小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第919回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

AmazonがTVをジャック、地方のTV難民マストバイ?「Fire TV Cube」を試す

定着を見せるAmazon Fire TV

日本で、Amazon Fire TVシリーズの展開が始まったのは2015年9月の事だった。平形の「Fire TV」は最初から4K対応で登場、加えてHDMIに直付けする「Fire TV Stick」は、その手軽さから多くのユーザーを獲得した。

今回紹介する「Fire TV Cube」(第2世代)

2015年の時点で、すでに単体でネットコンテンツが見られるテレビは山ほど存在した。それでもFire TVシリーズが注目されたのは、ネットコンテンツ非対応のテレビに繋ぐためばかりとは限らない。テレビのネット機能のセットアップがわからない、めんどくさいといったユーザーも相当数いたはずである。加えて、テレビ内蔵のネット機能が古くなったり、レスポンスが悪くて使いづらいと感じていたユーザーもいただろう。

そうした、すでにネットコンテンツをテレビで見るメリットを知っているユーザーにも、Fire TVシリーズは食い込んだ。日本のテレビ外付け端末としては、相当の普及率であることは想像に硬くない。

そんなFire TVシリーズの新しいラインナップが、「Fire TV Cube」(第2世代)だ。日本では11月5日より出荷が開始された。価格はAmazonにて14,980円(税込)。製品名の後に(第2世代)と付いているのは、初代機はすでに米国で昨年から販売されているため。日本に「Fire TV Cube」が登場したのは初めてだが、製品としては第2世代というわけだ。

満を持してワールドワイド発売となったFireTV Cubeの魅力を、早速調べていこう。

Fire TV + Echo以上

筆者はFire TVが出るたびに購入している。2015年に発売されたFire TVは、日本初上陸ということで購入動機は十分だったわけだが、特に4Kコンテンツ対応というところがポイントだった。次のFire TVは、4K HDR対応になったということで、これまた購入した。まんまとAmazonの戦略に乗せられ続けているわけである。

FireTV にしろ、FireTV Stickにしろ、これまではテレビの背後に隠された存在であった。背面にあるテレビのHDMI端子に直刺しするか、ぶら下がるか、とにかく本体が前面に出てくる事はなかった。リモコンはBluetoothで繋がるので、直接本体が前に出てくる必要がなかったのだ。

一方で今回のFireTV Cubeは、テレビの前に持ってくることが前提となっている。なぜならば、従来のFireTVの機能に、スマートスピーカーであるEchoの機能をドッキングさせたからだ。

まさにキューブ型のFireTV Cube

これまで画面付きのEchoには、10型のスクリーンが付いた「Amazon Echo Show」、5型スクリーンが付いた「Amazon Echo Show 5」がある。音声コマンドに対して音声でしか反応を返さなかったEchoシリーズの中において、画面でも情報表示ができるAmazon Echo Showは、スマートスピーカー初心者にもわかりやすさと安心感を提供した。FireTV Cubeは、テレビ画面に繋がることで、さながら巨大なAmazon Echo Show的なものになるとも言える。

HDMIでテレビと接続。電源は専用ACアダプタが必要

一方で、5型や10型のAmazon Echo Showで映画を再生しても、それほど大きなメリットはない。その程度の画面サイズであれば、手持ちでどういう体勢でも視聴できるスマホのほうが利便性が高いし、もうちょっと大画面で見たければタブレットでもいいわけだ。

画面による情報表示とコンテンツ表示の両方を満足しようと思えば、20型〜30型ぐらいのAmazon Echo Showが必要となる。だがそれはコスト面で非現実的だ。それならばディスプレイは「テレビ」を借りよう、というのは自然な発想である。

実際にFireTV Cubeは、形が四角いのでEchoには見えないが、天板を見るとEchoと同じ機能が乗っているのに気づく。4つのボタンはEchoと同じだし、マイク穴が8つ空いているところからも、音声コマンドが発せられる方向を捉えることに特化しているのが見て取れる。コマンドに対する反応は、前方上部の1辺に仕込まれたLEDライトでわかる仕掛けになっている。

天板のボタンはEchoと同じ
音声コマンド反応中は、前面の一辺が光る

つまりFireTV Cubeに向かって、「アレクサ、明日の天気は?」と問えば、Cube本体からの音声による返答と共に、画面上でも天気情報が表示される。

テレビ画面でも天気情報を表示

画面表示は、そもそもテレビが点いていて、入力がFireTV Cubeに切り替わっていないと表示されないと考えるのが普通だ。だがFireTV Cubeでは、赤外線やHDMI CECを使い、テレビの電源入/切からボリューム操作、入力の切り換えまでコントロールできる。入力設定では、あらかじめFireTV Cubeが入力の何番に繋がっているかを設定する必要があるが、それ以降は「アレクサ、テレビを点けて」というだけで自動的にテレビの電源を入れ、入力を切り換えてFireTVのホーム画面を表示するようになる。

事前にFireTV Cubeが繋がっている入力を指定しておく
電源投入時に入力切り換えを行うよう設定

電源ONやボリューム調整には、HDMI CECを使う方法と、赤外線コマンドを使う方法が併用できるようだ。本体背面から赤外線を出すという、レガシー技も搭載しているというわけだ。加えてテレビラック等に入って赤外線が届かない機器もコントロール出来るよう、赤外線の延長器も付属している。

赤外線の延長も付属する

リモコンも以前のFire TVシリーズ付属のものと違い、ボリュームや電源ボタン、赤外線送信部も備えている。

オリジナルのボタン類加え、電源とボリュームボタンが追加されている

早い話、Amazonがテレビを支配下に置くことになるわけだ。従来テレビは、電源を入れればどれかのテレビ放送が映るのが当然だったが、最初からAmazon Prime Videoスタンバイ状態からスタートするわけである。

FireTVのホーム画面。音声コマンド反応中は画面の上部が光る

かつてパナソニックが、電源投入時に独自のホーム画面を表示する「スマートビエラ」を発売したところ、最初に映るのはテレビ放送であるべきとして、テレビ局がパナソニックのテレビCMの放映を拒否するという事件が起こった。2013年の事である。今にして思えば、あの騒動は何だったのか。

テレビを外部入力に切り換えていた場合、再度の電源投入時には外部入力を表示する(電源断の前と同じ状態に復帰する)のは当然だ。FireTV Cubeはそこから一歩進めて、電源投入と同時に入力も強制的に切り換える。つまりFireTV Cubeを繋ぐと、テレビは単にコントローラブルなディスプレイという扱いになる。むしろ音声コマンドだけでは、テレビ番組視聴に切り換えることはできない。

地方のテレビ難民マストバイ

FireTV Cubeの訴求ポイントは、リモコンなしでネットのコンテンツにアクセスできるという部分にある。つまりEchoにネットコンテンツを検索させ、再生までワンステップで行けるわけだ。

例えば、「アレクサ、キアヌ・リーブスの映画を見せて」と言えば、出演作品が列挙される。作品には番号がつけられていて、「6番を再生」と言うだけで再生される。もちろんこれは、Amazon Prime Videoから検索された結果だ。

Echo機能で音声検索した結果

一方でリモコンのマイクに向かって、「キアヌ・リーブスの映画を見せて」と言うと、違った画面と結果が表示される。前者はEchoの機能を使って検索した結果で、後者はFire TVの機能を使った検索結果、という事だろう。機能的に同居はしているが、融合しているわけではない。これは当然、ユーザーが期待するものとは違うので、ゆくゆくは融合されていくのかもしれない。

FireTV機能で音声検索した結果

つまり比較的単純な検索であれば、音声だけで可能だが、他社のサービスを利用するような視聴では、完全に音声だけでのコントロールは難しく、やはりリモコンのお世話になる。とはいえ、家に帰って電源を点けてホーム画面に行くまでは一言で済むし、リモコンも小型でシンプルだ。

映像コンテンツだけでなく、Amazon Music HDにも対応する。テレビスピーカーでは音楽再生に限界があるのは事実だが、サウンドバーを併用すると、より良い音質で楽しめる。そこから考えると、Fire TVシリーズのサウンドバーというのがあってもおかしくない。以前、Android TV搭載のサウンドバーをレビューしたことがあるが、そもそもスピーカーにスマートOSは相性がいい。Fire TV Cubeの機能を持ったサウンドバーというのはアリだろう。

Amazon Music HDにも対応

それはさておき、最近は手持ちのFire TVもあまり使っていなかったのだが、FireTV Cubeでは利用頻度がまた上がった。視聴に入るまで、まずテレビのリモコンを探してテレビを点けて、入力を変えて……といった一連のステップを全部省略できる点は大きい。「よっこらせ」感が全然ないのだ。

加えてTVer対応もかなり魅力だ。ご存じのように地方では民放が少ないため、首都圏の皆さんよりも見られるテレビ番組が限られる。ネットでの話題を拾っていけば、いろんなテレビ番組の情報だけは入ってくるが、実際には放送していない番組も相当ある。

地方在住者にとって、Tverは大きな魅力

TVerではリアルタイムでの放送番組は見られないが、時間差である程度の番組は見ることが可能だ。以前よりもTVer対応の番組も増えた。地方民にしてみれば「あの番組ってこれか!」というのがゴロゴロしている状態だ。いや単にTVerを見るだけならそれこそスマホでも可能だが、テレビ番組をテレビで見るという当たり前のことができるだけで、テレビの稼働率が上がるのは驚いた。

そもそもうちの4Kテレビには、アンテナ線を繋いでいない。自室とアンテナ線がある部屋が離れているので、わざわざ室内にケーブルを這わせなくても……と思っていたのだ。それがネットだけで、地上波番組も楽しめるようになった。そう考えると、有線でしか繋がらないテレビ放送は、メディアとして不便すぎる。

総論

テレビでネットコンテンツを見るだけなら、Fire TV Stickでも可能だ。最近では4K対応モデルも出て、スティック型だから解像度が1段落ちるというわけでもなくなった。しかしそれでもFireTV Cubeの魅力は失われない。番組ページのスクロールや検索のレスポンスから感じるサクサク感は、ヘキサコアプロセッサ搭載のFireTV Cubeならではである。

すでにEchoがあるから、Echo機能はいらないという考え方もあると思うが、むしろ今まで使っていたEchoは別の部屋に設置できるというメリットもある。

惜しいのは音質まわりである。サイズ的に現行のFireTV Cube本体のスピーカーがしょぼいのは仕方がないが、12月には大型スピーカーの「Echo Studio」の発売も控えている。あれぐらいのサイズ、あるいはバースピーカータイプのFireTVというのはアリだろう。ただ、そこまでニーズが至るまでには、ステップが必要だ。

そのステップが、FireTV Cube、という事なのかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。