西田宗千佳の
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ソニー「BDZ-A950」から考える

~ライブラリー派のためのBlu-rayレコーダ~


ソニー「BDZ-A950」

 「家庭用ビデオレコーダといえば主力はBlu-ray」という状況になって、かなりの時間が経過している。だが意外と、「ライブラリー作成派」の視点にこだわった分析というのは行なわれていないような気もする。

 今回は、「ライブラリー作成派」を自認する筆者が、ソニーの「BDZ-A950」を題材に、「ライブラリー派から見た、DVDからBDへの変化」を総括してみたいと思う。そこからは、BDになることで生じた進化と「制限」が見えてくる。


 



■ 注目度が落ちた? 「ライブラリー作成」。現実的にはBDが最適解

 まず、「DVDとBD」について、少し前提となる知識をおさらいしておきたい。

 DVDレコーダが市民権を得て、市場が一気に広がったのは、2003年頃のことだ。当然アナログ放送のSD解像度であり、現在のレコーダとは機能も姿も大きく異なっている。正直、たった5、6年前のこととは思えないほど懐かしい感じがしてくる。

 DVDレコーダが市民権を得る上で必要な要素は、基本的に3つあったと考えている。それは、「HDDでの見て消し」「EPGによる簡単録画」「ディスクへのダビング」である。視聴が楽になり、録画予約が楽になり、ライブラリー化が楽になったからこそ、DVDレコーダは一気に普及したのだろう。

 この三要素は、Blu-rayレコーダが主流となった今でも、基本的に変わっていない。ハイビジョン放送がメインになり、画質・音質は大幅に向上したが、多くの人にとっては「それだけ」かも知れない。大きな違いがあるとすれば、CMなどを区切りとした自動チャプタ機能や、放送時間の移動に伴う自動追従などの「自動系」機能が充実した結果、より気を使わずに利用できるようになっている、という点が挙げられる。

 他方、最近注目されることが減ってきているのが、「ディスクへダビングするための機能」である。多くの人が「見て消し」を中心に利用していること、HDDが大容量になったことから、「ライブラリーを作るにしろ、ディスクを作る必然性はない」と考える人が増えたことが主な理由だろう。また、映像ソフトの販売サイクルとバリエーションが広がったことで、「買った方が早いし満足度も高い」ことが増えたことも、無関係ではあるまい。

 だが、ライブラリー派のニーズから考えると、現状では、「BDを蓄積先として使う」ことがベストであり、大切な機能であることに変わりはない。

 理由は、主に「作業効率」と「永続性」にある。HDDは故障した際、データが失われやすい。特にビデオレコーダの場合、RAIDのような多重化も、データのバックアップも難しく、故障や買い換えに伴う「機器の変更」を乗り越え、映像を引き継ぐのが難しい。パソコンや一部のテレビでは、外付けHDDへの録画も可能だが、それも現状では、録画映像が機器に紐づけられており、別の機器への引き継ぎが難しい、という点では同じである。

 DLNAを使ったムーブならば、これらの問題を解決する可能性もある。だが現状で存在する機器はダビング速度が「実時間+α程度」と遅く、大量のライブラリーをさばくには問題がある。

 問題のほとんどは、著作権保護がなされているがゆえの不自由さである。「じゃあ、そんなの無視してしまえ」というのはちょっと違う。そもそも、パソコンに特殊な機器を追加しないと録画やライブラリー化ができない、というのも、決して便利とはいえない。そういう風に考えると、現状では「BDしか選べない」といった方がいいだろう。

 とはいえ、マイナスばかりではない。DVDからBDに移行し、MPEG-4 AVC/H.264録画機能も整備されたことで、DVDの時代に比べると格段に進化した環境が実現されている。DVDの時代には「あたりまえだししょうがない」と思っていたことが、BDでは相当解消されているからだ。

 


■ 互換性と容量の点でDVDから「大幅改善」

 ご存じのように、DVDの記録型ディスクは後々に規格化されたこともあり、色々と問題も多かった。

 最も深刻なのが「互換性」の問題だ。すべてのDVDプレーヤーで見れるようにするには、「著作権保護なし、DVD-RにDVD-Video形式」で記録する必要があり、追記や再編集が難しい。Macintoshをはじめとした海外製のパソコンや古いDVDプレーヤーはCPRMに対応しておらず、地デジを録画したディスクなどは視聴できない。また、友人に映像を見せてあげようと思っても、ファイナライズを忘れて見られない、といったことも少なくなかった。互換性とディスクの価格を重視して、「DVD-RにVideoモードで一発記録、自動でファイナライズ」といった使い方をするか、プレーヤーとの互換性と価格には目をつぶって「DVD-RAMやRWを使う」のが一般的だっただろう。

 Blu-ray Discでは、こういった点に大きく手が入れられている。BDレコーダで録画したディスクは、一部の例外を除き、すべてのBD再生機器で再生ができる。著作権保護システムもAACSに統一されているため、今のところ「海外製だからNG」といったこともないようだ。ファイナライズしなくても互換性は高い。

 また、機器をまたいだ「追記」や「編集」をしてもいい。例えば、連続ドラマを1枚のディスクに複数回分記録する際、最初の2話は買い換え前の機種でダビングし、残りは新しい機種からダビングする、といったことをしても問題ない。また編集していなかった映像を、別の機種で編集することもできる。「まだあと2話ディスクに入れたいけれど、容量を空けたいからいまのうちにディスクへ記録しておく」という使い方が、安価なBD-Rでも、「互換性を気にせず」できるのは、意外とありがたい。

 残念ながら例外もある。パナソニックが'07年秋に発売した「DMR-BW800世代」のモデルでは、AVC記録時の音声記録方式に規格外の部分があり、他機種での再生互換性に問題があった。だが、現行機種ならばどれも特に問題はない。

 また、「ディスクへの記録可能時間」も、AVC記録が一般化することで、DVDに比べ使いやすくなった。画質劣化を感じにくい、地デジをAVC/8Mbps程度のビットレート(一般にレコーダで「SPモード」とされる設定)で記録した場合、1層のBD-Rには、6時間程度の映像が記録できる。DVDの時代、同様の「劣化を感じにくいレベル」で録画したとすると、1層ディスクに入るのは2時間から3時間程度。だが、BD+AVC記録は、VHS時代の「3倍モード」的な長さでありながら、画質面ではDVD時代以上のメリットがあり、ライブラリー派にとっては非常にバランスがいい。

 筆者は、主に2つのパターンでライブラリー化を行なっている。吹き替え映画と古いアメリカ・ドラマのマニアなのだが、これらのコンテンツは、ソフト化に恵まれないことも多く、市販版と放送版でキャストや演出が大きく異なることも珍しくない。「傑作なのに人の目には触れない」作品が多く、「残しておくことに価値がある」と考えている。

 一つ目は、WOWOWやスカパー!e2でハイビジョン放送された映画。12Mbps程度のAVCで録画しておくと、1層ディスクにおおむね2本程度入る。

 二つ目は、e2を中心に、SDで放送された番組。こちらはAVCを使わず、DRモードのまま記録する。1層ディスクに、1時間もののドラマで1クール(13回)分、30分のシットコムや特撮ものなら2クール以上が楽々と収納できて、「1シリーズが1枚でまとまる」ことも少なくない。

 ダビング時に再エンコードも起きないので、ディスクへの記録も非常に速い。こうなったら、もうDVDを使う気になどなれない。ディスクの価格はDVD-Rの3倍以上と開きはあるが、それだけの価値はある。

 業界の流れを考えると、CDとDVDとBlu-rayは、「12cmの光ディスク」が存在する限り見られるはず。「ライブラリーとして残す」ことを考えると、かなり満足できるレベルに到達している、といっていいのではないだろうか。

 


■ 「プレイリスト」ダビング対応でBDZ-A950は「VARDIAの代わり」になるか?

 Blu-rayになって「ライブラリー化」に注目が集まりづらくなったことには、もうひとつ理由があるような気もしている。

 それは「RD」がいないことだ。東芝のDVDレコーダ「RDシリーズ」と「VARDIA」は、ライブラリー化にこだわった設計で人気であった。

 例えば「プレイリスト」の扱いだ。RDシリーズには、映像から作ったプレイリストに含まれたものだけをダビングする、という機能が盛り込まれている。特に音楽番組などにこだわる人や、CMの収集を趣味としている人には重要な機能だ。

 現在売られているBDレコーダの多くは、主に「CMカット」を前提とした編集機能を搭載している。いらない部分を消してしまう「カット編集」と、必要な部分をまとめる「プレイリスト編集」では、使い勝手が大きく異なる。

 ご存じのように、東芝はBlu-rayレコーダ市場に参入していない。先日、東芝の西田厚聡社長(現会長)が株主総会にて、BDへの参入に含みを持たせた発言を行なった、との報道もあるが、「今存在しない」ものはしょうがない。また、仮に東芝のBDレコーダーが登場するとしても、それがRD/VARDIAのように「ライブラリー派向け」の製品になるとは限らない。VARDIAの代わりが見つからないので、BDへの移行を逡巡している……という人もいるかも知れない。

 そんな人に、「代替案」となり得る機能を備えているのが、ソニーのBDレコーダ「BDZ-A950」だ。この機種は、昨年秋に発売されたモデルのマイナーチェンジ機種だが、こと「ダビング」という点で見ると、大きな機能追加が行なわれている。

 それが、さきほど挙げた「プレイリストからのダビング」だ。A950登場以前、ソニーのレコーダは、プレイリスト編集機能こそあったものの、それを元にBlu-rayにダビングすることはできなかった。しかしA950では、作成したプレイリストをソースとしてのダビングが可能になったため、「VARDIAからの移行」を考える人には最有力候補になり得る存在だ。

 では、具体的にどのような感じなのか? 実機を使って試してみよう。

 ソニーのBDレコーダの場合、映像編集機能は、「チャプター」と「A-B消去」「プレイリスト」の3系統が存在する。このうち、単純なカットであるA-B消去はチャプターで代用可能であり、ほとんど使うことはあるまい。

編集したい映像を選び、「オプション」ボタンを選んだ後、メニューから「編集」を選択。あとは、機能を選んで編集画面を選ぶ

 少々横道にそれるが、どうもソニーのBDレコーダは、「使わないだろうと思うのに用意されているメニュー」が多すぎる印象がある。今となってはA-B点設定は削除してもかまわないと思うし、ダビングや消去に存在する「すべてをダビング」、「すべてを消去」といった項目もいらない。ほとんど利用しない上に、結局は「選択してダビング」などの画面に飛ばされるだけで、特別な動作をするわけではないからだ。どうも、「スゴ録」時代から積み重ねた機能設計、UI設計から、まだ整理が出来ていない印象を受けた。

チャプタの編集は、操作も簡単で使い勝手がいい。自動でチャプタをつける「おまかせチャプター」の併用が前提という印象

 チャプタによる編集は、非常に簡単で使い勝手がいい。タイムライン上にチャプタが並ぶので、いらない部分で「決定」ボタンを押していき、下にある「消去」ボタンを押せば、必要な部分だけを残すことができる。チャプタ位置そのものの修正は、再生/早送りなどの操作を組み合わせた上で、リモコン上の「チャプター書き込み」ボタンを使って設定するのが便利だ。ただしこのボタン、リモコンのふたの中に隠れているので、ちょっと使いづらい。ぜひ表側に出してほしいところだ。

 ではプレイリストはどうだろう? ソニーの場合、チャプタとプレイリストは「全く別の機能」として、独立して存在している。VARDIAの場合、チャプタ編集とプレイリストの関係が近く、「チャプタを編集した上で、その結果をプレイリスト化する」機能であったものとは対照的である。プレイリストへ登録する「シーン」を作っていくには、別途独自にイン点・アウト点を指定して編集を行なわねばならない。これはかなり面倒だ。とはいえ、プレイリスト登録時の映像再生でも、チャプタによる移動は可能なので、まずチャプタを設定した上で、スキップボタンを使ってその点へ移動、イン点・アウト点を設定する、という使い方をするのが現実的なやり方だ。

 プレイリストに追加するシーンが複数である場合には、さきほどの「シーン作成」を繰り返すことになる。このあたりも、操作方法はさほどこなれていない。

A950のプレイリスト設定画面。画面的には、チャプタなどの設定画面に近い。それも当然で、同じ作業をもう一度やらされるような感じになっている当然ながら、プレイリストには複数の映像から、複数のシーンが登録可能。画面遷移が多く、操作はあまりこなれていない印象を受ける

 プレイリストができあがると、XMBの映像リストには、新たに1つ「映像が追加されている」ように見えるはずだ。先頭に「PL」のアイコンがついているのが、プレイリストの印である。あとのダビングは、他の映像と同じように行なう。編集したからといって、再エンコードなどは発生しない。

 ただし注意が必要なのが、「ダビング回数」の問題だ。

 プレイリスト作成は、レコーダ内部の動作的には「1回のダビング」とカウントされているようだ。ただし、「外部にコピー」されたわけではないため、プレイリストの元となったソース映像のダビング回数は変化しない。

 例えば、ダビング10の地デジ放送をソースとした場合、プレイリストを作成するとソースのダビング可能回数は「10」、プレイリストのダビング可能回数は「9」となる。

 そして、さらにそこからプレイリストをダビングすると、こんどはソース映像とプレイリスト、双方からダビング可能回数が減算される。すなわち、ソースのダビング可能回数が「9」、プレイリストのダビング回数が「8」へと減ることになるのである。

 文章にするとわかりづらいが、要は映像アイコンについている「数字」を見ればいいので、実際にはさほど戸惑わないだろう。

 

ダビング回数の「数字」に注目。ダビング前は、ソースが10回、プレイリストが9回だが、プレイリストダビング後には、双方とも1ずつ減っている

 当然だが、すでにダビング回数が0、すなわち「ムーブのみを許す」映像をソースとしてプレイリストを作成した場合、プレイリストは「ダビング可能回数0、ムーブ不可」になり、ディスクへのコピーは一切行えない。

1回分の「ムーブ」のみが残ったタイトルをソースとした場合、プレイリスト側のダビング/ムーブは不可能となる。そのため、プレイリストをダビングしようとしてもエラーが出る

 この「ダビング回数変化」の仕様は、VARDIAほど柔軟性はないものの、決して許容できないものではない。編集機能の使い勝手の面で厳しさは感じるが、そこさえ我慢できるなら、「ダビング方法にこだわったライブラリー派」にも、十分VARDIAの代替として使用できる。

 1点、Blu-rayの時代になって退化したといえる部分を挙げるならば、それは「メニュー」の作成である。DVDの時代は、DVD-Videoモードで書き込む副産物として、収録される映像のサムネイルが入った「DVDメニュー」を作成したディスクができあがる機種が多かった。だがBDの場合、録画番組の記録に使われる「BDAV」は、DVD-VRモードの流れを汲むものなので、メニュー自体が存在しない。思えば、RDシリーズ初期のヒット機種「RD-X3」は、家電とは思えないほど凝ったDVDメニューを、PC連携で作成できることが魅力となり、支持を受けた部分もあった。

 個人的には、テレビ番組の録画ならいらないかな、とも思うのだが、特にビデオカメラからの映像をディスクに焼く場合には、「メニュー」にあこがれがある人も多いようである。

 PCでBDを作る場合には、BDAVもBDMVも扱えるため、メニューを記録できるソフトも多い。操作が複雑化する可能性をはらんでいるので善し悪しではあるのだが、「レコーダでビデオカメラ連携」を推すならば、メニュー付きのBDMV記録に対応してもいいのでは、とも考える。

(2009年 7月 3日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]