レビュー

TWSって何買えば良いの? ぴったりな機種の選び方をe☆イヤホンで聞いた

種類が豊富なTWS…… 一体何を選べば良いのでしょう?

“いいイヤフォンが欲しい。”と言葉にするのが少し気恥ずかしいのは、イヤフォン・ヘッドフォンの専門店「e☆イヤホン」があまりに有名だからでしょう。今回はe☆イヤホンの秋葉原店にお邪魔して、筆者の希望に合うオススメモデルを紹介してもらいました。

まず、TWS(完全ワイヤレスイヤフォン)のトレンドを教わる

TWSとは「True Wireless Stereo」の略で、イヤフォンの左右を繋ぐケーブルが存在しない完全ワイヤレスイヤフォンのこと。大変恥ずかしながら、筆者は初めて聞く呼び方でした。店内を見回すと、TWSのものすごいアイテム数に圧倒されます。

秋葉原店は1階の入口を入るとすぐにTWSと注目機種のコーナーになっていて、気になる新機種をサクッと試聴できます

早速オススメ機種を紹介してもらおうと思いましたが、せっかくこれだけの品数があるのに筆者の乏しい知識と好みだけで選ぶのは勿体ないと気付きました。そこでまずはTWSの話題機種や、これから盛り上がりそうな注目キーワードについて教えてもらうことにしました。対応してくださったのは、同社のYouTubeチャンネルでもお馴染みの“二代目イヤホン王子”こと、ゆーでぃ氏です。

ゆーでぃ氏

ケースに画面? イヤーカフ型!? 多様化していたTWSのトレンド

ケースにディスプレイ付き:JBL「Live Beam3」

Live Beam3

アメリカ発祥のブランド「JBL」の最新機種です。筆者もさすがに知っていたブランド名で、高級オーディオや、ギターアンプ用のスピーカーとしても昔から人気というイメージを持っています。

JBLは近年、イヤフォンのケースにディスプレイを搭載したモデルが知られていますが、その最新版がこのBEAM 3です。JBLという伝統のブランドがこうした意欲的な製品をリリースしていて、かつ“低域の量感”というJBL製品に期待される音質的な特徴は一貫している部分がスゴいんだそうです。

ディスプレイ付きのケースは、スマホを取り出すことなく音質などをカスタマイズできる便利さもありますが、壁紙でパーソナライズするといったガジェット的な楽しみも人気だそうで、その辺りも今後のトレンド化に期待がかかる部分。

Live Beam 3に限っていえば、立ち位置こそ現行の上位モデル「Tour Pro 2」の下になりますが、Tour Pro 2にはなかった高音質コーデック「LDAC」への対応も果たしており、今後登場が期待される“Tour Pro 2の後継機”を占う意味でも注目の機種と言えそうです。ケースがちょっと小さくなっているのも魅力的ですね。

本格的なイヤーカフ型が登場:Bose「Ultra Open Earbuds」

Ultra Open Earbuds

耳たぶに巻き付けるように取り付け、耳穴を塞がない「イヤーカフ型」と呼ばれる、現時点では珍しいタイプのイヤフォンです。外音を聞きたいスポーツシーンや屋外、家事をしながらといった用途を想定しています。

耳に装着したところ

こうしたイヤーカフ型の製品自体は3〜4年前から存在していたものの、ここへ来て本格的な音質を持つモデルが相次いで登場(このBOSEとHuawei FreeClip)したことから、トレンドの到来が感じられるそうです。

本機は通常の音源を空間オーディオ的に楽しめる「イマーシブモード」といった先進機能を備えており、より高音質が期待できるコーデック「aptX Adaptive」にも対応するなど、スペックへのこだわりも見どころ。

対応コーデックの世界トレンド

JBLやBOSEといった米国ブランドは、ハイエンドモデルのワイヤレスイヤフォンであってもSBC/AACといった、“接続は切れにくいけど音質は実用レベル”というベーシックなコーデックのみに対応しているケースが多かったのですが、ここへ来て事情が変わってきたそうです。

先に挙げたJBL BEAM 3はLDAC(ソニーの高音質コーデック。ロイヤリティフリー)に対応し、Bose Ultra Open EarbudsはaptX Adaptive(クアルコムの低遅延・高音質コーデック)に対応していますが、この背景にはアジア市場が高音質コーデックの採用を求めるという事情があるのだとか。

例えば自動車でも、アメリカ市場の声により一部ヨーロッパ車のハンドルが太くなってきている……なんて話を聞きますが、BOSEやJBLといった伝統あるブランドでさえも、世界的なトレンドを見て製品を開発していく時代なのですね。かつてカメラ業界では、日本に出荷する交換レンズだけチリ混入の検品基準を厳しく設定していたメーカーもありましたが、これは言うまでもなく日本のユーザーの目が厳しいからですね。余談でした。

医療技術由来のパーソナライズ機能……Denon「PerL Pro」

PerL Pro

聞く人に合わせてサウンドを調整するパーソナライズ機能。それ自体はポピュラーになりつつあるものの、とりわけ専門的で正確なパーソナライズ機能を持っているのが本モデルだそうです。イヤフォンからテストトーンを耳に入れ、内耳から返ってくる小さな音をイヤフォンのマイクで捉え、各自の聞こえ方に最適なイコライジングを施すという仕組みだそうです。

パーソナライズの原理が専門的なだけに、アプリを使った分析にもそれなりの時間が掛かるそうですが、効果のほどは他のパーソナライズ機能とは別物とのこと。本機がそれほど専門的な機能を持っているのは、Denonの親会社が医療機器を扱うMasimo Corporationになったから。確かにパーソナライズ機能の名前も「Masimo AAT」です。医療とオーディオの興味深い融合ですね。

新ドライバーで“頭打ち”も打破?:ダイナミック型とBA型、未来を予見させる「MEMSドライバー」

イヤフォンのドライバーは、ざっくり言うと迫力ある音の「ダイナミック型」と、繊細な音の「BA(バランスドアーマチュア)型」の2種類があります。これはなんとなく聞いたことがありました。そして、なんとなくBAのほうが高級なんだろうなと思っていましたが、これは良し悪しではなく純粋に音の好みで選ぶものなんだそうです。

ダイナミック型はフルレンジ(1つのドライバーで低域から高域までカバーする)が基本で、補聴器の技術に由来するBA型は特に低域を出すのが難しく、それをカバーするために音域ごとに複数のドライバーを積む傾向があるそうです。だから製品が高価になり、高級機っぽいのですね。フルレンジ(1基だけ)のBAユニットは珍しく、多いものでは5基とか、有線イヤフォンでは20基というモデルも存在します。これを通は“多ドラ”と呼ぶそうです。

この二大勢力に割って入ってきそうなのが「MEMSドライバー」です。MEMSとは微小電気機械システムの略ですが、要するにマイクに使われる技術をイヤフォンのドライバー向けに改良したものだそうです。イヤフォンではNoble Audioが初採用し、CreativeからもAurvana Aceというモデルが登場しています。

MEMSドライバーを採用しているNoble Audio「FALCON MAX」
同じくMEMSドライバー採用のCreative「Aurvana Ace」

現時点のMEMSドライバー搭載製品は、ダイナミック型ドライバーを追加して低域を補うハイブリッド型が主流ですが、低域までを一つのMEMSドライバーでカバーするフルレンジのものも開発されているそうです。音質的な特徴としては、高域の繊細さ、空気感、音場の広さがあり、それは30万円クラスの有線イヤフォンで実現する世界に匹敵するとか。

また、構造的なメリットとしては「ドライバーを小さく作れる」、「指向性がない」、「完全防水」が挙げられます。指向性がないメリットは、ハウジング内の構造(ドライバーを置く位置)に自由度が増す点。ドライバーを小さく作れるメリットと相まって、ハウジング内の空いたスペースに別パーツを入れたりする未来も見えるとのこと。ゆーでぃ氏曰く、現在の完全ワイヤレスイヤフォンは「性能的に頭打ちになっている」とのことでしたが、MEMSドライバーによるブレイクスルーが楽しみです。

「どこでどう使うか」も大事。店員さんに“ぴったりのイヤフォン”を教えてもらうコツ

先に露呈した通り、筆者にはオーディオの専門知識がありません。しかし音楽を聴いたり、電車の中で「いい音」を聞くことには興味があったので、今までの人生では「なんとなく定番っぽいもの」かつ「買える金額の範囲内でなるべく高いやつ」を買ってきました。字面の軽薄さに泣けてきますが事実です。音の良し悪しを自分で判断できないから、ブランドなり価格を判断基準にするしかなかったわけです。

というわけで、まずはド素人丸出しで「完全ワイヤレスイヤフォン選び、最初の一歩」を教えてもらうことに。すると予算以外の入口には以下がありました。

  • ライフスタイル
    どんな場所でどのようにイヤフォンを使うかがわかれば、防水性が必要かなどの判断基準になる。一日の中での使用時間がわかれば、バッテリーの持つ時間から候補を絞れる。
  • 普段聞く音楽
    好きな音楽のジャンルがわかれば、そのイヤフォンの音質の傾向を踏まえてアドバイスできる。

上記を元に店員さんのオススメモデルを試聴し、例えば「もっと低音重視がいい」とか、「違った装着感のものがいい」といった感想が生まれてくれば、より具体的な商品選びをサポートできるとのことです。さすが専門店、心強いです。

それと、なんとなく手持ちのワイヤレスイヤフォンを買い換えたいという人には、「スマホと同じぐらいの買い換えペースで良いのでは」と案内しているそうです。確かに技術進歩もあり、バッテリーの経年変化もあるでしょうから、わかりやすそうですね。そうした買い換えニーズを踏まえて、高級モデルの型落ち中古品を短期間で渡り歩くという楽しみ方もあるようです。そうです、e☆イヤホンには中古フロアもあります。

筆者へのオススメ機種は?:ANC付きで情報量の多いモデル。高音質コーデックも使いたい

ここで、筆者がメイン機にする完全ワイヤレスイヤフォンを買うとして、以下の要望でオススメ機種をピックアップしてもらいました。お伝えした要望は次の通りです。

  • 楽器演奏が趣味なので、演奏者の奏法や音作りを読み取りたい
  • 低音は、元々のサウンドが膨らんで聞き取りにくくならない感じがいい
  • Androidで高音質コーデックを使いたい(LDACとか)
  • 電車内でも低音まで聞き取りたいからANCは欲しい
  • 予算は4万円未満。でも、気に入れば頑張る

そして選んでもらったモデルとオススメの理由は次の通りです。

とにかく万能&テッパン:ソニー「WF-1000XM5」

WF-1000XM5

ノイズキャンセリングの強さがアップル(AirPods Pro)、BOSEと並ぶ3巨頭というのがオススメの理由でした。音質的には、従来モデルのM4はロックやメタルに向く印象だったのが、M5はクラシックも向くような音質に変わったそうです。とにかく万能なモデルで、LDAC対応なのも希望にマッチしています。

筆者は以前の記事(寝ホン)で本機の試用経験があるため、これがオススメのトップバッターとして登場したことで、市場での人気を再確認しました。言ってしまえば、これを選ぶことが面白くないとさえ感じられるほどに、間違いない選択なわけですね。間違いないのはわかっているんですけど、ですけど……。

着けやすさと音質の変化:BOSE「QuietComfort Ultra Earbuds」

QuietComfort Ultra Earbuds

ノイキャン3巨頭のひとつということでオススメしてもらいました。BOSEは少し前のモデルから、いわゆる“BOSEらしい”と言われてきた低音寄りの音質から変わり、高音域が出て、低音もタイトになったそうです。それを踏まえて試聴してみたところ、確かに以前ほど“BOSE感”はなくてフラットな感覚で聴けそうに思いました。

ケースから取り出したイヤフォンは見た目より軽く、着け心地も軽やか。AirPods Proのように片手で速やかにベストフィットが得られたのが気に入りました。ソニーの1000Xシリーズに浮気する前は同社のQC20、QC30と毎日使っていましたが、相変わらず“音楽と共にある”ことに対してとにかくストレスフリーを追求していそうな印象を受けます。

そんな着け心地とノイキャン強度の点でかなり有力候補になりましたが、発売時に予告されていたマルチポイント対応のアップデートがまだ行われていないところが気になり、ステイ。今から買うTWSなら、マルチポイント機能は欲しいです(取材日時点。現在はアップデートによりマルチポイント接続に対応済)。

ドラムを聴くならドラマー監修モデル!:AVIOT「TE-ZX1-PNK」

TE-ZX1-PNK

いわゆる“ピヤホン7”です。「ドラムやベースを聞くなら、ドラマー・ピエール中野が監修したコレでしょう」というイチオシで勧めていただきました。こういうアイテムを楽器では「シグネチャーモデル」と言いますが、“誰々モデル”にはその人の思想や演奏を読み解くヒントが隠れているので私は好きです。

ゆーでぃ氏にオススメしてもらったコメントの通り、確かにキレのあるサウンドで、低音の膨らみもなく、音源から演奏を読み取るという用途には合いそうなイメージを受けましたが、5万円近い価格に若干ビビりました。ビビりのせいか、妙にBluetoothペアリングに手こずってしまいました。

これとセットで勧めてもらった“ピヤホン8”ことお手頃モデルのTE-W1-PNKは、ダイナミック型ドライバー2基で、このピヤホン7(ドライバー5基)の雰囲気を再現しているそうです。そちらも試聴してみたところ、このZX1に対し高音・低音のディテールが若干マイルドになっている印象ですが、特別な誇張や低音の量感演出を感じない部分など、通じる雰囲気があるような気がしました。

ピヤホン8こと「TE-W1-PNK」

理性とお財布が吹き飛びそう:Devialet「Gemini II」

Gemini II

「せっかくだから、一番いいやつ聞いてみますか!」という前フリで登場したのが、フランスのオーディオブランドDevialet(デビアレと読みます。初耳でした)のスピーカー技術を詰め込んだというハイエンドモデルのこちら。圧倒的な音質を誇るぶん、お値段も6万円オーバーでした。

しかし一聴して、ヘッドフォンアンプやDACを通して聴いたようなパワー感に揺さぶられ「うお!スゲエ! でも6万円か。でもスゲエ!」と脳から湯気が出まして、同行のAV Watch編集N氏に「でも、さすがにTWSは“一生モノ”ではないんですよ! 一応言っておきますけど!」と肩を揺さぶられて我に返りました。でもスゲエ。

選び方Tips 1……メインかサブか?

ちなみに、プロのゆーでぃ氏はTWSをどう選ぶのか聞いてみました。すると、氏は有線イヤフォンをメインに使うため、完全ワイヤレスはサブという扱いだそうです。そのため気軽に持ち出せる価格帯から選ぶそうで、現在使用中のTWSのひとつに先の"ピヤホン8"(約1万7,000円)がありました。

ゆーでぃ氏の愛用機材(一部)を見せてもらった

なるほど、高いものも安いものも知り尽くしている氏だからこそ、本当の意味で“コスパ”の良いチョイスができるわけですね。憧れます。筆者の場合はメインがTWSになりそうなので、価格的に少し頑張っても良いかな?と思いました。

選び方Tips 2……ノイキャンって、いる?

あと意外だったのは、「ノイズキャンセリング機能はいらない」という人が結構多いらしいこと。あって困るものではないと思っていたのですが、ノイキャンを重要視しない人にすれば、その開発リソースまで音質に全振りしてほしい!という期待があるそうです。なるほど。

でも筆者は周囲がうるさい時に心のシェルターとしてイヤフォンを使うので、ノイキャン、それも強めのものが必須です。他の人の好みを聞くと、自分の好みもハッキリ見えてきてイイですね。

結論、出せず! 別フロアで延長戦

あれこれ試聴しているうちに、自分の希望は本当に完全ワイヤレスなのか? 在宅で仕事をしているからヘッドフォンもアリなのではないか? もしくは長時間移動用なら有線イヤフォンでも……と想定外の悩みが生じてきました。すると有線ヘッドフォンやヘッドフォンアンプも試聴できるとのことで、1階から4階へ移動。その模様は次回記事でご紹介します。

ちなみに移動するエレベーターの中で、ゆーでぃ氏に「店頭で冷静さを保って試聴するコツは何ですか?」と質問したところ、「深呼吸ですね」とのご回答。参考にします。

鈴木 誠

ライター。デジカメ Watch副編集⻑を経て2024年独立。カメラのメカニズムや歴史、ブランド哲学を探るレポートを得意とする。インプレス社員時代より老舗カメラ誌やライフスタイル誌に寄稿。ライカスタイルマガジン「心にライカを。」連載中。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。 YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」