小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第894回
隙無しソニー、生放送革命パナソニック、8Kに動き出すBMD、NAB開幕
2019年4月12日 08:00
平成最後のNAB
4月8日から11日までの4日間、米国ラスベガスにてNAB Show 2019が開催されている。昨年は都合で取材に行けなかったので、今年は2年ぶりの参加となる。例年NABは月曜日から木曜日までの4日間の開催だが、来年は4月19日の日曜日からスタートとなるそうである。プレスカンファレンスなど、会期前情報を日曜日に出すことはあるが、展示会そのものを日曜日から開催するのは珍しい。
さて現在は会期3日目を終えたところだが、大手メーカーの取材はほぼ終えた。NAB Show 2019で発表された多彩なソリューションのうち、主なところをピックアップしていこう。
全方位に隙がないソニー
カメラからコンテンツデリバリーまで、映像に関わる部分をフルで提供するソニーだが、今年も沢山のソリューションを展示した。
新製品として大きくフィーチャーされたのが、スタジオカメラ「HDC-5500」だ。2/3インチのCMOS 4Kセンサー×3板方式のカメラだが、グローバルシャッターを搭載し、フラッシュバンドを軽減する。従来機と違いカメラ内で4K画像処理を行なう為、カメラから直接12G SDIで4K HDR映像の出力が可能となる。
さらに、Wave Centralとの共同開発により、4K映像のワイヤレス伝送ユニットをカメラ側面にドッキング。オプションのカバーを付ければ、中身の臓物を見せずすっきりとした外観で、4Kワイヤレスの伝送が可能となる。ケーブル付きでは入っていけない現場への4K中継が実現する。
同じくカメラ製品で、ソニーとして初めてNDI|HXに対応したPTZ(Pan/Tilt/Zoom)カメラが「BRC-X400」だ。1/2.5インチ単板の4Kセンサーを搭載、4K/30pまでの撮影に対応する。2019年内に発売予定で、色はホワイトとブラックの2色展開。
NDIは、Newtekが公開しているIPベースの映像およびコントロール伝送規格で、ローバジェットな制作現場での導入が進んでいる。Newtekと言えばネット中継システム「TriCaster」がよく知られるところだが、今年は同社ブースの中心はほぼNDIを中心としたアライアンスの展示で、IPに時代が大きく動いてきた勢いを感じる。
ローバジェット向けとしては、Edge Analytics Applianceとして紹介された「REA-C1000」というユニットが興味深い。2系統のHDMI入力と出力を持つユニットで、プラグインとしてソフトウェアを入れることで様々な機能を実現する。現在5つの機能を提供中だが、展示では「PTZ Auto Tracking」と「ChromeKey-Less CG OverRay」の2つがデモされた。
PTZ Auto Trackingは、PTZカメラを自動追尾させるプログラムで、顔認識、人体の形状、動き検知の3つを組み合わせて、出演者を自動追尾する。
ChromeKey-Less CG OverRayは、ブルーバックやグリーンバックなしで簡単に人物などを抜き出して合成するプログラム。まず背景を記憶させておき、そこに人物が入り込むと、映像データとして差分が発生する。その差分データをマスク信号として取り出し、背景と合成するわけだ。
エッジ部分に多少のにじみは感じるが、ネット配信等でスマホ視聴を前提とした番組であれば、十分使えるだろう。日本では発表しておらず、米国では本体のみで約3,000ドル。ソフトウェアは年払いのサブスクリプション方式で販売される。初年度のみ、PTZ Auto Trackingが1年間無償でバンドルされる。次期バージョンでは、LAN端子から直接ストリーミング出力が可能になるという。
生放送革命に注力するパナソニック
パナソニックもプロ部門ではカメラからスイッチャーまで、放送局内報道システムに強いメーカーである。今年は出展テーマを「Innovator in Live」と設定し、生放送の革命をアピールしている。
ブース内に設営されたスタジオでは、演者に赤外線ビーコンを取り付け、壁のセンサーでその位置情報を取得、それに対して8Kカメラの切り出しを自動追尾させるというデモを行なっていた。
ビーコンによる位置情報取得は、カナダのBlackTraxのものを採用、精度は1mm単位で取得できるという。今回のスタジオ内には7つのセンサーを配置しているが、この程度の広さなら5つで十分いけるという。
1台の8Kカメラで広い絵を撮影しておき、そこから複数のHD画像を切り出すという方法は以前からあるが、このデモの見所は、演者に追従する切り出しがすべて自動化されていること。従来はオペレータが切り出し範囲をマニュアルで追いかける必要があったので、4人の演者を切り出すためにはオペレータも4人必要だった。
さらに切り出しだけでなく、レールカメラやアームに取り付けたロボットカメラも自動制御できる。“カメラマンゼロの生放送”も夢ではない。
パナソニックでも、PTZカメラの新製品を用意している。「AW-HE42」は、HD解像度で60pまでで、こちらもNDI|HX対応。パナソニックの業務用映像機器は以前から全フォーマット対応を標榜しており、NDIへの対応も早かった。国内未発表だが、米国では6月頃に商品化の予定。価格は未定となっている。
さらに4Kの小型カメラ「AW-UE4」も参考出展された。PTZカメラと書いてあるが、自動では動かない。手で動かせば角度は自由に設定できる、コンパクトな4Kカメラだ。画角が108度あるので、固定カメラに向くだろう。背面にはLANとHDMI端子を用意し、ストリーミング用途にも対応できるよう設計したという。こちらは10月に商品化の予定。
報道向けカメラとしては、P2フォーマットの4Kショルダーカムコーダも参考出展された。報道向け4Kカメラはソニーが先行するが、パナソニックも追従した形だ。2019年内の商品化を目指しているという。“4K放送向けの報道で”というニーズはまだ少ないが、素材としては4Kで撮影しておきたいという希望があるという。通常この手の放送局向けカメラは7年から10年は使用するので、今から4Kでも全然いいわけだ。
突然8Kに走り出したBlackMagic Design
コンベンションセンターの通路や壁には、事前に広告が張り出されるので、会期が始まる前にどういうものが出るのがネタバレしてしまうのが恒例である。今回のネタバレで日本の報道陣が一番ザワついたのは、BlackMagic Designが突然8K製品を数種類一気に発表した事だ。ご存じのように8K放送は日本しか実用化しておらず、これらの製品も日本のマーケットに向けられたものと推測される。
2017年のInterBEEの際に社長のグラント・ペティ氏が来日、その際にNHKの8Kコンテンツを見て可能性を感じたことから、今回の一連の製品開発に踏み切ったという。
「HyperDeck Extreme 8K HDR」は、以前からあるHyperDeckシリーズに属する8K対応製品。本体は左側のモニター部分で、右側はコントローラだ。記録メディアにC-FASTを採用したのもポイント。さらに底面にSSDを入れることで、コマ落ちなどに備えてのバッファ機能が新たに加わる。
コントローラは、トータルで8台のデッキコンロロールが可能。HyperDeckだけでなく、従来のテープデッキにも対応するため、デッキtoデッキのダビングコントロールも可能だ。
一番驚いたのは、なんと言っても8Kスイッチャー「ATEM Constellation 8K」だ。12Gクワッドリンクで8K映像の10入力に対応し、PinPなどのエフェクトも備える。またすべての入力にスケーラを供え、4Kから8Kへのアップコンバートやフレームレートコンバートも可能。4Kモードで使用すれば、12G SDI 40入力で4M/Eスイッチャーになるという。これが9,995ドルだというから、ほかの放送機器メーカーはたまらない。
コントロールは表のパネルでも可能だが、従来のATEM用スイッチャーパネルでも使用できる。
さらにプレスカンファレンスの半分ぐらいの時間を費やしてじっくり紹介されたのが、DaVinci Resolve 16に搭載された「Cut」モードだ。社長のグラント・ペティ氏は若かりし頃ポストプロダクションでリニア編集の経験があり、リニア時代にはもっとスピーディに編集ができていたと振り返る。今のノンリニア編集に欠けているのは、このスピード感だというところから、全く新しいGUIによる高速編集モードをDaVinci Resolveに組み込んだ。
加えてこのモードで威力を発揮する、専用キーボードも製品化。リニア編集経験者にはお分かりかもしれないが、ソニー「BVE-9000」および「9100」を彷彿とさせるデザインである。元々DaVinciはカラーグレーディングソフトだったはずだが、こうなってくると使う人によって全然違う印象のソフトになっていくだろう。個人的にはこのキーボードはめっちゃ欲しい。
総論
このようなコンベンションの取材の折りに、「今年のテーマは何だったのか」とよく聞かれる。だが今年は、各メーカー力の入れどころが違っており、いたずらにトレンドを追うことなく、自分たちの強みを追求した展示となっている。そういう意味では、同じジャンルで競合していく時代は終わり、棲み分けが定着したとも言える。
日本と米国の明確な違いは、米国のトレンドは映像のIP化であり、ニュースやスポーツなどのライブ放送を中心にイノベーションが起こっているところだ。放送局も、電波に載せる放送よりもネット配信のほうが収入的に伸びており、放送をやめてネットに注力するところも出てきているという。
こうした点からも、日本と米国のテレビ産業はもはや袂を分かち、それぞれの道を歩み始めたと言ってもいい。米国型が常に正解だとは言わないが、合理性からすればIP化とネット化は避けられない。日本でも三重テレビや北海道文化放送のように、IP化に踏み切る局が出てきているのも事実だ。これまでの延長線で行くのか、世代をジャンプするのか。放送局ごとに判断が分かれそうだ。