小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第862回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

プロジェクタ“だけ”でYouTubeやNetflixを楽しむ! webOS搭載のLG「PF50KS」

盛り上がりを見逃すな!

 “プロジェクタ”と聞いて多くの方が連想するのは、会議室に常設されてパワポを写すヤツとか、ホームシアターマニアが購入するお高いヤツというイメージではないだろうか。ところが気がつけばここ2~3年のあいだで、プロジェクタが急速に身近なものになってきているのに気がつくはずだ。

LGエレクトロニクス・ジャパンのフルHDポータブルプロジェクタ「CineBeam PF50KS」

 たとえばソニーのポータブル超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」や「XPERIA Touch」はAV Watchでも取り上げた。シャープの「ロボホン」には、撮影した写真を写すためのレーザープロジェクタが内蔵されていたのをご存知の方も多いだろう。輸入品ではあるが、SKテレコムの「Smart Beam Laser」は超小型レーザープロジェクタとして大きく注目を集めたのも記憶に新しいところだ。

 光源もLEDが主流になっており、以前のようなランプ交換などの手間がなくなっている。レーザー光源も規制緩和が徐々に進んでおり、今後伸びしろがある部分だ。ビジネスにしてもエンタテイメントにしても、プロジェクタは間もなく、一家に一台あってもおかしくない時代を迎えるはずだ。

 さてそんな中、今回ご紹介するのは、アプリを追加でき、単体で様々な事ができるLGエレクトロニクス・ジャパンのフルHDポータブルプロジェクタ「CineBeam PF50KS」である。発売は6月末で、店頭予想価格は74,900円前後。すでに通販サイトでは6万円を切るところもあるようだ。

 「大画面で見る」というソリューションなら、Oculus Goの登場でVR HMDの有用性が証明されたところではある。一方でプロジェクタがポータブルになると何が起こるのか。こうした意識の変化を体験してみたい。

片手で持てるサイズ感

 まずサイズだが、170×178×52mm(幅×奥行き×高さ)の平形。フットプリントは片手を広げたぐらいのサイズ感である。バッテリ内蔵で、重量は約1kg。一眼カメラなどに比べれば大した重さではないのだが、見た目が軽そうに見えるデザインなので、割にずっしりした印象にはなる。

片手で持てるプロジェクタ「CineBeam PF50KS」

 表示デバイスはDLPで、解像度は1,920×1,080ドットのフルHD。液晶ディスプレイであればもはやフルHDは当然のスペックだが、ポータブルプロジェクタの世界はそうではない。重量1kg以下をポータブルと定義するならば、メインストリームはSVGA(800×600)からUXGA(1,600×1,200)ぐらいなので、フルHD解像度は今後主戦場となってくるところだ。

見た目は軽そうだが、1kgある

 投写サイズは25型~100型となっており、投写距離は79cm~318cm。光源はRGB LEDで、明るさは600ルーメン、コントラスト比100,000:1。ポータブル市場では、もっとも明るくて800ルーメン程度なので、まずまず明るい方だろう。ちなみに前出のソニー「LSPX-P1」や「XPERIA Touch」、「Smart Beam Laser」は100ルーメンである。あの印象から「ポータブルは暗いんだよな」と思っている方も多いと思うが、本機は違う。

モバイルプロジェクタとしては明るい部類に入る

 フォーカスはマニュアルで、レンズ近くのレバーで調整する。天板には決定ボタンと十字キーがあり、標準的な操作は本体だけで行なえる。別途リモコンが付属しているので、操作はそちらを使ったほうが楽だ。

フォーカスレバーと本体ボタン
専用リモコンが付属

 背面を見てみよう。HDMI入力は2つで、一つはARC対応となっている。中央部にはメイン電源スイッチと、リモコンの赤外線受光部がある。そのほか、USB-AとUSB-C端子を備えており、イヤフォン出力もある。LAN端子も装備するが、Wi-Fi接続もできる。電源はACアダプタで給電するほか、バッテリで約2時間半の駆動が可能だ。

HDMI2系統を装備するほか、LAN端子を備え、ネットコンテンツにも対応する

 両脇にスピーカーがあり、本体だけでも動画コンテンツの視聴が可能だ。底面には床置き時に角度調整するためのネジ足と、三脚穴がある。本機には自動キーストーン(台形補正)機能があり、上下方向の歪みは自動で補正できる。左右の歪みは補正できないので、できるだけスクリーン面に対して垂直に設置したほうがよい。三脚穴もあるので、1kgぐらい乗る簡易三脚があれば、設置はかなり融通が利くだろう。

底部はチルト用の足と三脚穴
ACアダプタは大きめ
三脚に設置した使用イメージ

プロジェクタの素性はいいが……

 立ち上がりはまずまず早く、電源を入れて20秒ほどで画面が出る。webOSを搭載しているものの、電源投入後は通常のプロジェクタと同じで、入力のスキャンが開始され、入力がなければ「信号なし」としてアラートが出る。せっかくwebOS搭載なのだから、何らかのホーム画面が表示されても良さそうなものだ。

何も繋がずに起動すると、素っ気ない画面が出る
ホームボタンを押して初めて全機能にアクセスできる

 HDMI入力にミラーレス一眼「LUMIX DMC-G7」を繋いで、4Kで撮影した動画を再生してみた。G7は接続先に応じて自動的に4Kをダウンコンバートするので、HD映像として問題なく再生された。発色、コントラスト等は投影場所や環境光にもよるのだが、日中の室内で模造紙に対して40型程度のサイズで投影してみたところ、映像鑑賞としては十分なクオリティであることが確認できた。

 明るさがそこそこあるので、パッとみんなで見るという程度の利用なら、室内の照明を落とすまでもないだろう。もちろん照明を落とせばそれだけ黒が落ちるので、コントラスト感が増す。ポータブルではあるが、これぐらい輝度があれば「昼間だと暗くて見えない」といった不満は軽減されそうだ。

投写イメージ。天井にも投写できる

 投影できるのはHDMI出力がある映像機器だけではない。現在写真や動画撮影の中心はスマートフォンであり、当然スマートフォン内の写真や動画を表示する機会は多いはずである。写真や動画の表示方法は、大きく分けて2通りある。

 1つは本機のUSB-C端子とスマートフォンをケーブル接続したあと、スマートフォンを単なるストレージと見なして、本機のUI内から見る方法だ。iPhoneの場合はUSB-CとLightningの変換ケーブルで対応できる。今回はiPhone 7 Plusを接続してみた。

 ホームメニューから「写真&動画」を選ぶと、iPhoneが選択肢に出てくる。それを選ぶとiPhone内の「写真」フォルダ内を参照できる。ただしこの方法は、使い勝手が悪い。なぜならば、iOS内の写真フォルダ内は、通常はユーザーが自分でフォルダ管理などしておらず、どのフォルダにどの写真が入っているのか、まるで見当が付かないからである。

ケーブルでiPhoneと接続すると、ストレージとしてマウントする
ただしiPhoneの場合、フォルダに何が入っているのかさっぱりわからない

 フォルダさえわかれば、スライドショー再生などもできるのでメリットもあるのだが、この機能はどちらかと言えばAndroidユーザーのほうがメリットがあるだろう。

フォルダ内に入れば、スライドショーなどの機能が使える

 もう1つの方法は、LGが提供するアプリ「LG TV Plus」を使って、ワイヤレスで投影する方法だ。アプリを起動すると、同じLAN内にあるプロジェクタが見つかるはずだ。これに接続すると、リモコン画面が出てくる。通常はLG製のテレビと接続するためのアプリのようだ。

LGのテレビ用リモコンアプリ「LG TV Plus」

 左側のメニューをタップすると、「モバイルコンテンツ」という項目が出てくる。ここをタップすると、アプリからスマホ内のコンテンツを一覧できるようになる。

サイドメニューからスマホ内のコンテンツにアクセス可能

 表示したい写真を選択してプレイボタンを押すと、プロジェクタのモードが自動的に変わり、写真が投影される。ただしこの機能ではスライドショー再生ができず、1枚ずつ写真を選んで行くことになる。また写真と写真の切り換えに7秒ほどかかるので、まどろっこしい。

写真を選んで再生ボタンを押せば、プロジェクタに投影される

 動画再生に関しては、再生がスタートするまで30秒ほど待たされる。また再生しても10秒程度で止まってしまう。加えてiOSで採用されたHEVCは再生できないようだ。スマホ内の動画再生に関しては、条件がなかなか難しい。

 Miracastを使い、スマホの画面をプロジェクタで投写もできる。動画配信などのコンテンツも投写できるが、実はあまり使う意義はない。後述するように、本機自身にストリーミングサービスのアプリをインストールできるからだ。

スマートTV的プロジェクタ

 プロジェクタとしても普通に使えるのだが、本機の真骨頂はwebOS採用というところである。もはやテレビにもアプリがインストールできるようになって久しいが、プロジェクタにそういう機能があるとまた一つインパクトが違う。

 アプリはLGが提供するアプリストアからダウンロードする。YouTube、Netflixあたりは標準だが、その他でメジャーどころはアクトビラ、JOYSOUND.TV、クランクイン!ビデオといったところだろうか。

アプリは専用ストアからダウンロードする

 アプリのレスポンスは、それほど早くはない。アプリを起動して操作可能になるまで20秒ぐらい、動画を選んで再生が始まるまでまた20秒ぐらい待たされる。動画の再生が始まれば問題ないのだが、そこにたどり着くまでのレスポンスがもっさりである。ただ、ネットにさえ繋いでおけば、ケーブルレスでYouTubeやNetflixが見られるプロジェクタというのは、なかなか新しい。夜にちょこっと飲みながらみんなで話題の動画を見るみたいな使い方も楽しそうだ。

本体だけでYouTubeやNetflixが楽しめる

 内蔵スピーカーの音質は、人の声の帯域に偏っており、ドラマやトークものであれば、そこそこ内蔵スピーカーだけで楽しめる。ただ音楽再生には物足りないので、その場合はイヤホン端子からアクティブスピーカーに繋ぐなどするといいだろう。

総論

 現時点での製品は、動作的にちょっともっさりしているところもあるが、未来のプロジェクタ製品の一つの方向を示しているように思える。OS一つでここまで新しさを感じられる製品に仕上がるとは、ちょっと驚きだ。

 ただ、電源を入れた時点では普通のプロジェクタとしての挙動になるのが、正しいのかどうか。この製品をプロジェクタとして買った人なら当然の挙動だが、エンタテイメント製品であれば、電源を入れたらホーム画面が立ちあがるという作りのほうが、未来感があった。現時点ではまだ、“プロジェクタにテレビOSを載せました感”があり、次世代感がないのが残念である。

 とはいえ、実売5万円台のそこそこ明るいプロジェクタ、しかもネット動画も単体で楽しめ、バッテリでも動作できる、エンタテイメント方向に振ったプロジェクタというのは、ありそうでなかったジャンルであろう。

 ビジネスでも使えるというところは押さえつつ、プロジェクタを遊びで使える時代がようやくやってきたと言えるのではないだろうか。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。