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SIE・WWS吉田修平プレジデントに聞く、「ファーストパーティー」「VR」の価値

 毎年E3恒例のSIEエクゼクティブインタビュー、今年は、ワールドワイドスタジオ・プレジデントの吉田修平氏にご登場いただく。吉田氏とは折に触れてインタビューを重ねてきたが、今年は特に、ファーストパーティーとしてのゲーム作り、そしてやはり気になるVRの状況についてきいた。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイドスタジオ(WWS)プレジデントの吉田修平氏

ファーストパーティーがSIEで元気な理由

-昨日のプレスカンファレンスは、なんというかかなり変わった演出でしたね。印象的でした。

吉田氏(以下敬称略):演出が素晴らしかったですよね。ショーのようで。私もおとといに初めて構成を見たんですが、「ああ、こんなことをやっているのか」と驚きました。「Days Gone」のプレゼンテーションで、背景にいたフリーカーズというゾンビが動き出したの、お気づきになりました? 最初は人形だと思っていたものが動き出したり。

-すべてのタイトルで背景をぜんぶ細かく演出していましたよね。プロジェクションマッピングまでして。

吉田:ちょっと短いビデオを流したり、ショーン(・レーデン氏。SIEAプレジデント)が少し話したりしましたけど、ぜんぶ背景を目立たせるためにやっているような感じで。

プレスカンファレンスの模様

-まったく数字の話もしない、完全なタイトル推しでしたね。その中でも、非常にファーストパーティーの作品が多かったことが印象に残りました。その背景にある開発計画などは、どのような形になっているのですか?

吉田:PS4の時代もそうだったのですが、ローンチタイトル(ハードウエア発売時期周辺に販売されるタイトル)は「納期優先」になります。だからある程度手堅いところをやります。そのチームが過去にやってきたもので、スケジュールとクオリティが読めるものを作りました。

 結果的に、発売から半年以内に色々なタイトルを出せたと思うのですが、「その後」の、ローンチ担当でないチームは、けっこう狙うんですよ。次世代感というか、最初からPS4を前提にした、前世代ではやっていない・できないプロジェクトに取り組むんです。我々の会社のカルチャー的にも、そういうことを推奨する部分があります。PS4になってハードがわかりやすいものになったこともあり、みんな「イケイケ」「プッシュ」でやっていたんです。

 それが……ふたをあけて見るとすごく大変な作業で。

 これは弊社だけではないと思いますが、この世代は製作規模が非常に大きくなって、最初に想定していたよりずっと長い時間がかかっているチームがほとんど、ですね。

 それもあって、初年度以降はファーストパーティーのタイトルが少し薄くなったんですね。本来はもう少しペースを落とさずに2年目・3年目に出したかったのですが……。幸いプラットフォームの勢いとしては良かった。サードパーティーのサポートやプラットフォームの勢いで売ってきた部分はあると思います。

 昨日のカンファレンスでお見せした「God of War」や「Spider-man」や「Days Gone」を含め、そういったチームが4年・5年かけて作り込んできたものが、去年後半から継続的に、スムーズに出せるようになってきた……ということでしょうか。

 そこを、E3のプランニングをするチームも見てくれていて、WWSのタイトルをかなり多めにフィーチャーしてくれているのかな……と思います。

-今のゲーム業界では、サードパーティーでは「マルチプラットフォーム戦略」を採るのが基本です。一方で、そうすると、PCを含めた他のプラットフォームとの差別化ができない。特にゲーミングPCの勢いは増しており、完全にひとつのメインストリームです。マイクロソフトも「Xbox One X」をお披露目しました。そのような状況では、結局自社コンソールでのみ楽しめるファーストパーティ作品に注目が集まると思うのです。今回はそれを意識してやっていたのでは、と思うのですが。

吉田:一歩引いてご覧になれば、そう見えるでしょうね。実際、弊社としてもそう考えています。

 そもそも弊社の中でのWWSへの投資というのは非常に大きいんです。ずっと、社員数の半分近くはWWSの人員です。それくらい、自社のタイトルへの投資はずっと積極的に行なっています。サードパーティーとコラボレーションしていいタイトルを作り上げていただけく、ということは当然やっているわけですけれど、やはり、自社で投資して作り、他社では投資しないようなものも含めてチャレンジしていくのはPlayStationのカルチャーです。それはいまも残っていますから、ユーザーさんから見ても、「PlayStationで遊ぶ」ことの意味合いになっているのではないでしょうか。

 昨日、「ワンダと巨像」のリメイクを発表した時も、非常にいい反応をいただきましたが、それは長い間オリジナルを作ってきて、支持していただいているからかと思います。

他社の4Kには慌てず「体験を軸に」

-当然、新しいハードウエアが出れば注目を集めます。任天堂はSwitchを発売してまだ間がないですし、マイクロソフトはXbox One Xを正式発表しました。一方でSIEとしては、今年新ハードウエアの話はしませんでした。そこで、慌てて対策をとる必要はない、と考えているわけですか?

吉田:我々の方で対応……というよりは、我々が先に動いた、という部分がありますし。

-マイクロソフトも4K世代のゲーム機を出し、ゲーム全体がそろそろ4K世代に……という状況にあります。マイクロソフトはその中で、「True 4K」を打ち出し、アセットまで4K対応、という話をしています。そこで、ソニーのファーストパーティーとしては、今後4Kにどう取り組んで差別化していくのでしょうか。PS4 Proの設計思想を考えると、なにがなんでもすべてを4Kにする……という発想ではない、と理解していますが。どういうバランスで4Kと対峙しますか?

吉田:はい、なにがなんでもぜんぶ4K、という話ではないですね。

 PS4 Proは4Kテレビに対応するため、非常に多くの工夫を凝らしています。ゲームデベロッパーが4K対応を非常にやりやすくしています。そこをうまくつかっていけば、デベロッパーが多くの負担と感じず4K対応できるので、素晴らしい設計思想だと思います。

 もともとPS4 Proの設計思想として、PS4のユーザーさんが劣った体験をすることがない、ひとつのプラットフォームコミュニティを守る、というものがあります。そこは非常に強く意識しています。PS4ユーザーの方はつねに同じ最高の体験をできて、しかもグラフィックについてはPS4 Proユーザーの方には体験が良くなる……という考え方です。我々としては非常に作りやすいですし、このやり方が正しいと思っています。

-すなわち今の4K世代においては、2Kとは体験が地続きである、と言う発想ですね。2Kと4Kの間で、ユーザー体験をまったく変えてしまうような性質のものではない、と。

吉田:どちらかといえば「まったく同じものである」ということですね。ただしグラフィックスについてはより良いものが得られる。別の体験であってはならない、ということです。

 いまはディスプレイの進化により、テレビがどんどん4Kに変わっていくタイミングなので、そこをカバーしたい。4Kコンテンツが少ない中、PS4 Proであれば非常に良い4K体験をしていただける……というところを狙ったと言えます。今あるものも、今後出てくるものも、PS4 Proであればより良い体験をしていただけます。そこのクオリティには自信をもっています。

 PS4で遊べるゲーム・一緒に遊べるネットワークコミュニティを含め、すべての体験という意味で作っています。

-発表会で1つ気になったのは、発売日も含めた数字が非常に少なかった。発売タイミングとしては、2018年がターゲットのものが多いわけですか? また、発売日を明確にしないのは、どういう意図があるのでしょうか。

吉田:もちろん2017年に出てくるものもありますよ。

 発売日を言わなかったことで不安に思われたかもしれませんが、真意はむしろ逆です。

 非常に開発規模が大きくなると、発売が遅れることが増えます。これまで以上に最終的な開発期間が延びたり、難航したりすることが多くなっています。

 我々は過去に発売日を明示してしまい、結果的にユーザーさんをお待たせしたことが多くあります。

 現在は、開発終了期間は読めているのだけれど、それをわざと曖昧にし、ご迷惑をかけないようにしているところがあります。カンファレンスのためにそうしたわけではなく、過去のコミュニケーションからの反省からそうしている……ということなのです。

 逆に、開発そのものはどれも非常に順調です。

「元年後」のVRはソフト推し、映像クリエイターに広がる「VR」の活用

-VRについて。昨年、PlayStation VRを発売しました。今回、カンファレンスでもいくつかのタイトルを出されました。PS VRの今年の方針を教えてください。やはり「ソフトのターン」ということですか?

吉田:そうです。その通りです。去年はハードウエアのローンチの年だったので、そこに注力しました。ローンチにあわせ、弊社からは10のタイトルを用意できましたが、これは、他のPlayStationのローンチと比べても多い数です。

 我々はPCやモバイルと違って、毎年ハードウエアを変えていくことはしません。システムソフトウエアやツールの改善は継続しますが、ハードウエアとしては、もう安定したものを市場にたくさん供給し、エコシステムを作る、という戦略です。2年目以降はコンテンツに集中することは決めていましたし、その通りに進めます。

 ひとつの大きな動きは、6月22日に発売される「Farpoint」ですね。エイムコントローラーを使ってやるFPSですが、自分が手に持った感触と映像が一致するのは、非常にセンス・オブ・プレゼンスが高まります。

 実は他の国では、5月に発売していて、非常に好評です。日本ではPS VRの供給が需要にマッチしていなかった、という事情があるので、ちょっと時間をおいて……という発売ではあるのですが。

 アメリカではエイムコントローラーの供給の問題が少し出てきてしまっているのですが、PS VRそのものはだいぶ落ち着いてきて、日本以外では、買いたい方がお店に行けばすぐ手にできるようになってきました。

-日本でここまでPS VRの供給に問題が出たのは、なにが問題なのですか?

吉田:私としては(需要の)読みの問題だったとは思うのですが……そういうと盛田さん(SIEJAプレジデントの盛田厚氏)に怒られてしまいそうです。

 日本はVRについて、独特の盛り上がりがありますね。

 日本のアーケード文化というか、アーケードの盛り上がりを供給できる、唯一の国です。中国でも盛り上がっているようですが、コンテンツや体験の質では日本と大きな差がある、と聞いています。日本のVRアーケードは、海外の方が体験すると驚くくらいクオリティが高いです。

 それは、最初にバンダイナムコさんが「VR ZONE」をやられた時から小山さん(バンダイナムコエンターテインメント執行役員 AM事業部 エグゼクティブプロデューサーでVR ZONEを手がける小山順一朗氏。VR畑では「コヤ所長」の愛称で知られる)とも話をしていたんですが、VRはやはり「体験してナンボ」。VR目当てでなくお台場などにふらっと来た方が体験できるようになっていくことが非常にありがたいです。その体験を元に「家庭でも体験したい」という流れになればな、と。その辺は、昔初代PlayStationの頃に、アーケードへと基盤を供給し、「鉄拳」などが人気になったことと同じような流れになると思います。VR元年が終わった後もVRの話題が途切れない……という日本の環境がそうさせている部分はあると思います。

 この辺については、少し補足説明が必要かも知れない。

 現在、VRアーケードはPCをベースとしたもの、特にHTC Viveとの組み合わせによるものが中心だ。一方、SIEも各社と共同で、PS VRをベースにしたアーケード機器の提供を進めている。コーエーテクモウェーブが開発した「VR センス」や、コニカミノルタが展開する「コニカミノルタ VirtuaLink」などがそれにあたる。SIEは3月に「ロケーションベースエンタテインメント事業準備室」を設置しているが、その事業部の手がけるビジネスのひとつが、こうしたものになる。吉田氏の発言は、これらの背景を受けてのものだ。

-コンソールゲームのユーザーがVRの方向を向いていない、というのは、SIEの認識としては違う、ということですか?

吉田:違いますね。日本では他国に比べPS4の普及台数がまだ伸びていませんが、一方でPS VRに対する日本の需要は非常に強いのは間違いないです。「サマーレッスン」や「初音ミク」「アイドルマスター」など、日本ならではのVRコンテンツも出てきていますしね。

 あと、映画やアニメを原作にしたVR体験も非常に楽しいですよね。ゲーム業界だけでなく、エンターテインメント業界全体として作ってきた世界観をユーザーに届けられる……と感じていただけているのではないでしょうか。

-だとすると、需給の状況はあまりにアンバランスでしたね。

吉田:確かに、足りませんでした。しかし、内部での調整も含めてがんばっています。5月にはずいぶん台数も増やせましたし、6月もさらにいい形で供給を増やし、ユーザーのみなさんに手にとっていただきやすい環境を作るつもりです。

-VRのゲームは確かに面白いですが、ゲームをするのは「毎日」「毎時間」というわけではない。これはコンソールの宿命ですが、興味があるゲームがある時は起動されるものの、そうでない時は放っておかれる。

 HMDが埃をかぶらないように、毎日使ってもらうための施策が必要になります。SIEとして、コンテンツ・システムの両面から「毎日HMDをかぶりたくなる条件」として、なにをやろうとしていますか?

吉田:プラットフォームとしても、ゲームはゲームで大切なんですが、周辺の方……、ご家族だとか友人だとかに体験したい、と思っていただくことが大事です。そのためには、いわゆるエンターテインメントコンテンツが重要です。360ビデオも含め、ローンチ時からサポートしていこうとはしています。今年に入ってYouTubeの360度映像のカバーも始めました。

 特に、リアルタイム系コンテンツの製作が積極的です。

 先日、人気アーティスト「The Chain Smokers」の新曲「Paris」を題材にしたコンテンツが日本でも配信(5月)されました。あれの開発は我々の部署がサポートしたのですが。日本でも「傷物語VR」(アニメ・傷物語劇場版のプロモーションイベントのために作られた特別コンテンツ)の表現は素晴らしかったですね。コンテンツを持っている方々が技術サポートをうけて新しい表現をしてみよう、という試みが非常に多くなっています。その多くはプロモーションとして行なわれているため、無料のものが多くなっています。

 我々が作った「Joshua Bell VR Experience」(PlayStation Storeで2月から無料公開中。実写映像なのに、ある程度自由に移動しながら見られることが特徴)にしても、最初は「究極の3Dパノラマムービーを作ろう」と思っていたのに、結局はムービーでないところに行き着いてしまった。すごく速いペースで同じようなことがおきており、それを互いに見ることで影響し合って進化する……ということが進んでいるように思えます。

 私はYouTubeやLittleStarやWithinといった360度ビデオのサービスが「ゲーム以外に毎日つかうきっかけ」になると期待していて、それはそれで進んでいるのですが、しかしそれ以上に、ゲーム以外のクリエイターが、ゲームのテクノロジーを使ったインタラクティブなコンテンツ製作をする……という流れが進んでいて、それが一歩一歩確実にコンテンツの内容を面白くしています。それがすごく楽しいですね。「ブレイキング・バッド」のVRも出るじゃないですか。映像クリエイターが「やりたい!」と手を挙げてくださっているようですね。我々はゲームのノウハウで、色々シェアしている、ということです。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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