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HDRが変えるゲーム体験、VRが変えるゲーム産業。PS4世代でゲーム復権

 東京ゲームショウにおけるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)エクゼクティブインタビュー第2弾は、SIEジャパンアジア(SIEJA)プレジデントの盛田厚氏と、SIE・ワールドワイドスタジオ(WWS)プレジデントの吉田修平氏にご登場いただく。今回お2人のインタビューをまとめたのは、主にゲームソフトウェアと「市場」についての話が中心となったためだ。お二人の口からは、それぞれの立場で、「ゲーム」に対する熱い思いが飛び出した。

東京ゲームショウのSIEブース。日本・海外からの来場者が、ステージイベントや展示物、試遊されているゲームなどを見つめていた

年末がチャンス、狙いは「ゲームを休んでいた方々の引き戻し」

 まずは、SIEJA・盛田プレジデントの話からスタートしよう。海外に比べPS4の盛り上がりに欠ける、とされてきた日本市場ではあるが、ファイナルファンタジー XVに代表される一般にも著名なタイトルの登場や、安価な薄型PS4の発売により、ブレイクのタイミングを迎えている、と言える。

SIEJEプレジデントの盛田厚氏。手に持っていただいたのは、薄型PS4とVitaの新色「シルバー」

盛田プレジデント(以下敬称略):我々はPS4をローンチして以降、ソフトウェアタイトルを充実させようと努力し、活動してきました。最初は欧米のもの中心で「日本のタイトルがないじゃないか」というおしかりも受けたりしたのですが、去年から今年にかけて充実してきて、基本的には「出したい」と思っていた、あるいは「出して欲しい」とお客様が思っていたタイトルが、ほぼ出そろっていると思っているんです。

 ですので、PS4の新型を出すタイミング、今回のものは3万円を切る「マジックプライス」(500GB HDDモデルが29,980円)だと我々は思っているのですが、これを機に一気に拡大していきたい。市場としては本当にこの年末以降、大きく伸びると思っています。

−−ここ3年くらい、日本の据え置き型ゲーム機のモメンタムがなかなか上向かなかった。そこが変わる可能性がある、ということですか。ゲームメーカーのみなさんの意識も変わってきた、ということかと思いますが、その背景にはどういったことがあるのでしょうか。

盛田:ひとつは、我々の努力が実って……といいたいところなのですが、それは皆様の評価次第ですね(笑)。

 もうひとつは……。日本の状況を見て、日本のパブリシャー・ライセンシーの方々が「様子を見よう」と思っていたところがあったと思うんです。そこが、欧米で売れているのを見てタイトルを作り始めていただいた、というところはあると思います。

 みんな、日本の市場に対して期待と「危機感」を持っています。「日本の市場をなんとかしたい」と思っていただいている方が多いんです。皆共通の問題意識を持って動いてきた、ということがここにつながったのではないでしょうか。

 とはいえ、ゲームは「じゃあ来月出すか」といって出せるものではありません。こうした動きは、1年前・2年前から動いていたものが花開いたものです。

 それがあったので、我々として出来ることというのも、ユーザーの皆様、待っている人々、もしくは「ゲームを休んでしまっている人達」をどう振り向かせるか、です。だから、ちょうど1年・1年半前くらいから、「できないことが、できるって、最高だ。」というキャンペーンを始めたんです。

 いままで、そういうことって「休んでいた」じゃないですか。PlayStationの初期の頃は、ゲーム全体に注目していただくような活動を、すごくやっていたんです。

 ここ数年、PlayStationという名前自体は浸透したので、むしろソフトをプロモートする・ハードをプロモートするという活動を中心にしていました。しかも、ビジネスが厳しくなると、使える投資額が決まってくるので、いっそうそちらに集中したくなります。

 しかし、ここでもう一度、みんなを振り向かせるキャンペーン、もしくは戻ってきてもらうキャンペーンをやろう、と決めたのが1年半くらい前でしょうか。

「できないことが、できるって、最高だ。」キャンペーンのプロモーションムービー。今年も新しいものが作られている

−−私もあのキャンペーンは大好きです。なんというか、ゲームに対する愛情というか熱意が感じられて。

盛田:ありがとうございます。そうして、もう一度「ゲームをやって」いただけるようになれば、と思うのです。そのピークが、今年の年末から来年にかけて、です。すごく期待もしていますし、絶対やらなければいけない、動いてくれると思っています。

 でも、これはまだ「完結」していないんです。あのキャンペーンを始める時に皆で誓い合ったのは、「結果が出ても出なくても、1年くらいで方向転換するのは止めようね」ということです。やっぱり3年くらいはやらないといけないと思っていたので、これは来年も続けます。

 我々が次に目指すのは、本当に「ゲームを休んでしまった人」に買っていただくことです。そのためのタイトルでもありますし、「VR」が、奥様の承認を得るための(笑)ものとして、すごく期待しています。

−−確かに、PS4とPSVRを合わせるといいお値段になります。そこで「納得していただく」ためのものとして、VRという体験に期待している、ということですか?

盛田:そうですね。「ゲームだけだとちょっと……」ということだったものが、「VRというものができるであれば買ってもいい」ということになるかと思っているのです。あるいは、ビデオなどのノンゲーム機能でもいいのですが。「色々なことに使えるしね」「子供達とも遊べるしね」と思っていただければ、それでいい、と思っています。

−−VRというと「濃い、いままでにないゲーム体験をゲーマーの方に」という部分もあるわけですが、それと同様に「いままでに体験そのもの」で、ゲーム+αの部分の広がりに期待したい、ということですね。

盛田:おっしゃる通りです。実際、いま、予約……もなかなか出来なくて皆様にはご迷惑をおかけしているのですが、予約をするために我々は「体験」が大事だと思っているので、基本的には体験会とセットで予約を受付させていただいています。その体験会にきていただける方も、最初は「この人達はゲームをやりこんでいただいているな」という方々だったのですが、今は一般の方、「ゲームをやったことがないんじゃないか」と思える方々や、女性・家族連れなど、幅広い方々に来てきただいています。

 VRは、それこそ、PS2の時のDVDに近いことが出来るのではないか……という手応えを感じるんです。

ハイエンド機は「チャレンジ」。4K映像は「意見募集中」

−−PS4は、初代および薄型の「スタンダード」な部分と、ハイエンドのPS4 Proに分かれる事になります。これは今までのゲームコンソールにはあまりない……というか、やってもなかなか上手くいかなかった方法論です。SIEとしてはチャレンジだと思います。日本市場にとってはどうでしょうか。

盛田:もちろんこれは、最終的にはユーザーの方々が判断することですが、PS4が「分かれた」とは思っていないんです。マジックプライスをつけたモデルとハイエンド、ということだと思っています。

 チャレンジという意味ではチャレンジです。コンソールゲームのライフサイクルは長かったじゃないですか。そこを今回は、半ばにいったか行かないか、というところでハイエンドのモデルを出します。プラットフォームが出てから何年か経ったところで、わりとコアゲーマーの人々が、PCのハイエンドと比較しはじめているのではないか……と分析しているんです。PS4 Proを出したのはチャレンジではあるのですが、新型ともどもメッセージはクリアーで「PS4の市場拡大」です。欧米とは、人数や比率、普及の時期は変わると思いますが、PS4 Proを訴求する考え方そのものは変わりません。

−−PS4 Proについては、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)に対応しません。日本市場は欧米ほどストリーミングが強くないために、「4Kで使えるPS4といえば、UHD BDも見られるのでは」という期待が大きかったと考えます。その点をどう見ていますか?

盛田:それは、ユーザーのみなさんや、メディアの皆さんがどう思っていらっしゃるかを素直に聞きたい、と思っています。

 ただ、ハイエンドを出すことは、過去我々がやってこなかったチャレンジでもあります。このモデルが出なかったらこの議論(UHD BD対応)もなかったじゃないですか。まずチャレンジの理由はトータルの市場拡大です。そのためには、ちゃんと4Kでゲームをできるものを届けたかった。ゲームコンソールとしてのPS4の拡大という意味では、筋は通っているつもりでいます。

 もうひとつ、地域によって要求が異なるのは事実です。そこはアジア・日本を預かる立場である私としては、耳を傾けなければ、と思います。ただ、グローバルな視点として見た「未来」はストリーミングが主流とは思います。

−−そういう意味では、SIEJAの展開するPlayStation Videoの中に、ハイクオリティな4Kビデオのサービスがあってもいいのでは、と思います。例えば、他のストリーミングよりもビットレートが高くて画質がいいものをダウンロード販売する、とか。

盛田:なるほど。これは素直にどういうものをユーザーが欲しているか、聞いていきたいと思います。今の時点で言えることはないですが、色々なことは考えていきたいです。

「MinecraftとVita」が状況を変える。目指すは「一家一台ゲーム機」よ再び

−−日本のデベロッパーの方に、「アジアに出て行くための支援をSIEJAがやってくれるのが心強い」という話も伺っています。そうした施策について、もう少しお話をうかがえますか?

盛田:アジアも色々な国があるのでひとくくりでは言えないのですが、日本のタイトルをすごく待っていただいている国もあるのは事実です。

 これも2つあるんです。

 ひとつは、PS4とVitaの大きなステップが「コピープロテクション強化により、コピー品が出回らなくなった」ことです。実際、PS4についてはまったく出回っていません。

 いままで、我々もそれを言い訳にしていた部分があるのですが、「アジアは(コピー品の流通があるから)ソフトが売れない」と言われていました。しかし、やってみたらソフトは売れていて、PS4のソフト売り上げ枚数で言えば、日本とアジアがあまり変わらないくらいになっています。

 そのくらい売れはじめて、やっと「ローカライズ」の話が出てきたんです。どんどんローカライズは拡大していきたいですし、ローカライズ版が発売されるのも、できるだけ日本と同じタイミングになるようにしていきます。

 あとは、拡大できる国々があれば、そこもなんとか広げたい……とは思っているのですが。

−−そこでVitaの話も伺っておきたいと思います。Vitaは欧米では厳しいですが、日本・アジアではビジネスが回っている。これからどのようにやっていこう、と考えていらっしゃいますか?

盛田:Vitaには2つの方向性があるんです。

 ひとつは、特定のタイトルを待ち望んでいる方々と、そこに対するビジネス。これは、おっしゃるように非常に多くあり、継続的にタイトルを出せる状況にあり、Vitaは日本市場にかなり広まっています。そこはうまくビジネスが回っています。

 そして、これは我々にとって大きなムーブメントだったとい思っているのは「MinecraftとVita」なんです。昨年末、VitaとMinecraftがすごく売れました。「年末売れたね」と思っている方々が多いのですが、これは本当に、長くがんばってきた成果なのです。コロコロコミックさんのお力添えも大きいのですが。コロコロで採り上げていただき、「おはスタ」で採り上げていただき、弊社と一緒に地道な活動をやってきました。日本中を回るキャラバンをやって、子供達を呼んで家族とMinecraftを楽しんでもらう……ということをやってきたんです。

 その結果の年末商戦が去年あったんです。店頭を整備しテレビCMもやり、すごく売れた。そこから言えば、VitaとMinecraftをもっている子供達の数がすごく増えました。2年前、私は「子供達にコントローラーを持って欲しい」と言っていたんですが、かなり実現しましたし、大きく、大事なモメンタムだと思います。

 キャラバンでは毎回アンケートをとるんですが、来てくれる子供達のけっこうな割合が「まだVitaを持っていない」んです。ということは、理論的には、VitaとMinecraftが倍売れてもおかしくはないくらいです。そこは本当にしっかりやっていきたいと思います。Minecraftだけじゃなく、「ドラゴンクエストビルダーズ」などの子供達が喜びそうなタイトルを推してやっていきたいです。

−−先日のプレスカンファレンスでも、キッズ向けの施策を準備する、というお話がありましたが、そこにつながるわけですね。

盛田:そうです。子供達にVitaを訴求することはもっとやっていきたいですし、そういう意味でいえば、Vitaはまだ全然アクティブです。

−−冒頭でも出ましたが、「ゲーム専用機」のモメンタムが落ちていた日本市場を活性化することが、とても重要な課題だったと認識しています。プレジデントに就任してからの2年で、そこがどうだったのか、あらためて総括していただけますか?

盛田:まず、子供達への普及を広げられたのは大きかった、と思います。本当に、Minecraftは大切なものです。

 タイトルが揃ったことも大切です。タイトルは単純に「出してくれ」と言えば出るものではないです。先方もビジネスをやっている側ですから、「ビジネスができる」と確信してやっていただけているのでしょう。ハードウェアでも勝負できる段階になりました。そこはすごく手応えがあります。

 ただ、「手応えを感じている」段階なので、実際に掴まなくてはいけません(笑)。そこは、今年末から来年、やり抜かなくてはいけません。そこは出来るんじゃないか、と思っています。

 ただ、そこまでは到達できましたが、目指しているのはそこではないんです。

−−というのは?

盛田:PlayStationの初代やPS2の頃、あるいはファミコンの時代に、「一家に一台、なにかのゲームコンソールがあった」時代に戻さなければいけない、と思っているんです。そのための活動は、まだ半分きているかどうか、というところです。

 そのためにはキャンペーンも継続していきますが、それ以上に、VRを軸にいろんな家庭にゲーム機をもっていただく、ということをやっていきたいです。

−−世界的に言うと、ゲーム機、特にPS4が売れたのは「ゲームにお金を払う、オトナのファン」がいたからだ、と言われています。「一家に一台ゲームコンソール、の時代に戻った」とは言われていません。日本においてはその前の段階です。それはハードなチャレンジです。そこに至る手応えというか、光明はもう見えているわけですか?

盛田:手応え、とまでいうとおこがましいですが、道筋は見えています。それは、本当に「VR」です。

 欧米で「オトナがしっかりゲームをする」というのは、ゲームが文化になったということです。それはそれでいいことだと思います。しかし、各家庭に1台ゲーム機がある、という状況にするには、まずはVRで、そしてストリーミング動画などのノンゲームなど、「ゲームじゃない」ところからでもいいのでPS4をお買い上げいただき、テレビの近くにおいていただければ……。

 あれば、皆ゲームをすると思うんです。VRは特に重要な武器、というかファクターだと思いますので、大切に育てていきたいです。

SIEブースに並べられた各種ハードウェア。これらのコンビネーションで再び「ゲーム機は一家に一台」の時代を狙う

「HDR」の効果は劇的。「スタンダードはPS4」であることは変わらず

 続いて、SIE・WWSの吉田修平プレジデントのインタビューに移ろう。吉田氏はゲームパブリシャー・デベロッパーであるSIEのリーダーであり、VRの「顔」でもある。その両面でお話をうかがっている。

−−WWSから見た時に、PS4 Proとスタンダード版の存在は、どう捉え、どう活かそうと考えていますか? 特に、デベロッパー・パブリシャーという立場でですが。

吉田:反応はチームによって違います。基本はスタンダード版ですし、今後もそれは変わらないので、その上でPS4 Proのパフォーマンスをどう活かそうか……ということです。

SIE・WWSプレジデントの吉田修平氏。もっているのはPS4 Pro

 明確なのは、4K TVがすごく広がっているので、そのユーザー向けにより高い解像度で見れるものを用意する、ということです。テクニックをプラットフォーム側から提示したりとか、クリエイティブサポート、といったことはすでにやっていて、「やればやるほどキレイになるな」という手応えはあります。自分達のやった結果にとても喜んでいて、思った以上にキレイな映像が4K TV用には出せるな、と。

 確かに手間は増えるんですが、いわゆる新ハードとは違いますね。新ハードではツールが後からきて大変でしたが、今回は全然そんなことはなく、初期段階から両方ありますし。2つ作るように見えても、結局アーキテクチャは同じですから、そんなに手間が増えることはない、と思っています。

−−ユーザーの方が心配するのは、「上があると下のモデルの体験が悪くなるのでは」ということですが……。

吉田:コンソールデベロッパーで、それはないですね。なぜなら、4,000万台以上のスタンダード版PS4がすでにあるわけですから。そこがまずターゲットは変わらなくて、少しずつ増えているPS4 Proユーザー向けに新たないい映像をお届けする、という順番。PCとはちょっと順番が違いますよね。

 ただ、PS4 Pro向けを用意するのがめんどうくさい、とかいうことではないんですよ。スタンダード版PS4向けに開発を進める段階で「切り捨てた部分」がPS4 Proでは復活し、ディテールやエフェクトが増えたりするので。結局は、デベロッパーが目指したものにより近いものになる、というのは、作っている人達にとっても誇らしいものになります。

 一方で、HDRは、やっと最近出てきたものですが、まあ、みんな効果にびっくりしていますね。通常のPS4にも提供できるので、まあ、対応テレビが必要ではありますが、みなさんに体験していただける。実際、新しいテレビでHDRを映してみると、効果があまりにもすばらしい。デベロッパーは皆エキサイトしていますね。

−−しかもHDRだと、アセットを増やすわけでもない。レンダリング時のカラースペースを広げるだけですから、4Kより開発の手間は少ない。

吉田:そうですね。特に自然な絵を目指しているゲーム、例えば「Horizon Zero Dawn」もそうですし「Days Gone」もそうですし、「グランツーリスモSPORT」もそうです。元々HDRで作ってSDRに落としているデベロッパーがあるらしく、そういうところはHDRのまま出せるようになるので、「とてもうれしい。やっと来たか!」と喜んでいます。

 ただ、デベロッパーによっては違っていて、アニメ的な絵作りのところはあまり効果を受けません。とはいえ、HDRもまだまだこれからですけどね。4K・HDRのテレビがデベロッパーのチームに1台もない……というところもあるわけで。フォーマットも色々あるので、皆勉強しながら試しているところです。

−−HDRは解像度とは違う意味でもチャレンジでもあります。

吉田:「これまであえて見せていなかった、暗いシーンで敵が見えてきてしまう」といった、ゲーム性に影響がある部分も出てきているんです。アートディレクションを通して、もう一度やらなきゃ、とチーム内でも話しています。

 これは4Kの方は、解像度が変わるだけなのでアートディレクションに戻る必要はないのですが、HDRだとかなり変わってしまう場合もありますので。そこは、別の意味での手間が加わります。

 4K化については「今後うち(WWS)のタイトルは全部やりますよ」と言っているんですが、HDRについては、やってみないと分からないですし、タイトルによって判断したい……という状況です。

 今のところ、パッチは4K+HDRとして開発しています。HDRのみで2K……というタイトルは、私は知らないです。みな4K+HDR対応していく中で、自然と「2K+HDR版」も出来ていく、という形なので。「アンチャーテッド」など、PS4 Pro向けに4K+HDRのパッチを用意しているものは、同じタイミングで2K+HDRのパッチも提供される、という理解です。

−−2KでHDRにのみ対応した、安価で小さいテレビやディスプレイも欲しくなりますね。解像度以上に多くの人にわかりますし。

吉田:そうなんですよ。みんなびっくりしますね。解像度が高い場合は、ディスプレイも大きいもので、近くでないとわかりづらいですし。HDRは遠くから見てもわかります。私も含め、最近まで見たことがなかった映像で、美しいものです。

 小さいものも、ゲーマー向けにあってもいいかも知れませんよね。いま、オフィスに(4K+HDRのテレビで)すごい壁が出来上がっているんですよ。色んなところに。開発している人の横に巨大なディスプレイが林立している状況です。すべてのアーチストに巨大なテレビを与えるわけにはいかないので、小さくてもHDRが出るモニターがあると便利かもしれません。

−−VRに関してはいかがですか? 私の理解として、PS4 Proであっても、フレームレートやVRとしての体験は大きく変わらない、ということなのですが。最適化が重要なので、そうそう大きく変えるわけにもいかないですし。

吉田:そうです。VRも全く同じです。現行のPS4向けに作ったものなので、そこですごくいい体験を作ったので、さらにPS4 Proでは有り余るGPUパワーを使って「プラスアルファ」をする、ということです。

 これは私もビックリしているんです。PSVR向けのゲームによっては、レンダリング時の解像度を落としていたものがあるのですが、それが、PS4 Proではレンダリング解像度を上げて表示するようになると、すごくキレイになるんです。細かいところまで見えて。あるいは、PS4版でもすでに解像度を上げているタイトルの場合には、解像度は変えずに追加のエフェクトを入れるとか、リアルタイムシャドーを入れるとか。

 でも、それをやり始めたのも最近ですね。やっとローンチタイトルが終わったので、その次をどうしようか、ということで研究を始めています。そこでPS4 Pro向けに最適化しました、というものを見ると、タイトルによってはビックリするくらい変わるんですよ。変わるというのは「比較してわかること」で、現行のPS4でもVRとしての体験が悪くなる、ということではないです。遊んでいる方は、ひょっとすると全然気付かないかも知れない。我々やメディアの方々は、両方の機材を用意し、被りかえて比較できます。そうすると、PSVR向けでも良くなったのはわかると思います。

−−PSVRのパネル解像度は変わらないじゃないですか。そして、VRのためにはフレームレートも可変させるわけにはいかない。結果、レンダリングターゲット解像度を変えたり、エフェクトを追加したりして「見栄えが良くなる」変更になるわけですね。

吉田:そこに思ったよりも効果がある、という印象です。

 ですから、PSVRで遊ぼうと思っている方にPS4 Proが必須か、というとそうではないです。しかし、「オトナの趣味」としてお金をゲームにつぎ込める方、VRに興味がある方は、これを機会にPS4 Proをお買い上げいただくと、4K TVをもっていなかったとしても、元はとれる、と思います。すべてのゲームがPro用にエンハンスされるわけではないですが、うちのタイトル、「Farpoint」や「PlayRoom VR」は、「やってみると違うな」と思える部分がありますね。

急激に一般化する「VR」、ビジネスになる「VR」

−−吉田さんとは、ずいぶん長くVRの話を続けてきたようにも思います。やっと製品が出ますが、今のお気持ちは、どうですか?

吉田:PSVRは、ハードにしてもラインナップにしても、プロジェクトの初期に思っていたものよりもいいものになって、とてもうれしいです。毎回新しいタイトルが出るたびに驚かされます。この間、「Star Wars バトルフロント」のVRエクスペリエンスを見たのですが、これがすごいんですよ。思わず「へー!」と言ってしまうくらい。元々ハイエンドのアセットを使われてますし、いい仕事をしている、と思いますね。今後も本当に楽しみです。

 VR全般について言えば、想像をはるかに超えた進展ですね。今年でいえば、バンダイナムコさんが「VR ZONE Project i Can」というイベントをやられ、一般の人が気軽に体験できるようになったりとか。私はまったく知らなかったんですが、昨日、台湾のメーカーの方が、VRのライド用の筐体を出されたりしているようですね。

 色んなところで、「Oculus対HTC対ソニー対モバイル」みたいなところを超えて、色んな取り組みがなされています。GoogleのDaydreamも期待できます。想像しているペースより速く世の中が動いていて、楽しいです。この先がまったく空想がつきません。過去2年間の変化は、本当に大きかったです。

 アーケードでバンダイナムコさんがやられている「マルチモーダル」、振動や動き、風などを加えてリアリティを増す方法や、臭いを加えるものも、理論としては付け加えられる、と思っていたのですが、実際にやってみると非常に効果が高かった。HTC Viveで採用されている、ルームスケールのVRを実現する「Lighthouse」もそうですし、セガが東京ジョイポリスで展開している「ZERO LATENCY VR」で採用されている、ワイヤレス方式も面白い。ワイヤレスなのでレイテンシーはありますが、そこに目をつぶれば、VR空間内を自由に動き回れて、他人がVR空間内に現れるという要素は、刺激的です。まだまだ伸びる余地があります。もちろん、ARとの融合もあるでしょう。

 単に座ってゲームをやっているのも楽しいのですが、まだまだ我々も知らない体験・世界が待っているでしょう。色々な人が色々な用途のために開発され、使われるようになっていくんだろうなあ……というのが、一番の感慨ですね。

 これが「VRが一般化する」ということなのだ、と思います。去年はまだインディ的な盛り上がりで、それはそれで楽しかったのですが、今年はもう色んな方が「VR」「VR」と言っていて、「本当にVR好きなの?」「仕事ですから」という方も入ってきた。それが一般化することだな……と思いつつも、「初期の盛り上がりは楽しかったな」という気持ちも、さみしさも感じています。

「PS4始まったな」の真意。「いままでにないものを作る」ことには時間も必要

−−WWSとして、これからPS4を盛りあげるためにやっていかなければいけないことはなんですか?

吉田:それはもう「ゲーム」ですよ。コンテンツを作る事です。最近色々タイトルの発売時期もずれて申し訳ないと思っているのですが……。

−−具体的には2本、延期されますね。

吉田:それはそれで申し訳ないのですが、それだけじゃないんですよ。「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」も発売が少し伸びましたし、「Horizon Zero Dawn」も本当は年内に出したかったものです。

 ローンチタイトルはある種「納期優先」なのですが、開発チームは「半歩」前に出るけど、一歩以上は出ない。手堅いものを出す傾向にあります。

 しかしその後のものは、本当に意欲的で、目線を高くして「狙う」んです。我々も「それを目指しましょう」と言ってはいますし、出来つつあるタイトルは、そういうレベルを実現しつつあります。

 でもやっぱり、それには時間がかかるんです。

 PS4が発売されて3年経ってなに言ってんだ、といわれそうですが、今年の年末から来年に向けて出てくるタイトルが、弊社のものも他社さんのものも含め、質的に、本当に「PS4の世代のコンテンツが始まったな」と思うのです。やっとPS4を作った人達のための我々ができること、恩返しじゃないですけど、それができるようになってきました。「まずは今、それをちゃんとやりましょう」というのが第一です。

 それと同時に、PSVRはハード部隊と一緒にやってきましたから、ハードのローンチとともに、それ以前のデモから一緒にやっています。そこはできたと思います。でもこれが第1世代だと思えば、「第2世代」「第3世代」はもっと想像のつかないものができるはずです。そこを、PS4 ProやHDRの仕様も含めて、取り組んでいくのかな、と。

 その前にやるべきは、PS4世代で「過去になかった規模のゲームをきっちり出していくこと」です。

SIEブースには、PS4向けにWWSが開発したタイトルが並ぶ。その多くが「PS4向けに、過去になかった規模」を目指したものだ

−−「そのプラットフォームの第2世代でクオリティが変わる」のは、PS1の時もPS2の時もPS3の時もあったことだと思います。それらとは違うわけですか?

吉田:まったく予想していなかったんですよ。ハードは作りやすいもので、我々も一緒に入り、デベロッパーの意見を採り入れたハードであったにも関わらず、なぜかゲームを作り始めると時間がかかる。その分、いままでとは違うものになっています。例えば「New みんなのGOLF」にしても、オープンワールドになるなんて考えもしなかった。過去に体験したことのないゴルフゲームになります。そこに、過去との隔たりを目指してがんばって作っているんです。

 過去の世代に比べてても、「ローンチ時期のもの」と「その後の世代」での隔たり、距離は大きく感じていますね。それだけ「できるから」ですよね。どこまでやるんだ、という話はありますが、我々はわりと「目指したがり」なので。

 それが、今年から来年にかけて出てくる、ということです。

 PS3はハードを「学ぶ」のが大変だったのでそこに時間をかけていましたが、PS4の世代は「いままでにないものを作る」ソフトの部分でだけ、悩んでいるようなところがあります。PS4 Proの4KもHDRも、それに比べれば全然難しくないようです。

−−まさに、PS4世代になったことそのもので「できるようになったこと」が大きい、と。

吉田:そこがまだまだ大きい、と感じていますね。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41