小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第892回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

肩のせスピーカーの新スタンダード!? シャープ「AN-SX7」がイカす

スピーカーの新トレンド

肩のせスピーカーは、2018年ごろから火が付いたジャンルだ。ネックスピーカーと呼ばれることもあるが、確かに首に掛けるスタイルではあるものの、実際に重量がかかるのは肩なので、やはり肩のせと呼んだ方が正確だろう。

シャープ「AN-SX7」

この肩のせスピーカー、2017年10月にソニーが「SRS-WS1」を発売したが、当初話題にはなったものの、それほどの盛り上がりは見せなかった。しかし翌年3月にテレビで家電芸人がSRS-WS1を取り上げてから火が付き、一時は受注停止となるほどの人気を博した。

ソニーが「SRS-WS1」

以降、各社から次々と製品が発売され、オーディオ分野では一つのジャンルとして成立するほどの成長ぶりを見せている。今回取り上げるシャープも、2018年11月に「AN-SS1」を発売、市場参入を果たした。

個人的に肩のせスピーカー最大の特徴は、効果が想像しやすい事と、意外に安い事だと思っている。ソニーSRS-WS1で実売2万円強、最高値のBOSEでも実売3万円以内である。ちょっと高級なBluetoothスピーカー程度の価格で買えるのは有り難い。

さて今回ご紹介する「AN-SX7」は、既存モデル「AN-SS1」から大きく進化した音質強化モデルという位置づけだ。3月16日の発売で、店頭予想価格は3万円前後となっており、肩のせとしては高級モデルの部類に入る。新機構による振動+重低音で、迫力のサウンドが楽しめるという。早速試してみよう。なお、「AN-SS1」も併売される。

シンプルな見た目に騙されるな

肩のせスピーカーは、まだ歴史が浅い製品なので、どのような設計にするか様々なアプローチが存在する。ソニーはスピーカーを縦方向に配置し、バーチカルドライブ型で製品化したが、シャープのAN-SX7はスピーカーを平面方向に配置する平形となっている。

スピーカーを平置きしたスタイル

メインのスピーカーは、U字型ボティの先端に付けられており、装着すると耳の位置よりも前に出る。既存モデルのAN-SS1は耳の真下にスピーカーを配置していたのと比べて、大きな設計変更だ。耳の近くには4つのサウンドホールがあり、ここからバスレフ音が放出される。

先端に32mmフルレンジスピーカーユニットを装備
耳の近くにバスレフポートがある

既存モデルと比べて大きな違いは、主に低音域の音質改善だ。32mm径のフルレンジスピーカーを採用するとともに、首方向へ向かってバスレフダクトを伸ばしている。さらにバスレフダクトの周りに蛇腹構造と円筒形のおもりを使った振動ユニットを装備した。スピーカーユニットの振幅による気圧変化を使っておもりを振動させ、バイブレーションを生み出す「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」構造となっている。

蛇腹の部分が振動ユニット
既存モデル「AN-SS1」は軽量に主眼を置いたモデル
耳の近くにスピーカーを配置していた

肩のせスピーカーでは、比較的この“体に伝わる振動”を重視する傾向がある。ソニーSRS-WS1では、パッシブラジエータの振動をそのまま使っている。すなわちSRS-WS1は、バスレフ型ではない。一方本機は、バスレフで低音を補強しつつ、パッシブラジエータの原理で振動ユニットを動かすという二重構造になっている。

左側には電源とBluetoothペアリングボタン、右側にボリューム兼スキップボタンと再生・ポーズボタンがある。3種類のオーディオモードを持っており、マイナスボリュームと再生ボタンを2秒間同時押しするとモードが切り替わる。

左側に電源とペアリングボタン
右側にボリュームと再生ボタン

対応コーデックはSBC/AAC/aptX/aptX Low Latencyとなっている。充電時間は5時間で、13時間30分の再生時間となる。1日2時間程度の使用なら、1週間ぐらいは充電なしで使える事になる。

重量は280gで、それほど重くはない。装着感としては、首の後ろにも多少の重量はかかるが、大半は鎖骨のあたりで重量を支える感じになる。

重量は鎖骨のあたりで支えることになる

Bluetooth送信機も同梱されており、アナログおよび光デジタル入力に対応する。テレビの音声を聴きたい場合は、光出力かヘッドフォン出力を送信機に接続する。送信機とスピーカー間はaptX LLでの接続となる。なおこの送信機を使えば、最大2台のスピーカーが接続可能だが、その際はaptX LLでの接続にはならない。

Bluetooth送信機も同梱
光デジタルとアナログ入力を装備

独特のサウンドフィールドが楽しめる

ではさっそく音を聴いてみよう。まずはiPhoneとペアリングして音楽再生に使用してみた。オーディオモードでは、ダイナミックが音楽向けとされているように、一番低音の振動が感じられる。筆者の用途からすれば、ずっとこのモードだけで良さそうだ。

比較のために既存モデルAN-SS1もお借りしているが、こちらは軽量ではあるものの、音楽的な低音領域がほとんど聴こえない、いわゆるテレビスピーカー的な特性であるのに対し、新モデルは高域から低域まで、バランスの良いサウンドカラーだ。若干中音域が凹んでいる感はあるが、音楽的には納得できるバランスである。

面白いのは、そのサウンドフィールドだ。イヤフォンやヘッドフォンのように耳のそばで鳴っている感はないが、かといって前方からスピーカーで聴いている感じでもない。先端にあるスピーカー位置を意識すると、そこから音が鳴ってるなという感じはするが、慣れてくるとどこから音が鳴っているのかわからなくなってくる。

例えるならば、球状のサウンドフィールドがあって、それにズボッと頭を突っ込んだような感じだ。ステレオセパレーションも十分で、左右の音が混ざってしまう感じはない。

音量も十分で、大きな音で再生できる。ただし、周囲にも盛大に音が拡散するので、中高域はそれなりに部屋に拡がる。振動として伝わりやすい低音が拡散しない点でメリットはあるが、高音が漏れるような環境では大音量は控えたいところである。

バイブレーションは、鎖骨と首の後ろのあたりで強く感じる。要するに重量を受け止めているところで感じるわけだ。ある程度音量を上げないと感じないので、小音量時にはあまり効果が出ない。また、着ている服にも左右される。フワフワのセーターを着込んでいると、あまり振動が伝わらない。

続いて映画を観てみた。Netflix対応テレビから光デジタルで送信機に繋ぎ、そこから本機へ接続した。通常Bluetoothスピーカーでは遅延が大きく、人によってはリップシンクのズレが気になるところだろう。だがaptX LLのおかげもあって、リップシンクのズレは全く気にならなかった。

バイブレーションは、60Hz付近で最大化するようチューニングされているという。音楽ソースでは連続的に60Hz付近の音が来るわけではないので、効果は限定的だ。しかし映画はSEとしてかなりの低音が入っているので、バイブレーションの動きもかなり派手だ。それほど大きな音量でなくても、迫力を楽しめる。

iPadでも同じコンテンツを再生してみた。こちらはiPadがaptXに対応していないので、AACで接続されているはずである。だが、取り立ててリップシンクが気になるほどの遅延は感じられなかった。通常の利用であれば、遅延は気にする必要はないようだ。

総論

ご存知の方もいるかもしれないが、筆者は現在住み慣れた首都圏を離れ、実家の宮崎県での生活をスタートした。

まだフルで引っ越ししていないので、音楽環境も小型のBluetoothスピーカーしか持って来ていない。十分な低音や音量を楽しむためのスピーカーがないので、本機は本当に楽しむことができた。どこに移動しても、適切なサウンドフィールドがついて回る、しかも耳を塞いでいないので、家族が呼ぶ声などもちゃんと聞こえる。いわゆる隔離状態にならず、そこそこの大音量が楽しめるわけだ。

またお風呂上がりに、いくらよく拭いたからといってもすぐにイヤフォンやヘッドフォンを装着するのはイヤなものだ。だが肩のせならお風呂上がりでも問題ない。

音楽的なバランスもよく、中域に変なクセがないので、長時間のリスニングでも疲れが少ない。肩が凝りやすい人には気になるかもしれないが、重さもあまり感じなかった。そのうち付加価値として磁気ネックレス的な機能も付加してくるモデルが出てきたら、中高年にもブレイクするかもしれない。

既存モデルAN-SS1のようにエッジの効いたデザインではなく、多少野暮ったいルックスではあるが、音楽に映画にと、オールマイティに楽しめるモデルに仕上がっている。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。