小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第856回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

動画・静止画で別カメラ!? シャープ本気の最上位スマホ「AQUOS R2」

マルチカメラ時代

 スマートフォンのトレンドは、意外に多面的な切り口がある。形状に関しては基本的には四角い板なのだが、画面および本体サイズのバリエーションは、次第に少なくなってきているようだ。

AQUOS R2

 それというのも、“本体は小さく、画面は大きく”を極めた結果、カメラやセンサーをディスプレイ内にめり込ませて設置する、いわゆる「ノッチ型」でカバーできるようになってきたからである。iPhone Xでお馴染みの手法だが、狭額縁を目指すなら避けては通れない。これにより、本体サイズが画面のインチサイズでは言い表わせなくなってきている。

 カメラの実装も、デュアルカメラが主流だが、これも様々な実装方法がある。“ワイドと望遠”という組み合わせもあれば、“カラーとモノクロ”、そして“動画と静止画”という切り口も出てきた。

 6月8日より3キャリア同時発売となったシャープのフラッグシップモデル「AQUOS R2」は、動画と静止画2つのカメラを装備したスマートフォンだ。ディスプレイには同社得意のIGZOを採用、スマホ初のDolby Vision、Dolby Atmos対応など、見どころも多い。

 シャープはケータイの時代から端末を作り続けている老舗だが、業績不振時はモバイル事業から撤退してしまうのではないかと懸念された事もある。しかしキャリアごとに分かれていたフラッグシップブランドを「AQUOS R」に統一、2017年にはAndroid端末の国内シェア1位を取るなど、現在ではシャープの躍進を象徴する事業となった。

 日本におけるAndroid標準機となるのか、AQUOS R2の実力をチェックしてみよう。

機能フル装備、充実のスペック

 AQUOS R2にはプレミアムブラック、プラチナホワイト、コーラルピンクの3色がある。今回はプレミアムブラックをお借りしている。

人気色のプレミアムブラック
背面も美しい3D強化ガラス張り

 サイズ的には156×74×9.0mm(縦×横×厚さ)で、iPhone 8 Plusと比較すると縦2mm、横4mmほど小さい。しかしながら画面は6インチと、8 Plusの5.5インチより大きくなっている。いわゆる「ノッチ」構造により、ボディ上部ギリギリまでディスプレイを配置することで、大画面化を実現した。

インカメラはセンターに

 ディスプレイは3,040×1,440ドットのハイスピードIGZOで、画面比率は19:9。HDR表示も可能で、HDR10、Dolby Vision、HLGに対応する。色域もデジタルシネマの標準規格であるDCIに対応、リッチカラーテクノロジーモバイルという名称で訴求している。

 上部にアナログイヤフォン端子があり、イヤフォンでの視聴に限りDolby Atmosにも対応する。いまさらアナログ接続かと思われるかもしれないが、現時点では映像に対する遅延を考えれば、Bluetoothよりもアナログが一番確実にシンクロできる方式故に、仕方がないところだ。

上部にアナログのイヤフォン端子

 なお本機には、ワンセグ・フルセグチューナも内蔵されている。受信アンテナとして付属のアンテナケーブルを挿す必要性からも、イヤフォンジャックは外せないところだ。なおアンテナケーブルではなく有線イヤホンを繋いだだけでも、一応受信はできるが、安定した受信のためにはやはりアンテナケーブルを使ったほうがいいだろう。

 なおテレビの連続視聴時間は、フルセグ約9時間40分、ワンセグ約10時間40分となっている。

 底部にUSB Type-C端子があり、Quick Charge 3.0に対応する。防水性能としてはIPX5/IPX8で、防塵性能はIP6X。お風呂での利用も可能だ。

 OSはAndroid 8.0。CPUはQualcommのSnapdragon 845(SDM845) 2.6GHz(クアッドコア)+1.7GHz(クアッドコア)のオクタコアだ。メモリは4GB、ストレージは64GB。microSDXCカードスロットも備えている。

USB Type-C端子採用で急速充電対応

 さて注目のカメラだが、縦方向に2つ並ぶ。上が動画用のワイドカメラで、下が写真用の標準カメラだ。動画は標準カメラ側でも撮影する事ができるが、写真は標準カメラのみで、ワイド側で撮影する事はできないという変わった仕様だ。ただ動画からの静止画切り出しはできるので、静止画で使えないとは言い切れない。

上が動画専用カメラ

 動画専用のワイドカメラは、35mm換算で19mm相当のF2.4。撮像素子は裏面照射積層型CMOSで、有効画素数は約1,630万画素。一方標準カメラは、35mm換算で22mm相当のF1.9。有効画素数は約2,260万画素となる。動画カメラはワイドではあるが、スペック的には標準カメラのほうが上だ。なおインカメラのみ小顔補正と美肌調整モードがあり、有効画素数は約1,630万画素ある。

  • 【ワイドカメラ】焦点距離19mm/F2.4、動画4K
  • 【標準カメラ】焦点距離22mm/F1.9、動画4K/写真5,480×4,112(23M)
  • 【インカメラ】焦点距離23mm/F2.0、動画4K/写真4,656×3,448(16M)

 動画撮影時のコーデックは標準ではMPEG-4 AVC/H.264だが、高画質モードおよび高圧縮モードとしてH.265を2パターン用意している。HDR撮影には対応していないが、ディスプレイ側で擬似的にHDR表示できるモードを備えている。HDRをカメラ側で頑張らずディスプレイ側で頑張るという方法論は、シャープなら筋が通る。

コーデックにはH.264と2タイプのH.265が使える

 オーディオ系はハイレゾ再生に対応しており、再生可能フォーマットはWAV/FLAC/DSD(DSF、DSDIFF)形式。ビット数およびサンプリング周波数は、16bitが64kHz以上、24bitが44.1kHz以上となっている。BluetoothではaptX HDに対応するが、その際は48kHz/24bitにコンバートされる。

画角の組み合わせはやや複雑

 では動画撮影機能から試してみよう。ワイドカメラは焦点距離が19mmと、一眼ならば超広角レンズに相当する。短焦点ではSIGMAの「Art 19mm F2.8 DN」がよく知られるところではあるが、本機でF2.4に押さえたのは立派なスペックだ。いわゆる180度カメラほどではないにしろ、画角で135度もあるので、指などが写り込まないよう、持ち方には注意が必要である。

 今回は安定して撮影するためにハンディスタビライザーの「Osmo Mobile」を使用したが、ここまでワイドだとアームの一部分が写り込んでしまうので、固定撮影は一工夫必要である。ただし19mmのワイド端が使えるのは、手ブレ補正がOFFの時に限られる。ワイドカメラの手ぶれ補正は電子式で画角がだいぶ狭くなるため、写り込みはなくなる。

 標準カメラでも動画撮影は可能だ。その場合、手ブレ補正は光学式と電子式の選択となる。標準カメラの場合、光学と電子式では、電子式の方が画角は狭くなる。

【お詫びと訂正】記事初出時、“標準カメラの場合、光学と電子式の画角は同じだ。”としておりましたが誤りでした。電子式の方が画角が狭くなります。お詫びして訂正します。(6月21日)

標準カメラでは、動画の手ぶれ補正は光学と電子が選択できる
ワイド+補正なし
ワイド+電子補正
標準+補正なし
標準+光学補正
標準+電子補正

 手ぶれ補正の利き具合を試してみた。画質モードが4Kでも電子手ぶれ補正が効くのは、立派なものである。ワイドカメラ、標準カメラともに、電子手ぶれ補正はかなり強力だ。光学補正も補正力は高いが、さすがに歩きとなるとレンズシフトの限界に達し、時折レンズが中央に戻る動作を感じる。

4Kでも使える手ぶれ補正は強力
stab.mov(91.57MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 なおワイドカメラに関しては、レンズの歪曲補正の有無も選べる。このあたりは好みで選べばいいだろう。

レンズ補正なし
レンズ補正あり
4Kで撮影した動画サンプル
4K.mov(100.20MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 動画の画質としては、発色が強めで、特に花などビビッドなものは撮り応えがある。一方ダイナミックレンジは抑えめだ。これはあとでディスプレイ側で補正することを想定して、控えめにチューニングしてあるのかもしれない。

HDR表示モードが3種類選べるほか、標準動画をHDRっぽく見せる機能もある

 動画では、スローモーション撮影も可能だ。120fpsで撮影しておき、あとからスローにしたい範囲を決められる。

緑の部分がスローとなる
スロー撮影のサンプル
Slow.mov(34.99MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

トレンドを押さえた静止画機能

 ワイド側は動画専用カメラなので、そっちで撮影している間は静止画も撮れる標準カメラは空いている。これを利用して、動画撮影中に静止画も平行して撮影する事ができる。

動画撮影中の画面。録画ボタンの下に静止画のシャッターボタンが出る

 手動で撮影もできるが、AIを使った自動撮影モードもある。これは被写体の動きや表情を検知して、自動で撮影する機能だ。ソニーのカメラでは、「スマイルシャッター」として動画データから静止画を書き出す機能があるが、別カメラを使っての自動撮影機能は珍しい。

動画撮影前の画面。左のAIマークがアクティブの場合、自動で静止画も撮影される

 動画撮影時は撮影モードが少なく、オート、マニュアル、モノクロしかない。一方静止画では撮影モードが多彩で、ワンカメラながら背景のぼかしもできる。

動画撮影モードは3種類
静止画撮影モードは多彩

 背景ぼかしは後処理でぼかし量を決める事ができる。ただし奥行き判定を間違うケースも散見されるあたり、1カメラの限界と言えそうだ。

あとからぼかし量を決められる

 インカメラには小顔補正と美肌調整モードを備える。ただし撮影中はエフェクトがかからないため、素の自分と向き合う事になる。セルフィーするならライブビューからエフェクトがかかっていないとテンションが下がるので、COCOROナントカというサービスを展開するシャープなら、もう少し女心も研究した方がいいだろう。

インカメラには小顔補正と美肌調整モードを備える
むさ苦しいオジサンも小顔+美白+背景ぼかしで、すっきり爽やかな好青年に

ディスプレイ特性を活かしたHDR表示

 最後に本機ならではの機能として、HDR表示を確認しておく。前段でも書いたが、本機のIGZOディスプレイは、ダイナミックレンジとしてはHDR10、Dolby Vision、HLGに対応、色域はDCIに対応する。これを活かして、ネットストリーミングサービス視聴時にDolby Vision/Dolby Atmos対応コンテンツも視聴可能だ。

 Dolby Visionは映画コンテンツに向けて開発されたHDRフォーマットだが、家庭向けへカスタマイズされたことで、テレビへの搭載が進んでいる。一方Dolby Atmosは、サラウンドにプラスして高さ方向の移動感も実現するサウンドシステムで、最近では映画館での対応も進んで来ている。また家庭向けのAVアンプでも対応が進んでいるところだ。

 本機では標準ディスプレイとイヤフォンで、この両方が楽しめる。配信事業者としては、Dolby Vision/Dolby Atmos両対応のコンテンツがシャープのCOCORO VIDEO、もしくはひかりTVで、Dolby Atmos対応コンテンツがU-NEXTで配信される。

 U-NEXTではすでに3作品が配信開始されているようだが、COCORO VIDEOとひかりTVでは、記事執筆時点ではまだ配信されておらず、確認する事ができなかった。

 ただ、本機にはDolbyが提供するデモトレーラーが収録されているので、短いコンテンツではあるが、Dolby Vision/Dolby Atmosがどういうものかを体験できる。

 HDR表示はさすがのクオリティで、鮮明な赤、輝く炎など、HDRらしいダイナミックレンジと色域が堪能できる。黒の締まりはさすがにOLEDには適わないが、十分な輝度の高さがそれをカバーする。

 一方Dolby Atmosは、筆者の耳には高さはおろか、サラウンドにも聞こえなかった。フィジカルにスピーカーを配置した場合と違い、こうしたバーチャル技術では、一定の割合でサラウンドに聞こえない人が出る。筆者もその一人で、これは実際にDolbyの技術者も確認済みだ。もちろん、多くの人にはきちんと定位して聞こえるはずなので、もし展示機などを見かける事があったら、ぜひイヤホンを突っ込んで聞いてみて欲しい。

総論

 Android国内シェアナンバーワンのシャープがリリースしたフラッグシップなだけあって、微に入り細に入りといった作り込みや、切り口のユニークさが光るモデルとなっている。

 動画撮影に関しては、手ぶれ補正なしの画角135度が使いやすいのか? という疑問も残るところではあるが、手ぶれ補正を入れても十分広いと言える画角を確保することで、満足感は高いだろう。

 撮影ではHDRをサポートしないが、表示でHDRをシミュレートするので、撮る・見るが本機で完結するならば問題ないはずだ。色域は最初から広いので、外部へ書き出してもあまり不満はないだろう。

 加えてAI技術を取り入れたバーチャルアシスタント、「COCORO EMOPA」を搭載するなど、同社が得意とする領域の技術すべてを詰め込んでおり、高すぎてRoBoHoNが買えなかった方も大満足の1台となっている。あと足りないのはプラズマクラスターイオンを吐くことぐらいであろう。

 かつての携帯電話時代は、あまりにも日本市場に特化したあまり、世界に出遅れたと非難されたものだ。しかし今となっては数少ない国内スマホメーカーとなったシャープは、もう一度日本市場へ特化の道に進みつつあるのかもしれない。そもそも我々にとって興味があるもの、使いやすいものを作るのが、メーカー本来の仕事である。今となってはむしろ、「ここまでやるか!」を見せられる数少ないメーカーなのではないだろうか。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。