小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第920回
世界最小フルサイズミラーレス「SIGMA fp」が凄かった。動画の実力をチェック!
2019年11月21日 08:00
マニアの視線を集めるSIGMA
フィルム時代からカメラをいじっている人からすれば、SIGMAとTOKINAはいわゆる互換レンズメーカーとして、純正は高くて買えない、あるいは純正にはない倍率を求めて買うものであった。そんなSIGMAもデジタルカメラ全盛時代になり、「しょうがなくSIGMA」ではなく、「わざわざ選んでSIGMA」という流れになってきた。
それというのも、互換レンズメーカーながらもカメラ本体を手がけるようになったことが大きい。レンズ一体型カメラ「dp」シリーズは、カメラマニアなら一度は手にしたいカメラであろう。ただ実際に買った人の話をきくと、「うん、いいんだよ。いいカメラなんだけど……」。なんだけどの次が出てこない、なんというかあまり積極的に勧めてこない謎カメラである。
SIGMAのレンズ交換式のカメラにはsdシリーズがあり、2016年、2017年と続けて製品が出ているが、次がなかなか出てこなかった。そんな中、ライカ、パナソニック、SIGMAによるLマウント規格が発表され、SIGMAはレンズだけでなくカメラ本体も出すということで期待が高まった。そんな中登場したのが、今回ご紹介する「fp」である。実売は、ボディ単体で22万円前後。
これまでSIGMAのカメラは、動画の世界ではほとんど評価されてこなかった。fpも10月25日に発売が開始されたが、動画に関する言及もまだ少ない。しかしながらfpは、スチールとシネマの両方をサポートするカメラとして登場したわけで、本連載で取り上げないわけにはいかない。
SIGMAのフルサイズ機では、どんな動画が撮れるのだろうか。さっそく試してみよう。
驚きの小型化
今回お借りしているのは、ボディであるfpと、LCDビューファインダー、ベースプレートである。fpは様々なアクセサリを装備することで様々な撮影シーンに対応できる、いわば“拡張システム”なのだが、現時点ではまだアクセサリ類が出そろっていない。その点では、今はまだシンプルなカメラだ。レンズは「SIGMA 45mm F2.8 DG DN」と、「SIGMA 85mm F1.4 DG」の2本をお借りしている。
まずボディだが、「世界最小・最軽量フルサイズミラーレス」を謳うだけあって、ボディはかなり小さい。ボディだけなら、1インチコンパクトデジカメの1.5倍ぐらいのサイズ感だ。レンズ交換式ボディとしても、マイクロフォーサーズぐらいのサイズ感である。妙な出っ張りがなく、四角いデザインなので、必要最小限のスペースしかとらないのが魅力だ。
重量はバッテリー込みで422g。合わせるレンズにもよるだろうが、キットレンズの45mm F2.8 DG DNとの組み合わせで、633gである。
ボタン類もシンプルというか、ビューファインダを搭載しないことでボタン配置もユニークなものとなっている。背面から見て左側に電源スイッチ、動画静止画の切り換えスイッチがあり、あとは動画RECボタンとシャッター、シャッター周りにリングコントロールだけというシンプルさだ。モードダイヤルやシャッタースピードリングなど、いわゆる一眼レフの作法は何もない。
背面もシンプルで、十字キー兼用ダイヤルとセンターボタン、あとはAELキーとQS(いわゆるFnボタン)、Menuがあるほかモニター下段に再生、モニター切り換え、トーン、カラー、モードボタンが並ぶ。
モニターはアスペクト比3:2/3.15型約210万画素のタッチ液晶だ。モニター部周囲には排熱用スリットが設けられているが、これがデザイン的にもいいアクセントになっている。
左側にはUSB-C端子、フラッシュ接点、microHDMI端子、マイク入力がある。このうちフラッシュとHDMI端子は、アクセサリを横付けできるよう、フタが完全に取れるようになっている。底部と左右にネジ穴があり、アクセサリを固定できる。
レンズマウントはLマウントで、アクセサリとしてはSIGMA SA用、CANON EF用のマウントコンバータが発売されている。加えてPLマウント用コンバータも発売が予定されている。
センサーは裏面照射型ベイヤー配列CMOSセンサーだ。有効画素数は約2,460万画素 で、総画素数は約2,530万画素。ベイヤー配列は特に珍しい方式ではないが、わざわざこれを謳ったということは、SIGMAがdpシリーズで展開しているダイレクトイメージセンサー「Foveon」ではないというアピールだろう。裏面照射ということで、センサーの出所はおおよそ検討が付く。
動画フォーマットとしては、CinemaDNGとMOVに対応する。ただしCinemaDNGの10bitと12bitは内部SDカードには収録できず、別途SSDが必要となる。主なフォーマットは以下に抜粋する。
なおCinemaDNGではビットレートが最高で2500Mbpsにも上るため、動作検証済みのSSDの利用が推奨されている。またMOVでは、ALL-IとGOPが選択できる。
LCDビューファインダーは、接眼レンズを備えたボックスで、視度調整もできる。ビューファインダを固定するためにはベースプレートをネジ留めする必要がある。ベースプレートと本体はコインネジで固定する。
しっとりした描画
ではさっそく撮影してみよう。今回は絞り優先で、カラーモードはVIVIDで撮影している。なお今回は動作検証済みのSSDが用意できなかったため、SDカードにMOV/GOP/3,840×2,160/29.97で記録している。ビットレートとしては120Mbps程度となる。
モニター越しでも分かるのが、しっとりしたシズル感のある陰影表現だ。色味を出すために多少アンダーで撮影しているが、キリッとした輪郭と高コントラストな絵づくりは、専用モードで撮影したわけでもないのだがシネマっぽい仕上がりとなっている。絵が歌うとでも言うのだろうか、ただカメラを向けただけで実に印象的な絵が撮れる。
今回はSDRでの撮影だが、十分に高コントラスト、高ダイナミックレンジを感じさせる絵づくりが楽しめる。いわゆるオイシイ感じの絵を勝手に作ってくれるわけだ。
夜間撮影も見ておこう。裏面照射センサーということで、ISO感度は拡張モードを使用すれば最高で102400まで使用できる。シャッタースピード1/60、F2.8に固定し、ISO100から順に感度を上げていったが、102400までS/N的にも問題なく使える。このあたりはほぼソニーα7Sシリーズと遜色ないと考えていいだろう。
カラーと手ブレ補正は発展途上
カラーモードのつくり方も、なかなか個性的だ。各カラーも効果の掛かり具合が調整でき、表現の幅はまあまあある。加えてトーンもハイライト、シャドウのカーブが変えられる。ビデオ系のユーザーには波形モニター表示もあるので、破綻していないか波形で確認する事もできる。
ただ、センサー的には普通のベイヤー配列なので、モノクロームにしてもFoveonセンサーのような解像感があるわけではない。そこはもう一つ残念ではあるが、本当に映画を撮るのであれば、通常はCinemaDNGで撮影するだろう。カメラ本体でいじれる機能は、あくまでもMOVでの簡易的な撮影用だと考えれば、十分だろう。
手ブレ補正も搭載している。あいにく今回お借りしたレンズには光学手ブレ補正が乗っていないため、本体のみの補正力しか見る事ができなかったが、両方を併用することも可能だ。
本体のみの補正は、画角がかなり狭くなるものの、補正力はかなり強い。サンプル動画は、前半が手ブレOFF、後半がボディ内手ブレ補正のみONで撮影している。
総論
ボディがただの直方体なので、ハンディでグリップするにはしっくり手に馴染む感じではないものの、軽量なのであまり苦にならない。カメラというより、「センサー部」といったほうがしっくりくるカメラだ。
UIの面では、ショートカットメニューでダイヤルを回せばすぐに設定が変わるという設計だが、スピーディに変更できる一方で簡単に変わってしまうので、他にも気を配ることが多い現場では、うっかり触っちゃってあるシーンから色が合わないといったことにもなりかねない。各種設定をカメラ外からモニターできたり変更できるツールも、プロ前提であれば欲しいところである。
静止画のHDR撮影については、3コマを異なる露出で撮影し、合成することで高ダイナミックレンジを表現できる。一方動画でも2コマを撮影して合成する機能が、後日ファームアップで実装されるそうである。ただこれはあくまでも静止画文脈で言うところのHDRであり、動画のBT.2020ベースのHDRとは意味が違うので注意したいところだ。
とは言え、これまで動画に関してはほとんど注目されてこなかったSIGMAが、ここにきてシネマカメラに名乗りを上げてきたのは、業務ユーザーにとってもなかなかに面白い展開になってきた。特に小型・軽量ということでは、撮影用ジンバルに搭載したり、ドローンに搭載したりという自由度も高まるわけで、フルサイズ撮影の可能性も拡がる。動画カメラとしても、またモノとしてもSIGMA fpは心躍る製品に仕上がっている。