小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第864回
夏は“缶ジュース風Androidプロジェクタ”で天井シアター! Anker製で約4万円
2018年8月22日 08:00
単体で遊べるプロジェクタ、再び
ストリーミングサービスやYouTubeなどで長尺の動画をスマートフォンで見る方も多いだろう。だがずっと片手にスマホを持ってコンテンツを見続けるのも、なかなかしんどいものである。
テレビなどに表示すれば楽ではあるが、家族からの“別のテレビ番組を見たい”といった要望とぶつかることもある。加えて大画面で見ようと思えば、そこそこコストがかかる。
ネットコンテンツを大画面で見る、しかもプライベートに、というニーズを考えれば、プロジェクタは良い選択である。8月1日にお届けしたLGのwebOS搭載プロジェクタ「PF50KS」は、多くの方に興味を持って頂けたようだ。
そこで今回は、もっと手軽にネットコンテンツを楽しめるプロジェクタを探してきた。Ankerの「Nebula Capsule Pro」である。Android 7.1を搭載しており、例によって本体だけでネットコンテンツの視聴が可能なプロジェクタだ。
だいたい350mlの缶ビール程度のサイズながら、プロジェクタと360度スピーカーを備え、価格は42,800円(税込)とかなり抑えられている。今回は夏休み中の長期間、この製品をお借りすることができた。
遊びで使えるプロジェクタの実力を、早速試してみよう。
ジャスト缶ビールサイズのボディ
Nebula Capsule Proは、日本国内ではモバイルバッテリなどで知られるAnkerから販売されいている。元々はAnkerグループ内のNebulaというブランドに「Nebula Capsule」という初代製品があり、これも今年5月から販売されている。
今回ご紹介するProモデルは、初代を改良したモデルで、内蔵RAMが1GBから2GBに、フラッシュROMが8GBから16GBに増強された。また輝度も100ルーメンから150ルーメンと強化されており、この8月から新たに上位モデルとして発売された製品である。
加えてPro版はテレビ東京ビジネスオンデマンドのアプリがプリインストールされており、購入者は最大2カ月間利用量が無料になるキャンペーンを実施している。
本体の外観は、Nebula Capsuleと変わるところはない。ストンとした円筒状になっており、正面に投射口がある。投射口はセンターではなく、若干右寄りに付けられているが、投射方向は真正面だ。重量は470gで、缶ビールよりだいたい120gぐらい重い。
プロジェクタ部の仕様としては、RGB LED光源による0.2型DLPで、解像度は854×480。コントラスト比400:1、輝度は150ルーメン、投影距離は0.58~3.08m、投影サイズは10~100型となっている。フォーカスは本体右側にダイヤルがある。
上部が十字ボタンになっており、下が電源ボタン、上がプロジェクタとBluetoothスピーカーの切り換え、左右がボリュームの上下となっている。中央のロゴは、電源投入時は青だが、バッテリー充電時は赤に、満充電になると緑に点灯する。
内蔵バッテリ容量は5,200mAhで、動画ストリーミングサービス利用時は連続3時間、内蔵動画再生時は4時間、スピーカーモードによる音楽再生では30時間となっている。充電所要時間は専用充電器を使って2.5時間。
プロジェクタの下、メッシュ状になっている部分がスピーカーだ。背面にはMicroUSB兼用の充電端子と、HDMI入力端子がある。HDMIから入力すれば、普通のプロジェクタとして使えるというわけだ。また内蔵ストレージにファイルを転送する場合は、Micro USB端子を使う事になる。
メインプロセッサはQuad Core A7としか記載がないが、型番から察するにARMのQuad Core Cortex-A7のことだろう。2011年発表、2013年から市場投入され、廉価版スマホやタブレットの登場に大きく寄与したプロセッサだ。GPUはQualcommのAdreno 304。Wi-FiはIEEE801.11a/b/g/n対応で、Bluetoothは4.2。
底部には三脚穴がある。もともと投影角は本体からやや上向きになっているが、さらに投影角度を付けたい場合はミニ三脚等を利用するといいだろう。
赤外線リモコンも付属しており、基本動作はほぼリモコンだけで可能だ。リモコンの受光部は本体背面にあるが、角度的に受光しづらい場合は、無料のスマホアプリがある。タッチパッド的に操作ができ、文字入力もやりやすいので、使用するアプリによってはリモコンよりもスマホアプリのほうが使い勝手が良い。
適当でもでっかく投影できる
では早速使ってみよう。電源ボタンを2秒以上押すと、電源が入る。電源OFF状態から画面が表示されるまで、約35秒。スマホをゼロから起動したと考えれば、妥当なところだろう。
LGのPF50KSと大きく違うところは、最初に立ちあがるのがHDMI入力画面ではなく、ホーム画面であるところだ。その点ではPF50KSはいかにもプロジェクタに別入力としてwebOSがくっついた格好だが、本機は「画面がプロジェクタになったスマホ」という感覚だ。
ただAndroid 7.1とはいえ、Google Playストアは使えない。例えばAmazon FireはOSとしてはAndroidを利用するが、独自のアプリストアを展開している。本機も同様に独自のアプリストア「AptoideTV」にしか繋がらないようになっている。リモコンで操作するプロジェクタということで、すべてのアプリが動作する保証はないので、不具合が起きないようにある程度囲い込んであるのだろう。
本製品に何をどこまで期待するかにもよるとは思うが、とりあえずNetfrix、YouTube、Amazon Prime Video、Spotify、VLCメディアプレイヤーはインストール可能なので、動画再生や音楽再生には困らないだろう。だがそれ以上となると、アプリの品揃えはかなり微妙というか、筆者も聞いたことがないようなアプリやサービスばかりだ。スマートフォン並みになんでもできると期待しないほうがいいだろう。
今回は夏休みということで、真剣にというよりも、なるべくぐうたらに動画鑑賞を行なうという目的である。ソファに寝転んで、あるいは布団に横になった状態でどうやって動画を見るかを主眼に、色々試してみた。ポイントは、天井への投射である。
筆者宅は、洋室と和室が混在している。幸いダイニングは洋室設計なので、天井がオフホワイトのボードが貼ってある。ダイニングテーブルに本体を上向きに設置し、天井に向けて投射すると、だいたい60型ぐらいのサイズで投影できる。筆者宅のテレビは最大で40型なので、かなり大きく感じる。
ただ解像度が854×480と、いわゆるSD解像度だ。いくらフォーカスをとっても解像度の甘さを感じてしまうが、大画面ということで許せてしまうのが不思議なところである。
本機のプロジェクタは、本体から若干上向きに照射するようになっているので、顔の近くに本体を置くと、頭の上に投影されてしまうことになる。寝っ転がってちょうど良い位置に投影させるためには本体を足もとの方に置くことになるが、これだと音が遠くなってしまう。
そこは良くしたもので、本機には上下逆に吊り下げて使用する用途で、画面を上下反転する機能がある。これを使って上下を反転すると、顔の近くに本体を設置しながら、ちょうどいい位置に画面を投影することができた。
ドラマなどを見るぶんには、音声帯域の明瞭度がそこそこあるので、音質は十分だ。ただし音楽ものは画面サイズに比べると、迫力に欠けるのは否めない。加えてプロジェクタ動作中は、冷却ファンのシャーッという音が常時聞こえるので、静かなシーンになるとそれが気になるところだ。とはいえ、これだけの手軽さで60型クラスの大画面が楽しめるのだから、御の字である。天井に照射すると、リモコン受光部が下を向いてしまって反応が悪くなるので、操作はスマホアプリを使ったほうがよい。
ただアプリの動作レスポンスは、かなりもっさりしており、Netflixを起動しても、動画一覧のサムネイルが出揃うまで、30秒ほど待たされる。このあたりは、プロセッサの非力さが出るところである。
一方場所を移して、和室の寝室でも投影してみた。布団に寝っ転がって、枕元に本体を設置すると、80型ぐらいのサイズで投影できる。あいにく和室は天井が木目模様のため、プロジェクションには全然向いてないが、夜暗くなってからであれば、鑑賞にはなんとか堪えられる。
なんとか和室の天井で気軽にプロジェクションできるようにならないかと、身近にあるものを色々考えたところ、余った障子紙があったので貼ってみた。すぐ外せるように適当に貼っただけだが、サイズ的にもちょうどよく、なるべく労力を使わず楽しむという目的には十分であった。
スピーカーとしても使えるが……
続いてBluetoothスピーカーモードを試してみよう。電源ONの状態で本体上部の切り換えボタンを押すと、英語でアナウンスが聞こえたのち、プロジェクタ画面が消え、Bluetoothスピーカーモードに切り替わる。スマホ等とBluetooth接続して音楽再生すれば、本機から音楽が聴こえる。
昨今はスマートスピーカーの影響で、360度モノラルスピーカーも音質がかなり上がってきている。個人的には普段からAmazon Echoの音質は聞き慣れており、これがリファレンスになるところであるが、それと比べれば低音の量感不足が著しい。かといって高域が伸びるわけでもなく、中域にも鼻が詰まったようなクセのある音だ。
ただこれは音響設計に起因する部分が大きいようだ。本体をそのまま床置きするとクセのある音だが、ミニ三脚などを使って床から高さを稼いでやると、イヤなクセがなくなる。このクセは床への反射音だったようだ。低域不足が改善されるわけではないが、スッキリ聴きやすい音となった。
ただ再生される音楽がステレオソースの場合、右のチャンネルしか再生しておらず、左右に飛ばした楽器やコーラスなどで、左のチャンネルにあるはずの音が聴こえない。これはオーディオ設計としてはちょっといただけないところだ。
総論
先々週プライベート・プロジェクタの時代が来ると予言したところだが、どこにでも映像を大きく投影できるというのは、光を自在に操る楽しさがある。これは筆者が特殊なわけではなく、人が根源的に持っている本能のようなものではないだろうか。皆さんも暗いところで懐中電灯持たされると、当てもなくあちこち照らして回るだろう。そういう、暗がりを支配する欲のようなものが人間にはあるように思う。
Nebula Capsule Proは、そういう欲を満たしてくれる製品である。コンテンツはYouTube、Netflix、Amazon Prime Videoが映れば十分だろう。あいにく150ルーメンでは、昼間っから寝っ転がって見るにはちと辛い。だが夕方から夜にかけて、部屋を暗くしてコンテンツを「撃つ」のは、意外に楽しい。
室内でも楽しいが、庭でのバーベキューや水辺のキャンプで、夕食も終わってまったりしている時に、なんとなくそこらへんに向かって映像を「撃つ」というのもまた一興である。
Bluetoothスピーカーとしても使えるというのが一つのウリではあるが、音質的にはもう一歩なのが残念だ。ただサイズ的には350ml缶サイズと同じなので、持ち歩きはしやすい。車のドリンクホルダーにもすっぽり収まるだろう。
スマートOSを積んだプロジェクタは、機能的には次第にこなれつつある。スマホの方がSNSから流れてくる情報を元に動画に繋がるというメリットはあるのだが、作品を淡々と鑑賞する用途ならば、スマホではチマチマしすぎだ。
Oculus GoのようなHMDは没入感があり、昼間でも鑑賞できるという強みがある。その一方でHMDを装着してしまうと、日常生活が何もできなくなるというデメリットがある。
一方プロジェクタならば、投影しておいてビールとりに冷蔵庫に行ったりトイレに行ったりと、自由度が高い。なによりも、暗いところで光がぱっと1灯だけというのは、雰囲気が良い。
この夏から秋にかけて、夜にのんびり動画鑑賞するならば、プロジェクタで決まりだろう。