小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第893回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

民放テレビは2局だけ! 九州・宮崎のコンテンツとネット事情

陸の孤島と呼ばれて

先週の記事でも少し触れたが、現在筆者は故郷である九州の宮崎県宮崎市内での暮らしを始めたところである(詳細はImpress Watchの連載:小寺信良のシティカントリーシティを参照の事)。元々宮崎県は交通の便が悪く、陸の孤島と言われたところだ。九州新幹線は日本海側を半周しかしておらず、大分・宮崎県はその恩恵にあずかれない。ただ大分県は九州の玄関口である福岡県と隣り合っており、そこまで不便ではない。飛行機の発着便も多く、ソニーやキヤノンの大きな工場もある。鹿児島、熊本、大分はこうした工場誘致に成功した県である。

東京との行き来はもっぱらジェットスターで

一方宮崎県は、こうした工場誘致には出遅れた。かつて日立・富士通のプラズマディスプレイ工場がソーラーパネルの工場(ソーラーフロンティア)となったのが一番大きいだろうか。ついでキヤノンが大学跡地にデジタルカメラの生産拠点を今年8月より稼働させる。代表取締役社長の真栄田雅也氏が宮崎県出身なので、何かの縁があったのかもしれない。

九州自動車道が整備されて多少は陸路の便は良くなったが、基本的には飛行機で行くところである。2002年に宮崎ローカルの航空会社スカイネットアジア航空(現ソラシドエア)が就航し、国内線はANAとJALに加えて3会社となった。さらには近年LLCであるジェットスターとピーチが就航し、合計5会社が就航している。また国際線もソウル行きが2社、台北行きが1社就航している。

こうした空の便の強化に比較して大きく遅れをとっているのが、テレビ放送だ。NHKを除く民放は、MRT宮崎放送と、UMKテレビ宮崎の2局しかない。全国で民放が2局だけなのは、宮崎県と山梨県、福井県だけである。ただし徳島県と佐賀県のように、民放が1局しかないところもある。

宮崎市内のテレビ事情

こうした放送波が少ないところでは、キー局の放送を網羅するために、複雑な番組編成となる。UMKテレビ宮崎は、フジテレビ系列主体ではあるが、日本テレビ系列とテレビ朝日系列のクロスネット局である。一方MRT宮崎放送はTBS系列ではあるが、テレビ宮崎が放送しない日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京の番組も放送する。

テレビ宮崎の社屋

東京キー局5つを2局にまとめるというのがどういう事なのか、放送波が多い地域の方にはなかなか理解して頂けないので、ある金曜日の番組編成をキー局別に色分けしてみた。上が東京キー局、下が宮崎の放送局である。なおグレーは自社制作のローカル番組、黒はテレビショッピング番組だ。暗い赤は東京キー局以外の番組である。

こうしてみると、テレビ宮崎は前半がフジテレビ系、後半が日本テレビ系で、ところどころにテレビ朝日系が差し込まれる編成となっている。一方宮崎放送は基本的にはTBS系列で、テレビ宮崎が放送しない他局の番組を差し込む格好になっている。

テレビ朝日系が弱いように見えるが、テレビ宮崎の月曜日21時以降と火曜日22時以降はテレビ朝日系に変わるので、テレビ東京を除く4局の番組は比較的網羅されると言えるだろう。ただもちろん、プライムタイムの番組はどうしても2局ぶんしか放送されないため、人気番組がまるっきり見られないという現象は避けられない。いやそれにしても、クロスネットの番組編成は大変だ。

宮崎市のケーブルテレビとネット事情

こうした地上波が少ない地域では、ケーブルテレビの加入率が高い。やはり番組の選択肢が少ないと、時間帯によっては見たい番組が一つもないという事になり得るからだ。

筆者も宮崎市内のケーブルテレビ大手「宮崎ケーブルテレビ」への加入を検討すべく、資料を入手した。もっともスタンダードな「HDベーシックコース」が月額4,300円(インターネット接続は別)で、地上波は上記2局に加え、日本テレビ系列のKYT鹿児島読売テレビと、テレビ朝日系列のKKB鹿児島放送が受信できる。さらにBSの全局と一部のCS局が見られるが、4K放送は受信できない。4Kが受信できるプランは月額10,000円(HDプレミアコース+光インターネット接続)だそうである。おそらく光ファイバーを家庭に直収するのだろう。

宮崎ケーブルテレビの社屋。テレビ宮崎のすぐ近くにある

ただ、そうまでしてテレビ放送を見るかというと、筆者も娘もコンテンツ視聴はほぼネットからなので、いらないんじゃないかという事になった。今後レコーダーとかのレビューでは若干不便なことになるかもしれないが、そもそも鹿児島の2局に関してはトランスモジュレーション方式なので、市販のレコーダー等で録画できるわけではない。

現代はテレビ放送よりもインターネット回線にコストを掛けた方が、多彩なコンテンツにアクセスできる時代だ。ただ、現在住んでいる鉄筋アパートは1年間の仮住まいであり、ここに工事費をかけてネット回線を引いてくるのは現実的ではない。

上記の宮崎ケーブルテレビはすでに物件にメタル線が来ているが、月額3,800円で下り速度が30Mbpsとかなり低速だ。今スマホでLTEを受信しても、受信状態が良ければその倍は出る時代である。

そこで工事不要の固定型Wi-Fiルータを契約することにした。この手のサービスは各キャリアが提供しているが、今回はauスマートポートを採用。端末は今年1月から提供開始された、HUAWEIの「Speed Wi-Fi HOME L02」となる。月額4,300円程度で、WiMAX2+とLTEの両方が切り換えで使える端末である。機能的には両方を同時に使うキャリアアグリゲーションも可能だが、宮崎市はまだ提供エリアではないため、これは使えない。

2年縛りはあるが、テンポラリな設置に向くauスマートポート

自宅に設置して通信速度を測定したところ、昼間は150Mbpsぐらい出るが、夜間は170kbpsぐらいまで低下する。夜間はスマホをテザリングした方が速い。幸いスマホは20GBのプランを契約しており、毎月大量に容量が余っているので、夜だけパソコン1台をテザリングするぐらいなら大丈夫だろう。

オーディオに難ありの自宅

実際に現在の筆者宅のAV環境がどうなっているか、ご紹介したい。テレビは仕事用に東芝REGZAの40型が仕事部屋に1台あるのみである。地上波のみのアンテナ受信だが、アンテナ端子がある部屋が筆者の仕事部屋から離れているため、唯一のテレビにはアンテナが接続できていない。

どうにか仕事ができる環境に

しかし手元にはガラポンTV 4号機があるので、これをアンテナ線に直結して、ワンセグの全録を行なっている。視聴はスマホやタブレットのみである。

仕事部屋の照明器具として、popIn Aladdinを持って来た。シーリングライト内にプロジェクタが埋め込まれた製品である。窓のカーテンの代わりに厚手の白い布を吊り下げ、ここにNetflixなどをプロジェクションして楽しんでいる。距離が近いので50型ぐらいのサイズにしかならなかったが、雰囲気はある。加えてHMDの「Oculus Go」もあるので、昼間はこっちを使うという形だ。

カーテン代わりの白い布に投影

音楽環境としては、数年前に購入したソニー 「SRS-X9」がメインとなっている。ただし仕事机の上では真正面に設置できないので、真後ろの床に直置きしている。仕事部屋は和室なので、音響的にはかなりデッドだ。低音はよく出るが、高域はかなり持ち上げないとバランスが取れない。音楽再生環境としては、あまり満足できていない。

畳に直置きでは、性能が発揮できず

そのほか、ポータブルスピーカーとして、Ultimate Earsの「MEGABOOM 3」を持ってきた。これは防水仕様なので、お風呂の中に持ち込む事もある。

水回りでも置けるMEGABOOM 3

ダイニングキッチンには、「Google Home Mini」を設置してある。こちらも置き場がないので、カーテンレールの上に置いただけだ。音声コマンドで音楽が再生できるほか、キッチンタイマーとしても利用している。

Google Home Miniはカーテンレールの上

そのほか、Chromecast Audioもあるが、今のところアンプとスピーカーがないので使っていない。今回の引っ越しでは仕事机は現地調達だったので、机の上にスピーカーが置けないかもしれないと考え、持ってこなかったのだ。しかし調達した机はどうにかブックシェルフぐらいは置けそうなので、また東京に戻った際に送ろうと思っている。

「宮崎時間」の理由

首都圏では、急に何かものが必要となったら、電車に乗って買いに行けばなんとかなる。特殊なパーツやケーブルも、とりあえず秋葉原まで行けば何とかなる。だが宮崎ではそういうわけにはいかない。電気パーツ屋さんは市内に3件ほどあるが、お互いに場所が離れているので、ここでなかったから次の店へ、とはなかなかいかないのが実情だ。

一方首都圏でも多くの方はそうだろうが、自分で買いに行かずAmazon等で発注するという方法もある。首都圏では早ければ翌日に届くので、「そう言えば明日アレがいるんだった」と前の日の夜にでも気がつけば間に合う。

もちろん宮崎でもAmazonで発注することは可能だが、最速でも明後日の到着となる。人間明日のことは考えても、明後日のことまではなかなか考えない。そう言えばアレがないと気付いても、2日待たないと入手できないのだ。

こうした物流の悪さから、「地方時間」のような考え方が生まれてくるのかもしれない。地方時間とは、その地域特有の時間の使い方で、ある意味各地の県民性と言われることがある。例えば宮崎は昔から、時間にはルーズだと言われている。距離が離れているにも関わらず交通の便が悪いので、事故や渋滞など予想外の事態が起こると、1時間ぐらいはすぐに無駄になってしまう。

ネットの発達で情報やステータスは一瞬で相手に届くが、人の移動やモノの送付などが滞るため、どうしても「待ち」が多くなってしまうのだ。その「待ち」がすべて一定なら対処のしようがあるが、あれは2日後、でもこれは4日後とズレていけば、一番遅い到着の物品に合わせて仕事を待つ事になる。もちろん宮崎にも気が短い人は居て、まだかまだかと催促されるわけだが、仕事を受注する側は「そんげなこつ言われても……」となってしまう。これが都会と地方のスピード感のズレの根源だ。

しかし逆に考えれば、ITやソフト開発、筆者のような文筆業のような仕事は、物流が関係ないので、地方でも受注できるはずだ。情報や進捗報告はネットで全国一瞬で届くので、マメに報告を上げることで地方のデメリットをカバーできるはずである。

ところが地方時間の中に暮らしていると、どうしても全体的に「地方時間」に巻き込まれてしまい、進捗報告も「まあ次のステップに進んでからでいいか」となって、相手を不安にさせてしまう。都会から地方に発注する最大のデメリットは、何かあってもすぐに現場に行けない事なのだが、進捗報告が滞ることで余計にそのデメリットが目立ってしまう。

連絡だけは都会のスピード感で、と肝に銘じておかないと、仕事が地方ローカルに閉じ込められてしまう。これでは地方がますます隔離されるばかりだ。コミュニケーションの時代と言われて久しいが、情報を出すのも営業のうちと考えなければならないのだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。