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新Mac OS「OS X Mountain Lion」新機能プレビュー
~iOSを取り込むMac OSに見る「次世代戦略」~
アップルは2月16日、次期Mac OS「OS X Mountain Lion」(以下Mountain Lion)の概要を発表した。正式版の公開はまだ先になる予定で、現在は開発者向けプレビューが行なわれた状態だ。また、詳しくは後述するが、Mountain Lionにて提供されるメッセージングツール「Messages」についても、同日よりOS X Lionユーザー向けに、ベータ版の配布がはじまった。
今回は開発者向けプレビュー版の内容を確認する機会を得たため、そのうちコアとなる10の機能について紹介する。なお画像についても、アップル側より提供を受けたものを利用している。ご了承いただきたい。
OS X Mountain Lionのメイン画面。基本的なところはLionと大差ないが、MessagesやNotification Centerなど、新しい要素のアイコンが増えているところに注目。 |
■ 「ネコ科」愛称は継続、iCloudとの統合が進む
OS X Mountain Lionのロゴ。今回はマウンテンライオン(ピューマ)が愛称となる |
Lion正式版が公開されたのは、昨年7月のこと。Mac OSは、おおむね2年程度の間隔を置いてバージョンアップしてきたため、7カ月で次期バージョンの概要を公開するのは異例のスピードといえる。愛称は「Mountain Lion」。バージョン番号は「10.8」となる。動物名としては、日本ではピューマ、と言った方がわかりやすいだろう。「百獣の王の次はなんだ」と心配されたわけだが、今回も、ネコ科の動物をOSの愛称にする、という伝統は継続したことになる。
現状では、今回解説する機能以上の情報はなく、動作推奨環境などについてはまだ不明だ。おそらくLionとそう大差ないだろうとは思われるが、今回はあくまで「機能のプレビューである」とご理解いただきたい。
Mountain Lionの特徴は、主に2つといえる。
一つめは、iOS機器で実現されている機能のうち、Macでも有用と思われる機能を取り込むことであり、もう一つは、同社のクラウドサービス「iCloud」との統合をより進めたことだ。どちらもLionより継続している方向性だが、より本格的に取り組んだ、といっていいだろう。
わかりやすいのは「iCloudの統合」だ。iOS機器では、iOS5以降、セットアップ時にiCloudのアカウントを入力し、その後の設定が自動的に行なわれるようになっていた。Mountain Lionでも、それと同じ仕組みになっている。ファイルをiCloudに保存する「Documents on The Cloud」機能も同様だ。「Pages」「keynote」のようなiCloudに対応したアプリの場合、iOSとMacの間ではファイル同期が簡単に行なえたが、Mountain Lionではそれがさらに強化される。
Documents in The Cloudでの、iOS機器との間でファイル共有機能が強化。この画面ではわからないが、ファイル管理用画面の操作方法も大きく変わっている |
記事に掲載した提供画像からではわからないが、実は、Mountain LionからiCloud上で管理されているファイル群(画面では「iCloud」と表示される)を見た場合には、従来の「ファイルとフォルダー」という見え方ではなく、iOSのアイコン表示に近いものに変わる。フォルダーという考え方がなく、アイコンを重ねるとグループになる、という点も、iOSのアプリアイコンと同じだ。
従来よりシンプルな表示になり、操作系がiOSに統一された……ともいえるわけだが、慣れ親しんだ操作とあまりに違うので、戸惑う人も多いだろう。現状、この操作系は「iCloud上の文書」に限定されており、ファイルウインドウ左上にある「iCloud」ボタンを押した時にだけ適用される。Macのハードディスク内にある文書(画面では「On My Mac」と表示される)では、いままで通りの操作体系となる。
今後2つの操作体系の関係がどうなるかはまだわからない。だが少なくとも、iOS機器とファイルをやりとりする場合には、この新しい操作体系を主に使うことになるだろう。
アップルから提供された、Mountain Lionの新機能をまとめたムービーも掲載する。解説と共にみていただければ、変更点がよく分かるはずだ。
■ iMessage、通知、Game Centerなどが続々Macに統合
iOS機器との親和性強化という意味では、まず「Messages」と「Notification Center」の解説をするのがいいだろう。
iOSの「iMessage」と連携する「Messages」。iChatの後継となるアプリケーションで、iPhone・iPadなどとリアルタイムでのメッセージ交換を実現する |
iOS5以降には「iMessage」というショート・リアルタイムメッセージ機能が組みこまれている。携帯電話でいうところのSMS・MMS機能を統合しつつ、iOS機器同士ではもっと自由で便利な「ショートメッセージのやりとり」が可能になるもので、SMSとインスタントメッセージングを一緒にしたような使い勝手をもっている。純粋なインターネット上のサービスなので、SMSなどと違い、携帯電話事業者の料金体系によらず利用できるのもいい。
ただこれまで、この機能の難点は「iOS同士だけで使える」ということだった。なぜMacで採用されていないのか? と疑問に思ったものだが、Mountain Lionからは「Messages」という名称のアプリケーションで対応することになった。これまでMacOSに付属していたチャットツール「iChat」がMessagesで置き換えられる。
iChatがサポートしていた、iChat・AIM・Google Talkなどとの接続にも対応している。なおMessagesについては、「ベータ版」という扱いで、Mountain Lionを待たず、Lionのユーザー向けにも本日2月16日から無償公開される予定となっている。
新着メールや次の予定など、「通知」に関連する情報を表示する「Nortification Center」。iOSでは画面上から下に出てくるが、Mountain Lionでは画面右から現れる |
「Notification Center」は、iOSにおける「通知センター」をそのままMac上で再現したものだ。新着のメールや電話の不在着信、次のスケジュールといった、利用者に「通知」されるべき情報がまとめて表示される。iOSでは画面の上から下へスワイプすることで登場したが、Mountain Lionでは、Macのタッチパッドの上で指を二本、右端から滑らせることで登場する。当然ながら、Macの画面全体を覆う「フルスクリーン表示」でも問題ない。
また、これらの通知情報は、画面右上に四角いバナーの形でも現れる。そのままにしておけば、5秒後には自動的に消えるようになっているので、邪魔にはならない。Macユーザーならば、この通知の方法になんとなく見覚えがあるはず。そう。多くのMacユーザーが利用している通知用フリーウエア「Growl」に似た仕組みだ。
iOS5でおなじみの機能「Notes」「Reminder」も、Mountain LionでMacに取り込まれる。それぞれの機能はiOSのそれとほぼ同じであり、使い勝手も似ている。iCloudとももちろん連携しているので、情報はiOS機器ときちんと同期されるようになっている。
備忘録機能「Reminder」。同様のiOS向けの機能とほぼ同じもの。iCloudを経由してiOSの同名機能とも連携する | メモ機能「Notes」。同様のiOS向けの機能とほぼ同じもの。iCloudを経由してiOSの同名機能と連携する |
主に「考え方」の面で、iOS5よりMountain Lionが取り込んだのが、Twitter連携をはじめとした「シェア」機能である。
Mountain Lionでは、Safariやプレビュー、クイックルックなど、様々なアプリケーションに、四角から矢印が飛び出したような「シェア」ボタンが用意される。形としては、iOS用のSafariでブックマーク登録やツイート機能を呼び出すボタンと同じものだ。これをクリックすると、現在表示中のもの(ウェブや写真、動画など)を、メールやMessages、Twitterなどに送信して「シェア」する機能が呼び出せる仕組みになっている。
Mountain Lionに組みこまれたTwitter連携機能を使い、見ているウェブの情報を簡単に「つぶやく」ことができる |
例えば、いま見ているウェブをTwitterでつぶやきたい場合なら、「シェア」ボタンを押して「Twitter」を選ぶ。するとURLが「クリップ」され、メッセージをつけてその場から「つぶやける」わけだ。iOS5の「ツイート」機能と、動作はほとんど同じといっていい。Lionから搭載された「AirDrop」機能を使ってファイルを送信したりもできる。
この機能で使うTwitterのアカウントは、OSの設定画面で入力しておくことになり、Mac全体で使われる。ここもiOS5でのTwitter統合と同じ考え方である。あくまで「自ら送信する」ためのもので、特にTwitterの場合、閲覧に別のソフトやウェブブラウザーが必要である、という状況は変わりはない。「シェア」関係はAPIが用意されるので、各アプリケーションから、まったく同じ操作を使って情報を共有することができるようになるだろう。
このところ、アップルはiOS機器の「ゲーム機としての可能性」を強くアピールしている。その一角を担っているのが、ゲーム向けSNS「Game Center」だ。同じゲームをプレイする相手を探すのはもちろん、ゲームの進捗などを記録しておき、コミュニケーションに生かす。
Mountain Lionでは、iOSからこれも採り入れる。
といっても、Mac用ゲームはiOSとは違う。Game Centerは同じゲームをしている人がいて初めて成立するものだ。だからMountain Lionでは、Mac用にiOS用と同じゲームを用意し、Mountain Lionで用意された「Game Kit API」を使うことで、ハードの違いを超え、iOS機器とMacの間で同じゲームの「対戦」をすることも実現する。
Macにも、iOSに搭載された「Game Center」が登場。iOS用ゲームで作った友人と、Macでも一緒に遊べる | Game Centerと、Mountain Lionで搭載された新APIを使うことで、iOSとMacの両方に用意されたゲームの場合、機種の違いを超えて対戦ができる |
■ Macも「AirPlayミラーリング」対応に
筆者として、iOS5の良いところをもっともうまく採り入れたな、と感じるのが「シェア機能」と「AirPlayミラーリング機能」だ。
現在Phone 4SとiPad2では、別売の「Apple TV」と組み合わせることで、このAirPlayミラーリングが使えるようになっている。その使い勝手は以前のレビューを併読していただけると助かる。簡単に言えば、同じLANでつながれているiPhone 4Sなどの画面を、無線LANを経由してApple TVに転送し、Apple TVにつながったテレビにそのまま映す機能だ。
Mountain Lionより、Macも「AirPlayミラーリング」の利用が可能に。Apple TVと連携して、テレビへ簡単にMacの画面を表示できるようになる |
Mountain Lionでは、この機能がMacにも搭載される。Macの画面がApple TVを介して、そのままテレビに表示されるのだ。表示解像度は、Apple TVに合わせた720p。iOS機器は画面比がテレビとは大きく異なるため、左右の黒いブランク部が大きくなってしまったが、現在のMacはアスペクト比がテレビに近いので、黒枠は小さく感じる。
当然ながらこれを使うと、プレゼンなどをテレビなどに簡単に表示できる。もちろんそれだけでなく、Macで見ている写真や動画配信などを視聴することもできる。もちろんゲームもOKだ。
ワイヤレスでテレビに画像を映すという意味では、インテルもWindowsパソコン用に「WiDi」という規格を展開している。独自規格で同様のことを行なっているものもある。しかしAirPlayミラーリングは、それらに比べても、画質や安定度、そしてなにより簡単さ・手軽さの点で優位にある。なにしろ、8,800円で売られているApple TVを追加するだけでいいのだ。IPアドレスの設定など、複雑な設定も一切ない。
アップルはおそらく今後、AirPlayミラーリングを「基幹機能」の一つと位置づけ、様々な機器に搭載していくのだろう。テレビを「ディスプレイ」として捉え、各種スマート機器と連携する、という観点で見ると、アップルがAirPlayミラーリングの「簡単さ」を重視するところには、やはりそれなりの意図がある、と考えたくなってくる。
■ 「Gatekeeper」を使い、「開発者ID」でアプリの安全性を確保へ
目に見える変化ではないが、Mountain Lionにおける、ある意味もっとも大きな変更が「ソフトの配布ポリシー」に関連する機能だ。
ご存じのようにiOS機器では、アプリの配布はすべてアップルが運営する「AppStore」を経由して行なわれる。この仕組みは、公序良俗に反するとアップルが考えるアプリケーションの氾濫を防ぐことと、マルウエア的な動作をするアプリケーションの流入を可能な限り防ぐ、という二つの側面から導入された仕組みだ。アップルが事前にアプリケーションの審査を行ない、パスしたものだけが配布されるため、基準を満たさないアプリケーションが紛れ込みにくい。そのため、同様の審査の無いAndroidに比べると、安心で安全なアプリ配布環境が作られている。
他方、パソコンは大きく違う。基本的にソフトは自由に作って自由に配布できるもの。すべて、判断するのも責任を取るのも自分自身だ。
アップルは、iOSでの成功から、パソコンでの単純な「自由さ」に、疑問をもっていたのは間違いない。2011年1月より、iOSに倣い「Mac App Store」という仕組みを作った上で、iOS同様「審査した上でMac用アプリケーションを配布する」ようになった。ご存じのように、Lionはこのルートでのみ配布されている。
他方、審査はアップルに負担を強いる上に、そもそもパソコンの良さである「自由な文化」にそぐわない。
そこで、Mountain Lionから導入されるのが「Gatekeeper」という仕組みだ。Gatekeeperは、簡単にいえばApp Storeと同じく「条件に合ったアプリケーションしか使わせない仕組み」なのだが、その条件がiOSとはちょっと違う。
App Store経由の「審査済み」アプリケーションが動作するのに加え、もうひとつ新しい条件が登場するのだ。それが「認証済みデベロッパーが作成したアプリ」という考え方である。
アップルは同社製品向けソフトの開発者に「デベロッパーID」を発行する。この際には当然、本人確認と本人情報の登録が行なわれる。認証済みアプリには、このデベロッパーIDが暗号化されて埋め込まれる。
ただし、この段階でアプリの審査はない。単に「身元が確かな人が作ったアプリ」という証明がつくだけである。だが、これでもセキュリティ向上には大きな価値があるだろう。アップルに「不正なソフトを作ったデベロッパーである」ことが登録されると、デベロッパーIDは抹消され、「サインのないアプリ」と同じ扱いになるからだ。そうなると、Gatekeeperが「不正なアプリ」としてインストールを止める。もちろん、デベロッパーIDが登録されていないアプリも同様だ。
もちろん設定を変えれば、いままで通り「すべてのソフトを受け入れる」こともできるし、逆に「Mac App Storeのみ」とすることで、より厳密なセキュリティポリシーで臨むこともできる。
現在のところ、GatekeeperはMountain Lionのみで導入されるもので、他のプラットフォームでのアプリケーション開発および配布への導入について、アップルは一切のコメントをしていない。だが仮に、この方針がさらに広がっていくことになれば、審査の厳しさと手間、そして開発やビジネスの自由度といった、面倒なジレンマに対し、ある程度の解決策となる可能性もある。
■ 中国向けの機能も拡充、中国国内向けネットサービスに対応
中国国内の事情にあわせ、中国でメジャーなネットサービスに対応。この他、ピンインからの入力を行なうIMEの機能も大幅に改善した |
最後の機能は「中国向け機能の拡張」だ。日本にはさほど関係のない部分なので、ここでは軽く触れるだけとしておく。
Mountain Lionでは、いわゆるピンインから入力する中国語用IMEの機能が大幅に強化された他、Baidu・Weibo・QQなどの中国で広く使われているネットサービスに対して、OS側で対応するなどの拡張が行なわれている。Mac OSでは、検索サービスやTwitter、インスタントメッセージングなどに、それぞれメジャーなサービスが使えるようになっている。だが、これまでは欧米・日本などでメジャーなサービスだけに対応していた。中国の場合、国内事情から、これら「中国でメジャーなサービス」以外の活用が難しい。そういった市場の特殊性に対応し、中国市場でのプレゼンスをより広げていきたい、という明確な意図が読み取れる。
(2012年 2月 16日)