西田宗千佳の
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SCEハウス社長インタビュー。新PS3は「ダウンロード重視」

~PSモバイルでもVitaでも「体験」を大切に~


SCE アンドリュー・ハウスCEO

 9月19日、SCEはプレスカンファレンスを開催し、新型のPlayStation3(PS3)「CECH-4000シリーズ」や、PlayStaion Vitaのカラーバリエーション、新ソフト・新サービスなどを発表した。20日よりスタートした東京ゲームショウ2012は、それを一般に御披露目する機会でもある(一般公開日は22日、23日)。

 短時間ではあるが、SCE・代表取締役 社長 兼 グループCEOのアンドリュー・ハウス氏にインタビューすることができた。新モデルの狙いやモバイルでの戦略などの詳細を聞いた。ぜひ、19日の発表に関する詳細記事をご参照の後、お読みいただきたい。



■ 新型は「ダウンロード重視」ゆえに大容量。CELLのシュリンクはなし

-- 新型のPS3についてうかがいます。小型になったとのことですが、気になる点が2つ。なぜそこで、値下げでなくHDDの増量なのでしょうか? これからPS3を買うようなユーザーだと、HDD容量よりも値段を重視するような気がします。他方で昨日の発表では、「ダウンロードの活用を促進していく」とのお話もありました。そのあたりの施策との関係も教えてください。

PS3の新モデル「CECH-4000シリーズ」。ディスクがフロントローディングからトップローディングになった。本体サイズは、2006年末発売の初代モデルに比べ、50%も小さくなっている。日本での価格は据え置きだが、HDDが250GBもしくは500GBに増量している

ハウス社長(以下敬称略):まず少し訂正したいのは、ダウンロードを活用するというトレンドは「これから」のものではなく、もうすでにやってきていて、現在のPS3では大きなものになっている、ということです。

 我々の読みとして公表している数字としては、ネットワークでのダウンロードのビジネスは、昨年比で1.5倍くらいの伸びを示す、と考えています。ゲームの分野においては、このトレンドを上回っています。すでにこのシフトは始まっているのです。もちろんゲームのみならず、映画、音楽など、色々な面でシフトしています。

PlayStation Networkカード

 もうひとつの例として、これは日本国内のものになりますが、ユーザーの買い方・支払い方も変わってきている、という点が挙げられます。初期にはクレジットカードでの支払いがメインだったのが、現在はPOSA(筆者注:Point of Sales Activation、POSレジで支払った際に発行されるダウンロードコードのこと。PlayStaion Network用のプリペイドカードなども、コンビニや量販店でPOSAを使い発行されている)カードにシフトしていっています。

 これがなにを示しているかというと、クレジットカードを持っていない人、「若い人々」がPOSAカードから入ってきている、ということなんです。

 最初の話に戻りましょう。若い人々にとって、POSAカードを使ったダウンロード購入は、すでに当たり前のものになりつつあります。そういうトレンドがもう起こっていますので、HDDの使い方というのは、将来を見据えると大容量が必要ですし、さらに大容量消費が加速するのではないか、と思っています。

 現在、平均的には、ソフトの15%から20%がダウンロードになる、というトレンドであると見ています。このシフトは、Vitaなどのモバイルにおいて、PS3より速く進行しています。

-- おっしゃるとおり、モバイルではダウンロードが増えています。しかし、PS3ではまだパッケージが主流です。日本でも、ゲームのフルダウンロードが増えるということですか?

ハウス:はい、おっしゃるとおりです。もう推進しています。特に欧米では、フルゲームのダウンロードが進んでいるタイトルも多くあります。そういう意味では、日本は正直に言うと、少し出遅れているかもしれません。また、日本では先日始まったばかりの、PS3向けのPS2タイトルの「ゲームアーカイブズ」は、欧米では以前から行なわれていました。こちらは完全にダウンロードモデルです。ですからおっしゃるような意味で、HDDの容量が重要になってくると思います。

 とはいえ、まだまだバンド幅によってダウンロード速度の問題はありますが……。バンド幅は速くなるトレンドにありますので、そこは問題なくなっていくだろうと思います

 きちんと調査したのですが、HDDの利用量は、現在もすでにとても多いんですよ。これは我が家の話ですが、我が家のPS3は初期型なのですが、息子がとてもよくダウンロードするので、「HDDがいっぱいだから買い換えてよ」なんて言われていますよ(苦笑)

 値下げのご質問について。もちろん理想的には、(HDD増量と)値下げを同時にやるのがいいのでしょう。しかし、我々も、きちんとユーザーを増やしつつ、新しい価値観を提示したいと思っています。ユーザーが喜ぶことをしたいのです。必ずしも、価格だけの問題ではないと思います。

-- SCEE(欧州)でのみ、12GBのフラッシュメモリを搭載した低価格モデルを投入した理由はなんですか?

ハウス:ヨーロッパと言っても、SCEEの担当エリアは広いんですよ。私は元々SCEEの人間ですから、その辺は詳しい(笑)。中近東・アフリカ・インド・ロシアといった地域も含まれ、とても幅広い。いわゆる先進国とは異なる地域があります。それらの地域では、日本やアメリカ、ヨーロッパのような(ネットワークの)バンド幅を期待できません。そうした地域では、パッケージメディアが重要、メインの存在になるため、多少低価格なものを投入するというやり方はあると考えました。

 次の質問はわかっています(笑) 他の地域はどうか、というお話だと思いますが、まずは見えやすい地域に投入してユーザーの反応を見て、他の地域での展開を考えるつもりです。

-- PS3はこれまで、小さくなるごとに中身が変わってきました。今回はどのあたりが変わったのでしょうか? CPUやGPUのプロセスはどうなっていますか?

ハウス:全体、様々なパーツをそれぞれ改良して小型化した、という回答になりますね。CELLもGPUも、プロセスルールは変えていません。同じものです。


■ Android上でも「ゲーム体験の保証」を、Vitaのチャレンジはマーケティング策

-- PlayStaion Mobile(PSモバイル)についておうかがいします。シャープ・富士通という2社が参加したことで、ようやく仲間が増えてきたな、という印象があります。Androidの有料アプリケーションマーケットというのは、iOSに比べ弱い。とてもとても弱い。その中で成功するには、色々な施策が必要だと思います。なにをやらなければいけない、なにが差別化点になると考えていますか?

東京ゲームショウでは、PSモバイルの対応端末も公開された。サービスは10月3日より、日本を含む9カ国でスタートする予定

ハウス:まずは、探しやすくてブラウズしやすい、ちゃんとしたマーケットを作ることです。そういう自信のあるPlayStation Storeを作るのが大切です。他社を悪く言うのは好きではありませんが、Androidのストアが、普通の人にとって使いやすいストアになっているかというと、ちょっと疑問です。

 PS Storeでは、ほんとうに軽いフィルターをかけて、ユーザーが楽しいゲーム体験ができることを、ある程度我々が保証できるようなコンテンツがPS Storeに並ぶようにすることが大事です。

 これからのことになりますが、ダウンロードだけでなく、フリーミアム(無料のサービスを展開し、それに付加価値を加えた有料サービスで収益を得るモデル)やインゲームコンテンツのダウンロード販売など、様々な購入制度の整備は必須だと考えます。それらも、全部計画の中で考えています。

 あとは、日本においては、色々な価格が採れるように考えています。50円から850円までです。色々なゲームが楽しめるようになるはずです。しかし重要なのは、先ほどの繰り返しになりますが、どれを購入しても、ある程度PlayStationらしい、楽しいゲーム体験が保証されていることが重要。そしてそれがどんどん、口コミでよって広がって、「Androidデバイスでも、PS Storeなら楽しい」ということが定着する。そうなるよう努力するのが、我々にとってマーケティング上のチャレンジです。

-- Vitaについて。ソフトもそろってきたとは思いますが、全世界的に見ると、Vitaというプラットフォームを強力に推す施策が不足しているのでは、とも感じます。ソフトの強化はもちろんですが、値下げを含めた価格の面など、普及を促すための策をどう考えていますか?

ハウス:どれくらいの時期で、ということについては、据え置きのコンソールと同じくらいのライフサイクルを考えています。現状は我々にとって、本当に初期の段階だと考えています。PS3と同じような成功例としては、ゲームと同様、様々なアプリケーションを、Vitaならではの作り方で導入したいと思っています。

 第二の柱としては、まさにコンテンツの戦略です。「このゲームはVitaでしかできない」という体験を用意することだと思います。昨日、日本向けとしてはお知らせできたものと考えているのですが。海外も含めて、です。

 これからチャンレンジしないといけないと思っているのは、マーケティング戦略です。私見ですが、Vitaはご購入いただいた方からの評判はとてもいい製品だと思いますし、私自身、いいものだと思っています。ネット時代にその印象をちゃんと作り出して、きちんと伝わっていくようにすることが、我々のチャレンジだと思います。

Vitaのカラーバリエーションが2色追加に。「コズミック・レッド」と「サファイア・ブルー」を、11月15日発売

--スマートフォンがあればモバイルゲーム機はいらない、という風潮もありますが、そういった意見は、そのような施策で打ち破っていける、と?

ハウス:はい。この業界では「Contents is King」と言います。コンテンツの良さとその伝わり方は、我々がチャレンジしなければいけないことだと思っています。

 PSモバイルのコンテンツはVitaでも遊べますし、それはデベロッパーにとって魅力あることだと思います。

 また昨日は、日本でおそらくはじめて、(PS3との)クロスプレイ・クロスバイという施策を発表しました。こういうことはおそらく、SCEにしかできません。こういうおもしろいものをどんどん世に出して、伝えていきたいです。



 なお、Vitaのコンテンツ施策として、電子書籍ストア「ReaderStore」をVita向けに展開すること、10月中旬よりコミックを配信することが発表されているが、その詳細についてコメントが得られたので、ここで追加しておきたい。

 配信するコミックはこれまでPSPに配信されてきたものとは異なり、ReaderStoreで配信されているものと同じ。すなわち、フォーマット的にも、EPUBなどに対応した専用ビュワーが使われる。まずはコミックからだが、将来的には小説などの文字物への対応も予定されている。ただし「すべてのフォーマットに一気に対応はできず、順々に行なっていく」(SCE担当者)とのこと。コミック以外のスタート時期もまだ明確ではない。ただし、最終的にはもっと広い「書籍」の配信を目標としているのは間違いないようで、Vitaも「電子書籍端末の一つ」となる、と考えてよさそうだ。

Vitaを縦にしてコミックを読むことも可能。このときには、LボタンやRボタンでページ送りもできる横で見開き表示もOK。もちろんボタンの他、タッチでページめくりにも対応

(2012年 9月 21日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)などがある。

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[Reported by 西田宗千佳]