小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第857回
スマホカメラの革命か!? 夜景撮影も強力、3カメラ搭載Huawei「P20 Pro」
2018年6月27日 08:00
どんどん先へ行くHuawei
スマートフォンのカメラ性能向上は、背後に強力なプロセッサを搭載していることもあり、いわゆるデジタルカメラとはまた違った方向性で進んで来ている。
そうした方向性を早い段階で打ち出したのが、Huaweiだろう。2015年に「Honor 6 Plus」で初めてツインカメラを搭載、さらには2016年にLeicaとの協業で「HUAWEI P9」を発表するや、「Huaweiと言えば写真が綺麗」というポジションを獲得した。
これだけ人気メーカーでありながら、意外なことに日本においては専門ショップがなかった。今年2月に初めて、ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba内に「ファーウェイ・ショップ」がオープンしたところだ。
そんなHuaweiの新モデルで今ネットを騒がせているのが、「P20 Pro」である。Leicaレンズ搭載は当然として、背面に3つのカメラを装備する。インカメラも合わせれば、合計4つだ。
光学ズームの代わりにカメラを別に用意するという手法は、このままカメラのインフレが続けばスマホ背面がヤツメウナギみたいになってしまいかねないが、まあコストバランスから考えても3カメラぐらいが限界点だろう。
写真では評判の高いP20 Proだが、動画性能はどうだろうか。今回はそのあたりを中心にテストしてみたい。
ハイエンドモデルらしい美しさ
P20 Proは、6月中旬よりドコモから「HW-01K」というモデル名で独占発売されている。SIMフリー版は国内での正規流通はなく、現在SIMフリーとして販売されているのは下位モデルのP20なので、お間違えないようにお願いしたい。
さてそんなP20 Proは、ミッドナイトブルーとブラックの2色展開。今回はミッドナイトブルーをお借りしている。OSはAndroid 8.1で、チップセットはKirin 970のオクタコア2.36GHz×4+1.8GHz×4 + micro core i7。6GBメモリに、128GBストレージという構成になっている。
サイズ感としては、先週の「AQUOS R2」とかなり近く、155×74×7.9mm(縦×横×厚さ)。AQUOS R2の厚みが9mmだったのに比べるとボディの薄さが際立つ。ただしカメラ部がボディから突出しているので、その高さまで含めると厚みは10mmとなる。
背面は光沢感と深みのあるブルーで、ガラスの滑らかな質感と相まって、高級感のある作りとなっている。
肝心のトリプルカメラは背面に1列に配置されているが、右側の2ペアでまとまっている方がカラーカメラ、1つ独立しているのがモノクロカメラとなっている。
真ん中のカメラがメインカメラで、レンズは35mm換算で27mm/F1.8。センサーは1/1.7型4,000万画素の裏面照射CMOSとなっている。
右端のカメラは、35mm換算で80mmと、メインカメラに比較すると光学3倍となる。F2.4で、センサーは1/4.5型800万画素の裏面照射CMOS。
一番左のモノクロカメラは、レンズ画角はメインと同じ27mmで、F1.6。センサーは1/2.8型2,000万画素のモノクロ裏面照射CMOSだ。
画角、画素数、センサーサイズなど、タイプの違う3つのカメラを駆使して様々な撮影効果を実現するのは、なかなか大変そうだ。
一方でインカメラは、35mm換算26mmのF2.0。センサーは1/2.8型2,400万画素となっている。
ディスプレイは6.1インチOLED(有機EL)で、2,240×1,080ドット。色域やダイナミックレンジに関しては、特にスペックは公開されていないようだ。
底部にはUSB Type-Cポートを備えるのみで、アナログのイヤホンジャックはない。ディスプレイをめいっぱい広げた、シンプルなデザインである。
AIで「盛れる」写りに
ではまずカメラ機能から見ていこう。静止画の撮影モードは以下の通り。
- 【モード/画素数/アスペクト比】
- 40M / 7,296×5472 / 4:3
- 10M / 3,648×2,736 / 4:3
- 7M / 2,736×2,736 / 1:1
- 7M / 3,648×1,824 / 18:9
18:9はディスプレイのアスペクトに合わせたものだろうが、テレビサイズである16:9はもはや不要という割り切りが面白い。40Mという高解像度で撮影できるのが一つのポイントではあるが、この画素数で撮影できるのはメインカメラに限られる。望遠カメラも併用する場合は、10Mを選んだ方がよい。
一方動画の撮影モードは以下のようになっている。
- 【モード / 解像度 / fps】
- UHD4K / 3,840×2,160 / 30
- FHD+ / 2,160×1,080 / 30
- FHD / 1,920×1,080 / 60
- FHD / 1,920×1,080 / 30
- HD / 1,280×720 / 30
本機は動画用に電子手ぶれ補正を内蔵するが、UHD4KとFHD 60fpsでは手ぶれ補正が使えない。シャープAQUOS R2のように、昨今は4Kでも電子手ぶれ補正が使えるようになっており、それを考えれば動画に関しては若干周回遅れを感じる。
【手ぶれ補正の有無による画角の違い】
動画、静止画共に、色表現を3種類から選択することができる。表の目立つ場所にこうした機能が標準的に搭載されているのは珍しい。
静止画撮影に関しては、AIによって自動的にシーンを判断し、適切な設定に切り替わる機能がある。ただしこの機能は、動画では使えない。動画ではシーンが遷移するので、それを追いかけるまでには洗練されていないという事だろうか。すでにビデオカメラでは実現している機能なだけに、今後の対応に期待したい。
メインと望遠レンズを組み合わせ、ズーム撮影も可能だ。静止画の場合は、画面下の「1×」のところをタップすると、3x、5xに切り替わる。また横にスライドさせると、最高10倍までズームできる。
3倍および5倍ズームでは、望遠カメラの映像がメインではあるが、メインカメラやモノクロカメラを指で覆うと警告が出る。他のカメラの画像もブレンドして解像度を上げるなど、複雑な処理が行なわれているようだ。
動画の場合、静止画のように画面下に1xのような表示は出ない。だが静止画でその表示があった部分を指でスライドすると、手動のズームスライダーが出てくる。画面のピンチアウトでも同様なので、好きなほうを使えばいいだろう。
基本的にはメインカメラを使った電子ズームではあるものの、センサー的には画素数に余裕があるためか、3倍ぐらいの拡大なら画質的には問題なく使える。昔のビデオカメラで3倍の電子ズームといったら、画質劣化が酷くモザイクのようだったが、高画質化処理が凄いスピードで進化しているのが感じられる。
静止画ではAIによってトーンがその都度調整されるが、動画においては全体的に発色がビビッドで、非常に「盛った」映像となる。動画というものを写実的に捉えるのか、感動的に捉えるのかで好みが分かれるところではあるのだが、今の動画の使われ方からすれば、後者の役割に変わってきていることは間違いない。その点では、P20 Proの動画はユーザーにとって使いやすい画質と言えるだろう。
難があるのが、近距離のフォーカスである。動画撮影時には、タッチAFのための丸いガイドが出るが、撮影を開始するとこれが数秒でフェードアウトする。すると急に手前のフォーカスポイントを外れて、後ろにフォーカスが合ってしまう。
こういう挙動が本来の仕様だとは思えないので、カメラアプリのアップデートで修正して頂きたいところである。
フィルターで多彩な表現
フィルター類も充実している。セルフィーにおけるライティング効果は、iPhone Xによって有名になったが、P20 Proにも同様の機能が搭載されている。またビューティレベルも0から10まで段階的に選択できるようになっている。
なおポートレート向けのフィルター効果は、顔認識しないと動作しない。ポートレート以外にも、動画でも使えるフィルター効果が8種類用意されている。
P20 Proのスロー撮影は、4倍(120fps)、8倍(240fps)、32倍(960fps)の3つから選択できる。4倍および8倍撮影では、通常通り撮影し、あとから再生時にスロー範囲を決める事ができる。
一方32倍撮影では、シャッターを押した瞬間から2秒程度を録画し、その後自動的にフレームレート処理に入る。32倍のみ、カメラセンサー側のバッファを使って高速撮影を行なうという作りのようだ。なお解像度は、4倍のみ1080pで、8倍と32倍は720pとなる。
強力な暗所撮影機能
P20 Proの3カメラの強みは、夜間撮影にも発揮される。いつものように完全に日が暮れた住宅街を散策しながら撮影してみたが、現場ではほぼ街灯だけの薄明かりだけにも関わらず、かなり発色も強く、S/Nよく撮影できる。このあたりはセンサーの出来の良さによるところは大きいだろうが、α7sシリーズに迫る表現が、あっという間にスマートフォンで可能になったと思うと、感慨深いものがある。
なお静止画と動画の撮影プロセスはかなり違う。静止画の場合は、シャッターを押すと、いったん感度を絞り、徐々に感度を上げながら多重露光して絵を重ねて行く。したがって、シャッターを押したあと、同じアングルで10秒ほど我慢しなければならない。
手ぶれ補正によってブレは補正されるので、大抵は上手く合成できるが、我慢が足りなかったり、被写体の方が動いていると、ブレた写真となってしまう。手持ちよりも、何らかの固定具を使ったほうが確実だろう。
一方動画撮影はそうしたプロセスもなく、通常通り撮影するだけだ。静止画ほどにS/Nよく撮れるわけではないが、4Kで撮影してHDにシュリンクすれば、S/N感は上がる。
総論
Huaweiと言えば、これまでLeicaレンズの良さやモノクロカメラとの組み合わせの妙が取り沙汰されてきたが、P20 Proに関してはさらにセンサーの能力を十分に引き出せる設計や機能実装が光る結果となった。特に暗所撮影の強さは、ズーム倍率が上がるよりも利用価値が高いのではないだろうか。
とは言うものの、P20 Proは国内ではドコモの独占販売となっており、他キャリアのユーザーは落胆しているかもしれない。その一方で、ドコモ向けにカスタマイズされた結果、Huaweiスマホ特有の機能がいくつか使えなくなっているという指摘もあるようだ。
端末自体の価格は約10万円で、なかなかの高級機である。4Kで手ぶれ補正が効かないところに難はあるが、カメラ性能としてはスマホの中では頭一つ抜けているところは間違いなく、「OLEDディスプレイ搭載コンパクトカメラに10万」と考えれば、それほど高い気がしなくなってくる。
いずれにしてもP20 Proは、今年前半の大注目モデルということで間違いなさそうだ。