小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第863回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ちょっと前のMacBook Proを強化! BlackMagic Design「eGPU」を試す

拡張ボックスの時代が来る?

 Thunderbolt 3搭載以降、そのスピードを活かしてデスクトップ向けのPCI Expressカード類を外付けするためのボックス製品が、いくつか登場している。いわゆる電源とスロットが付いた箱で、安いものでは3万円台からあるようだ。

左が「BlackMagic eGPU」

 一方でさらに高速なグラフィックスカードを外付けにするという製品も登場してきている。対応グラフィックスカードを自分で入れるタイプや、グラフィックスカードまで内蔵したオールインワンタイプがあり、多くはゲームやVR表示のパフォーマンスを上げるために使われているようだ。製品によってはWindowsのみ、Macのみなどあるようなので、購入の際は慎重に下調べが必要である。

 そんな中、BlackMagic Designから外付けのGPU製品、「BlackMagic eGPU」が7月から発売となった。現在日本でもApple Store限定ながら、発売されている。価格は89,800円。現時点ではMacしかサポートしていないが、将来的にはWindowsでも使えるようになるようだ。

 Mac向けの外付けGPUが登場した背景には、今年3月リリースのmacOS High Sierra 10.13.4より、外付けGPUがサポートされた事が大きい。つまり別途ドライバなど不要で、繋げば使えるという状況になったわけだ。

 BlackMagic Designが出すからには、当然動画制作のために使うと考えるのが筋だろう。具体的には、Metal、OpenGL、OpenCLを使用するアプリケーションの高速化が期待できる。言われてみれば、これまで映像制作の現場で、ノート型を対象にGPUを外付けして高速化するという発想はあまりなかったように思われる。

 僚誌PC Watchでもベンチマークの結果は記事化されているものの、実際に映像編集やカラーグレーディング、エフェクト処理などを行なってパフォーマンスを計測した記事はあまりないようだ。そんなわけで今回はBlackMagic eGPUをお借りして、実際の編集作業でのパフォーマンスが上がるものなのか、テストしてみたい。

意外に凝ったデザイン

 BlackMagic eGPUは、上部から見れば変形8角形のミニタワー型となっている。サイズ感としては、ざっくり2013年発売のMacProとだいたい似たようなサイズだと思っていただいていいだろう。

ミニタワー型のBlackMagic eGPU

 上部と底部にスリットがあり、底部から吸気して上部から排気する構造だ。上部スリットのすぐ下には大型のファンが回っている。実は底面の真ん中に白色LEDがあり、電源が入っているときは点灯するのだが、設置した机が黒いとよくわからない。

底部のデザインが面白い
上部に大型ファンを備える
底面には通電状態を示すLEDがある

 端子類は背面にあり、三線の電源コネクタ、USB 3.1 Gen1ポート×4、Thunderbolt 3 USB Type-C端子×2、HDMI 2.0端子×1となっている。USB端子はハブとなっており、接続するMacBookPro用のマウスやキーボードを接続できる。またThunderbolt 3は85Wホスト充電機能を備えているため、MacBookProに別途電源を繋ぐ必要はない。HDMIは4K/60pもしくは4K DCIまで対応する。

背面はロビンマスクっぽい
USBハブも内蔵

 内部のグラフィックスカードは「Radeon Pro 580」で、ビデオメモリは8GB。いわゆるマザーボードに対してズバッと挿すタイプではなく、2017年発売の27インチiMac、「Retina 5Kディスプレイ 3.8GHzプロセッサ 2TBストレージ(税別253,800円)」モデルに採用されていたものである。Radeon Pro 500シリーズの中では、最上位モデルとなる。

付属のケーブル

 BlackMagic eGPUが接続可能なMacは、Thunderbolt 3を搭載した、macOS 10.13.6以降のすべてのAppleコンピュータとなっている。具体的には2016年以降のMacBook Proと、2017年のiMacおよびiMac Proという事になる。すでにこれらのMacには、Intel Iris GraphicsやRadeon Pro、Radeon Pro Vegaといったグラフィックスプロセッサが搭載されているが、eGPUはそれらと併用で動作する事になる。

 eGPU本体には電源ボタンがなく、コンセントを挿してMacBook Proに繋げば、すぐに認識する。外すときは、Finderのメニューバーのアイコンから接続解除を選ぶだけという、実に簡単な仕掛けだ。

Thunderbolt 3ケーブルを挿すだけで使用可能になる
外すときはメニューから接続解除を選択

地味だが効果が高い

 今回は筆者私物の、13型MacBook Pro 2016年モデル(2.9GHzデュアルコアIntel Core i5プロセッサ、16GB 2,133MHzメモリ、Intel Iris Graphics 550、Touch Bar)に接続してテストしてみる。

 また外部ストレージとして、SanDisk「Extreme 900 960GB」に映像ファイルを格納している。通常編集作業をする場合、ノートPC内のストレージでは全然足りないので、外部ストレージを使うのが普通だからである。SanDisk Extreme 900はUSB 3.1 Gen 2に対応しており、ベンチマークでも4K/60pのProRes422まで使用可能と出た。

SanDisk「Extreme 900 960GB」のスピードテストの結果

 編集ソフトウェアは、効果が見えやすいことを期待して「Davinci Resolve 15 Studio Public Beta 7」を使用した。無償版のDavinci Resolveと、33,980円のStudio版の主な違いは、HDR対応と4K対応である。最新版は8月6日にリリースされたPublic Beta 8であるが、先週からすでにベンチマークを取り始めていたため、今回はBeta 7で統一している。

Davinci Resolve 15 Studio Public Beta 7 のUI
Davinci Resolve側でもeGPUを認識

 編集する映像は、SONY「RX100M6」で撮影した、S-Log3の映像だ。様々な負荷をかけるため、各カットごとにカラーグレーディングやレンズフレア、フィルムグレインといったエフェクトを加える。エフェクトをかける前、かけた後の2トラックをPinPし、最終的に4K/SDRへと変換出力する。

負荷測定の為に作成した映像(実際は4K解像度)

 ここでeGPUのHDMI出力について言及しておこう。カラーグレーディングを行なうのなら、映像出力をHDR対応ディスプレイへと出力したいところだ。だが本機のHDMI出力は、Davinci Resolveの映像出力のみを出す事ができない。つまりI/Oインターフェースとしては機能せず、単なるコンピュータのセカンダリモニタ出力でしかない。広いディスプレイにUI画面を出して作業するといった用途には使えるが、グレーディング出力を得るには、別途Ultra StudioシリーズのようなI/Oインターフェースが必要となる。

 まず作業として、カラーグレーディングを行なった映像のプレビュー性能は重要だ。4K/XAVC Sのファイルを単純に3D LUTを適用しただけでも、MacBook Pro単体ではなかなか等速では動かないが、eGPUを接続した状態では、きちんと規定フレームレートで再生できる。GPU動作履歴を見ると、カラーグレーディング作業時の再生ではかなりGPUを使っており、現場で色を見て確認という用途では、かなり有用であることがわかる。

 一方でGPUを使わずCPUでレンダリングするようなエフェクトに関しては、eGPUの恩恵はほとんど得られず、かなり重たい処理となる。ポストプロダクション処理においては、GPUの強化よりもハイエンドCPUマシンを使用した方が、メリットがあるだろう。

リアルタイムプレビュー時のCPUとGPUの履歴。GPUを使うカットと使わないカットで差が大きくなる

 BlackMagic Designのサイトの情報によれば、空間的ノイズ除去や時間的ノイズ除去では6倍から7倍と高い効果があるようだ。ただ実際にプレビューしてみると、ノイズリダクションは元々かなり重たい処理なので、約7倍速になってもリアルタイム再生とは行かない。3.7fps速程度である。それでもeGPUなしでは1fps程度でしか動かないので、速度的にはずいぶん違う。

 加えてレンダリング速度も比較してみた。グレーディング処理やエフェクト処理がGPUを使用するMetalやOpenCL対応であれば、レンダリングも早くなるはずである。

 ここでは2ストリームの映像をレンダリングしてみたが、結果は以下のようになった。

  • eGPUなし:20分15秒
  • eGPUあり(左側ポート):18分08秒
  • eGPUあり(右側ポート):18分39秒
レンダリング時の負荷。単純なグレーディングなど、GPUを使う処理部分が高速化される

 13型のMacBook Proは、右側と左側のThunderbolt 3端子で速度が違うと言われていたが、実際にテストして見ると多少違いが出るようだ。思ったより変わらないという気もしないではないが、繋ぐ端子を変えるだけで多少速くなるなら、左側に繋いだ方がマシだろう。

 加えて大きな違いは、MacBook Proへの負荷である。eGPUなしでは、MacBook Proのファンが扇風機並みの音をたてて回るのに対し、eGPU使用時は平時とファン音が変わらない。CPUの負荷はどちらもマックスなので変わらないはずだが、eGPU無しでは、MacBook Pro内蔵GPUの放熱がかなりあるという事だろう。

eGPUなしでのレンダリング時の負荷。内蔵グラフィックスに負荷が集中する

 eGPU側のファンもぶん回るようなものではなく、大型ファンをゆっくり回す放熱設計なので、レンダリング中でも静かだ。まったく“頑張ってます”感は出さないが、内蔵GPUの負荷分散にはかなり効果が高いことがわかる。

総論

 そもそもカラーグレーディングのようなハイエンド作業をなんで好き好んでMacBook Proでやらないといけないのか、と思われるかもしれないが、log撮影を行なう現場では、撮影された映像の最終イメージを掴むため、現場内でカラーグレーディングして確認するという作業が行なわれる。これを「オンセット・グレーディング」という。

 こうした作業時に、プレビューをサポートしてくれるアクセラレータ的なものがあると便利、という発想である。とはいえ、別途電源やディスプレイが必要となるなら、それこそiMacなどのデスクトップマシンでもいいんじゃないかと思われるかもしれないが、梱包の手間や移動時の耐衝撃性などを考えれば、ノートPCに分があるというわけである。

 カラーグレーディングは、eGPUがなければ不可能という作業ではないが、リアルタイムでプレビューでき、すぐに結果を判断できる装置として、89,800円はそれほど高くない。ただしGPUを使わない処理に関しては効果がないので、すべての編集作業を一律に高速化できるわけではない点に注意が必要だ。

 またすべての編集ツールでeGPUが使えるわけでもない。Davinci Resolveでは問題なく動作したが、FinalCutPro Xで同様の編集をしてみたところ、eGPUの負荷は確認できなかった。普段よく作業を行なうツールや使用頻度の高いエフェクトがeGPUを使うのかどうか、もう少し情報が出てくるのを待ってから検討するほうがいいだろう。

 また今回はテストしていないが、VRゴーグルを使ってのVR編集でも、高フレームレートで再生できるはずだ。MacBook Proに対して、iMac並みの機能を追加できるeGPUは、上手いところに目を付けた製品であろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。