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第605回

PlayStation 5 Pro先行レビュー。「最新4Kテレビを最大限に活かすゲーム機」に

PlayStation 5 Pro。価格は11万9,980円で、11月7日発売

PlayStation 5 Proの先行レビューをお届けする。

PlayStation 4世代より、ライフサイクルの後期に性能アップした「Pro」モデルが出るのは定番となった。PS5についても「Pro」が出ることになった。

価格が12万円近くと高価であるため、発表時には良くも悪くも話題となった。では、実機はどのような価値を持っているのだろうか?

PS5 Pro向けに強化された「PS5 Pro Enhanced」タイトルでのテストを中心にプレイしてみた。なお、今回はソニー・インタラクティブエンタテインメントより提供された評価機材を利用してテストを行なっている。

PS5 ProはPS5の強化版

まず、PS5 Proとはどんな製品なのかを確認するところから始めよう。

PS5 ProはPS5の強化版だ。型番はCFI-7000B01。ゲームプラットフォームとしてはPS5世代のままなので、いわゆる次世代機ではない。PS4に対するPS4 Proがそうであったように、主にグラフィック面のクオリティを強化するための存在である。

そのため、パッケージもデザインも、ほぼPS5のそれを踏襲している。

PS5 Proのパッケージ
DualSesneコントローラが1つと、電源ケーブル・USB充電ケーブル・横置き用の保持具が付属
PS5 Pro本体。横に走るスリットが特徴的
いつものようにロゴが肩に付いている
本体正面には2つのUSB Type-C端子。その下に電源ボタン
本体裏端子部。HDMI・有線LAN・USB 3.2(Gen2、10Gbps)が2つ、電源端子の順で並ぶ

PS4 Proの時には「菱餅を1枚増やした」ようにPS4を大きくしていたが、PS5 Proでは「小型化したPS5の厚みとデザインを踏襲しつつ、高さは初代PS5と同じ」という形になった。

左からPS5(CFI-2000・光学ドライブ付き)、PS5 Pro、PS5(初代。CFI-1000)。高さは初代PS5と同じ
左からPS5(CFI-2000・光学ドライブ付き)、PS5 Pro、PS5(初代・CFI-1000)。ちょっと上から見ると、厚みやデザインの違いがわかりやすい
左がPS5 Proで、右がPS5(CFI-2000)。デザインモチーフや構造は似ているし奥行き(この写真では横幅)も同じだが、高さが異なる
左がPS5 Proで、右がPS5(初代・CFI-1000)。奥行き(この写真では横幅)はPS5 Proの方が小さいが、高さは同じ
左がPS5(CFI-2000・光学ドライブ付き)、右がPS5 Pro。正面から見ると高さの違いがわかりやすい
左がPS5 Pro、右がPS5(初代・CFI-1000)。高さは同じだが少しPS5 Proの方が薄い
手前がPS5 Pro、奥がPS5(初代・CFI-1000)。カバーの奥のデザイン変化が大きい

PS5には光学ドライブを搭載したモデルと、搭載しない「デジタル・エディション」の2つあるが、PS5 Proに関しては光学ドライブが組み込まれていない。

ただし、新型(2023年11月発売のCFI-2000番台)では光学ドライブが脱着式になっていて、PS5 Proでも設計が共通化されている。そのため、CFI-2000番台向けのディスクドライブ(CFI-ZDD1J)はそのまま取り付けて使える。PS5 ProでUHD BDを再生したい、ディスク版の市販ソフトが使いたい場合には、別途同製品の購入が必要になる。

PS5 Proに光学ドライブは同梱されないが、CFI-2000番台向けのディスクドライブ(CFI-ZDD1J)が取り付け可能。カバーも同じものだ

なお、PS5はプラスチックのカバーを取り外して変えられる構造になっているが、既存のPS5向けカバーはPS5 Proと互換性がない。ただし、光学ドライブを取り付けた時に使うカバーは問題なく取り付けられる。そのため「互換性がない」というのは、上部のカバーまでは互換性がない、という話のようだ。

また、縦置き用の専用スタンド(CFI-ZVS1P)も互換性がある。

PS5は内部にM.2 type2280規格のSSDを増設できる。これもPS5 Proで変更されておらず、カバーを外すとすぐに増設スロットが見える。

M.2 SSDの増設はこれまで通り、カバーを外せば簡単に行なえる

インターフェース類も基本的には薄型PS5(CFI-2000番台)と同じであり、特に戸惑う点はないだろう。

左がPS5(CFI-2000・光学ドライブ付き)、右がPS5 Pro。端子の数や配列は基本同じ

なお、PS5ではCFI-2000番台も含めWi-Fi 6までの対応だったが、PS5 Proでは最新のWi-Fi 7に切り替わっている。まあ、PS5 Proを買うようなユーザーなら有線接続が基本だろうとは思うが。スマホやPCも最新の製品はWi-Fi 7に切り替わってきているので、これもまた自然な話かと思う。

グラフィック向けのスペックアップ、2GBの謎のメモリーも

では機能はどうか?

まずスペックの方を解説しておこう。

PS5とPS5 Proは、基本的なアーキテクチャが同じだ。ただし、CPU・GPUの強化が行なわれたこと、AIベースの超解像技術であるPlayStationスペクトルスーパーレゾリューション(PSSR)を搭載したことなどから、より高解像度でのゲームプレイが安定する。

以下、公開されているスペックを並べてみた。CPU仕様はクロックなどが公開されていないため一見同じに見えるが、実際にはクロックを含めて性能アップが行なわれているという。GPU性能が計算上1.6倍強になっているので、その分性能が上がっていると期待できる。

PS5とPS5 Proのスペックを比較

PS5 ProにあってPS5にない点としては「メインメモリーに2GBの独立したメモリーが追加されている」という点がある。

この用途については公式に詳細な言及がない。

しかし、メインメモリーよりも低速なDDR5であることから、主たる処理に使うものとは想定しづらい。

実はPS4 Proでも同様のことが行なわれていた。

あちらもメインメモリーに1GBの領域が追加されていたのだが、これは、ゲーム以外のアプリケーションやOSの一部を退避する領域として使われた。そうやってゲームに使えるメインメモリーを増やすことで、ゲームの処理安定や画質向上を目指す差別化が行なわれていたわけだ。

あくまで予測だが、PS5 Proでの2GB分のメモリーも、同じような処理に使われるのだろう。

PS5 Proでは超解像処理の「PSSR」が入るため、そこで使うAIモデルをメモリー内に配置する必要も出てくる。巨大なモデルとは考えづらいが、それでも、純粋にゲームが使えるメモリー量は多いに越したことはない。

電源を入れてセットアップし、UIなどをみても、PS5との差はほとんどない。この辺も、PS4とPS4 Proの関係と同じである。

PS5 Proのホーム画面。PS5と基本的に同じ

ストレージは2TBに増強されている。CFI-1000番台が850GB、CFI-2000番台が1TBだったのでかなりの増量だ。

ストレージは2TBに増加

PS5 Proの設定には「PS4ゲームの画像品質向上」という項目があった。文字通り、PS4向けゲームの画質向上を自動的に行なうものだ。そもそもPS5には、PS4向けのゲームでパフォーマンスを向上させる「ゲームブーストモード」があったのだが、それをさらに強化したものだ。

ディスプレイ関連設定の中に「PS4ゲームの画像品質向上」という項目が。オンにするとPS4向けのゲームがさらに画質向上する

実機動作から見えてきた「4K・120Hz」の重要性

とはいえ、やはり本命はPS5向けのゲームがどのくらい質が上がるのか、という点だ。

PS5 Proでは、PS5向けのゲームがそのまま動いて性能向上が期待できる側面と、PS5 Pro向けにさらなる最適化を行なった「PS5 Pro Enhanced」タイトルを動かせる、という側面がある。PS5 Proらしい性能が発揮できるのは主に後者だ。

基本的な話として、PS5世代ではゲーム内で2つのモードが用意されることが多い。ソフトによって名称はまちまちだが、フレームレートを重視するモードと、レイトレーシングの活用やレンダリング解像度を高く維持して画質を維持するモード、と考えればいい。簡単にいえば、PS5 Proでは後者の「画質優先」設定のままフレームレートを維持できる……という話だ。

というわけで、3本の「PS5 Pro Enhanced」がアナウンスされ、すでにアップデートが行なわれているタイトルの動画をご覧いただきたい。4K・60Hz・SDRの動画を掲載した上で、一定の解説を加えている。なお、動画に集中しやすいよう、音声はすべて切った形で動画化している。

まずはEAの「F1 24」。

このタイトルは唯一すでに「8K」に対応している作品だが、残念ながらすぐに8K環境を用意できなかったので、今回は4Kのみでテストしている。

グラフィック設定には「パフォーマンス」モードと「クオリティ」モードがあり、前者はフレームレート優先でレイトレーシングなど画質設定を下げ、「クオリティ」モードではレイトレーシングを含めた画質面を優先にする。

PS5のパフォーマンスモードでは多少反射などが不自然になり、クオリティモードではフレームレートが下がっているようにも見える。PS5 Proではパフォーマンスモードの画質が上がり、クオリティモードのフレームレートも上がる。

PS5 Proでプレイする「F1 24」

面白いのは、PS5 Proでパフォーマンスモードにすると「120Hz対応の環境でないと有効でない可能性がある」と表記されることだ。

実際、120Hz対応の環境でプレイすると「ぬるっ」としたより高いフレームレートで、快適にプレイできる。これは大きなメリットだ。

次にSIEの「Marvel's Spider-Man 2」をプレイしてみる。

こちらにもフレームレートを高く維持する「パフォーマンス優先」と、レイトレーシングを含めた画質を優先する「忠実度優先」がある。PS5の場合、前者だと動きがよりなめらかで、後者だと、ビルの中の光の表現がさらにリッチになる。

これがPS5 Proになると、どちらも「パフォーマンス優先(Pro)」と「忠実度優先(Pro)」に変わる。

「パフォーマンス優先(Pro)」では、PS5での「忠実度優先」の画質設定で、さらに超解像技術のPSSRを使って解像度を上げることで、4K・60Hzの体験を維持する。

「忠実度優先(Pro)」の場合、さらにレイトレーシングのクオリティやモデルクオリティを高めて画質を上げる。

PS5 Proでプレイする「Marvel's Spider-Man 2」

ここもポイントは、「忠実度優先(Pro)」の場合、120HzやVRR(Variable Refresh Rate)に対応した環境であればよりクオリティが高まる、とされていることだ。これも実際プレイしてみると、動画以上に、120Hz+VRR対応の環境の方がわかりやすい。

では、PS5 Pro Enhancedに「まだなっていない」タイトルはどうだろう。

今回は2本、「グランツーリスモ7」と「Baldur's Gate 3」でチェックした動画を用意した。どちらもPS5 Pro Enhancedへのアップデートが予定されているが、記事公開の段階ではまだ行なわれていないものだ。

「グランツーリスモ7」ではリプレイを流してみた。レイトレーシングを使っていて、PS5への負荷も高いからだ。グランツーリスモ7のレース中は現状、レイトレーシングを行っていない。

画質自体には(アップデートされていないので)当然大きな変化はないのだが、フレームレートに変化はあるように感じられる。

PS5 Proでプレイする「グランツーリスモ7」

「Baldur's Gate 3」は設定に「パフォーマンスモード」があり、デフォルトではオン。そうすると内部解像度が下がる代わりにフレームレートが60Hzに近くなる。これをオフにすると解像度が上がるが、フレームレートは30Hzを基本とし、より安定しなくなる。

しかしPS5 Proでは、パフォーマンスモードをオフにした状態でもフレームレートが安定して高い状態になっているように見える。

PS5 Proでプレイする「Baldur's Gate 3」

なお、前出のようにどちらのソフトもPS5 Pro Enhancedへのアップデートが予定されており、より画質やフレームレートの向上が期待できる。特にグランツーリスモ7は、レース中のリアルタイムレイトレーシングに対応する予定で、より画質向上が見込める。

来年2月に発売を予定している「モンスターハンターワイルズ」が気になる人もいるだろう。先週オープンベータテストがあり、「これがPS5 Proならどうなるか」と考えるのは当然のことだ。

モンスターハンターワイルズは開発途上のものであるし、PS5 Pro Enhancedへの対応もアナウンスはされていない。だから、性能評価を目的に検証動画を作るのはまだ適切ではないと判断し、公開は行なわない。

ただ、PS5では「解像度優先」にするとフレームレートが下がってしまったが、PS5 Proでは(PS5 Pro Enhancedではないにも関わらず)フレームレートが維持された、ということだけはお伝えしておく。

これらのテスト中の動作音はPS5とほぼ同等で、ほとんど気にならなかった。

なお、PS5 ProはPlayStation VR2にも対応しているものの、明確な体験向上は感じられなかった。こちらについては、各タイトルがPSVR2+PS5 Pro Enhancedにならないと変化が出づらい可能性が高く、今後の改善に期待……というところだろうか。

PS5 Proは「4K・120Hz・VRR対応の4Kテレビ」をフルに活かすゲーム機だ

いかがだろうか。

正直に言って「動画では差がわかりづらい」と思った人もいるだろう。

実際そうなのだ。

現状、PS5向けのゲームはPS5で安定的に遊べるように工夫されており、漫然と遊ぶと差がすぐにはわかりづらい。

それはある意味PS5という「専用機」の美点であり、PCよりも有利な点だ。

一方、PS5でも「4K・60Hz」という条件は簡単なものではない。だから、フレームレートを優先にする「パフォーマンスモード」が用意される。特に4Kテレビ・ディスプレイでプレイする人にとって、そのことは複雑さであり制約でもあった。

4Kで安定的なフレームレートを必須とするなら、トップクラスのゲーミングPCを用意する方が柔軟性は高い。それは今後も変わらないし、より高い性能も目指せるだろう。

だが、PS5 Proはもっと簡単だ。しかもコスト的には、4K・60Hz以上で安定的にプレイできるPCに比べずっと安い。12万円という本体価格であっても、だ。

PS5 Proの美点は、複雑なことを考えなくても「画質とフレームレートの同居ができる」ことにある。

ソフトによっても違いはあるが、要は高画質になるように設定しておけばいい。パフォーマンスモードを選ぶ必要すらなく、試行錯誤は不要なところがPCとの違いである。

設定をいじる楽しみ、というものもあるが、皆がそれを求めているわけではない。システム設定もゲーム側も、深く考えずに最高の画質で楽しめるのがポイントだ。

さらに言えば、120HzとVRRに対応したディスプレイをセットで使うのが望ましい。センシティブなフレームレートの中でも安定的なゲームプレイをするにはVRR対応が重要で、フレームレート上限も高い方が良い。

すなわちPS5 Proは、「最新の4Kテレビと非常に相性が良いゲーム機」でもあるわけだ。

ただ逆に言えば、体験はPS5そのものであり、変化があるわけではない。

ゲームは必ず4Kで遊ばなければいけないとは決まっていないし、実際、2Kや1440p(2,560×1,440ドット)のゲーミングディスプレイで、フレームレート重視で遊ぶ人は増えている。これらの解像度で60Hzもしくは120Hzをターゲットに遊ぶなら、PS5 Proである必然性は薄い。その判断もアリだろう。

PS4に対するPS4 Proも、「4Kでプレイする環境」を整えるためのものだった。

PS5 Proは「4Kかつ60Hz以上で安定的にプレイする環境」を整えるもの、と言える。

PS5は8Kにも対応しており、メニューにその項目はある。今回は機材準備の問題もありテストできなかった。ただ8Kはまだまだ市場が小さく、これからもマスになる可能性も低い。負荷も大きくなり、PS5 Proの性能をもってしても、8Kは実験的な要素と言えそうだ。

PS5 Proには8K対応の項目も

むしろこれからゲーム機に求められるのはウルトラワイドディスプレイへの対応かもしれないし、まったく違うディスプレイの想定かもしれない。

4K世代の1つの完成形に思えるPS5 Proを見ながら、筆者はそんなことを考えている。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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