小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第777回 元祖アクションカムの逆襲!? 「GoPro HERO5」は再び天下を取れるか
元祖アクションカムの逆襲!? 「GoPro HERO5」は再び天下を取れるか
2016年10月19日 10:00
生まれ変わったGoPro
アクションカメラの代名詞とも言えるGoProだが、前作の「GoPro HERO4」が発表されたのは、2014年9月末のこと。4K撮影は2012年発売の「GoPro HERO 3 Black Edition」からすでに対応しており、当時としては他社の追従を許さぬ開発スピードで圧勝していたものだった。
しかし生き馬の目を抜くこの業界、2年に1度の製品投入では、他社にどんどん追いつかれてしまう。最近ではGoProの優位性は薄らいできたように感じる。
そもそもGoProは、ラインナップが複雑だ。HERO3の頃はBlack、Silver、Whiteの3モデルがあり、見た目は同じでもスペックが違っていた。HERO4の頃はBlackとSilverに集約されたが、価格的には59,000円、47,000円と、なかなかいいお値段であった。
昨年には大幅に小型化した新シリーズとして「HERO4 Session」を投入したが、これが不評で業績を悪化させた。その後付属品と名称を変えて「HERO Session」となった。今年初めには大胆なリストラを断行するなど苦しい状況の中、次の一手が注目されていたが、9月に新製品となる「HERO5」シリーズを発表、10月上旬から販売が始まっている。
「HERO5 Black」は、従来サイズの新モデルで、4K/30p撮影、背面に液晶を備えるなど、フルスペックモデルである。ほかのエディションはなく、これ一択となっている。価格は47,000円。シリーズとしてもう一つ、小型の「HERO5 Session」も36,000円で発売が開始されている。サイズとしては「HERO Session」と同じだが、「HERO5 Session」は4K対応となっている。
従来機とはかなり印象が変わったHERO5の実力を、さっそく試してみよう。
操作性が一新したボディ
まずHERO5 Blackのほうから見ていこう。サイズとしては従来のGoProよりも一回り大きくなっている。レンズ部分はフレームがかなり出っ張っており、ハウジングに入れた状態のHERO4のようなイメージもある。カラーリングは、ブラックと言うよりも濃いグレーだ。毎度おなじみのシルバーボディにも見飽きた頃なので、イメージの変更は重要な要素だ。
サイズが変わったのでハウジングは使い回しできなくなったが、今回はボディのみで10mまでの防水性能を備えるので、互換性は問題にならないだろう。他社ではとっくに本体防水がスタンダードになっているが、本家もようやくそれに追いついた格好だ。ただ本体には三脚穴もなにもないので、マウントするためのフレームが付属する。
カメラ部の性能からご紹介したいところだが、レンズの画角や撮像素子のサイズ、画素数などを公開していないので、よく分からない。静止画の最大画素数は12Mピクセルとあるので、少なくとも1,200万画素以上の撮像素子ではあるようだ。
なお画角に関しては、広角、超広角、中間、リニア、狭角の5つが、解像度とフレームレートの組み合わせで選択できるようになっている。
モード | 解像度 | フレームレート | 使用できる画角 |
4K | 3,840×2,160 | 30 | 広角 |
24 | 広角/超広角 | ||
2.7K | 2,704×1,520 | 60 | 広角/超広角/リニア |
30 | 広角/超広角 中間/リニア | ||
2.7K(4:3) | 2,704×2,028 | 30 | 広角 |
1440p | 1,920×1,440 | 80/60/48/30/24 | 広角 |
1080p | 1,920×1,080 | 120 | 広角/狭角 |
90 | 広角 | ||
80 | 超広角 | ||
60/48/30/24 | 広角/超広角 中間/リニア/狭角 | ||
960p | 1,280×960 | 120/60 | 広角 |
720p | 1,280×720 | 240 | 狭角 |
120/60 | 広角/超広角 中間/狭角 | ||
100 | 超広角 | ||
30 | 広角/中間/狭角 | ||
480p | 848×480 | 240 | 広角 |
「リニア」は説明書には「魚眼無効」と記載してあり、説明文を読んでも意味がわかりにくいが、映像で確認すると、画面の周辺部分の歪み補正を行ない、湾曲を補正するモードのようだ。
正面の電源ボタンがなくなり、本体のボタンは2つだけとなった。電源は横のモードボタンを長押しする。従来GoProは3つのボタンを使ってメニュー操作を行なっていたが、操作体系が独特で初めて扱う人には若干戸惑うところもあっただろう。
今回のHERO5は背面に2インチの液晶モニタがあり、タッチ操作によるUIとなっている。そのためボタン操作は必要最小限で済むようになっている。またボイスコマンドも受け付けるようになった。ちょっとしたモード変更であれば、本体を触る必要もないわけだ。これはあとで試してみよう。
音声はステレオ収録対応となり、ビデオファイルと別にWAVも録れるようになっている。底部にはバッテリーとmicroSDカードスロットがある。ビットレートは4Kでも60Mbps止まりなので、microSDXC Class 10 または UHS-Iまでの対応となっている。
側面にはmicroHDMI端子と、充電用のUSB Type-C端子がある。USB Type-Cは、2015年発売のMacBookに搭載されて話題となったが、これに続く製品があまりなく、最近ようやくスマホで幾つか対応機が登場しているが、普及はあまり進んでいない。ケーブルの向きに関係なくどちら向きでも刺さるので便利ではあるが、この採用には賛否分かれるところだろう。なおこの横のフタは、防水用のパッキンがあるせいか非常に開けにくい。
もう一つ、同時発売となったHERO5 Sessionも見ておこう。サイズ的には昨年発売されたHERO Sessionと同型だが、4K、2.7K撮影も可能になっている。機能的にはほぼHERO5 Blackに近いが、静止画の最大解像度が10Mピクセルになっているので、センサーは違うようだ。またハイスピード撮影ではHERO5 Blackよりも劣る部分がある。
その他、音声はモノラルのみ、静止画のRAWやHDR撮影ができない、GPSがないといった違いがあるが、音声コマンドには対応している。本体にボタンは2つで、表示画面がかなり小さいため、本体だけで設定変更するのはかなり面倒だ。初代Sessionが不評だったのは、このあたりの使いづらさも一つの要因だったと思うが、音声コマンドがあればだいぶ助かるだろう。また専用アプリ「Capture」を使えば、そちらからも設定変更できる。
大きく変わった操作性
今回は解像度やフレームレートなど、撮影の組み合わせがかなり多いが、HERO5 Blackでは、設定変更が画面タッチでできるようになった。画面の下の方に複数のバラメータが表示され、そこで変更もできるので、設定ミスは大幅に減るだろう。
画面を上から下にスワイプすると、スマホ接続とボイスコマンド、ユーザー設定にアクセスできる。右から左にスワイプすると、ホワイトバランスやISO感度、手ぶれ補正などのカメラ設定にアクセスできる。また左から右にスワイプすると再生モードとなり、撮影したファイルの一覧が表示される。
撮影画面を長押しすると、四角いターゲットが表示され、露出のポイントを手動で決める事ができる。露出はロックすることもできるので、定点撮影などには便利だろう。
では早速撮影してみよう。今回は強力な電子手ブレ補正が付いたということなので、まずはそのあたりからテストしてみたい。手ぶれ補正が効くのは4K以外で、かつフレームレートが60fps以下の場合のみだ。ハイスピード撮影では手ぶれ補正が効かないのは要注意である。
実質的な対抗モデルとしては、空間光学手ぶれ補正が付いたソニーの4Kアクションカム「FDR-X3000」がある。今回はこれと撮影比較してみた。
4K撮影では、HERO5では電子手ぶれ補正が効かないが、X3000は光学手ぶれ補正が効く。この差はGoProといえども埋められない部分だ。一方フルHD撮影では、双方とも補正力は互角となっており、電子補正とは言えかなり力を入れて開発したようだ。
HD撮影では画角が5段階使えるわけだが、手ぶれ補正の効きが変わるのかテストしてみた。画角が狭くなれば補正領域が広く取れるわけだが、補正量は画角とは関係ないようだ。
一方写真モードも見所が多い。撮影モードとしては、通常の「写真」のほか、「ナイトフォト」、「連写」がある。連写は秒間30コマの写真が撮影できるので、連番ファイルを動画編集ソフトに読み込ませれば、4,000×3,000ピクセルの動画にもなる。
ナイトフォトは、長時間露光による撮影を行なうモードだ。通常長時間露光は三脚などで固定しないと映像がぶれてしまうが、本機の場合は手ぶれ補正機能で補正するようで、手持ちでも結構綺麗な写真が撮れる。光源の光芒がちょっと汚いが、アクションカメラの写真機能としてはよく健闘しているほうだと思う。
また写真には、ハイダイナミックレンジに対応するWDRモードを備える。なおこの機能はRAW撮影と排他機能になっている。
強化された音声回り
音声収録は、これまでGoProの弱点とされていた。というのも、これまではハウジングに入れて使用するのが前提となっていたので、音声も十分に拾えなかったからだ。だが本体防水となったHERO5では、音声収録も強化された。
標準状態では風切り音低減機能とステレオ収録は、現場の状況に応じて自動的に設定が変更される。なお手動で設定すれば、風切り低減とステレオ収録どちらかを固定することができる。
また「RAWオーディオトラック」という機能が新たに追加された。この機能を使うと、動画と共にリニアPCM 48kHz/32bitのWAVファイルも収録される。またモードが低、中、高の3段階があり、高はオートゲインコントロールを含めたフルオーディオ処理、中が手動設定制御のみ、低が自動処理をまったく行なわないので、ポストプロダクション処理するのに向いているとされている。
音声のクオリティを上げると、動画ファイル全体のサイズが大きくなる。特にGoProのようなカメラは基本回しっぱなしになるので、ただでさえファイルサイズが大きい。そのためハイクオリティの音声ファイルを別に持つというのは、理にかなっている。
ただ、サンプリング周波数48kHzはわかるところだが、内蔵マイクの性能からして32bitまで必要だったかというと、微妙なところではある。なお動画ファイルに格納される音声は、48kHz/128kbps CBRのAACフォーマットだ。
なお別売の「Pro 3.5mmマイクアダプター」を使うと、USB-C端子を使ってマイク入力もできるようだ。フタが開いてしまうので防水ではなくなってしまうが、オーディオもきちんと同録したいというニーズには応えられるようになった。またこのアダプタは、マイクだけでなくライン出力なども入れられるようだ。
最後にボイスコマンドを試してみよう。撮影モード変更や録画スタートなどが、音声のみで行なえる。例えば「GoPro ビデオスタート」(ビデオ撮影開始)、「GoPro 写真」(静止画撮影)、「GoPro 電源オフ」(電源OFF)、「GoPro ビデオモード」(カメラのモードをビデオに変更)といった具合だ。両手が塞がっているスポーツをする時や、自撮りの時などに便利だろう。
総論
2年ぶりの全編リニューアルという格好で登場したHERO5。逆に言えばあと2年この製品で戦っていかなければならないわけだが、過去のしがらみを一切ぶっちぎって、業界をリードするトレンドを入れ込んできた製品だと言えるだろう。USB-C端子の採用も、そういう意図があるものと思われる。
映像的には手ぶれ補正の強化、ハイスピード撮影のバリエーションが増加、画角の多様化など、過去2年間で他社に追いつかれてきた部分を取り戻しに来ているという印象だ。発色が大人しいのは以前からの傾向で、絵づくりとしてはあまり変わっていないようだ。
音声の扱いはかなり強化され、ステレオ収録や風量低減機能が自動と手動で選べるようになっている。またリニアPCM収録や外部マイク入力も可能になっており、以前のような「音は度外視」のイメージから180度転換している。
フルスペックを搭載しながら、価格的にはHERO4よりも実売で1万円以上下がっている。今回は詳しく取り上げなかったが、動画撮影機能ではほぼ同スペックのHERO5 Sessionならさらに1万5千円ほど安い。
これまで価格で敬遠していた人も、この価格ならば手を出しやすいだろう。そろそろウインタースポーツのシーズンだが、HERO5が「初GoPro」という人が増えるかもしれない。それはそれで、すそ野が広がる良いチャンスであり、業界全体としてもメリットが大きい話であろう。
【国内正規品】 GoPro HERO5 Black | 【国内正規品】 GoPro HERO5 Session |
---|---|