小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第861回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

夏だ! 低音だ! “ズドンとくる”個性派Bluetoothスピーカー3種

低音の夏、日本の夏

 「夏と言えば低音ですのでお願いします」と編集部・山崎記者から謎の提案を受けて「お、おう」と引き受けたのだが、これ世間的にはそういうことで大丈夫なのだろうか。そもそもこの連載で取り上げてきたスピーカーの大半は低音重視モデルなので、正直夏はあんまり関係ないと思うのだが、まあ夏と言えば低音ということでいいね? 問題ないね?

 最近のオーディオ業界は、便利な左右完全分離イヤフォンやスマートスピーカーの登場で、従来のオーディオファン以外にもすそ野を広げつつある。そんな中、Bluetoothスピーカーは、以前のアクティブスピーカーのような位置づけになりつつあるのではないだろうか。価格にしてもサイズにしても、多様性に挑戦しつつあるところだ。だが音質となると、単純に「イイ」か「ワルイ」かの二軸でしか語られなくなってきているのは寂しいところだ。

 そんなわけで今回は、サイズも価格帯も違う3種類の低音重視BTスピーカーを集めてみた。オーディオテクニカの「AT-SBS50BT」、同「AT-SBS70BT」、Olasonic「IA-BT7」である。どんな低音を聴かせてくれるのだろうか。早速試してみよう。

SOLID BASSシリーズ初のスピーカー AT-SBS50BT

 オーディオテクニカではかねてから低音重視シリーズとして、SOLID BASSシリーズを展開してきたが、これらは全てヘッドフォン/イヤフォンであった。だがこの8月に同シリーズとしては初めて、BTスピーカー2種が発売される。

 AT-SBS50BTは、その2種のBTスピーカーのうち、小型モデルのほうだ。店頭予想価格10,000円前後だが、通販サイトではすでに10,000円以下の価格を付けるところも出てきている。カラーはブラック、ブルー、レッドの3色。今回はレッドをお借りしている。

小型モノラルBTスピーカー「AT-SBS50BT」

 外寸はおよそ103×46×100mm(幅×奥行き×高さ)。形状としてはボーズの「SoundLink Color Bluetooth speaker II」に近いが、さらに小型である。

 正面右側にボタン類が集中しているが、実は縦置きでも平置きでも使用できる。ボタンはどちらの状態でも操作できるような位置となっている。

ボタンは側面に整列
平置きでも使える設計

 スピーカーは40mmフルレンジ1発の、モノラルスピーカーだ。スマートスピーカーもモノラルがほとんどだが、多くは円筒形をして音を360度広げる工夫がある。一方本機はモノラルながら平面照射型とでも言おうか、前面のみに音が出る設計となっており、逆にチャレンジングである。

 表面はアルミのパンチンググリルで覆われており、開口部の広さと堅牢性を両立させている。上下にパッシブラジエータを装備しており、開口部はディフューザー構造となっている。

 左側面にはストラップホールがあり、吊り下げての使用も可能だ。重量は285gで、バッテリまで内蔵している割にはかなり軽量である。バッテリーの連続使用時間は10時間で、充電は約7時間。バーベキュー等に持ち出しても、ほぼほぼ日中は鳴らしていられるスタミナと言える。

側面にストラップホール(ストラップは付属しない)

 背面はmicroUSBの充電端子と、アナログオーディオ入力がある。BluetoothはVer.5.0準拠で、コーデックはSBCとAACのみ。aptX非対応が惜しい。防水性能はIPX5相当で、完全防水ではないので、水中や海水での使用は不可と注意書きがある。水しぶきがかかるぐらいならOKと考えておけばいいだろう。

背面端子はゴムのフタでシールする

 では肝心の音である。夏向きのサウンドで何がいいか色々考えたのだが、今回はオッサンホイホイとして1989年に大ヒットしたTears For Fearsのアルバム「The Seeds of Love」で試聴する。夏になると懐メロが聴きたくなるのはなぜだろうか。

 最初に一聴した際は、「あれ? SOLID BASSってこんなもん?」と、低音の不足感に戸惑ったのだが、音量を上げると音のバランスが豹変する。低音量時は、バスドラムのアタックは聴こえるものの、ベースラインはあまり聴こえなかったのだが、音量をあげれば低音がゴリゴリ出るのだ。

 普通小型スピーカーで音量を出すと、ボディにビビリが発生したり、ドライバの歪みが気になるところだが、そういった不安もなく大音量で“吠える”。また小型スピーカーにありがちな、高域のやかましさも抑えられており、全体のテイストとしては低音重視型といってもいいだろう。

 また縦置きと横置きで音のイメージが変わるのも面白い。縦置きで正面から聞くと、音がストレートに向かってくる感が強い。加えて低音は抑えられており、良くも悪くも普通の小型スピーカーだ。

 だが横置きにすると、上下のパッシブラジエータがバランス良く十分に駆動できる体制となり、低音の量感がアップする。またフルレンジが真上に向くことになるため、中高域が抑えられ、音の広がりを感じさせる。

 広い場所に置いておくと、点音源なので「あああっちから音が鳴ってるな」という方向性は感じるが、まさかこんな小さいスピーカーが鳴ってるとは思えないボリュームであってびっくりすること請け合いだ。

 デカいスピーカーは持って行けないが、デカい音を出しても構わない場所というのが、本機の活躍場所であろう。

ステレオ仕様のAT-SBS70BT

 8月発売のSOLID BASSラインナップもう一つのBTスピーカーが、AT-SBS70BTだ。デザインテイストはAT-SBS50BTと共通だが、横に2倍ぐらい長い。カラーバリエーションはなく、ブラックのみである。店頭予想価格は17,000円前後となっているが、通販サイトでは今のところ18,000円越えのところが多い。

SOLID BASSの大きい方、「AT-SBS70BT」

 外寸はおよそ215×60×95mm(幅×奥行き×高さ)。小型ステレオスピーカーとしては奥行きがあまりないのが特徴だ。重量は約670gと、見た目の重厚さからすればかなり軽量に感じる。こちらもバッテリ内蔵で、連続使用時間は約11時間。充電は約5時間となっている。

横幅はAT-SBS50BTの二倍程度

 ボタンは上部中央にあり、AT-SBS50BTのように平置きでは使用しない前提である。スピーカーは53mmフルレンジ×2、パッシブラジエータ×2のステレオ仕様。

 開口部がアルミのパンチンググリルで覆われており、パッシブラジエータおよびディフューザーは上のみとなっている。ディフューザーは重低音を全方位に拡散するためのものだ。

上部のディフューザー。隙間からパッシブラジエータが見える

 背面は専用ACアダプタを使用する充電端子と、アナログオーディオ入力がある。BluetoothはVer.5.0準拠で、コーデックはSBCとAACに加え、aptXにも対応している。防水性能がIPX5相当なのは、AT-SBS50BTと同様だ。

充電はACアダプタで行なう
専用ACアダプタ

 なお、前述のAT-SBS50BTも含め、これら2機種向けに、スマホから電池残量の確認や簡単な再生操作が可能なアプリ「Connect」が提供される予定だ。

 AT-SBS70BTの音的な見どころは、パッシブラジエータは上部にしかないものの、53mmフルレンジが2発付いているため、小音量でもそこそこの低音を出してくるところである。奥行きがあまりないため、ニアフィールドスピーカーとしても使いやすいサイズである。また背面にパッシブラジエータもバスレフポートもないので、壁面に近づけて設置しても、あまり出音には影響がないところもポイントだろう。

 加えてこちらも、音量を上げても音像が破綻せずに低音がドッコンドッコン出る。バスドラムのアタック感はやや弱いが、ベースラインの表現はなかなかいい。多少中音域で息苦しい帯域があるが、生々しさを感じさせる音作りとなっている。それというのも、AT-SBS50BTと違って平置きを想定していないので、音がストレートに向かってくる構造だからだ。メーカーは推奨していないが、音に息苦しさを感じたら、パッシブラジエータを手前に向けて平置きしてみるといいだろう。

 横幅がだいたい顔の幅と同じぐらいなので、寝っ転がって頭のすぐ上に置くと、丁度いいステレオ感が得られる。「中音量ニアフィールド」で威力を発揮するスピーカーだと言える。

ベースアンプかよ! Olasonic「IA-BT7」

 3つめの製品は、Olasonic「IA-BT7」である。Olasonicと言えば卵型のスピーカーでよく知られるところだが、スピーカー以外にも過去オーディオ雑誌「DigiFi」付録のパワーアンプやヘッドフォンアンプを提供するなど、自作系オーディオファンからも一目置かれる優れたオーディオ設計を得意とするメーカーである。

 そんなOlasonicは、ずっと東和電子内のブランドとして製品をリリースしてきたが、昨年10月にインターアクションへ譲渡された。製品の設計や開発を手がけるメンバーの多くは従来と同じそうだが、やはり会社が変われば出てくる製品の方向性も変わるものだ。そんな新生第1弾となる製品が、IA-BT7だ。店頭予想価格は3万円前後だが、通販サイトでは32,400円からピクリとも動いていない。

従来のOlasonicのイメージから一線を画す「IA-BT7」

 製品としてはサブウーファ付き一体型ステレオスピーカーという事になるだろうか。外寸は275×73×144mm(幅×奥行き×高さ)で、前面からの見た目に対して、奥行きがあまりないのが特徴である。

サイズは3モデル中最大
意外に奥行きがない

 ボディには木製キャビネットを採用し、木目がわかるウォルナット仕上げと、ピアノフィニッシュのシルクホワイトの2色展開。スピーカーとしては、57mmフルレンジ×2、110mmサブウーファ×1。パッシブラジエータは背面に1となる。

真ん中に110mmサブウーファ
背面のパッシブラジエータもデカい

 バッテリは内蔵せず、大型のACアダプタで駆動する。重量は2.2kgと、見た目よりもかなり重い。スピーカーの磁気ユニットが大型のせいだろう。スピーカーは開口部が広めのパンチングメタルで覆われており、取り外しはできない。

かなり大きめのACアダプタ

 操作部は全面左下にあり、操作性はそれほど良くない。とはいえ、本体側でBluetooth接続しているスマホの再生/停止などが操作できるわけではないので、本体を操作する必要があるのは電源を入れるときか、入力を切り換える時ぐらいだろう。

操作部は左下に小さく集められている
天板部にはNFCポートがある
背面にアナログ入力端子とAC電源端子

 ウォールナットの外観からレトロな雰囲気もあるが、前面のアルミパネルやスピーカーの配置などは、古くささは感じられない。むしろ若い人には目新しさすら感じさせるデザインである。

ずっしりくる重さ

 Bluetoothは4.1だが、対応コーデックがSBC、AAC、aptXに加え、aptX HD、LDACにまでフル対応。Bluetooth接続時には、96kHzに自動的にアップコンバートされて再生される。加えてスピーカー特性も、LDAC 96kHz/990kbps再生時には20~40kHzとハイレゾ仕様だ。aptX HD、LDAC対応スマホをお持ちの方は、要検討スピーカーであろう。

 肝心の出音はというと、「オマエはベースアンプ」かとツッコみたくなるような地を這うドロンドロンしたベースラインが楽しめる仕上がりとなっている。サブウーファは110mmだが、250mmクラスのサブウーファと比較しても遜色ない出音だ。

 ともすれば低音域が団子状態になりそうなほどよく出るが、中高域のステレオセパレーションがよく整理されているため、輪郭が綺麗な低音が楽しめる。アタック感も強く、バスドラの踏み込みのスピード感もよく表現できている。ベーシストが耳コピーするときなどには最強だろう。

 正直この音で3万円は安い。ソニーの名機「SRS-X99」の半額以下である。もちろんX99はネットワーク機能が充実しているので、機能の多さではかなわないが、今の時代、大半の音楽サービスはスマホ利用が中心なので、Bluetoothコーデックを高音質にするという方向で凌ぐIA-BT7の方向性はアリだろう。

 バッテリ駆動しないことで、どうしても室内限定にはならざるを得ない。しかし3万円という価格を考えると、バッテリの寿命=スピーカーの寿命となって廃棄になってしまうより、5年、10年と使えた方がユーザーにとってはメリットがある。

総論

 最近は1万円以下、場合によっては5,000円以下で十分などと言われるBluetoothスピーカーが登場してきている。安くてそこそこ聴けるスピーカーの需要が高いのはわかるが、数千円出して使い捨て状態になってしまうのはもったいない。やはり音やスタイルの個性に注目して、選びたいものである。

 そんな中今回取り上げた3モデルは、低音重視モデルという共通項はあるものの、それぞれに個性があり、用途にフィットすればコストパフォーマンスは非常に高いと感じられるのではないだろうか。ただし低音も含めてバランス良く鳴る音量がそれぞれに違うので、そこをうまく捉えられるかがポイントとなるだろう。

 いやしかしほんの2~3年前に比べれば、どのメーカーも小型で低音を出す技術が飛躍的に進歩した。以前はボーズの独壇場だった低音重視スモールスピーカー市場に多彩な選択肢が出てきたことで、また一歩オーディオの楽しみが増えたのは、喜ばしい事である。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。