouTubeやDLNAクライアント、USBメモリ内の動画/音楽/画像再生など、高付加価値なテレビとしての機能も盛り込んでいる。実売価格は10万円弱と、エントリークラスの40型も買える価格帯なので、セカンドテレビとして考えると贅沢だ。

 


■ ディスプレイ/チューナ間を無線接続。ユニークな壁掛けスタイル

 液晶ディスプレイ部とチューナユニットで構成され、ともに専用のACアダプタが付属する。

LC-20FE1。ディスプレイ部

 ディスプレイ部とチューナ部の接続は、5GHz帯の無線を利用し、チューナで受信したデジタル放送のMPEG-2 TSストリームをそのままディスプレイ側に伝送するため、原理的には画質劣化は生じないこととなる。

 ディスプレイ部は、20型/1,366×768ドットのUV2Aパネルを採用し、バックライトはLED。テレビコントラストが40万:1で、視野角は上下/左右各176度。2W×2chのスピーカーを内蔵するほか、バッテリも搭載。フル充電時に約2時間の連続視聴が行なえる。

 右脇に「フレームタッチボタン」を装備。右脇のタッチセンサーパネルに触れ、表示されるGUIに従って操作できる。右面には、HDMI入力も装備しており、Blu-rayプレーヤーなどを接続可能。ただし、HDMIミニ端子となっているため、ミニ端子のケーブルを用意する必要がある。また、USB端子を装備し、USB接続したデジタルカメラやUSBメモリ内の写真や音楽ファイルの再生も可能。ヘッドフォン出力も装備する。

 ディスプレイ部の外形寸法は486×24~33×295mm(幅×奥行き×高さ)、本体上部にはキャリングハンドルを搭載し、持ち運びが可能。充電はACアダプタ経由で行ない、充電時間は電源オフ時で約5時間、オン時で約12時間。

側面。スタンドで角度を調整する背面にキャリングハンドル
背面キャリングハンドルを装備HDMI入力がミニ端子となる点は注意したい
重量3.3kgで片手で持ち運べるカラーはブラック(-B)/ホワイト(-W)/ピンク(-P)の3色iPad 2との大きさ比較
チューナ部

 チューナ部は、地上/BS/110度CSデジタルチューナを搭載し、外形寸法170×180×36mm(幅×奥行き×高さ)、重量約0.7kg。USB端子に別売のUSB HDDを接続することで、デジタル放送録画にも対応する。なお、チューナ側にはUSB以外の外部入力は備えていない。

 また、Ethernetを装備し、家庭内のAQUOSブルーレイ内の録画番組やDLNAサーバー内の動画や音楽、写真などをネットワーク経由で再生できる「ホームネットワーク」機能を搭載する。


チューナ部側面。奥行きは180mm背面。地上/BS/110度CSチューナやUSB、Ethernetなどを装備する
リモコン

 リモコンは卵型の独自デザイン。新UIの10キーを省き、円形のホイールコントローラを採用した独特の形状で、リモコンの「マイサークル」ボタンを押すと、画面上にアイコンを表示。テレビ画面に表示されたUIを見ながら、利用したい機能を選択する。

 ディスプレイ部を実際に手に持ってみると、テレビとしては軽量で、キャリングハンドルもあるので持ち運びやすい。とはいえ3.3kgという重量は、タブレット端末などと比べると重いし、20型というディスプレイもそれなりに大きい。常に場所を変えて移動するためのディスプレイというよりは、家庭内の2、3カ所、例えばリビングと、寝室などの決まったところにきっちり設置し、テレビを楽しむという使い方のほうがしっくりくる。

 背面にはスタンドを装備。角度調整も簡単で、バッテリ駆動でケーブルレスのため平たい台さえあればどこにでも設置できるのは便利だ。

 ロケーションフリーやSlingboxといったPCやスマートフォン/タブレット向けのテレビ配信や、専用ディスプレイを使って、チューナやレコーダの映像を視聴するエアボード(12.1型)やポータブルVIERA(MP-HV200/10.1型)のような製品との一番大きな違いも“20型”というサイズ感にある。手に持ったり、卓上で使うより、ある程度の視聴距離が必要となるので、フリースタイルAQUOSには“テレビらしさ”が強く感じられる。

 試用はしていないが、デモなどで見て感心したのがキャリングハンドル部と別売の壁掛けフック「AN-20WL1(6,300円)」を使った壁掛け。壁掛けの提案は、これまでも数多くなされてきたが、このフックを使った壁掛けはとてもスマートに感じる。また、予想以上にスペースの削減にもなる。数十年前に夢だった壁掛けテレビが非常に自然に実現できるのだ。可搬性も魅力の一つだが、“壁掛け”を求める人には特にフリースタイルAQUOSに注目してほしいと思う。


背面は金属筐体で、放熱用のスリットなどを備えている壁掛け利用例チューナとACアダプタ

 


■ 無線接続はシンプル。独特の操作系に注意

 ディスプレイ部とチューナ部の接続設定は簡単だ。基本的には初回出荷時にそのまま使えるようになっている。接続の設定を行なう場合、ディスプレイとチューナの電源をONにした後、チューナ側のLINKボタンを5秒ほど押してLEDを点滅させる。この状態でディスプレイ/チューナのペアリングが行なわれる。接続さえ完了してしまえば、チャンネル設定なども通常のAQUOSと共通だ。

 電源OFFからONにした際の出画までの時間は約12~14秒。チューナ側の電源が落ちている場合は、まずはディスプレイが起動し、その後チューナ側の電源がONになるという仕組みだ。普通のテレビと比べると遅く感じるが、その間に「接続中」などの表示も行なわれるので、待たされている感はそれほどない。

 ディスプレイ側が先に起動するため、ディスプレイ側のHDMIに直結していればより高速に出画されるかと考えたが、iPad 2+Apple Digital AVアダプタの映像をHDMI出力してみたところ、出画まで10~13秒程度とあまり変わらなかった。HDMIの入力を検出してから、実際の出画までは数秒かかるため、チューナ側を起動した場合と大きな違いは出ない。

 なお、チューナとディスプレイを離れて設置していても、リモコンをディスプレイ側に向けて操作すれば、受信した信号はチューナ側に無線で伝送される。いちいちチューナに向けずに、操作が行なえる。

リモコンのホイールを回すと「チャンネルUI」が立ち上がる

 フリースタイルAQUOSの特徴ともいえるのだが、最初に戸惑うのは操作系だ。リモコンは新デザインのものだが、10キーがない。そのため、上部のチャンネルUP/DOWNボタンや、中央のホイール部などを活用する操作系となっている。

 テレビ放送を見ている際に、リモコンの中央内側のホイールをくるくると回すと、画面右側に円形のチャンネルリスト「チャンネルUI」が立ち上る。ここでホイールを回転して局を選ぶ、「ぐるぐる選局」が可能となる。

 フリースタイルAQUOSを利用する際には、まずこのホイールの使い方を覚える必要があるが、慣れるとぐるぐる選局でもすぐにチャンネルを選べる。また、局ごとにやっている番組を確認できるので、この方式なりのメリットがあると感じる。とはいえ、瞬時に任意のチャンネルに切り替えたいときなどにはやはり専用の10キーが欲しいと感じる。

ホイールをぐるぐる回して選局
リモコンの数字ボタンから、10キーのUI操作も可能だ。

 リモコン右下の「数字」ボタンを押すと、10キーのUIが起動し、こちらで任意のチャンネルをUI上で選んで選択もできる。また、番組表からの選択も可能だ。とはいえ、やはり直感的にという点では、専用キーには及ばない。

 チャンネル切り替えの時間は、約2~3秒。無線通信を伴うため遅いのかと予想していたが、そんなことはない。

 ディスプレイ側で、チャンネルを変えるときには右脇の「フレームタッチボタン」を利用。右脇のタッチセンサーパネルに触れると、テレビ視聴時にはGUIでチャンネル変更やボリュームなどの機能ガイドを表示。利用シーンごとに役割が変化し、ネット利用時にはネット系の操作ボタンが表示する。

 ユニークではあるが、タッチパネルを採用したタブレットやスマートフォン操作に慣れた人は、“フレーム部”ではなく、GUIの表示された“画面”そのものをタッチしてしまいがちで、フレームのタッチボタンに触れるということが直感的にわかりにくい。個人的にはあまりなじめず、あくまでリモコンが手元にない場合、臨時に使うものと感じた。


フレームタッチメニュー。テレビ視聴時はマイサークル操作時などで、表示されるGUIが変更され、フレーム右部のパネルで操作する

 選局だけでなく、多くの操作でリモコンのホイールを活用する形になる。その中心となるのが、「マイサークル」だ。テレビだけでなく、豊富な機能も「フリースタイルAQUOS」の特徴だが、リモコンの「マイサークル」ボタンから、各種機能が呼び出せる。

 マイサークルには「テレビを見る」、「録画番組を見る」、「AQUOS.jp」、「HDMI機器を見る」、「カレンダー/時計」、「USBアプリ」、「ホームネットワーク」、「お気にいりWeb」などの各項目を用意。これをリモコンのサークルをくるくる回して、任意の機能を選択する。

 さらに、青ボタンを押すことで、マイサークル上に任意のWebページなどを割り当て可能で、「緑」を押すことで、次のページに移動できる。

メインメニューといえるマイサークル多くのショートカットを登録できる



マイサークルをホイール操作

 


■ 画質は良好。録画など機能も充実

画質モードを選択

 画質についても問題はない。デジタル放送を見ている分には大きな不満を感じない。ごく普通のテレビといえる。画質モードは「標準」、「映画」、「ゲーム」、「AVメモリー」、「フォト」、「ダイナミック」、「ダイナミック(固定)」の7モードを用意している。

 どちらかといえばグレア(光沢)パネルに否定的なAQUOSの中では珍しくグレア調のパネルを採用している。暗い映画などでは若干映り込みが気になるが、多くの場合映像鑑賞に支障が出るほどではない。ただし、スタンドを使って設置する場合は、どうしても画面が上向きに数度角度が付くことになるので、角度によっては上部の照明などが気になってしまうこともあった。

 また、マイサークルなどのメニュー画面も黒なので、自分の顔などが映り込むこともあったが、それらの背景色は変更可能となっている。

 解像度は1,366×768ドットとフルHDではないものの、20型と小さいこともあり、BDなどを見ても解像度の不足を感じることは無い。コントラスト感はそれほど強くないが、メリハリのしっかりしたテレビ的な映像。ネットワークを介してテレビを見ているという感覚は全くない。

 設置場所が自由になるだけに、視聴位置によって画質の印象は変わってくる点は注意したい。その点、視野角は十分に広く、ある程度斜めから見ても色変化などは少なく、きちんと配慮されていると感じた。

 なお、チューナで受信した映像はMPEG-2 TSで非圧縮のままディスプレイに伝送される。そのため原理的には画質劣化は無いということになる。ただし、若干の遅延は発生しており、ソニーのBRAVIA「KDL-46NX700」と並べて試聴したところ。約0.5~1秒弱遅れているようだ。

 録画機能も搭載。チューナ側のUSB端子に、別売のUSB HDDを接続することで、デジタル放送録画が可能となる。録画形式はMPEG-2 TSのストリーム記録となる。また、シングルチューナモデルなので、録画中の裏番組視聴などはできない。

 番組表からの番組録画予約も可能。さらに、検索機能も搭載し、EPGでジャンルやキーワードを登録すると、おすすめ番組を番組表上で表示したり、検索結果を確認でき、自動録画も可能。さらに、電源ON時に当日/翌日のおすすめ番組を画面上にポップアップで通知する機能も備えている。

 また、リモコンの「常連番組ボタン」を押すと、視聴履歴などを元に放送中の番組からおすすめの番組を提案してくれる「常連番組」にも対応。常連番組の自動録画機能も備えており、USB HDD接続時に常連番組用のHDD容量を設定できる。

番組表録画リスト常連番組を表示
見つかる検索おすすめ番組を画面右下に表示

 一点注意したい点は、Blu-rayやDVDの再生時の接続だ。というのもチューナ側にはUSBとネットワーク以外の外部入力を備えていないため、BD/DVD再生時にはディスプレイ側に直接HDMI接続する必要があるのだ。

 また、ディスプレイ側のHDMIはミニ端子なので、専用のケーブルを用意する必要もある。BD/DVDを見るときにはケーブル接続が必要となるので、せっかくの“フリースタイル”が生かせないことになる。プレーヤーの設置場所などに、AQUOSの設置も制約されることになるため、BDやDVDの利用頻度が高い人は注意したい。

 ネットワーク機能は充実。家庭内のAQUOSブルーレイ内の録画番組やDLNAサーバー内の動画や音楽、写真などをネットワーク経由で再生できる「ホームネットワーク」機能を搭載。Windows 7搭載のPCなどの中のコンテンツも再生可能だ。

 また、YouTubeやYahoo! for AQUOS、T's TV、ひかりTV、アクトビラ、TSUTAYA TVなどのテレビ向けネットワークサービスにも対応。YouTubeはテレビ用のYouTube XLの画面を表示するようになっており、任意のユーザーIDでログインも可能だ。

 AQUOSインフォメーション機能も搭載。番組検索結果に基づく「おすすめ番組」や未視聴の録画番組を通知してくれるほか、新着ニュースやウェザーニュースによる「天気情報」、TSUTAYA TVの「おすすめ情報」などを表示できる。フォトフレームやカレンダー機能も備えているので、壁掛け時には活用できる。

YouTubeにも対応フォトフレーム機能も装備

 


■ “普通”にテレビ。ただし、設置場所は問わず

 高機能かつ、さまざまな設置シーンに適応できるという点が特徴だが、一旦使い始めると、案外普通にテレビとして使える。ソリューションは先進的で、操作系も新しい提案がなされているのだが、新しいデバイスに触れているというよりは、テレビを見ているという感覚が残る。

 将来的には「GALAPAGOS」のようなAndroidタブレットと、シャープの「AQUOSブルーレイ」の組み合わせでこれが実現できればいいのに……とも思うが、現時点ではタブレット+レコーダではできないであろう「テレビとしての完成度」の高さを感じさせてくれる。ユニークなセカンドテレビ、特に壁掛けテレビを求める人にって、魅力的な選択肢になるだろう。


(2011年 6月 14日)

[AV Watch編集部臼田勤哉 ]