小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第860回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

Xperia初デュアルカメラの実力は!? 「Xperia XZ2 Premium」を試す

ソニーモバイル初のデュアルカメラ機登場

 6月以降、スマートフォン夏モデルの市場投入が相次いでいる。すでにシャープ「AQUOS R2」、Huawei「P20 Pro」をレビューしたところだが、ハイエンドモデルともなれば写真・動画性能は妥協できないポイントであり、もはやマルチカメラは必要条件と言えそうだ。

Xperia XZ2 Premium

 ハイエンドスマホといえば、ソニーモバイルのXperiaを忘れるわけにはいかないところだが、これまでデュアルカメラ機がなかった。スマホ用カメラセンサーでは最大手であるソニーの看板を背負っている割には、意外である。

 この夏に各キャリア向けに投入されるXperiaは3モデル。XZ2、XZ2 Compact、XZ2 Premiumである。このうちXZ2 Premiumのみ、Xperiaとしては初となるデュアルカメラを搭載する。XZ2 Premiumを扱うのは、ドコモとauだ。

モデルdocomoauSoftBank
XZ2
XZ2 Compact××
XZ2 Premium×

 すでに5月から予約を開始しており、発売は夏頃となっているが、今回はいち早く実機をお借りできた。ただし製品版とは一部動作が異なる部分があるかもしれないことを ご承知おき頂きたい。

 Xperiaといえば、4K対応もHDR対応もいち早く対応した名門だ。開発陣がデュアルカメラをどう料理したのか、早速拝見しよう。

美しくも重量級のボディ

 XZ2 Premiumは、クロムシルバーとクロムブラックの2色展開。今回はクロムシルバーをお借りしている。

XZ2 Premium クロムシルバー

 昨今ではやや珍しい背面がアーチ型に盛り上がった形状で、最厚部が11.9mm。昨今はハイエンドでも1cm切りが標準となりつつある中、分厚い部類に入るだろう。裏表両方に3Dガラスを採用しており、手の馴染みはいいが、重量は約234gとなっている。P20 Proの180g、AQUOS R2の181gから比べれば、ポケットに入れるとドスッとくる重さである。

背面はアーチ型

 背面のアーチにより、レンズだけ出っ張っている不自然さはないのだが、その厚み故にハンディスタビライザーの「Osmo Mobile」には、物理的に装着できなかった。また右サイドにほぼまんべんなくボタンが配置されているので、左右を挟み込む系のグリップではボタンが押されてしまい、使用できない。今回の撮影は手持ち1本勝負である。

最厚部で11.9mm

 ディスプレイは5.8インチ、4K(2,160×3,840ピクセル)のトリルミナスディスプレイ for mobile。いわゆる3色LEDバックライトである。加えてRGBW画素を採用したことで、輝度を稼いでいる。

 ボディ周囲はシルバーのアルミフレームで覆われている。ボタン類は右側に集中しており、上からボリューム上下、電源、カメラボタンとなっている。端子類は底面にUSB Type-C端子があるのみで、イヤホンジャック等はない。付属品として、テレビアンテナ兼用のUSB Type-C端子からアナログイヤホン変換ケーブルが付属する。防水はIPX5/IPX8、防塵はIP6Xとなっている。

端子は底部のUSB Type-C端子のみ

 では気になるデュアルカメラを見ておこう。現状デュアルカメラ搭載の方法論は、2つに分けられる。1つはカラーとモノクロを組み合わせて解像度を稼ぐという、いわゆるHUAWEI派である。もう一つはレンズの焦点距離を変えて画角のバリエーションを作る、Apple派だ。今回のXZ2 Premiumは、カラーとモノクロセンサーを搭載した、HUAWEI派と言えるが、そこに独自の技術を加え、感度を上げるという方向性を見出している。

上がモノクロ、下がカラーカメラ

 背面のメインカメラは、上側がモノクロ、下側がカラーだ。センサーはどちらもExmor RS for mobileで、センサー内にメモリ積層。「Motion Eye Dualカメラシステム」と名付けられている。それぞれのスペックは以下のようになっている。

カメラ焦点距離F値センサーサイズ有効画素数
カラー25mm
(35mm換算)
1.81/2.3型約1,920万画素
モノクロ25mm
(35mm換算)
1.61/2.3型約1,220万画素

 同じセンサーサイズで画素数が違うと言うことは、モノクロのほうが1ピクセルの面積が広いという事である。

 加えてデュアルカメラの高速な画像処理のために、専用画像処理プロセッサ「AUBE」を搭載した。通常のグラフィックスエンジンでは賄えない高速処理のため、専用エンジンを搭載するわけだが、技術的詳細はこちらの記事をご覧頂きたい。

 スマートフォンの画像処理に関して、詳細を公開するメーカーは少ないのだが、記者向けにかなり詳しい情報が公開されている。こういうあたりがソニーらしいところである。
 一方インカメラはシングルだが、こちらも有効画素数約1,320万画素のExmor RS for mobileを採用しており、抜かりはない。

インカメラのビューティモードはやや控えめか?

組み合わせが複雑な動画

 では早速撮影である。本機は4KからVGAまで5つの解像度モードを備えているが、実はできることが解像度によってかなり変わる。複雑なので表でまとめてみた。

解像度デュアル撮影HDR手ぶれ補正
4K×OFF・スタンダード
フルHD
※24fps
OFF・スタンダード
インテリジェントアクティブ
フルHD60p×OFF・スタンダード
HD(720p)×OFF・スタンダード
インテリジェントアクティブ
VGA××OFF

 4K撮影ではHDR撮影ができるのがウリだが、デュアルカメラによる合成撮影ができないのは残念なところである。手ぶれ補正まで含めて機能がフルで使えるのはフルHD(30p)のみだが、フルHDでのHDR撮影は24fpsまでとなる。

【お詫びと訂正】記事初出時、フルHDのHDR撮影は30fpsまでの対応と記載しておりましたが、24fpsまででした。お詫びして訂正します。(7月19日)

静止画撮影時のUI
動画撮影時のUI。デュアルカメラ切り換えとHDR切り換えが画面上に現われる

 またデュアルカメラ撮影は、「Auto」モードの場合は、カメラ側がデュアルの必要がないと判断すれば使われない時がある。強制的にデュアル撮影するわけではない点に留意が必要だ。加えて、HDRとデュアル撮影は、排他仕様となっている。HDRで撮影している際には、AutoをONにできない。

 ご承知のように昨今は全国的に大変な暑さで、撮影も過酷を極めた。特に4K撮影はボディに熱が溜まりやすく、この天気では撮影開始後2分程度で警告画面が出る。保冷剤で背面を冷やしつつの撮影となった。サンプル動画中で音声がバリバリいうところがあるが、これは保冷剤のビニールパックが凹む音である。

撮影開始すぐに警告画面

 静止画に関して、歪み補正優先と画質優先モードが選択できるが、発熱のためか歪み補正優先モードは撮影しても絵にならず、緑のエラー画面が撮影されるといった現象も見られた。このあたりの処理は、製品版ではなんらかの対策が取られるだろう。

 HDR撮影は、実質的にはHLG/Rec.2020での撮影となる。撮影時には、HDRモードは全体的に画面の輝度が下がる。OLEDならそのぶん輝度を上げて対応できるのだろうが、液晶では全体的にトーンを抑えて高輝度を破綻なく表現しようとするので、全体が沈むのである。このため、日差しの強いひなたではディスプレイが見えづらくなる。

SDR撮影
HDR撮影

 なお動画のHDR撮影は、高速な読み出しが可能なExmor RS for mobileの特性を活かして、1フレーム内で長時間露光と短時間露光の2枚を撮影し、リアルタイム合成しているという。ただし4Kでは、SDR撮影は30pだが、HDR撮影は24pとなる。おそらく30pでは、リアルタイム合成処理が間に合わないのだろう。フルHDでもHDR撮影が24fpsになるのも、こうした処理速度的な部分がありそうだ。

4K SDR撮影サンプル
4K SDR.mov(119.13MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
4K HDR撮影サンプル

 手ぶれ補正に関しても、フルスペックが使えるのがフルHDとHD(720p)のみとなる。インテリジェント・アクティブは効果が高いことは実証されたが、4K撮影時にOsmo Mobileのようなジンバルが使えないのが、つくづく惜しい。

手ぶれ補正
stab.mov(29.52MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 AFは、静止画撮影では画面をタッチしてAFポイントを指定できるが、動画撮影にはそのような機能がなく、中央測距のようである。動画時は、低コントラストの被写体の場合、フォーカスが取れず背後にフォーカスが合うことが度々あった。デュアル撮影していない際も、測距のためにモノクロカメラを駆動させるなど、動画のAFにはもう一工夫欲しいところだ。

 スロー撮影もここで見ておこう。以前からスロー撮影はソニーのExmor RSが得意としてきたところだが、この機能も健在だ。単純なスロー撮影だけでなく、撮影時に任意のポイントでスロー撮影することができる。

3パターンのスローモードがある
撮影時にスロー範囲を決められる「スーパースロー(ワンショット)」で撮影
slow.mov(15.40MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 また常時120fpsで撮影しておき、あとから任意のポイントでスローモーションを作成するモードもある。現在は多くのスマートフォンにスロー撮影モードがあるが、動画撮影モードから直接スロー撮影モードに移行できるなど、UI的にも機能的にもXperiaはこなれている。

撮影後にスロー範囲を決められる「スローモーション」

デュアルカメラのポイント

 Xperiaにおけるデュアルカメラの重点ポイントは、暗所における感度向上にある。明るいレンズに1ピクセルが広い高感度センサーをモノクロカメラに搭載し、カラーデータの輝度成分に合成することで、トータルで高感度のカメラとして仕上げている。

 静止画においてはマニュアル撮影が可能なので、シングルとデュアルでISO感度を撮影比較してみた。シャッタースピードは1/60固定である。シングルでは最低感度は50から12800までだが、デュアルでは200から51200となる。

ISO感度シングルデュアル
50-
100-
200
400
800
1600
3200
6400
12800
25600-
51200-

 同じISO感度でも、デュアルの方がS/Nがよく、なおかつディテールも細かいのがわかる。

 一方動画では、デュアル撮影でも最高感度ISO 12800止まりとなる。動画は写真のようなマニュアル撮影機能がないので、ユーザーが意図的にISO感度が変えられるわけではないが、やはり動画でもS/Nやディテール感の違いはわかる。

夜景撮影サンプル
night.mov(43.92MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ただ動画の暗所撮影では、デュアルでいくかシングルでいくか、本機自体が迷っているシーンも見られた。動画撮影中に映像がシフトしてしまうので、迷っているのがわかる。撮影開始前にどっちにするか決め打ちして、撮影中は切り換えないようにしたほうがいいのではないだろうか。

デュアルかシングルか、撮影中に迷う
Shift.mov(12.46MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 デュアルカメラを使ったエフェクトとしては、動画ではモノクロ撮影モードがある。静止画撮影ではモノクロのほか、背景ボケモードも使える。これらは8月下旬以降、アップデートで対応予定だそうだ。

総論

 Xperia初のデュアルカメラ装備となった本機だが、同社のデジカメα7シリーズのように暗所に強いという方向を打ち出してきた。確かにスマートフォンのカメラ利用は完全に日常使いが主体で、ほとんどが家庭内でのスナップに使われている事を考えれば、光量の少ないところで綺麗に撮れるカメラは、使い出があるだろう。

 その一方で動画に関しては、静止画ほど自由度がなく、4K HDRまで撮影できる割には、そこにデュアルカメラの恩恵が得られないのは残念である。おそらく4K HDRを「なんちゃって」ではなく「ガチ」に捉えた結果の仕様なのだろうが、スペックを比較すると他社に遅れをとっているように見えてしまうのが気の毒である。

 注意点としては、動画撮影ではかなり熱を持つので、海やプールといった夏場特有の屋外撮影は、かなり厳しいだろう。4KではなくHDで撮影するといった対応が必要になるシーンもあると思われる。

 もう一点、背面がガラスでアーチ型になっているため、そこらへんの荷物の上や斜めになっているところに置くと、ツルーッと滑り落ちていく。重量もそこそこあるため、滑り落ちやすさも格別だ。置き方にはちょっと注意した方がいいだろう。

 今後「Xperia XZ3」が発表されるのではないかというウワサも耳にするが、発表されたとしても発売まではまだ時間がかかるだろう。「暗所に強い」がXperia XZ2 Premiumの武器となり得るのか。そのあたりをじっくり見極めていきたいところだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。